第26話「Get Back」

 アリシアは指揮船の中を移動し、情報を統括している管制室へと入った。エイミィに何が起きているのかをリアルタイムで知りたいと頼んだのだ。

「もう始まってる…」

 大型モニタを見つめ呟く。中では管理局と増えたイリスとの戦闘が始まっていた。
 シャマルとザフィーラが大型機動外殻、エクスカベータを攻撃する。
 ヴィータが武装局員を護りながらイクスと思われる女性と戦っている。
 なのはとはやてはユーノと協力してオールストン・シーに現れたイリス達とエクスカベータを攻撃、捕縛している。

(みんな…魔力量が上がってる?)

 一見しただけで全員の魔力出力が元世界に近い事に驚いていた。そこへ

 
「遅くなりました。装備部です。事件の応援と紙片の解析をレティ本部長から頼まれました。」

 さっき入ってきたドアが開き、マリエルと数名の局員が入ってきた。

「ありがとーマリィ、助かる~♪」

 エイミィが立ち上がって出迎える。

「エイミィ先輩、紙片は何処ですか?」
「え~っとラウンジになかった?」
「あっ! 私が持ってます。」

 車椅子を回転させてマリエルの方を向くと

「えっ! フェイトちゃん!?」

 マリエルと装備部局員が驚く。

「そっくりだけど、彼女はアリシアちゃん。今度の事件で協力してくれてる民間協力者。」 
「アリシアって…先輩!?」

 マリエルも既にフェイトの家族については知っているらしい…。
 アリシアは苦笑いして言う。

「色々事情があるんで、その辺は聞かないでください。紙片はこれです。」
「途中までレヴィが直しました。その時の術式データはこれで…、あとこの辺に通信術式があるのでこっちも直したらエルトリアと通信出来るかも知れません。」
「あ、ありがとう…」

 紙片の入ったケースを渡してから腕輪型の端末から指揮船の端末にデータを移しウィンドウをマリエルに投げた。
 レヴィが修復している間、アリシアが近くに居たのはこれが理由だった。
 修復が終わる前にイクス達が動き出したらレヴィ達も動くしかない。その時誰かが修復を引き継がなくちゃいけない。
 アリシア自身、怪我もしていてバルディッシュも使えないからバックアップに徹するしかない。
 リンディがら受け取っていた端末で術式展開の様子を撮りながら時々レヴィと話をして修復の状況を聞いておけば後で何か役に立つと考えた。
 端末に保存された情報をパパッと流し見てマリエルは言う

「アリシアちゃん、修復を手伝ってくれないかな?」
「ごめんなさい。私は何が起きているのか見ておかなくちゃいけないんです。親友が帰ってきた時に伝える為に…」

 頭を下げて謝ると、再び車椅子の方向を変えてモニタを見る。  

「ごめん、後お願いね。」
「はい、欲しいデータも貰えたので大丈夫です。任せてください。」

 ニコッと笑って言うとマリエルは管制室から出て行った。



「シュテル、レヴィ、ディアーチェがユーリと接触。戦闘開始です」 

 局員の1人の言葉でメインの大型モニタに映像が映された。アリシアの視線も移る。

『私達の過去とあなたの現在を取り戻す為に…』
『ちょっとだけ我慢してね。』
『ゆくぞ…ユーリ』

 大きな橋の麓に居るユーリに対し、レヴィ達が動きだした。

「レヴィ、シュテル、ディアーチェ…無茶しないで…」

 ここのユーリはフォーミュラーを取り込んだなのはと騎士甲冑を纏ったヴィヴィオが共闘してほぼ互角だったのだ。魔力ランクで行けばSからSS相当…。状況的な所もあるけれど、正面から立ち向かって勝てるのか?
 アリシアの心配を余所にレヴィ達は動き始める。
 レヴィとシュテルが交互に近接戦をする中でディアーチェが砲撃魔法を放ちながら2人を支援する。かと思えばレヴィが前で戦っている間にシュテルとディアーチェが砲撃魔法をチャージし、レヴィが離れた瞬間を狙って放つ

『雷光招来っ! 雷っ神っー槌ぃぃいいい!!』

 遅れて彼女が雷を自身に宿し自身の電気資質の魔力を付加して放った。
 体制を整える間も無い連続攻撃。

「…すごい…ヴィヴィオが苦戦してたのに…あっ!」

 思い出す。かつてヴィヴィオも闇の書のマテリアルとして現れた3人と戦い負けた事があったのを。あの時も今のレヴィ達の様に3人が自由自在にフォーメーションを切り替えて戦っていた。
 そして…

「ユーリが…泣いてる」

 3人が戦っている相手、ユーリは迎撃しながら悲しそうな顔で涙を流しながら戦っている。
 本当は戦いたくないに違い無い。でも何かに強制されて戦わざるえない…。
 その気持ちを知り、強制させているイリスに怒りが積る。   


『こちらオールストン・シー、大型機動外殻と多数のイリスは拘束』
『ディアーチェ達の状況を教えて下さい』

 なのはとはやてから通信が入った。エイミィや他の局員はクロノがイリスの生産拠点を抑えるのを支援するので何か通信している。

「こちらアリシア、ディアーチェ達とユーリの戦闘は始まってる。激しい攻防が継続中」
『支援した方がいい?』
『なのはちゃん、ユーリは王さま達に任せよう。それよりアリシアちゃん、ヴィヴィオちゃんは何処にいるん? 大型機動外殻が都内で増えて来てて…シャマルとザフィーラが動いてるんやけど手が足りてないんよ。武装局員も結界を攻撃してきたイリスを迎撃してて…』

