11話 「キャリアは夢遊病?」

「今日も遅くなっちゃった・・・」

 捜査会議を終えフェイトが機動六課に戻ってきた時、日も暮れていた。
今日はエリオとキャロ・キャリアを本局に向かわせるという話を今朝はやてより聞いていて、エリオの事も心配だけれどレリック捜査の方も置いておくわけにはいかず、後の事をはやてやシグナムに頼んで後ろ髪ひかれる思いで捜査に向かっていたのである。
 時計を見るともうすぐ日が変わる・・・エリオと話をしたかったがもう眠っているだろう。
部屋に戻る前にフェイトはちょっとだけ寄り道をする事にした。

 そーっと2人の眠る部屋に入りベッドに並んで眠っているエリオとキャロを見つめる。
 少し前にケンカをしたと聞いていたけれど、こうやって眠っている姿を見たら仲直りしたのだろう。
 キャロの頭を撫でると起こしそうになり、シーツをかけてそのまま2人の部屋を後にした。


「あれ?キャリア?」

 2人の部屋を出て自室に戻ろうとした時、暗闇の向こうに小さな影を見つけた。
 月明かりに顔が照らされキャリアだと気付く。

「どうしたの? キャリアの部屋、あっちでしょ? どうかしたの?」

近づくフェイト。

「もうひとり・・・みつけた・・・」
「えっ、何? キャッ!」

 キャリアがポツリと言うと突然目の前のフェイトに抱きつき・・いや、そのまま足をかけ倒し馬乗りになり首を絞めにかかる。

「ちょ・・キャ・・ア・・」
「たりないもの・・・あつめる・・」

 子供とは思えない腕力、なのはに念話を送ろうとしても通じない。

「キャリ・・ア・・どう・・して・・」

 動転しながらも問いかける。しかしキャリアは答えず、その腕は更に力が強まった。

『バルディッシュッ!』
『Yes Sir』

 一瞬闇に包まれていた通路にフラッシュが灯った様に光った後、再び静けさを取り戻す。

「ハァッハァッ・・ありがと・・助かった」

 少し焦げた臭いの中、フェイトは自身の上で気絶しているキャリアを横に転がし肩で息を整えながら壁にもたれかかった。

「ど・・・どうしてっ・・ハァッ・・」



「フェイトちゃんも!?」
「・・・・」

 気を失ったキャリアが付けていたペンダントの封印を切った後、フェイトはキャリアを八神家へと連れて行き、同時になのはとはやてに念話を送ってはやての部屋に急遽集まった。
 隣の部屋でははやての眠っていたベッドにキャリアが横に寝かされている。

「突然首を絞められて、凄い力だった。」
「でも、昨日のエリオの後・・はやてちゃんとヴィータちゃん、シグナムさんも何もなかったんだよね?」
「ああ、そうだ」
「うん、特に何も・・・」
「夜中で悪いけど、エリオとキャロに話を聞いた方がええかもしれんな。フェイトちゃん頼める?」
「わかった、ちょっと待ってて」

 フェイトはそう言って部屋を後にした。


「ゴメンな、夜遅く。今日・・もう昨日か、エリオとキャロ一緒にユーノ君の所に行って貰ったやろ?その時の事、もうちょい詳しく教えて?」

 暫く経った後、フェイトがエリオとキャロを連れて戻ってくる。
 2人とも何があったのか判らない様子だが起こされてこの部屋に来た時、何かがあったのを何となく気付いたらしく表情を強ばらせた。

「キャロとキャリア、僕がカプセルに横になる指示を貰った後、キャリアのリンカーコアにヒビの様なものが入っていて、それをキャロが治したんです」
「うん、報告で書いてた話しやね。それ以外は?」

 エリオとキャロから提出された報告の中にそれは記載されている。

「エリオ君、途中でキャリアの横に立ってみてって言われなかった?」

 キャロに言われて思い出したらしく

「あっ、うん。トーリアさんに『キャリアのカプセルの横に立って』という指示を受けました。それと・・帰り間際に『キャリアが僕や僕の家族と2人きりになった時は気をつけなさい』と」
「誰に言われたの?」
「トーリアさんにです。」

 その言葉にフェイトもはやてもなのはも息を呑んだ。
 エリオを襲い、彼を近づけた時の反応を見る検査、その後の注意、そしてその注意された状況同じ状態になった時、キャリアはフェイトを襲ったのだ。
 3人が同時に思い当たる。
 フェイトとエリオを関連づけられる事・・・すなわち『プロジェクトF』が生み出した命。

