13話「発動条件」

(・・・なんだろう・・・この感じ?)

 八神家に来てからキャリアは胸の中で何か違和感の様なモノを感じていた。
何か胸が熱くなって急にエリオと会いたくなるような変な感じ
 だが、前の体が重くなる様な感じでもなく意識をすると何も無かった風に消えてしまう。
 はやて達に気遣わせるのも躊躇われ、気のせいで片付けてしまった。


「キャロ達遅いな~」
「キュ~」

 前回の苦い経験から、エリオは訓練が終わったらキャロ達と離れ男子寮側のシャワーを使う様にしていた。
 そして、その後キャロを待っているのだが・・・現れる様子は無い。
 その時、近くで足音が聞こえ振り返った

「あっ・・」



~~同じ頃~~

「失礼します。シャマルせんせー」
「あら、どうしたのヴィヴィオ?ザフィーラも揃って」
「こんにちは、ヴィータさん、シグナムさんこれなのはママがみんなでどうぞって。シグナムさんとヴィータさんにもはいっ♪」

 持ってきた箱をシャマルに渡す。開けるとクッキーが入っていた。
 なのはの母、桃子から送って貰ったらしい。どうやらヴィヴィオにみんなに渡す役を頼んだらしい。ザフィーラはその荷物持ちなのだろう。背にまだ袋を抱えている。

「クッキーか、美味そうだな」 
「ああ、ありがとう。偉いなヴィヴィオ」

 シグナムとシャマルに、誉められて嬉しそうなヴィヴィオだった。




~~そしてまた同じ頃~~

「シャーリーちょっと寄るところあるから先に準備してて」
「わかりました。フェイトさん」

 陸士部隊の合同捜査会議に向かう前にはやてと打合せをする為、フェイトは部隊長室に向かっていた。
 レリック捜査という名目で立ち上げられた機動六課は陸士部隊の中で文字通り浮いている。
 前回スバルとギンガの父、ゲンヤ・ナカジマ部隊長から少し変わった話を耳にした事、それが気になって直接はやてに伝えようと急いでいた。

(ミッド本部や陸士隊で六課を疎む人が居てもおかしくないけど、妨害計画なんて・・・)


 フェイトはゲンヤに聞いた話を反芻していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『フェイト執務官、ちょっといいか?』
『はい、何か?』
『そっちで預かってる嬢ちゃん・・・名前はなんといったっけな・・』
『キャリア・ドライエ、ドライエ博士のご息女の事でしょうか?』
『ああ、そうだ。なあ、お前さん・・・執務官として・・・その嬢ちゃんが六課に来たのって偶然だと思うか?』
『・・・・・』
『ちょっと小耳に挟んだ話なんだがな、ミッド地上本部がその嬢ちゃんの事で何か動いてるってな・・・それで、ちょっと調べてみたんだが・・・例のレリック発見の誤報、狸・・八神二佐はその後の事知ってるのか?』
『私は特に聞いておりませんが』
『ちょっと気になっただけなんだがな・・・何も無いなら俺の勘違いだ。忘れてくれ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 冷静に考えてみれば、スカリエッティが絡んだとは言えあまりに偶然が重なっている。
 フェイトやエリオの様にプロジェクトFから生まれた人間など他の部隊では居るはずも無く、そこにトーリア博士が起こしたとは言えキャリアを預かっている。
 預かるなら本局内でも問題無い筈だ。
 そしてそれにゲンヤも感づき何かある風な雰囲気を臭わせている。

(とにかく一度はやてに聞いてみないと)
「あっ、フェイトさん」
「エリオ!? キャロを待ってるの?」
「はい、でもまだみたいで・・・」

 通路を通り過ぎようとした時、声をかけられ振り返るとエリオが立っていた。

「見かけたらキャロに伝えるね」


「あっ!エリオお待たせ~・・あっ!?」

 そこにキャリアが走ってやって来た。しかし、エリオをフェイトの姿を見た途端胸を押さえて蹲ってしまった。

「キャリアっ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「キャロ、先に行くね~」
「ちょっと待ってっキャリアっ」

 シャワールームで髪を乾かしていたキャロはキャリア呼び止めた。しかし、彼女はそのまま走り出してしまい塗れた髪のままで後を追いかけるしかなかった。

「もうっ待ってって言ってるのに~」


「キャリアっ!」 

 後を追いかけてると向こうの方で声が聞こえた。エリオの声・・・まさかっ
 エリオとキャリアを2人きりになった時、あの夜の出来事が脳裏をかすめる。

「まさかっエリオっ、キャリアっ」

 追いついた時、そこには胸を押さえて蹲るキャリアを心配そうにみるフェイトとエリオの姿

(良かった・・1人じゃない・・でもっ)

「キャリア、どうしたの?胸が痛いの?」
「あ・・つ・・いっ・・」

 キャロも駆け寄り顔色を見る、顔色に変化は無いがかなり苦しそう。

「急いで医務室にっ、シャマル先生に連絡・・っ」

 フェイトがキャリアを抱き上げ医務室に向かおうと立ち上がった瞬間、突然キャリアが両手で首を絞めにかかった。

「キャリアっ、まさかっ」
「・・・みつけた・・・」

 キャリアの声質と違う声、脳裏にエリオから聞いたトーリアの言葉が蘇る。

【もしあの子・・・キャリアが君や君の家族と2人きりになる時があったら気をつけなさい】

 フェイトはキャリアを抱えたまま倒れ込むがキャリアはそのまま首を掴んで離さない。

『フェイトママッ』

 咄嗟にキャロがキャリアに体当たりをし、そのままキャリアを抑えにかかる。

「ゲホッ・・・」
「お兄ちゃん、ママを連れて速く逃げてっ!」
「フェイトさん、キャロ・・」

 咄嗟の事で何が起きたのか判らず狼狽えている。

「はやくっ!」
「ああ! フェイトさんっ」

 キャロの声に我に返ったエリオは咳き込むフェイトに肩を貸してその場から離れていく

「・・・にがさない・・」
「えっ、キャッッ」

 彼女がそう口にした瞬間、キャロは振り払われそのまま壁に打ち付けられる。

「・・・にがさない・・・」

 再び口にした時、キャリアを中心に魔法陣が広がっていく

「キャリ・・ア・・魔法・・・どう・・して」

 霞んでいく視界の中、キャリアの魔法がどんな物か判らず、キャロは意識を失った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「フェイトさんっ大丈夫ですかっ」

