第18話「門番(ゲートキーパー)として」

 それから2週間は何事もなくいつも通りの生活が続いた。
 ヴィヴィオの方ではユーノから直通ゲートの許可証と彼達の行動予定とヴィヴィオ達が行く日程が届いていた。
 アリシアの方でもリンネの和解が成立した。彼女はその前に家族を伴って見学と後に試験を受けに来るらしい
 ヴィヴィオはアリシアから彼女について話を聞いていたけれど、彼女に何か考えがあるんだろうと考え特に触れないようにした。

 そして予定日の朝…
「ヴィヴィオ、忘れ物はない?」
「うん、大丈夫。」
「それじゃあ遺跡調査にっ」
「「しゅっぱーつ♪」」
 なのはが作った転移魔方陣で別の管理世界にある遺跡付近に作られたゲートへと飛んだ。
 
  
「っと、到着…」
「…わっ! すご~い!!」
 着いた途端ヴィヴィオ達は口を大きく開けて驚く。
 遺跡調査と言うからには暗くてジメジメして狭い地下道を這って泥だらけになると思っていた。
 そんな予想は目の前のものが全部どこかへ吹き飛ばした。
 転移した丘の上から周囲が全部見渡せる。そこには見たことのない光景が広がっていた。
 幾つものテント、管理局の訓練で使われている居住ユニット型のコンテナ、街で見かけるような建物が円の放射状に広がっている。
 その中心部には大きな穴が開いていて、時折機材を持った魔導師が飛んで中に入っている。
 大きな穴が遺跡らしい。
 建物の外周には幾つかのお店が連なった商店街っぽいものや学校っぽいものも見える。
「遺跡の周りに町がある…」 
「こんなに凄い遺跡だったんだ…ママもビックリ!」
 ゲート付近で立ち尽くしていると、車に乗ったユーノがやってきた。
「なのは、ヴィヴィオ、ようこそ。驚いたでしょ。」
「うん、こんなに凄い遺跡だったんだ。全然話題になってないから知らなかった。」
 持って来た荷物を車に積み込みながらなのはが答える。
「ここまで凄かったら町ですよね。」
「あはは、町…そうだね。関係者の家族を含めたらちょっとした町くらいの人が居るよ。凄く大きな遺跡でもう調査が始まって結構経ってるのに調べられたのはこれでもまだ1部らしいから…。」
「家族で来てる研究者も多いから病院や学校、礼拝所もあったり、幾つかお店もあるよ。」
 なのはと一緒にふぇ~っと声が出てしまう。
「そんなに大きな遺跡なのに全然ニュースになってないんですね。ここに来る前に少し調べたんですが『以前から遺跡調査をしてる』…くらいしか判りませんでした。」
 荷物を乗せた後、車の後部座席に乗り込むヴィヴィオとなのは。
「その辺は色々複雑なんだ。古代ベルカ絡みの物が出てきたって言ってたでしょ。聖王教会関係の研究者も沢山調査に加わっていて、重要な物が見つかったら直ぐに公表できなくて、広報も抑えてる。」
「それで礼拝堂なんですね。あれ?、でもそれじゃユーノさんが来なくてもベルカ語を読める人っていっぱい居るんじゃ?」
「それが、ベルカ語も含まれてるんだけど他の言語も混ざっているみたいなんだ。それで色んな遺跡調査をしてるスクライア一族が呼ばれたみたい。」
「ユーノ君、大丈夫なの?」
「うん、僕達も応援のおまけだからね。遺跡調査の雰囲気を感じて貰えたらいいかなって。地上に居る時は僕も一緒に居るし、遺跡に入る時は友人にお願いしてる。なのはも知ってる人だよ。」
「大丈夫だよママ! 何かあったら私がなんとかするよ。」
「そう…! そうじゃなくて、ヴィヴィオが何かに巻き込まれないかって心配してるのっ!。」
 なのはの言葉にユーノとヴィヴィオは笑った。            
   
   