「朝起きてから聞いても・・・」
「多分覚えてないと思う」
「うん、私もそう思う」

 フェイトの言葉に同意するなのは。

「トーリア博士の注意とさっきの事を考えたら2人以上だとまだ大丈夫らしいから・・」

 その時、キャロは何かに気付いたらしく。フェイトに問いかける

「フェイトさん、もしかして・・・キャリアがまた?」
「キャリアに何か?」

 エリオも何か気付くところがあったらしく、キャロと同じようにフェイトを見つめる。

「・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

 ジーっと見つめる2人、こうなれば引くことは無いだろう。
 真っ先に手を挙げたのははやてだった。

「あ~降参や、最初に言っとくけどこの話を知ってるのはここにいるメンバーだけや。エリオもキャロも口外したらあかんよ」
「「はいっ」」
「気付いたんは一昨日エリオがキャリアに襲われた時、キャロは知ってるな」
「はい」

 エリオが襲われた事を覚えておらず驚いているが、キャロが頷いたのを見て何か確信がいったらしい。はやてはそのまま続ける

「それで、その資料を持ってキャロとキャリア、そしてエリオも本局医療班に調査を頼んだんよ、即日でな。ユーノ君もトーリア博士も始めは半信半疑やったけどな。それで昨日3人に医療班で調べて貰って今はその結果待ちやったんやけど・・・」
「少し前に、今度は私がキャリアに襲われたんだ・・・」
「「!!」」

 今度はキャロも驚きを隠せなかった。だが、エリオはその時点で何かに気付いて表情を険しくする。

「咄嗟にバルディッシュで軽い電気を当てて気絶させたんだけど、エリオと私の共通点。エリオはもう気付いてるよね」
「・・・プロジェクトF・・・」
「そう、遺伝子操作で生み出す技術。他に『電気資質』っていう共通点もあるけど、今襲われたのは私達だけだし」
「それでトーリア博士の」
「うん、エリオとエリオ君の家族、フェイトちゃんがキャリアとが2人っきりになった時気をつけなさいって事だったんだと思う。」
「今本局で調べて貰っている最中だから、何も起きて欲しくないの。だからエリオ・キャロは出来るだけキャリアと一緒にいて。キャロは特にエリオとキャリアを2人きりにしないでね」
「わかりました。」
「了解です。でも、それじゃキャリアは?」

 襲われる対象なのに、キャリアの心配が出来るエリオの優しさがフェイトには嬉しかった。

「彼女はきっと覚えてないし、知ったら凄く傷つくと思う。だから・・ね」
「で、そう言うことやから暫くキャリアはうちで面倒みるな。何かあっても対応しやすいし昼間はヴィヴィオと一緒にザフィーラに頼めるしな」


 はやて・フェイト・なのはの中でこの事について共通した願いを持っていた。
 それは『何も起きて欲しくない。何も起きないで欲しい』ただ1つの願い。



「ふぁ~・・・あれ?」

 翌朝、キャリアが目覚めると見覚えの無い部屋だった。辺りを見回すと昨日と同じで八神部隊長の部屋で、いつもの部屋着でもない。

「ここって八神部隊長の?なんで?それに服??あれ?」

 キョロキョロと辺りを見回しているとリビングからはやてが顔を出した。

「あ、キャリア起きた?朝ご飯食べに行こか?」
「八神部隊長!」
「う~ん、はやてさんでええよ。そっちの方が堅苦しくなくていいし」

 そう言ったはやての雰囲気が凄く親しみやすい感じがし、警戒感を抱かずに呼び方を変えた。

「はやてさん・・私・・どうしてここに?私部屋で寝ていた筈なんですけど。それに服・・」
「びっくりした?昨日な帰ってきたら一昨日と一緒の所で寝ててな夜も遅かったし、そのまま部屋に連れて帰ったんや。その時服がちょっと汚れてな、今洗濯中。」
「!」

 昨日に続いて2日連続で・・・夢遊病なの?と本気で心配になる。

「まぁ起きた事は起きた事で、キャリア一緒に朝ご飯食べに行こ♪ 部屋に戻って着替えてきてな」
「はい・・・」

 にこやかに言うはやてとは対象にキャリアはかなり落ち込んでしまっていた。



(ちょっと無理あったかな・・)

 はやてはトボトボと部屋に戻るキャリアの後ろ姿を見つめながら、少し気の毒な事をしたかなと少し反省していた。しかし、彼女に本当の事を言えば今より更にショックを受けただろう。
 それよりは遙かにマシであったし、口裏を合わせたり裏を取られる事もない。
 気がかりは素直なエリオとキャロが本当の事を知ってどこまで隠し通せるかと言うのと、調査結果が出る前に何も起こらないで欲しいという事だった。
 考えていても仕方が無いのだが、折角元気に笑える生活を手に入れた少女がそれを手放さなくても良いよう出来たら一番良いのだから・・・

