第16話「番外編 あいんすのおしごとっ!」

 リインフォースが八神家に来てから2週間後、運用テストの検査の為に彼女がプレシアの研究所にやってきた。
 今日がその日だと知らなかったヴィヴィオはプレシアからのメッセージを受けて放課後に彼女の研究所に赴いた。
 敷地に入ったところで…

「あれ? ザフィーラ?」
 
 正面出入り口の片隅に子犬モードになったザフィーラが居た。

「どうしたの?」
「アインスの付き添いで来ている。リインが来る予定だったのだが…我が主と仕事でな」

 どうやらリインフォースが2人になったので「アインス」と「リイン」と呼び分ける様になったらしい。

「そうなんだ。アインスさんは中にいるの?」
「うむ」
「じゃあ話してくるね。そうだ、後でアリシアと一緒にチェントが帰ってくるから遊んであげてね」
「わかった。」

 話し終えた私は研究所の中に入った。

「こんにちは~」

 プレシアの研究室に向かおうとしたところ、ラウンジに彼女とアインスとチンクが居るのを見つけた。

「急に呼んで悪かったわね」
「いいえ、私の我儘で来てもらったんで。アインスさん、八神家はどうですか?」
「皆に良くしてもらっている。我が主や騎士達と過ごせて毎日が楽しいよ。」

 微笑んで答えるアインス。しかし彼女の笑顔は少し曇っていた。

「…何かあったんですか?」

 聞くとプレシアとチンクが苦笑いする。

「私が話していいか?」

 チンクがアインスに聞いて彼女が頷くとチンクは私の方へと向き直る。

「八神家全員が彼女の事を気にしすぎ…というか心配しすぎているらしいんだ。」

 そう言うと今朝までの事を幾つか話す。



 ~毎朝の出来事~

 はやてが朝食を作っていたので手伝おうとキッチンに行くと

「大丈夫や、座って待っててな♪」
「それでは皿を並べます。」

 重ねてある食器を手にしようとしたら、丁度シャマルが入ってきて

「アインス、私がするわ。あなたは座って待っていて」
「…ああ、わかった。」

 そのまま食卓に並ぶのを待った。
 

 朝食を食べ終えて食器を片づけようと立ち上がってお皿を重ねて持っていこうとする。すると

「私がしますです~、アインスはリビングで寛いでいてください。」

 フルサイズモードに戻ったリインに背を促されてリビングのソファーに座るしかなかった。

「あとで飲み物を持って来ますね。コーヒーとお茶、どっちがいいです?」
「それなら私が…」
「片付けながらしますよ。」
「…じゃあコーヒーで」
「はい、待っててくださいです♪」

 そのままコーヒーカップを受け取って静かに飲んだ。


~朝の見送り~ 

「じゃあお仕事に行ってくるな~♪」
「いってらっしゃい」

 制服に着替えたはやて達を見送る。

「…ヴィータは行かないのか?」

 私服のまま見送るヴィータに聞くと

「今日は休暇なんだ。さ~てみんなが出かけてる間に掃除でもするかな。」
「私も手伝おう。」
「へーきへーき、そんなに散らかってないからすぐ終わるし。リビングでテレビでも見ててよ。あっちとこっちじゃ色々違ってるからな。」

 そう言って腕まくりをして家に戻った。
 八神家は毎日誰かが休みを取っていて、洗濯や掃除等を当番で決めていて、他の者でも同じ様な扱いになってしまう。  


~午後のお出かけ~

「ちょっと散歩してくる。」

 家の中にずっと居るのもと考えて、リビングから立ち上がって外に出かけようとすると近くで端末を見ていたヴィータは

「あっ、ちょっと待って。私も行く。」
「近所を見て回るだけだから…」
「夕食の買い物もしなくちゃいけないから…待ってて」



「という風に常に誰かが近くに居るか見られていて、わざわざ手間をかけさせてしまっているのを申し訳なさを感じているらしい。」

 その話を聞きながら、今日はザフィーラがついてきたのかと納得する。

「時間が経てば互いの距離感も掴めるだろうが、それまではストレスになってしまうな。」

 とチンクが話ながら苦笑する。

「今までを考えれば仕方ないわね。そこでヴィヴィオ、あなたが何とかしなさい」
「私がっ!?」

 突然話を振られて驚くが

「あなたの我儘で来てもらったのだから当然でしょう、運用テスト中なのだから彼女に負担をかけさせないで。」

 プレシアにそう言われては拒否する訳にもいかず、言われた通りアインスが過ごしやすい日々を作る責任は私にある…。

「はい」

 頷きながらもどうすればいいかわからないでいた。



 その後、プレシアは研究室に戻りチンクも作業部屋に戻った。残ったアインスと私は一週間の間の事を聞いた。
 翌日ははやてが休暇だったこともあってアインスにべったりだったという。
 その日から数日は今まで起きた事を色々教えて貰ったらしい。