 同じ頃、管理外世界の地球、日本の中の1つの街、海鳴市。その中にある喫茶店、翠屋は休日にも関わらずClosedの看板が掛けられていた。
 そこに私服姿の4人の女性と2人の男性の影が映る。
「休日の昼に休みだなんて…何かあったのか?」
 男性の1人、クロノ・ハラオウンが怪訝な顔をする。
「今日は無理を言ってお休みにして貰ったのよ。入りましょう。」
 そう言って女性の1人、リンディ・ハラオウンがドアに手をかけると鍵はかかっていなかったのか開き、ドアベルの音が鳴らして中へと入った。他の5人も彼女に続いて入った。
「いらっしゃい。」
 そう言って出迎えたのは高町桃子。
「遅くなってごめんなさい。全員連れて来たわ。奥の席でいいかしら?」
「はい、こちらにどうぞ」
 笑顔で頷くと全員が奥の席に案内し、座ったのを見て桃子は奥のカウンターへと戻っていった。
「あの…どうして私達が呼ばれたんですか? 皆さんはこちらの関係者…ということをフェイトさんから聞いてますが…私は…」
 怖ず怖ずと手を挙げてリンディに聞いたのはティアナ・ランスターだった。
 知っている顔があるとはいえ、ここは場違いだと肩を狭めている。
「私もこちらと関係がないと思うのですが…」
 残ったもう1人の男性、本局広報部の男が苦笑いしながらティアナに同意する。
「リンディ、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」
「お義母…提督は家でも教えてくれなくて…わざわざ店を閉めて貰う程大切な話なんですか?」
 残る2人の女性、レティ・ロウランとエイミィ・ハラオウンがリンディに聞く。  
「…ごめんなさい…私も本当に話してもいいか悩んでいたの。でも…ここまで来て貰ったんだから…これから話す事は誰にも話さないで。ここに居る人以外、家族は勿論、親友にも…」

