第17話「私はオマケ」

「ヴィヴィオ~、ちょっと来て~」
ある日の夜、高町ヴィヴィオは自室で課題を進めていた時、1階からなのはが呼ぶ声が聞こえた。
「は~い。」
「なんだろう?」
小首を傾げながら端末を閉じて部屋を出て階段を下りる。
「どうしたの?」
 リビングに行くとそこにはユーノが居た。 本局に自宅がある彼が家に来るのは珍しい。
「こんばんは、ユーノさん」
「ヴィヴィオ、久しぶり。」
「司書のお仕事、ずっと休んじゃってごめんなさい。」
 頭を下げて謝る。
 私は無限書庫の司書で以前はよく行っていたのに今年になって調査依頼で行ったのは1回だけ…
 他の調べ物で何度かは行っていたけれど、それは私が調べたいから行っただけで司書の仕事はしていない。
「気にしないで。ヴィヴィオが頑張っているのはなのはやみんなから聞いているよ。古代ベルカの魔法を作り直したり、Stヒルデの生徒会で活躍してるって…。それにこっちは今はそれほど忙しくないしね。」
「活躍ってそんな、どっちもみんなに手伝って貰って、私だけじゃ…全然」
「ううん、ヴィヴィオだから出来ることをしてるんだから自信を持って、無限書庫のみんなも応援してる。」
「はい、ありがとうございます♪」
 司書のみんなが応援してくれていると聞いて嬉しくなった。
 
「ユーノ君、ヴィヴィオに話があったんじゃ?」  
「そうだった。今日はヴィヴィオに用があって来たんだ。遺跡の調査を手伝って欲しいんだけど頼めないかな?」
 ヴィヴィオがなのはの横に座るなりユーノが話した。
「「遺跡の調査?」」
 なのはと一緒に首を傾げる。
 すると彼は続けて話し始めた。

 今から10年程前、ここから少し離れた管理世界である遺跡が見つかった。
 調べてみるとかなり大規模な遺跡だとわかって、専門のチーム組まれて調査が始まって、今も続いている。
 そこで先日ベルカ文字っぽいものが書かれたものが幾つか見つかった。
 勿論調査チームの中にはベルカ文字を読める者が何人も居る。
 しかし見つかったものはベルカ文字でも少し違ったものもあるらしく上手く読めないらしい。
 そこで遺跡調査の専門集団、スクライア一族が呼ばれた。その伝手から一族の1人であるユーノにも応援要請が来たらしい。
 
「行く先の遺跡はかなり大きくて一族以外にも沢山研究者が来てるんだ。無限書庫の調査依頼も今は落ち着いているし良い機会だから希望者を募って研修として行こうということになって、それでヴィヴィオもどうかなって」
 調査を手伝ってと言われてどうしようと思ったけれど、研修のお誘いだったのを聞いてホッと息をつく。
 遺跡の調査応援を体験できる機会なんて滅多にない。しかもそんな大きな遺跡なんてまたとない機会だ…。
 彼は遺跡発掘で培った経験を生かして無限書庫の再構築をしたから局員にも体験させたいのだろう。 
 私も本以外の大昔のベルカ関係に触れられるのは興味はある。
 でもStヒルデの初等科生徒会副会長として休む訳にもいかないし、休日はアリシアの練習に付き合ったり異世界で新しい魔法を調べている。
 時空転移を使って何日か戻れば行けるだろうけれど『日々の暮らしの中で使えば時間を疎かにするから使っちゃ駄目』とママたちやプレシアから言われている。
 となると残念だけれど…
「ごめんなさい、興味もあるし行きたいんですが、学院のこともあるし…。」
「さすがに長期のお休みは出来ないよね。折角誘ってくれたのにごめんねユーノ君」
 なのはも学業優先と考えているみたいで謝る。
「ヴィヴィオは学院があるのはわかってる。僕達は暫く滞在するけどヴィヴィオは休日だけ来てくれればいいよ。本局経由じゃ時間がかかるからここから直接行ける様にパスも用意する。」
 ユーノの言葉に再びムクムクと行きたい気持ちが強くなる。
(休日だけで良いなら行けるかな…。アリシアの練習には付き合えないけど、向こうに送り迎え出来ればなんとかなるかな?)
「危なくない?」
「何年も調査している遺跡でさっき言った通り僕も含めて無限書庫のメンバーも行くし、古代ベルカ絡みだから希望者もヴィヴィオと顔なじみの人になるだろうし、遺跡に入らなくても出土品の調査も出来るし。」
「それでも…昔のベルカのものなんだよね?」
 本当に大丈夫なの? と私とユーノを何度も見るなのは。
 確かにこれまでの事件の巻き込まれ度合いを考えれば…彼女の心配もわかる。
 ユーノは少し考えた後口を開いた。
「じゃあさ、そこまで気になるならなのはも来る? ヴィヴィオと一緒に」
(あっ! ユーノさん…)
 私はその言葉を聞いてピンときた。
 その証拠に膝上に置かれていた彼の手が握られている。
 間違い無い。
「う~ん、今はこっちの教導だけだからお休みはヴィヴィオに合わせられるけど…私、ベルカ語あんまり読めないし…」
「行きたいですっ! ううん、行きます! ママと一緒に!! 一緒に行こうよ♪ ねっ♪」
 なのはの言葉に重ねる様にして彼女に抱きついて言う。
「ええっ!? うん…そんなに行きたいなら、わかった。でも直ぐには決められないから…返事、明日でいい?」
「いいよ。決まったら教えて。僕も詳しいことが決まったら連絡する。」
「はいっ♪」
 満面の笑みで頷いた。