「ヴィヴィオ、すまなかった。」
「えっ?」

 唐突に謝られて驚く。 

「事件の中でお前に言った事を謝りたい。ヴィヴィオの生まれや今までを聞いたのだ。王家が残っていたのでは無かったのだな。」

 どういう意味だろうと少し考えて
  
「あっ、そうですね。聖王家はすっごく昔に無くなっちゃって…でも、私とはちょっと違うけど子孫の人も居るんですよ。」
「そうなのか、会ってみたいな。」
「そうですね。紹介する機会があれば…八神家に来る人もいるので会えると思いますよ。」
「楽しみにしておこう。」
「それでですね…アインスさんはどうしたいですか?」
「どうしたいとは?」
「例えば一緒にお仕事したい~とかそういう希望です。私の我が儘は今日みたいに時々お話出来たらいいので、それ以外の時間をどうしたいか?って考えていますか?」
「さっきプレシアにも相談していたところだったんだ。管制システムとして、少しは過去の記憶もあるしベルカ文字も読めるから、昔の資料の編纂をしてみないかと。私と似た状況で同じ仕事をしている人もいるらしいし、帰って我が主に相談しようと思っているよ。」

 イクスと同じ仕事をするらしい。
 1つの出来事でも立場が違えば見方も変わるように、当時の資料を複数視点から見られるとより詳しくなるだろう。

「凄く良いと思います。」
「ありがとう。だが、我が主や騎士達が私を1人で送り出してくれるかどうか…」

 ため息をつくアインス。まぁ今の状況であれば仕方がないか…と思いながらふと聞いてみる。

「アインスさん、お掃除とか料理とかはしたことありますか?」
「私自身は無い…書の意識として目覚めたが、この体になったのは暴走前だったからな。」

 納得する。そう言えばそうだ…。クリスマスイブに目覚めて翌日に連れてきたのだから掃除も料理もしたことがなくて当然だ。

「だが、我が主と繋がった時に知識として得ている。昔の我が主の得意料理を作ったり、使っていた掃除道具であれば使えると思う。」
「そうなんですね。…あっ! 良い方法を思いついちゃいました。」

 思わず立ち上がった。

「何か方法があるのか?」
「はい、アインスさん。家に帰りましょう。その前にママ達にメッセージ入れておかなくちゃ。RHd、ママ達にメッセージをお願い。『今日の夕ご飯ははやてさん家で食べてきます。少し遅くなります』って。行きましょう♪」

 これで何とかなるはずだ。   



「ただいま帰りましたです~、あれ?お客さんですか?」
「ただいま~、ってヴィヴィオが来てるん?」

 はやてとリインが帰宅すると玄関には小さなローファーがあった。
 見慣れた靴なので、ヴィヴィオが来ていると気づく。
 リビングに明かりがついているので向かうと

「はやてさん、リインさん。おかえりなさい」
「た、ただいま。」

 エプロン姿のヴィヴィオとアインスがキッチンに立っていた。
 シグナムとシャマル、ザフィーラ、アギトがダイニングで並んで見ている。
 
「どういう状況なん?」
「テストの報告にプレシアの研究所に行ったのですが、そこにヴィヴィオも来て、話したところ今日の夕食を作る事になったらしいです。」

 小声でシグナムに聞く。

「もう少しで出来るので、はやてさん達は座って待っててください。」
「そんなん悪いよ。私も手伝うよ~」
「大丈夫です。アインスさんが手伝ってくれてるんで、アインスさん焼き加減を見てこれで裏返してください。」

 フライ返しをヴィヴィオがアインスに渡す。フライパンの蓋を取ると肉の焦げた良い香りがする。ハンバーグを作っているらしい。アインスはそれを器用に裏返した。
 その間にヴィヴィオは小さなお鍋に湯を入れてスープを作ろうとしている。