 フェイトに肩を貸しながらキャリアの居た場所から離れるエリオ。

「ハァッハアッ・・どうして・・」

 突然の事でしかもかなり強く絞められたらしく、まだ意識がはっきりと戻ってないらしい。
 念話で助けを呼ぼうとしても全然繋がらない、それ以上に何故か体がどんどん重くなっていく気がする。
 しかし、それは気のせいでは無かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「何? 魔力密度が!? 何で急に?」

 ミッドチルダに及ばず管理世界は魔法文化が進んでおり、全ての機器は辺りに満ちた魔力を利用して動いている。その中で辺りの魔力が消えてしまった時何が起きるか自明の理だった。
 はやても部隊長室で突然辺りの魔力が薄くなってきたのを感じ慌てる。しかしそれ以上に慌てたのが

「はやてちゃん・・・苦しいです・・」
「リイン!!まさか・・シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ返事してっ」

 はやてのデバイス、リインもそして守護騎士達もプログラムが実体化している。実体化に何が必要だったのか、それに気付いた時はやてに取れる手段はなかった。 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 
「なんだ、急に」
「苦し・・っ」
「わからんっ・・だが・・」
「このままではっ」

 医務室でヴィヴィオとお茶を飲みながらクッキーを食べていたシグナム達が突然苦しみだした。

「シャマルせんせー、どうしたの?苦しいの?ザフィーラっ・・どうしたの?」
「A・・M・・F・・じゃねぇ・・・魔力が・・」
「薄くっ」
「このままじゃ・・」

 ヴィヴィオの目の前でザフィーラの姿が透けていく・・・

「ザフィーラっ、こんなのやだぁぁぁぁぁっ!」


 
 少女の瞳から落ちた滴が

 シグナムを、シャマルを、ヴィータを、ザフィーラを

 包み込む虹色の球体を編み上げた。

 
 球体に包まれた瞬間、透けていた体が元に戻る。
 それと同時にヴィヴィオが倒れ、咄嗟にシグナムがヴィヴィオを支えた。

「ヴィヴィオっ」
「ここから出ちゃダメ、ぜったい・・ダメ・・・」

 ヴィヴィオはそう呟いた後、そのまま意識を失ってしまった。

「ヴィヴィオ・・」
「まさかあなたが・・・」
 シャマルとヴィータの問いかけに答える者は居らず、4人はこの球体の外に出ることは出来なかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(どんどん体が重くなる、フェイトさんもまだ・・・)

 エリオは内心焦っていた。キャロを残してきた事、目の前のフェイトの様子・・そしてキャリアの事とこの重くなっていく体の事

「フェイトちゃんっ、エリオ」

 階段の上から声が聞こえ身構える。しかしそこに居たのは

「なのはさん」
「魔力が殆ど消えちゃって・・フェイトちゃんどうしたの!?」

 2人の様子に驚き駆け下りてエリオに代わりフェイトを支える。

「キャリアが・・」
「まさか・・もしかして、これも?」
「わかりません、なのはさん。フェイトさんと一緒にここから離れて下さいっ」

 そう言ってなのはに背を向け

「キャロを助けに行きます。約束だからっ!」

 そのまま来た道を駆けだした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 
「う・・ううん・・私・・どうして・・」

 背中と頭が痛い、どこかにぶつかったのか・・・どうして、辺りを見回すと機動六課の通路だった。
 どうして私がここに? キャロが思い出そうとするとハッと気付いた。
 キャリアがフェイトの首を絞めていたのを。

「フェイトさん、キャリアっ」

 叫んでも誰も答えてくれなかった。

『キャロ・・・キャロってば・・』

 咄嗟にキャロが表に出てフェイトを助けてくれたのか、聞こうとしてももう1人のキャロも答えてくれない。気を失ってるのか?
 そして、違和感に気付く
 辺りから何も音が聞こえないのだ。静寂そのもの。
 立ち上がって辺りの魔力が殆ど無くなっている事にも気付いた。ケリュケイオンに声をかけても起動すらしない。

「あっ、魔力が・・まさかっ!」

 意識を失う直前、キャリアの魔法陣をみた気がする。

(キャリアを捜さないとっ)

 辺りをキョロキョロみていると声が聞こえた

「キャリアっこっちだ!」
(エリオ君、まさか・・・)

 嫌な予感を感じながら、キャロは声のした方へ向かって走り出した。


~~こめんと~~
 少し佳境に入ってきました。13話は何度も場面が変わりますので、変わる箇所に「~」をいれてみました。読みやすくなれば嬉しいです。その前にもっと読みやすいSSを書けと言われたらそれまでなのですが。ごめんなさい。
 前回の12話でヴィータの呼称が間違っておりました。
 すみません。
「俺」じゃなくて「あたし」です。指摘されて気付きました。(気付よっ!)
 指摘頂いた方(匿名みたいなのでこれで)、静奈氏(変更してくれて)ありがとうございました。

Comments

Comment Form

Trackbacks