 その後、ユーノを交えて夕食を食べる。今日の夕食は2人の合作。
 美味しいと笑顔で言うユーノに私は嬉しくて笑顔になる。
 なのはやはやて、桃子から料理を教わっていると言うと驚かれた。
 本局に帰るユーノを見送り、お風呂に入った後部屋に戻る
 そしてベッドに寝転びながらアリシアに連絡をする。毎晩恒例のおしゃべりタイム。
 もちろん今日の話題は遺跡調査について。

「遺跡調査って大丈夫なの? ベルカ絡みなら変なところから事件を呼び寄せたりしない? 只でさえ色々事件に巻き込まれやすいのに…私も行こうか?」
 大雑把に話しただけだと彼女が気にしてそう言うだろうと思っていた。
 でもこの話には【ウラ】がある。
「平気平気、大丈夫だって♪ 遺跡調査は建前で私はおまけみたいなものだから♪」
「建前? おまけ?」
 首を傾げる彼女にユーノとのやりとりを話す。彼女も理解したのかニヤッと笑った。
「へぇ~、ヴィヴィオやるじゃない♪ ヴィヴィオを呼ぶ様に見せかけてユーノざんの本命はなのはさん。」
「そういうこと。スクライア一族から呼ばれたって言ってたから。ユーノさんの友達や家族が来てるのかも。ママさえよければ私はユーノさんがお父さんになってもいいな~って思ってるし。
…ママ達の前で言うと困った顔しちゃいそうだから言えないけどね。」
「そうだね~、なのはさんが結婚しちゃえばフェイトやはやてさんも真剣に考えるだろうし…私も応援するよ。行く日が決まったら教えて。フェイトに家に泊まりに来るように言うから。」
「わかった。」
 その後は2人で色んなお話をした。


「ユーノさんも策士だね~、そんなことしなくても休日に『遊びに行こう』って誘っちゃえばいいのに…ヴィヴィオもなのはさんも喜んで行くんじゃないかな~」
 ヴィヴィオとの通信を終えたアリシアは自室のベッドの上でごろんと寝返って呟いた。
「でも、私達と同じ位の頃からお互いを知ってるから遠慮してるのかな…、折角の機会なんだし2人で話してみるのもいいかもね。トラブルがあったら…そこはヴィヴィオのせいになっちゃうけど…
最近は何も起きてないっていうか…ヴィヴィオが起こしてるみたいだけど…」
 先日、近くの管理世界であったイベントにストライクアーツの広報絡みで行った際、撮影でお世話になった本局広報部の人に会った。
 私はその時彼から本局で今起きていることを少しだけ聞いていた。
 
 戦技披露会が終わった後から本局内ではヴィヴィオの所属先について相当揉めているらしい。
 彼女の肩書きや能力を考えればそうなるだろうとは思う。
 幸いにも彼女が生徒会や色んな用事があって本局にあまり足を運んでいない為、騒ぎは表面化はしていない。
 そのかわりに彼女の母、なのはが騒動の中心になってしまっている。
 フェイトやはやて達にも話は届いているだろうけれど、『ヴィヴィオの母親』だというのが原因なんだろう。
 ユーノはそれを心配して気分転換も兼ねて誘ったのかも知れない。
 流石に遺跡調査はさせられないけれど、そこまで行けば騒がれていないだろうと考えたのか…。


