14話 「2人の意志」

「ユーノ司書長・トーリア博士、スプールス地上本部とミッドチルダ行政府からデータの受信要請が届いています。」
「僕に?」

 首を傾げて隣のトーリアを見るユーノ。トーリアも知らないらしく
首を横に振っている。
 受信要請を受けるという事はデータを送付した者から送付先の者まで機密扱いのデータが含まれ、高度なセキュリティが施されているのを意味する。
「こちらにお願いします。」

 わかりましたという声と共に圧縮されたデータが3つ送られてきた。
 1つはスプールス地上本部からトーリア・キャリアの移住申請・許可に関する調査票。
 1つはミッドチルダ行政府からトーリア・ドライエに関わるドライエ姓の通院情報と出生・トーリアの妻であった女性の家系についての調査情報。
 そして最後の1つは機動六課八神はやてからのキャリアとの会話内容だった。
 先の2つは簡単に手に入れられない情報である。

「どうしてこんな物が・・・」

 ショックを隠せないトーリアを横目に、ユーノははやてからの情報に目を通し始めた。
 そこには、キャリアがエリオに続いてフェイトも襲い、それにより『プロジェクトF』で生み出された人間を狙っている可能性が高い事。関係するのはキャリアが侵されていた病気について『闇の書』の様に『遺伝性』を持ち合わせているのではないかという推測。
 更に前回レリック発見の誤報によるキャロ負傷から今に至る迄の経緯があまりにも明確すぎており、局内関係者の意志が働いている可能性の言及。
 いずれの場合においてもキャリア・トーリア親子がキーになるだろうという事が示されていた。

はやてもゲンヤと同じ疑問を抱き、本局にいるレティ提督や特別捜査官として培った人脈をフルに活用して調べていたのだ。

「トーリア博士、奥様の亡くなられた理由を聞かせて頂けませんか?」

 ユーノの声に我に返ったトーリアは躊躇い、暫く考えた後頷いた。

「判りました・・妻は・・・」

 ユーノはその中から幾つかの言葉を選び無限書庫の検索魔法を起動させた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(エリオ君、そんなのダメーっ)

 キャロは必死に走った。
 まだ背中も痛く、辺りの魔力がほとんど無いのか体が重く感じる。
 エリオが何をしようとしているのか判らない。
 でも胸騒ぎが治まらない。
 隊舎のフロント近くまでやって来た時、2人の姿が見えた。

「・・・たりないもの・・・みつけた・・・」
「クッ!」

 エリオに近づくキャリア

「ダメーっ!!キャリア、目を覚ましてっ。キャッ」
「キャロっ」

 キャロが2人の間に割って入る。しかしキャリアはキャロ見もせず、無表情に腕を振った。
 鈍い音と共にキャロが吹き飛ばされる。

(リンカーコアが原因ならっ)

 すぐに立ち上がりキャロは手に魔力を集中させる。エリオを襲った時と同じならそれで治まる筈。しかし、既に魔力が薄くなりすぎて何も起きない。魔法が一切使えないのだ。

「キャロどいて、このままじゃキャロも」
「嫌っ、絶対諦めない。キャリアを戻せるの・・・私達だけなんだよ。私絶対諦めないっ」

 キャロの叫びにも似た強い意志のこもった声、それに呼応するかの様にキャロに声が聞こえた。

 それはキャロが待っていた者の声

『私も絶対諦めないっ、お兄ちゃんもママも、キャリアおねーちゃんも助けるんだからっ!』

 キャロの中にいるもう1人のキャロ。
 感染型ロストロギアと呼ばれ感染者の人格を乗っ取ると忌み嫌われた存在。
 だが、彼女は違った。
 フェイトやエリオの想いや機動六課の人々の優しさに触れ芽生えた奇跡。そして彼女はその優しさと共に本来の、ロストロギアとしての特性も持ち続けていた。
 莫大な魔力を収集し、自らの意志で開放出来るという特性を

「『絶対に助けるんだからぁぁぁっ!!』」

 叫び声と共にキャロを中心に一気に爆発するかの如く魔力があふれ出した。
ガジェットドローンのAMFですら抑える事の出来ず、夜天の主をも凌駕する魔力量を解放する。
 直後、一気に停止していた機動六課の全システムを蘇らせ、更にリインフォースや守護騎士達にも力を与えていた。

「『私・・私達の友達を返して・・・返してよっ』」
  


「・・・キャロ・・・なのか・・?」 

 エリオは目の前で起きたことが信じられなかった。
 キャリアに突き飛ばされたキャロを庇う為、キャリアを中心にキャロと正反対の場所に逃げる。
 自分が狙われる事でフェイトは襲われずにすむ。キャロも守れるかもしれない。
 そう考えた上での覚悟。キャリアが襲ってくるのであればエリオからキャリアに向かっていくしかない。
 この後何があるかはわからない。でも、フェイトとキャロを助けられるなら
 だが、突き飛ばされたキャロが何かを叫んだ時、キャロを中心に一気に魔力が満ちていくのを見て驚きと共に前に言われた事を思い出した。

『今のキャロを怒らせちゃうと大変だよ♪』

 六課にガジェットドローン進入した際、エリオは襲ってきた大型タイプに致命傷を負わされ意識を失った。
 次に気付いた時はその傷は跡形も無く消えていた。後でアルトからキャロが治してくれたのを教えて貰った時、言われた言葉だ。

 キャロの中にもう1人のキャロが居るのを聞いてその時は驚いた。しかし、もう1人のキャロが兄として家族として慕ってくれているのはわかっていたし、キャロ自身が受け入れていたので新しい仲間、家族が増える喜びはあった。
 その2人、キャロとキャロが力を合わせた時奇跡が生まれるのかも知れない。
 目の前のキャロを見てそう感じていた


「私の・・私達の友達を返して・・・返してよっ」

 しかし、頬を伝う涙と手に集まる光を見て。

(こんなのダメだ。キャリアはきっとっ!!)

