09話 「条件が揃った時」

『キャロ!キャロっ!』

 夜中キャロが眠っていると突然エリオからの念話が届いた。

『~ん~どうしたの・・エリオ君』

 意識だけ起こして聞いてみる。
だがエリオからの念話は『キャロっ!!』と言った後、バッタリと聞こえなくなってしまった。

「エリオ君!?」
 何かが起きた!?
 キャロの中で警鐘が響く。バッと飛び起きてエリオの休む部屋へと裸足で駆けだした。走りながら何度念話で呼んでも返事が無い

(ん~どうしたの?キャロ・・・まだ夜だよ~)

 キャロが寝ぼけながら聞く。どうやらキャロの念話と突然走り出した事で目覚めたらしい。

「エリオ君に何かあったみたいなの。あっここだっ、エリオ君!エリオ君っ!!」
 
 フェイト達の隣の部屋、入ろうとするがロックがかかっていて入れない。ドンドンと叩く音が周りに響き渡る。
 それを聞いてフェイトとなのはが部屋から覗かせた。

「キャロ?」
「キャロどうしたの?」
「エリオ君がっ、ロックされてて」

 キャロが何を言っているのか的を射られず、把握出来なかった。しかし切迫した事態が起きているのはキャロの雰囲気で十分に伝わった。
 フェイトが部屋着のままやって来てエリオのいる部屋のロックを開けようと試みる。

「魔力波認証・・・コードも変えられてる?なのははやてをっ」
「うんっちょっと待ってて」
「ママ代わってっ」

 八神家になのはが駆け出した時、フェイトの横をキャロが間に割り込みボタン部分に触れた。
 一瞬だけキャロの手が光ると何も無かったかの様にドアが開く。

「お兄ちゃんっ!」

 何が起きたのか呆然とするフェイトとなのはを置いて部屋の中に飛び込むと、そこには意識を失ったエリオに馬乗りになっているキャリアがいた。
 紫色に淡く光る手がエリオに伸びている。

「「ダメーッ!!」」

 キャロなのか?それとももう1人のキャロだったのか?どちから判らないがキャロは身体ごと思いっきりぶつけキャリアを弾き飛ばした。

「キャロ、エリオっ!」
「うそ・・・認証が一瞬で・・」

 驚いているなのはの横をフェイトが駆け込んでくる。
 そこで見たのはベッドの外で倒れているキャリアと意識を失ったエリオを呼び続けるキャロの姿だった。



 夜中に寝付いた所文字通り叩き起こされたはやて達は少し不機嫌だった。
 良い気持ちで眠っていたところを問答無用に念話で起こされ入り口を開けたところにはなのはとフェイトとキャロ、そしてなのはとフェイトに抱きかかえられたキャリアとエリオの姿だった。
 このメンバーでは何かあったのは言うまでも無い
 
「で・・・うちらを起こしたと・・・」
「はやてちゃん眠いです~」
「まだ深夜だぞ~」

 流石に寝ぼけ眼で起きてくるヴィータとリイン
 
「シグナム、とりあえずシャマル起こしてエリオとキャリアを看て貰って」
「わかりました。おい・・シャマル起きろ・・」

 エリオとキャリアははやて達が眠っていたベッドに横に寝かされ、これも又叩き起こされたシャマルに看て貰ったがただ単に気を失っているだけだと判るとキャロ達もホッと安堵する。

 その後全員揃った所でキャロを通して何があったのかを聞くが、今のキャロももう1人のキャロもそれほど多くの情報を持っている訳でもなく、『念話が届いた後返事が無くなって慌てて来た事』くらいしか判らなかった。
 それを聞いたはやて達も一体何があったのかがさっぱり検討もつかず、結局夜も遅いという事でエリオとキャリアが目覚めたら聞くしかないな~というはやての言葉を受けてエリオはキャロの部屋に、そしてキャリアは八神家で預かる事にした。