「私も一緒に行きたいけど、邪魔になりそうだし、これもあるし…仕方ないか…」
 そう言ってため息をつきながらデバイスの中から一通のメールを開いた。
 それは八神はやてから届いたメールだった。おしゃべりタイムの前にざっと目を通していたけれどしっかり読む。
 メールの内容は2つの事が書かれていた。
 1つ目はナカジマジムにミウラとアインハルトを入会させたいのでアリシアにも協力して欲しいという依頼。
 こっちは断る理由もないので2つ返事でいい。
 問題はもう1件、リンネについての現状報告…こっちが本題だった。

 少し前、ヴィヴィオに協力してリインフォース・アインスを闇の書事件から連れてきた後、
「お礼という訳やないけど、何でも言って。私に出来ることならするよ♪」というはやての言葉に甘えて、私は彼女にあるお願いをした。
 それは『リンネ・ベルリネッタの現状と管理局の対応方針について知りたい』と。
 暴力事件が起きた後も調べていたのだけれど彼女を取り巻く状況は日々悪化していた。
 いじめから起きた暴行事件として早々に和解すると思っていた。でも被害者の保護者が渋っているらしい。
 このままでは何らかの刑罰か保護観察処分が決まってしまう。
 そうなるといくらアリシアが誰かを後見人として推薦してもStヒルデ学院は転学を許可してくれない。
 その結果フーカと再会させるという計画が水泡に帰す。
 そこではやてに被害者が和解に向くようにすることとリンネがStヒルデに転校…せめてフーカと会う機会を作れないかを相談していた。
 

 メールには和解を渋っている家族についての調査結果が簡単に書かれていた。
 それぞれの被害者の家族には兄・姉が居て、2人は今までに色々な問題も起こしていた。良くない者達と交友している話もあるそうだ。
 はやてはそれを使って被害者家族に和解すれば今までの問題について便宜を図ると伝えた。
 リンネの家、ベルリネッタ家に対してはヴィクターを通じてStヒルデ学院中等科に受け入れる用意があると伝えたそうだ。
 更に彼女は既に事件の起因も手に入れていた。
 日々リンネは彼女達に虐められ、その日は大切にしていた祖父の形見を彼女達に壊されたことで切れたリンネが彼女達を負傷させたらしい。
 私には見せられないが事件前の状況や当日の映像も手に入れているらしい。
 何処から手に入れたのやらと呆れながらも的確に急所となる情報を持っている事に感嘆する。
 
 被害者家族が和解を拒み続ければ兄や姉が逮捕され、そこから事件迄の過程と当時何があったのかが公表される。
 その後は私でも予想出来る。
 被害者だと思われていた彼女達が虐めていた事実が公になり、その影響で家族全員を含めて忌避される。
 騒がれた事件で、事件前の映像を持っていた学園側も隠していたと非難されるのは間違いない。担任や校長の責任問題にもなるだろう。
 一方でリンネには同情が集まるから処罰にも情状酌量が認められ刑罰は当然、保護観察処分にならない可能性もある。
 仮に保護観察処分になってしまっても、Stヒルデも拒否しづらい。幾つか制限は付けた上で転学を許可するだろう。
 ベルリネッタ家としても事件を知っている他学校には転校すらさせて貰えないからStヒルデからの話は嬉しいだろうし、
 結果非を被るのは虐めていた少女達とその家族。和解した方が余程良い。
  
 多少強引というか権力を使っている感じはするけれど、どう動いても伝えていた問題が短期間に片付いてしまう。
 メールを読みながら感嘆の声を出しながら思わず
「流石、狸娘だね~♪」
 と褒めた。
  
 私もここまでお膳立てをされていたら次に何をすれば良いかわかる。
 中等科には明日にでも足を運んで以前聞いた転入条件の確認と近日中に依頼があることを伝えておけばいい。
 後見人を誰に頼んだらいいかと少し考えた後、ノーヴェに頼もうと決めた。
 彼女の保護観察処分は解かれているし、元管理局員で、彼女を除く家族全員が管理局員。
 そして少し話しただけでもわかる位情に熱い。
 そんな彼女ならリンネとフーカの事を知れば頼む前に自ら手を挙げてくれるだろう。上手くいけばフーカとの再会を早められる。
「よしっ!」
 考えをまとめてキーを出してはやてに送った。


~コメント~
久しぶりの更新です。
本話はAgainStory2になる前の状態なので、小説版と少しだけ違っています。

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