 そう思う気持ちがエリオを動かした。

「ストラーダっ!!」


 キャロとキャリアの間に割り込みキャリアの前に立つ

「キャリアっ目を覚ませ!!」
「・・・たりないもの・・ここに・・」

 静かな口調で呟くとキャリアの手が淡く光りそのままエリオの胸を突き刺した。

「がっ!・・ぐあっ!」

 強烈な痛みに思わず呻きがもれる。
 だがエリオは突き刺さった腕ごとキャリアを抱きしめた。一瞬何かが聞こえる。

『エリオ・・ゴメンね』
(まさか・・キャリアの意識がっ・・キャロ)
 キャロに伝えたかったが、そのまま体の力が抜けていき意識を保てなかった。



「エリオ君、どうして!」

 キャロは満ちていく魔力を使い魔法球を組み上げていく。
 トーリアに見せられたキャリアのリンカーコアの傷、それを治癒する魔法。
 完全に同化した今ならきっと
 しかし、魔法球が出来上がる前にエリオが立ちはだかった。
 呻き声の後キャリアに身を寄せ動かなくなってしまう。

「エリオ君っ」
(まさか・・キャリ・・) 

 一瞬誰かの声が聞こえた。念話でもない声

『お兄ちゃん!!お兄ちゃん。答えてよっ。お兄ちゃん』
 
 もう1人のキャロが錯乱してキャリアに寄りかかったままのエリオを呼んでいる。
 だが、キャロは違和感に気付いた。
 エリオが動かなくなったのとほぼ同時にキャリアも合わせるかの様に動きを止めたのだ。

『・・キャロ・・たす・・て・・』
(だれ?)

 誰かの念話が届く。キャリアの無表情な中で唯一瞳が揺らいでいた。

(まさか・・・もしかして・・・)

 違和感が確信になり彼女を動かせた。手を前にかざし念じる。
 するとエリオの足下に魔法陣が生まれ次の瞬間その姿は消え部屋の隅に寝かされていた。
 無詠唱の転送魔法。残されたキャリアの手には光る結晶体、エリオのリンカーコアが握られている。
 動きを止めていたキャリアがエリオのリンカーコアを自らの胸に近づけていく。

『キャロ、お兄ちゃんのがっ』
「判ってる。キャロ、もう一度私と一緒に・・キャリアがエリオのリンカーコアを取り込もうとする一瞬を狙って」
『うん』

 キャロの意識が再びとけ込んでくるのがわかる。
手の平の魔法球が更に輝きを増し完成を見た。

『キャリア! ごめんちょっとだけ我慢してっ』

 キャリアとの距離は5m少し、その短い距離をキャロはあえて転送魔法を使った。
 移動したのはキャリアの正面息が届きそうな距離

「『目を覚ましてぇぇぇっ!』」 

 キャリアのリンカーコアを持った手を払い、手の中にあった魔法球を彼女の胸に叩きつける。
 そのあまりの勢いにキャリアが吹き飛ばされた。
 キャロの手に残った残滓が煙の様に揺らぎ霞んでいく。

「ハアッハアッ・・キャリアっ」  

 息を整えながら吹き飛ばしたキャリアに駆け寄る。
 彼女の手元にあったリンカーコアは輝きを失ってなかった。

「キャリアっ・・キャリアっ!」
「・・・ゴホッ・・カハッ・・キャ・・ロ?」

 キャロは文字通り作った魔法球を思いっきり叩きつけていた。
そのせいか、かなり強い衝撃をキャリアに与えたらしい。何度か咽せた後キャロの方を向いて

「キャロ・・・ゴ・・ね・・あり・・う」

 そう言い、手に持ったリンカーコアを手渡し再び瞳を閉じた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「キャロっ!」
「キャロ、エリオっ」
「なのはさん、フェイトさん」

 気を失ったキャリアを支えていると、背後から声が聞こえ振り返る。フェイトとなのはが一緒にいた。エリオがなのはに頼んだのだろう。

「キャロ、一体何が?」
「エリオっ!」

 フェイトは隅で横たわったエリオを見つけ駆け寄っていく。それを見た後、なのはは聞いた。

「これをエリオ君にお願いします」

答えの代わりにそっと手に持った結晶を差し出す。

「リンカーコア・・それじゃ・・」

 キャロはその問いにも答えずただ沈黙を通す。

 こうして唐突に起こった事件は止められた。

~~こめんと~~
 状況推移の書き方が苦手だな~とつくづく思いました。
頑張らないと。前話 【22話「ルシエの巫女」】を少し意識して書きましたが如何でしたでしょうか。少し心配です。

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