第22話「風が紡ぐ縁」

「よ~し、きたきた~♪ 直ってきた~♪」
「頑張って下さいね。」
「ファイトです~」

 指揮船の中ではレヴィが修復を続けていた。紙片だった欠片は大きさを変え半ページを越える位まで修復されていた。
 アリシアはずっと見ていたけれどヴィヴィオとの話が終わったシュテルやリインも興味を惹かれてかレヴィの隣に腰を下ろし見つめていた。
 少し離れたところではディアーチェとはやて、そしてヴィヴィオが話している。
 まだディアーチェの機嫌は直っていないみたいだけれど、更に追求されなくなったのでその辺はホッとしていた。
 そんな時、レヴィがクンクンと鼻を鳴らす。
「お邪魔しま~す」
「疲れたろう、お茶とお菓子で休憩してな♪」

 部屋に入ってきたのはシャマルとシグナム、ヴィータと子供形態のアルフだった。
シャマルが押してきたカートにはお茶と数種類のクッキーが載っていた。

「お菓子~♪」

 レヴィがカートの前に走っていく。アリシアが紙片の復元を見るとこっちはこっちで動いている。
 遠隔でも動かせる魔法らしい…「ほんと器用ね…」と呟いた。
 シュテルも彼女に続いてクッキーを覗き込む。

「食料が来ましたね」

「どうしよう…」

 見るからに食べたそうな2人は揃ってディアーチェを見る。

「はぁ~…2人とも食べて良い…」

 ディアーチェがため息交じりに言うと2人は嬉しそうに取り分けて元の場所に戻って復元作業をしながら食べ始めた。

「なんかご飯を待ってるリニスみたい。」

 クスッと笑うアリシアにヴィヴィオも頷きながら

「アリシアも食べるでしょ…あっ、その前にシャマルさん」
「何かしら?」
「少しお願いが…」



「……足は酷い肉離れ…でもこれは外傷…外からの怪我じゃない、何をすれば…どれだけ負荷をかけるとここまで酷くなるの?」
「…っつ…!」

 シャマルがアリシアの足に光を当てていく。時々アリシアが眉をしかめる。痛みはあるらしい。

「やっぱり…使ったんだね」

 ジト目でアリシアを見ながら息をつく。 
 ヴィヴィオはシャマルを連れて部屋の隅に移動した。アリシアを乗せた車椅子はヴィヴィオが押さえているから彼女は逃げられない。
 ヴィヴィオのお願いというのはアリシアの怪我を看て貰うこと。
 元世界に戻れば聖王医療院かシャマルの所に連れて行くつもりだったから先に治せるならそっちの方がいいと考えた。

「いや…その…クロノさんが本当に危なかったから…つい…」
「使わないって約束…破ったんだね。あっちに行った時にみんなに言うよ。私は士郎さんにお願いされてるから。」
「えっ!? ちょっ! ちょっと待って!! もう使わないからっ! 絶対! 約束する。」

 アリシアが慌てる理由はわかっている。彼女が使ったのはブレイブデュエルの世界の士郎・恭也・美由希に教わっている剣技。もの凄いスピードで移動出来る技だけれど足への負担が酷い。今まで使ってきた経験のある士郎でさえヴィヴィオに見せてくれた時10秒弱しか使っていないのに使い終わった後足が震えていた。
 そんな技を彼女が…この結果がそれだった。
 ヴィヴィオは士郎からアリシアがブレイブデュエル以外で使わない様に気にかけて欲しいと頼まれていた。もし使ったら2度と練習には参加させないという罰を含めて…   

「お願い。今度だけは見逃してっ!!」

 手を合わせて懇願するアリシア
 確かに彼女が居なければクロノはもっと重傷だっただろう。それを助けたのもアリシアなのも事実…。

「…………」
「お願いっ!」
「………も~っ、今度だけだからね。」

 仕方ないと私が折れた。

「骨や筋に異常はないし肉離れも治ってきてるから回復魔法が消えれば歩けると思う。でも…酷いのはお腹の方。内臓は大丈夫だけど背中からお腹に何かが貫いていて重症…これは1週間位魔法かけ続けないと治らないわ。初期治療が間に合って痛み止めが効いているから平気そうにしてるけど、1時間遅れていたら手遅れになっていたわよ。今もかなり強い回復魔法が動いている…」
「えっそんなに?」
「っ!?」