 横の端末で都内の状況を見るとあちこちで大型機動外殻が現れている。オールストン・シーに現れた大型機動外殻を一撃で倒した様にヴィヴィオに動いて欲しいらしい。

「ごめん、ヴィヴィオは大切な用事で今は居ないの。」
『ええっ!?』
『何処に行っちゃったの?』

 2人は驚いている。まだ指揮船で何かしていると思っていたらしい。流石に異世界に行ってるとは言えずどう答えようかと考えていると、小さなウィンドウが開いてエイミィが映った。

『クロノ君がイリスの生産拠点を抑えながら大型機動外殻も止めてる。なのはちゃんとはやてちゃんも動ける様に調整してるから警戒任務を続けていて』
『了解です。』
『…アリシアちゃん、ごめんな』
「ううん、私こそ教えてなくてごめん。ヴィヴィオもすぐに戻ってくるからそれまでみんなで頑張って。」

 そう言うと通信は切れた。

「笑顔笑顔♪。私達が深刻な顔をしたら現場のみんなが心配しちゃうでしょ。管理局も全力で対応するからみんなで頑張ろう。」

 ニコッと笑って言うエイミィにバックアップはバックアップで考えないといけないことがわかり

「はい♪」     

 笑顔で頷いた。


 そうしている間にもレヴィ達の攻防は激しさを増していたが、

『ディアーチェっ、助けますよ。私達の主人をっ!』
『ボクらの大切な子をっ!』

 レヴィとシュテルが魔力を奪われるのを覚悟で鎖型の拘束魔法を使いユーリの両腕を捕らえた。

『おう、お前を苦しめる枷をいま打ち砕くっ!』

 ディアーチェの前に巨大な魔方陣が生まれる。

『ジャガァァァアアノォオオオトッ!』

 防御も回避も出来ないユーリに対し砲撃魔法が炸裂した。   

「やった♪ イタタタタ…」

 思わず立ち上がろうとしたが膝に激痛が走り蹲る。

「まだ怪我が治ってないんだから無茶しちゃ駄目だよ~」
「はい…」  

 苦笑顔のエイミィに言われて涙を浮かべながら答えた。
  
 

 酷い虚脱感を感じながらもディアーチェは息を整えながら意識を留める。
 3人による連続攻撃でユーリを操るフォーミュラーに負荷を与え続け、彼女の意識が戻った状態でプログラムを焼き切る。
 遠距離用の魔法を近くで放った為余波を受けてしまったが…

「ユーリっ!」

 レヴィが海面に浮かんでいるユーリを見つけ飛んでいく。
 シュテルと一緒に後に続く

「ユーリ、しっかり!」
「……レヴィ…シュテル…ディアーチェ…、ごめんなさい…私は…」

 意識が戻り、拘束していたプログラムを消えたようだ。

「元に戻ったんだね、良かったっ! 良かったよ~!」
「ごめんなさい…ありがとう」

 抱きしめるレヴィの様に感情を表に出したいところだが、シュテルと一緒に2人の様子を見て頬を崩す。
 だがシュテルが突然振り返る。次の瞬間何かが襲ってきた。
 彼女がいち早く攻撃に気づき庇ったのだ。

 「シュテル!!」

 倒れた彼女に声をかけながらも軌跡を読んで攻撃してきた者にシューターを放つ。

「なかなか思い通りにはいかないものだね。ユーリと猫と魔女たちイリスが全部を相手にするんじゃ手に余るらしい。…」

 橋脚の上から降りてきたのは1人の男。ユーリやイリスだけでなく我等の正体も知っている。

(誰だ、奴はっ!)

 だがその答えを得る前に

「アクセラレイター・オルタ」

 そう言うと突然目の前に現れた。余りの速度に動く事も出来ない。

「シュテルっ!」

 一番前に居たシュテルがやられる。そう思ったが彼の剣は彼女達に届かなかった。

「………これはっ」
「ん?」

 シュテルとフィルの間に2枚の盾が現れたのだ。

~コメント~
 今話のタイトルは文字通りDetonationで同じシーンに流れた曲からです。
 呼称について以前より何度か質問が来ていた件について少し触れたいと思います。
 シュテルとレヴィ、ディアーチェという呼称は過去作でも何度も登場していますが、ヴィヴィオ達が呼ぶシーンでは呼称の順番に【親密度順】というルールを設けています。
 例えば3人を一緒に呼んでもヴィヴィオとなのははシュテルが最初に来ますし、アリシア、フェイトならレヴィが最初に、ユーリ(イノセント世界)やはやてはディアーチェが最初…と言う風になっています。
 ただ会話の主が上記ルールと違う場合はヴィヴィオでもディアーチェが最初に来ていたりします。
 ヴィヴィオとアリシアではなのは、フェイト、はやてでも上記のルールで進めているので、ヴィヴィオとアリシア、なのは、フェイトが話していても「なのはとフェイトは」というのと「フェイトとなのはは」という使い分けをしています。
(こういうルールでいつも困るのがアリシアが元世界のなのはとフェイトと話しているシーンでして、なのははヴィヴィオの母親だから敬語を使うけれど、フェイトは同じく母親でも自分の妹でもあるので、家族間の会話になるので使いわけているというのがなかなかに大変だったりします。)


  

Comments

Comment Form

Trackbacks