「これでいいか?」
「はい、じゃあ次に…」

 2人とも危なげのない手つきで料理をしているのを見て

「…あっ…」

 ヴィヴィオの来た理由に気づいた。
   

          
「美味しい…」

 並べられた料理に箸を伸ばす。

「美味しいです。」
「美味い!」

 大皿に盛り付けたサラダと、里芋と人参、椎茸の煮付け。味噌汁とご飯と目玉焼きを乗せたハンバーグ。
 並べられた料理を食べて口々に言う。それを見て私はアインスと笑みを浮かべる。

「これ…私達が初めて食べた…」

 煮付けを口にして呟くシャマル。

「アインスさんが作ってくれたんです。私はまだ作れなくて…凄く上手です。」
「作ってみたいと思っていた。美味しく出来て良かったよ。」
「美味しいよ。ありがとな、アインス、ヴィヴィオ。これからはアインスにも作るの手伝って貰おうな、シグナム、シャマルもそれでええ?」
「はい、我が主♪」
「勿論です。」
「お願いね、アインス」

 満面の笑みで答えるアインスを見て彼女に伝わったと知った。

「ヴィータちゃん、こんな日に出張だなんてついてないですね。後で知ったら悔しがりますよ~。」
「『私も食べたかった~!』だって、さっき撮って送ったらメッセージが返ってきたぞ。」

 アギトがヴィータに今日の夕食画像を送っていたらしい。
    
「ハンバーグだけだがヴィータの分は取り分けてあるから帰ってきたら私が作るよ。」

 こうして八神家の団欒は過ぎていった。



「色々ありがとうな、ヴィヴィオ。」

 シグナムの運転する車で送って貰う最中、後部座席の隣に座ったはやてが私に言った。

「私はアインスさんと料理をしたかっただけですよ。レパートリーも増えました。また教わりに来ても良いですか?」
「いつでも来ていいよ♪ ヴィヴィオには感謝しかないな。」
「なのはちゃんとフェイトちゃんから聞いたんやけど、撮影の後から調べてたんやろ? 練習して…頻繁にあの魔法を使う様になったんも、異世界から夜天の書の魔法を持ち帰ってたのも…全部この為やったん?」
「あはは、ママ達にばれちゃってたんだ…。アインスさんを連れてくる為…でもあるけどそれだけじゃないです。アインスさん、クライドさん達、ティーダさん…。皆さんを連れてこられる時間は今の私でも行けるんです。でも…目指すのはもっと先…。」

 他2人の名前を聞いてはやてが驚く。けれど私は言葉を続ける。

「アリシアとプレシアさん、リニスを助けなくちゃいけないから。」

 少し前に遠い過去に時空転移をして失敗した。
 原因は私の魔力が足りなかったから…
 数年後に私はアリシアを助けに行かなくちゃいけない。でも…今の私じゃ行っても帰って来られない。
 言い方は悪いがアインス達を連れてくるのはあくまで『練習』。 
 クライド達を連れてきた時は時空転移と空間転移でほぼ魔力が無くなり何とか海鳴に辿り着けた。ティーダを連れてきた時は事故発生の最中での連続転移でこちらもほぼ魔力を使いきってしまい海鳴に着いた直後に意識を失ってしまった。
 最低基準はクリアしたけれど余裕が全く無い。
 少なくともあと1回は時空転移出来るだけの魔力を残したい。
 その為には魔力を高めながら制御の練習を積み重ね1つでも多くの魔法を覚えてレパートリーを増やすしかない。

「そうか…それでも感謝してる。困った事があったら何でも言って、力になるよ。」
「はい、まだ今はわからないけど…その時はお願いします。」

 私は彼女の顔を見て頷いた。 


~コメント~
 本話だけは何故かタイトルが付いていたのでそのまま掲載しました。
(某アレのオマージュですよね、多分)
 アインスを助ける理由について、ヴィヴィオは色んな人から聞かれています。でも力を貸してもらうアリシア、プレシア、エルトリアの面々には真の目的については話せません。だから補足する意味で色んな理由をこじつけていました。(シュテルとディアーチェにはバレていましたが…)
 でもはやてに話したのは…彼女には伝えても問題ないと考えたからだろうと思います。

 今話もフラグが幾つかあって、私が気付いたのはAgainStStoryでヴィヴィオとRHdの関係が本話の八神家とアインスの関係にオマージュされていたのかなと思います。

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