 もしキャリアが何か変な行動をしたとしてもシグナムやザフィーラの鋭敏な感覚から逃れられないだろう。


「ん・・あれ?ここ・・どこ?」

 翌日、キャリアが目覚めると見知らぬ場所だった。
ベッドから下りて寝室の外に出ると

「起きたか・・痛いところは無いか?」

 椅子に座り何やら分厚い本を読んでいたシグナムがこちらに気付き本をテーブルに置く。
 何を言っているのだろう。どこも痛く無いのに・・・

「特に・・シグナムさん、私はどうして?」
「それについては部隊長から話をする。起きたら食事の後に部屋来るようにと託かっている部屋に戻って用意をしてくるといい」

 シグナムはキャリアの問いかけには答えず、再び置いた本を取り続きを読み始める。
 訝しげに思いながらもそれ以上話せる雰囲気では無く、自室に戻り身支度を整える事にした。


 服も着替えて用意が出来たことを八神家にいるシグナムに伝えようと部屋から出ると

「準備は出来たようだな、私も一緒に食事させて貰おう」
「は・・はい」

と部屋の横で待っていたシグナムと一緒にぎこちない雰囲気で食事をする事になった。


「う~ん、エリオもキャロも突然の事で何が起きたのかはっきり判ってなかったみたいやし、あとはキャリアに聞くしかないんやけど」

 日々の仕事の合間にはやては昨夜の事を考えていた。
エリオがキャロに念話を送った事と運良くなのは達の隣の部屋にエリオが眠っていた事が幸いして事なきを得ていたが、どちらかが抜けていたらと今考えると恐ろしい。
 唯一得た物はキャロの中に居るもう1人のキャロ、彼女が以前エリオの部屋のロックを何度も開けていた方法で、同じ魔力波長を作り出しあたかも当人が開けた様に見せかけていた事が判った事だった。
 アレをされてしまえば管理局の大概のロックは解除されてしまうだろう。
 いっそ危険な場所には日本から「南京錠」を取り寄せようかとも考えていた。あれなら魔力波長をどれだけ『変換』しても開けられる心配は無いだろう。
 とにかくエリオ何らかの理由でキャリアに襲われたのは間違いない。

「エリオがキャリアを襲って返り討ちにあった・・とか言ったらフェイトちゃん激怒するやろな~」
「当たり前ですっ!不謹慎にも程がありますっ!」

 考えていたことが思わず口に出ていたらしい。
隣のリインフォースが目の前でプンプンと怒っていた。

「あっ口に出てた。ゴメンなリイン、で何か用か?」
「さっきから呼んでるのにはやてちゃん全然答えてくれなかったです。キャリアちゃんがこっちに向かってるってシグナムから連絡がありました」

 キャリアが起きたらしい。先に何か聞こうかとシグナムに念話を開こうとするが途中で止めた。直接聞いた方が話が早い。
 そうこう考えているとノック音が聞こえた。

「失礼します。キャリア・ドライエを連れてきました。」
「失礼します。」
「それでは私はフォワード隊の訓練の方に」
「ありがとな~シグナム」

 シグナムがキャリアと一緒に入ってくる。そしてキャリアが挨拶したところで頭を下げそのまま部屋を後にした。それと同時にキャリアがふぅーと息をつくのを見て苦笑する。
 シグナムの堅い空気で息が詰まりそうだったのだろう。

「キャリアごめんな~息つまりそうやったやろ?ああ見えて優しいところもあるんやけど、最初のうちは気遣うかもな」
「大丈夫です。私どうしてあのベッドで寝ていたのでしょう?」

 どうやら昨夜の事は全然覚えていないみたいだ。
 そのまま言うことも出来るがキャリアがショックを受けるのも目に見えているし折角『三角関係を引っかき回そう』というはやてのささやかな企みが水泡に消えてしまう。

