12話 「家長の奔走」

「おはようございます。はやてさん、キャリア」
「おはようございます。」

 朝練が終わり汗を流したエリオとキャロが朝食を取りに来た時、先客のはやてとキャリアを見つけた。何か楽しそうに話をしている。

「おはよう、朝練お疲れさん」
「おはよう。エリオ、キャロ。今ねスプールスの話をしてたんだ♪」
「スプールス?」
「ホントっ!」
 何の名前だろう?首を傾げるエリオの横からキャロが飛びつくようにキャリアに駆け寄る。知っている名前らしい。

「私もちょっと前までスプールスにいたの、キャリアはどこに?」
「うん、さっきはやてさんから聞いた。私はね・・・」

 自然保護隊でキャンプしていた世界でかなり近くにいたらしい。
 キャロとキャリアの口からは多分何かの地名なのか、会話の中にエリオの知らない名前が飛び交っている。
 2人が楽しそうに話しているのを邪魔しない様にはやての横に座る事にした。

「はやてさん、今日お仕事は?」

 普段この時間に見かけるのは夜勤明けのルキノかアルトの姿か朝練のメンバーだけである。
 はやては既に部隊長室か出かけていて六課に居ない事の方が多い。

「エ・・エリオまでそんな事言うん・・・うちもちょっとは休みたいのに・・・『仕事は?』なんて・・・ヒドイっ!」

 ヨヨヨっと顔を伏せるはやてに何か失礼な事を言ったのかと慌てて謝る

「すっすみませんっ、そんなつもりじゃ・・」
「ええよ、冗談や。昨日の事があってなみんな今日は任務があるからってうちが引き受けたんよ。ちょっとした休暇や。」
「・・・」

 さっきとはうって変わってペロリと舌を出すはやて、からかわれたのが判ったエリオは引きつった笑顔を返すのが精一杯だった。

(全くこの人は~っ!)

『キャリアの話から何かわかればと思ってな』

 そう思っていると突然エリオは念話が届いた。
 しかしはやてがウィンクして合図したのを見るとキャリアと一緒に居る理由が何となく判る。
 はやては昨夜の事件を調べる何かきっかけになる物を探していたのだ。


「それじゃキャリア、また後でな。あっ! 言うの忘れてた。今夜からキャリアはうちの部屋で寝ることになったから、ご飯食べたら荷物まとめといてな。エリオとキャロも時間あったら手伝ってあげてな。重い物は後でザフィーラも手伝いに行くから任せたらいいし。」
「えっ!?」
「じゃあまた後でな~」

 キャリアはキャロとの会話中に突然はやてから言われた事に驚いた。その後はやては有無を言われぬ用食べ終わったトレイを持って去ってしまった。

「うそ・・・」

 それ以上何も言うことが出来ず、キャリアは呆然としてはやての姿を見送った。




『納得いかねーっ!何であたしが移らなきゃいけないんだっ!』

 はやてとキャリアが朝食を食べているのと同じ頃、オフィスではヴィータがムスッとした顔で座っていた。

『そりゃ夜に起こされて話を聞いた時はしょうがないと思ったけど、よくよく考えりゃ別に他のベッドを入れたり、シャマルのベッド使えばいいじゃんか・・』

 ヴィータの怒っていたのはキャリアがはやてと一緒のベッドで寝る事だった。
 はやての隣で一緒に寝ていたヴィータは結果として追いやられ、シャマルかシグナムのベッドに移る事になる。

【うちで暫く預かるから】

 昨夜聞いたはやての話に頷いてはいたが、まさか自分の聖域を取られるとは思ってもいなかったのである。

『エリオに続いてフェイトも襲われたらしいし、うちに居ればザフィーラやシャマルの結界もあるから何か起きても対処出来るってのはわかるけどさ・・・』

 ヴィータも機動六課では副部隊長であり今回の事件においても何かしら思う所はあるし、重要性も把握しており大人の判断をする事もできる。
 今はこの2つの葛藤が更に彼女を苛立たせていて、オフィスの一角だけ空気が違っていた。