 そう言ってリンディは話始めた。
「ジュエルシード事件はみんな知ってるわね? 容疑者…プレシア・テスタロッサは魔導炉の事故で死んだ娘のアリシアを生き返らせる為、失われた秘術が眠る地、アルハザードに行こうとした。」
 全員その事件を知っているから頷く。
「彼女が臨んだ秘術、…その1つがもし今ここにあったら?」
「そんなものがあれば…皆が求めて管理世界は崩壊するわね。最悪奪い合いになって争いが起きる…」
 レティの言葉に全員が頷く。
「そうね。じゃあ、そんな秘術を使える人が居たら?」
 早合点したティアナが驚きの眼差しでリンディを見る。
「私は使えないわ。欲しいけれど…ううん、私じゃ使えない。私じゃ心が弱すぎて…間違った使い方をしてしまう。だから…私は門番なのよ。」
「門番?」
「ええ、門番。私がその人とその人の未来を守る為の門番。みんなにもその門番になって欲しいと思ってここに来て貰ったの。」
「私達がですか? ここが関係しているんでしたら私達よりも門番に相応しい人が居ます。なのはさんやフェイトさん、はやてさん…どうして3人を呼んでないんですか?」
 ティアナが気になっていたのか聞きかえした。
 ジュエルシード事件が関係しているならなのはやフェイトは当然、海鳴出身のはやても居るべき話だろうと考えたからだ。
「3人はもう中にいるわ…門番よりも大切な事をしている。」
「その子と一緒に笑って、泣いて、喜んで、苦しんで…導いている…」
「ベルカ聖王の末裔、失われた秘術、時間移動魔法、時空転移の使い手の高町ヴィヴィオの為に…」
「…時間移動魔法…ですって!? そんな冗談を言う為に…」
 レティがあきれ顔で言おうとするがリンディの顔を見て冗談ではないと気づき言葉を止めた。
 リンディは頷いた後、表情を崩さずに続ける。
「私の他にもう1人門番は居るわ。レティはプレシアに会っているわね。彼女が別人に見えたかしら?」
「プレシア・テスタロッサ、彼女とアリシア…どうして今居るかもう判ったわよね? プレシアは兎も角、事件前…魔導炉暴走事故時のアリシアの年齢を考えれば、何が起きたのか判るわね…」
「ヴィヴィオは命を蘇らせる魔法は使えないわ。けれど命を失う前の時間から連れてくる事は出来る。」
「そんな…母さんはそれを実際に見たんですか?」
 クロノが聞くとリンディは頷く。
「ええ、私は昔ヴィヴィオに会っているわ。JS事件が起きてなのはさんとフェイトの家族になる前に成長したヴィヴィオに会って話している。」
「彼女がプレシアとアリシア、リニスを連れて来たのも見ている。その後で彼女達の身の回りの世話を桃子と士郎さんに頼んで、再び彼女達がミッドチルダに戻れる様にしたのは私よ。」
「それじゃ彼女はプレシア本人…」
 立ち上がるクロノ。
「クロノ、逮捕は出来ないわよ。『10年以上前に死んだ人が実は生きていました…』では彼女達の年齢差の説明が付かないでしょう? それにそんな事、ヴィヴィオが臨むかしら?」
「私はヴィヴィオとアリシアと何度も会いました。親友や親友の家族にそんな事をしたら…その前の時間に戻って彼女達を逃がすでしょう…」
「いいえ…きっと逮捕しようとする理由を全て潰して、その人を…という可能性もあります。時空転移を使えばそれも可能でしょう」
「私も彼女達を知っていますが、プレシアはヴィヴィオを家族の様に接しています。ヴィヴィオも非があれば素直に謝りますし、正直で思いやりのある優しい子です。」
「リンディ提督、門番の役、引き受けさせて頂きます。理由は…そうですね。私には彼女が作る未来に希望が見えます。」
 広報部の男性が頭を下げて言った。   
「私も、何が出来るかわかりませんが…ヴィヴィオ達を悲しませたくないです。」
 ティアナが手を挙げて言う。   
「レティ…」
「…仕方ないわね…、桃子、ケーキセットをみんなの分お願い。リンディの奢りで、それ位はいいわよね?」
 レティはため息をつきながら言う。
「ありがとう。クロノ…エイミィ…」
 残る2人に全員の視線は集中する。エイミィもクロノを見る。
クロノは大きくため息をついた。
「わかりました。ヴィヴィオ達を悲しませたくないのはみんなと同じです。フェイトの家族ですから言わば親戚の様な関係ですし…。」
「ですがこれからは門番だけでなく彼女の育成には目を向けるようにします。只でさえ騒動の中心になっているのに時間移動魔法を気軽に使われては守れる自信がありません。」
 クロノの言葉に皆が確かにと頷くが、リンディは苦笑する
「私もそうは思うんだけれど…色々条件があるから沢山使って早く使いこなして貰わないといけないのよね…」
「それに、こんなサプライズをしてくれるんだし…」
 彼女が言った直後、ドアベルが鳴った。
「ただいま。」
 そう言って士郎が入ってきたらしい。
 そのままこちらの方へ来ると
「リンディさん、すみません。遅くなりました。」
「ありがとうございます、こちらにお願いします。」
 その声を聞いて足跡が近づいて来て、姿が見えた。
「え…」
「!?……」
「……」
「…なんで…」
 5人が固まった。
「言い忘れていたわね。レティ以外のみんなを呼んだのは3人の関係者だからよ。『誰が何をしたか』はわかるけれど、『何故ここに居るのか?』は…私もわからないわ。それはその内彼女が教えてくれるでしょう。」
 困り顔のリンディの言葉に誰も反応せず、唯一レティがコーヒーを飲もうと持ち上げかけたカップがコトッと音を立てて元の場所に戻った。
 その後、リンディ達の予想通り表に見せられない程の愁嘆場が数時間に渡って繰り広げられることになったのは言うまでもない…。

~コメント~
 16話でヴィヴィオが話していた彼女の練習結果的な話です。
 AS0でヴィヴィオは魔力を使い切った更に過去へと行く失敗をしています。
その際は久遠というお助けキャラが居ましたが何度も幸運は続かないのをヴィヴィオも知っています。
 なので家族には内緒で全魔力を使って行ける時間(距離)を調べています。

 でも…もっと簡単な方法があったりするのですが、気づく前になんとかしちゃうのかも…

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