 私は当然、アリシアも驚いている。  

「…アリシア…やっぱりさっきのなし。帰ったらみんなに全部話すからその後はアリシアがお願いすれば?」

 前言撤回、こんな危ない真似を何度もされたらたまったもんじゃない。

「ええっ!? ウソッ!! ちょっと待って!」

 シャマルの処置が始まるのを見て彼女が呼び止めるのを聞かず踵を返した。


「ヴィヴィオ、いいのか? アリシアが呼んでいるが…」

 ついてきたシグナムが聞く

「いいんですっ! 少し反省してくれた方がっ! 心配する身にもなって欲しいよ!」

 頬を膨らませて答えると彼女は苦笑いする。

「ああ、でも彼女のおかげでフェイトやクロノ支局長…何人もが助けられた。そこは判ってやってくれ。」

「わかってます。それも含めて反省してくれなきゃいけないから…。」

 もし…イリスがアリシアを死なせていたら…きっと私はイリスを許さないだろう…悲しさと怒りに任せて何をするかわからない。でもアリシアが怪我で済んでいる今ならまだ冷静に事件を見つめられる。彼女が居るからまだ事件と向き合える…アリシアにもそれを判って欲しかった。    

「…お前は優しいな…」

 シグナムは私の頭をポンポンと叩き優しい声で言った。
        
 
      
「貴様等と馴れ合う気はないが、聞いておきたいことがある。貴様の所有物だったというあの本、夜天の書について教えろ」

 シグナムと一緒にはやてのところに戻ろうと歩いているとディアーチェがはやてに聞くのを耳にする。

「うん…」

 はやてが端末を使ってウィンドウに夜天の書を出す。ヴィヴィオははやての隣が空いているのをみてそこに座る。

「今はもう滅んだ旧世界、ベルカって国で生まれた魔導書。ベルカが滅びてからも色んな世界で色んな主のもとを渡っていって10年位前に私のところに来てくれた。」
「沢山のページの中に数え切れない程の魔法や知識が詰まってて…主の力になってくれる守護騎士も付いてくれる。」
「私達4人が守護騎士な」
「騎士?」

「本当はもう1人居たんやけど、その子はもう亡くなってる…」
「夜天の書の意思でもある管制融合機…ある意味では彼女が夜天の書そのものだった…」
「私が付けた名前は『リインフォース』…綺麗で優しい子やった…」 

 ここでは既に彼女は旅立っていた。
 ウィンドウに映ったリインフォースの姿を見ながら思い出す。
 時空転移のおかげで幾つかの世界で彼女と会っていたけれど、元世界の彼女とは戦い終わって2度会っただけ…、1度目は半ば喧嘩腰で…2度目も少し話した位…。時空転移の怖さを教えてくれたから、私がこの魔法とどう向き合えばいいか考えられたから今ここに居る。 

「アインスが今も元気なら、あなた達の事も知っていたのかも知れないけど…」

 アリシアを治療しながら聞いていたのかシャマルが言うとディアーチェは軽く頷くのだった。



 一方、指揮船を出港させた後の港湾地区ではクロノが主軸となって出動準備を行っていた。エイミィも隣で補佐している。
 幾つもの策謀が渦巻き合う事件、今までと同じ様に何かが動いている。今は事件の真相を突き止め、首謀者と思われるイリスを確保する。
 過去の悲劇を他人に押しつけ自分の行為を正当化する…こういう者達は最後に自暴自棄になりかねない。そして最後は…
 被害を広げない為にも、次は逃す訳にはいかない。
 デュランダルを握る手にも力がこもった。
 

  
「よ~し、完成!」

 悪戦苦闘していたレヴィの言葉にヴィヴィオを含む全員が振り返った。

(ユーリが何を伝えたかったのか、これでわかる…)
「ヴィヴィオ、笑顔笑顔♪ 顔が怖いよ」

 治療を終えたアリシアが私の頬を軽くつねってきた。

「ふぇ?」
「私達だけじゃなくてみんないるんだから。大丈夫だって♪」

 そう言うと近くに居たはやてやリインが笑顔で頷く。
 気づかない間に顔が強ばっていたらしい。
 1人で事件に向き合ってる訳じゃない、みんなで一緒に向かってるんだ。

「うん、ありがと。」

 こういう時は本当に助けられている。私もまだまだだなと思いつつ親友に感謝する。   

「リイン、本部に連絡。なのはちゃんやアミタさんにも見て貰おう」
「はいですっ♪」

~コメント~
 所用で掲載が遅れました。
 少しずつ事件は進んでいきます。

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