 しかし、その辺りは家長であるはやても百も承知で、既に手を打たれていた。

「ヴィータ副隊長」
「なんだスバルっ」

 一瞬ギロリと睨まれ一歩後ずさりつつ

「ヴィータ副隊長に荷物が届いたのですが・・」
「ああ」

 ヴィータが荷物を受け取るとスバルはそのまま脱兎の様に走り去った。

『こんなの頼んでないぞ・・何だ?』

 機動六課ヴィータ宛という送付先しか書かれておらず、重さもそれほどでは無く、揺すっても特に音がしない・・・・

「すぐに戻る」

 そう言ってヴィータは席を立ち外に出て行った。彼女がオフィスから出て行った瞬間、中にいた局員全員が安堵の息をしたのは言うまでも無い。



「ここなら大丈夫だろう。さてと・・・」

 隊舎を出て海沿いを少し歩いたベンチでヴィータは立ち止まり騎士甲冑を纏い持ってきた箱を慎重に開け始めた。
 時空管理局を狙ったテロや不審物を警戒しての処理。中から少しひんやりとした感触もある。
 そーっとそーっと注意しながら周りのテープを外し、蓋をずらして中を覗いていると

「ヴィータさん、どうしたの?」
「うわぁぁぁぁぁっ!」

 いつの間にか横でヴィヴィオが覗いていた。ヴィータの大声に耳を塞いている。

「ヴィヴィオっ!いつから」
「さっきからず~っと、それヴィータさんのおみやげ?」

 ヴィータ宛に届いた物なのだからそう言えなくも無い

「ああ」
「開けてい~い?」

 そう言うとヴィヴィオがヴィータの持っていた箱をするりと取って蓋を開けてしまった。

「ちょっ!ヴィヴィオ伏せろっ!」

 無意識に目を閉じるヴィータ。
 しかし、暫く待っても変な音もせず、ヴィヴィオが持った箱の中を見ると・・・

「おいしそー♪」

 箱の中には保冷剤に包まれたアイスがいくつも入っていた。しかもそれは海鳴にいた頃大好きだったアイス。その中に袋に入ったメモの様な物を見つけ取り出し開けてみる。

『みんなで仲良く食べてな』

「はやて・・・」

 そのメモを見た瞬間、誰がこんな手の込んだ事をしたのかはっきりと判った。どうして自分宛にせずヴィータ宛にして送ったのか、そして宛先にヴィータの名前しか入れなかったのか・・・

「1・2・3・4・5・・・いっぱい・・」
「ヴィヴィオ、後でみんなで食うか。なのは達と一緒にな」
「うんっ♪」

 ヴィータの中でいつの間にかさっきまでの苛立ちは無くなっていた。



 それから、何事も起きず数日が経過した。
 その間、トーリアに言われた通りエリオ・フェイトはキャリアと2人きりにならず、キャリアが再び2人を襲う事はなかった。
 ただ、はやては夜中にキャリアと何かあったらしく朝起きてきた時かなりショックを受けていて、シグナム達全員が首を傾げたという事もあったがはやてやエリオ・フェイト、そしてキャロにとってはささやかな休息の日々だった。

 しかしその日が突然終わりを迎え、別れを告げられるとはキャロもこの時は想像だにしていなかった。


~~コメント~~
 アフターストーリーも12話まで進む事が出来ました。
このSSでヴィータの立場がかなり曖昧だったので、フォロー出来ていれば嬉しいです。

Comments

しいな
ありがとうございます。
そうですね。「俺」じゃなく「あたし」ですよね。
ご指摘ありがとうございます。
私の方で直しておきます。
2008/09/21 07:42 PM
ふと思ったんですが
ヴィータの一人称って「あたし」ような(考
(参考資料・StrikerS時点での呼称リスト)
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/data_strikers.html
2008/09/19 08:50 AM

Comment Form

Trackbacks