「昨日の夜、寝ぼけて部屋の前で寝てたんよ。それで夜も遅かったから部屋に連れ帰ったんやけど・・起きて驚いたんちゃう?」

 頷くキャリアに微笑みを返しつつ確認する

「キャリア、昨夜の事少しでも覚えてない?どんな事でもいいんや。」
「・・・・・あっ」

 最初は何かあったかと思い出そうとしていたが、何か思い当たったらしい

「何?何か覚えてるん?」

 その問いにキャリアは突然頬を赤く染める。

「その・・・どうしても言わないとダメですか?」
「出来れば・・教えて欲しいな・・」
「どうしても?」
「うん」

 何か考えているようで少し沈黙の間が続く・・・

「あの・・エリオに・・内緒にしてくれますか?」
「秘密は守るよ。リインもそうやろ」
「はいです」
「あの・・」

 キャリアが思い出したのは昨夜夢の話だった。
 夢の中でエリオと前に行ったショッピングモールで二人っきりでデートを楽しんだらしい。
 はやてから見れば秘密にする程の事では無いがキャリア自身の願望が夢となっているなら本人にすればかなり恥ずかしいのだろう。
 しかし、その中でふとはやてが気になった。キャリアがエリオと出かけたのは2回だけ。しかも昨日今日の話では無い。
 夢に突っ込みを入れるのであれば、夢ほど曖昧なものも無いのだから願望が夢として出たのだろうという予想でケリがつく。

「なぁキャリア・・・その・・エリオが夢に出てきた事って前にもあった?」
「そ・・っそそそんな事っ!!」

 その問いはキャリアには別の意味に取られたらしく慌てて否定する。その反応だけそれが初めてだったのも予測出来て、それが何かのヒントになるかと思ったはやてだったが、それを確認する方法も無く只の可能性として考える事にした。



【エリオ・モンディアル三等陸士・キャロ・ル・ルシエ三等陸士、至急部隊長室まで】

 朝練が終わり施設の後片付けとしていると隊舎の方でアナウンスが響いた。
 呼ばれたエリオは何があったのか判らずもう1人呼ばれたキャロの方を向く。何か理由を知っているなら教えて貰おうと思った。

「キャロ・・何か知ってるの?」
「う・・ううん・・何かな・・エリオ君」

 キャロの答えは『私何か知ってます』と看板を掲げて走り回れる程怪しかった。だが、キャロが知らないと言う以上それ以上突っ込むことも出来ない。さりげなくを装い

「何だろうね、もしかして・・・」
「エリオ君っ用があるから先に行くねっ!」

 エリオが続けて聞こうとすると、キャロは慌てて隊舎の方に走り去ってしまった。


「本局へ・・ですか?」
「そうキャリアのお父さん、トーリア博士に渡す書類があってな。それと前に医務局から頼まれてたキャロとキャリアの検査と・・エリオはその護衛で。よろしくな~」

 部隊長室に呼び出されて先にきていたキャリアとエリオ、そして先に向かった筈のキャロが遅れて入って来たのを見てはやては話し始めた。
 本局への書類を届けるのとキャリアとキャロの検査、そしてエリオはその護衛。それを聞いたエリオ・キャロ・キャリアの思いは三者三様だった。
 昨日行ってきたばかりなのに再びしかも2人と一緒に行く事になったエリオ、父親の新しい職場と働いている姿を見れると内心ワクワクのキャリア、そして真実を知っているキャロ。
 キャロの内心は複雑だった。もしキャリアがエリオに何かしようとすればその時はキャロがエリオを守らないといけない。しかし、キャリアには魔法を使いたくない。
 そしてこの事は当事者であるはずのキャリア・エリオの2人とも覚えていない。キャロがそんなことを考えながらキャリアを見つめていると視線を感じたのか一瞬振り返るが、誰が見ているのか気付いてはやての方に向き直った。


~~コメント~~
 エリオの部屋に忍び込む術とは?キャロが本局のセキュリティをどうやって破っていたのか色々と裏設定なるものを考えていましたが、ようやく出すことが出来ました。
 全てボツにならずにすみました。

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