「考えててもしゃーない。部屋の前で待っとこ」



 キャリアは着替えながら自問自答していた。
 この2日間、眠った後に部屋の外へ出ていたらしいのだが一切記憶が無く、何故ベッドから起きどこへ行こうとしたのか?
 聞いてみたいことはいくつもあった。
 しかし答える側に答えが用意されている訳では無く・・・

「あーっもう! 考えるのヤメヤメッ!」

 いくら考えてもキリが無い。頭を振って自問自答していたことを忘れることにした。
 そうこうしていると外から

「キャリア~そろそろ準備できた~?」

 外ではやてが待ってくれていたらしい。
慌てて着替えて髪を整えながら

「はい、今行きます~っ!」

と部屋の外に走っていった。



 キャリアがここまで長い時間はやてと過ごすのは初めての事だった。キャリアもはやては凄く多忙な印象を持っていたし、実際そうだと思える場面をいくつも見ている。
 その彼女が今朝はずっと近くにいるのが凄く違和感があった。
 しかし、はやてと話す何でもないただの会話がキャリアにとってはやてが身近に感じ、その前に感じた奇妙さをいつの間にか打ち消していた。

「はやてさん、今日お仕事は?」

 テーブルの前で同じBランチを頼んで美味しそうに食べているはやてにキャリアが聞く。

「ん?ああ、今日は急ぎの仕事も片付けたからゆっくり出来るんよ。それにキャリアがここに来てからあんまりお話した事無かったから、色々聞いてみたいな~っていうところかな?あ、これも美味しいよ」

 デザートのフルーツをヒョイと口に入れながら今度ははやてが聞いてきた。

「キャリア、うちはトーリアさんから聞いた事とかキャリアがこっちに来た後しか知らんねんけど、ここに来るまでの話とか・・もし良かったらお母さんの話とか聞かせて欲しいな」

 お世話になっている機動六課の責任者とは言え、突然同じ事を聞かれたら警戒感を覚え曖昧に答えるか沈黙を守っただろう。
 しかし、既にキャリアにははやてに対する警戒感は無かった。

「お母さんの事はあまり覚えてません。でも、お父さんの大切な人で優しいお母さんだったんだろうってそんな気がしてます」

 ポケットから持ってきた端末を取り出して1枚の画像をはやてに見せた。

「へぇ~キャリアはトーリアお母さんに似てるんやね。優しそうなお母さんや」
「この時はクラナガンで住んでいましたけど、私が病気になっちゃって・・あっちこっちの世界に・・・この前まではスプールスの湖畔にあった家でお父さんと一緒に暮らしていました。」

 キャリアが見せてくれた画像には多分10年くらい前だろうか、幼いキャリアを抱いた女性とトーリアが写っていた。
 キャリアの言う通り優しそうに微笑んでいる。
 そして、その後ろにははやても見覚えのある建物も写っていた。

(スプールス・・・どっかで聞いた名前やな・・・あ!自然保護隊か)

「スプールスって、61管理世界の?」
「はい、自然がいっぱいあって、空気が美味しくて綺麗な湖が夕方になると凄く綺麗で・・・」
「もしかしたらキャリア、向こうでキャロと会ってたかも知れんな。キャロもここに来る前はスプールスの自然保護隊にいたから。」
「うそっ!でも、そうだったらいいな~」

 はやての言葉に少し驚いている。
 その後、はやては懐かしそうに話すキャリアに耳をかたむけつつ、話の中から関係しそうな物をピックアップしてリインと念話を繋いだ。

『リイン、聞こえるか。捜査部に連絡して情報探してもらって。10年前くらいにキャリアのお母さんがどこかで診察を受けてる筈や。その時の病状履歴、それとスプールスの管理局にトーリア・キャリアの渡航歴と転居履歴を聞いて遡って集めて。あと、判る範囲で良いからキャリアのお母さんの出生の範囲もな』
『はいです。キャリアのお母さんですか?』
『そうや。トーリア博士の研究で遺伝関係の報告がいくつか出てきてな。あくまで可能性やけどな』
『はいです。この後は朝に聞いた通りで?』
『そうや、頼むな』
『了解ですっ』

(キャリア・・この事知ったらきっと裏切られたって思うやろうな・・)

 リインとの念話を切った後、キャリアの話を引き続き聞きつつどこか後ろめたさを感じていた。
 目の前の少女の笑みを絶やさない方法がわかるまで、穏やかな日が続いて欲しい。
 嬉しそうに話すキャリアを見てそう思わずにはいられなかった。

~~コメント~~
 オリジナルキャラが少し動きすぎかも知れません。反省です。
今日、ホームページを見て「SSのページ」が動き出して1年が経ちました。静奈さん、ありがとー!
 秋になのはのイベントがいくつもあるそうです。凄く元気なジャンルだなとしみじみ感じました。

 

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