15話 「もう1人の私」

「ユーノ司書長、ミッド機動六課より連絡が入っています」
「繋いで下さい」

 ユーノは連絡が来るのを予期しており、静かに答えた。

『ユーノ君!キャリアの事なんやけど、あのなっ!!』
「魔法素子の急激な減少と・・・フェイト、エリオのリンカーコアの吸収」

 慌てふためいたはやての声がユーノの一言で黙ってしまう。

『どうしてそれを・・・何か判ったんか!?』
「うん、でも関係者・・フェイトとエリオ、キャリア・・・そしてキャロを呼んで貰えないかな?」
『・・・わかった、それじゃ30分後にもう一度連絡するな』
「うん、じゃあ」

 はやてとの端末が切れたのを確認してから隣のトーリアに問いかけた。

「トーリア博士、本当に良いですか? 私だけでも」
「いいえ、私も立ち会います」

 疲れた表情の中に覚悟を決めた瞳をみたユーノはそれ以上何も言えなかった。


 30分後はやてはユーノに言われた関係者だけでなく、機動六課全員に判るように隊舎全てに放送を流した。
 六課が襲撃された時に全員が関係者だと考えたからである。
 はやてから連絡を受け、ある者はオフィスでモニタを見つめ、ある者は格納庫に集まり何が起こるのかを見守っていた。
 そして当事者のキャロは気を失ったエリオ・キャリアを気にしつつフェイト・なのはと一緒に時が来るのを待っていた。

 ユーノに言った通り丁度30分が経った時本局無限書庫に通信を繋いで、ユーノとトーリアの姿を確認した後静かに話し出した。

「最初は個人的な意志があったと思う。レリックを専門に扱う機動六課の妨害を目的したある提督の計画。レリックに見せかけ捜査妨害、あわよくば関係者の離脱させ、不祥事を起こし六課そのものを潰そうとする計画。
 でも、この計画には欠点があった。レリックと間違えそうな代替物で足のつかないロストロギア、それを提督は用意する事が出来なかった。でもその計画と要望を可能にする事案を耳にした人物がいた。」

「ジェイル・スカリエッティ・・・」

 フェイトの言葉を同意するようにそのままはやては話を続ける。

「そう、彼がどうやってこの計画を知ったのかは判らん。でも同じ頃にキャリアが彼女の母親と同じ状態になっていたのを知ってて彼の方から接触したのも頷ける。」

 誰に接触したのかはやてはあえて名前を伏せた。
 
「結局、その提督思惑通りに進んで機動六課の戦力ダウンは避けられなかった。」

 はやてが一呼吸置く

「ただ、ここでちょっとした誤算が生まれた。レリックの代替物として用意されたロストロギアが【感染型ロストロギア】と呼ばれる特殊なロストロギアで、キャロに感染したロストロギアがフェイトちゃんやエリオ・・機動六課のメンバーとの触れ合いで、家族や仲間を認識し、そしてキャロ本人もそれを受け入れ【同化】した事や」

 何人かがオフィスで驚きの声をあげるが、続きが気になるのか直ぐさま静寂が戻った。

「この誤算が、結果として計画を頓挫させた。でも問題は残った・・・キャリアの事や」

 医務室で眠っているキャリアをキャロは見つめていた。はやての話を継いでユーノが話だした。

「キャリアの所に居た時、少し疑問はあったんだ。リンカーコアは誰もが持ってるけれど、命を脅かす事なんて殆ど無い。もし無くなっても魔法が使えなくなる以外は特に身体にも影響がない。でも、彼女はそうならなかった。こっちの医務局にもそんな症例が過去に無いし、他の管理世界にも無い。でも・・・答えは無限書庫の中にあったんだ」

 ユーノは1冊のかなり古びた書物を取り出した。

「これは古代ベルカ創世記より少し前の書物。ここにはベルカ式の由来が少し書かれている。ベルカ式はカートリッジシステムから爆発的な魔力取り出すことが出来るのが特徴で戦闘向きって言われてるけど、それは後になってからの話だったんだ。ベルカ式がカートリッジを使う・・使わざる得なくなった原因は魔法素子、魔法の欠片が少なくなったから、少ない魔力を効率的に使う為何かに詰め込んで使う方法が考えられ、それがカートリッジシステムに昇華していったんだと思う」

 自らのデバイスもミッド式でありながらカートリッジシステムを持っているなのはが聞いた。

「それが今回の事件に関係あるの?」
「魔法素子・・魔法の源はどこにでもあって極端に減ることは無いんだ。例え魔法文化が無い世界でもある程度は散らばっている。
 でも、過去にそれがあった。そして魔力が極端に減ってしまう原因がキャリアの・・彼女の家系にあったんだ。彼女の母親、祖母・・何代か見ても全員が短命だったのもそれが原因かも知れない。」

「それじゃ・・キャリアの病気って・・・私の魔法じゃ・・」
「・・・・」

 キャロは治したと思っていたのにその場しのぎでしか無かった事に落胆した。ユーノの話を継いで今度はトーリア話し始めた。

「病気・・・あるいは【呪い】の様な物なのかも知れない。高度な魔法兵器を用いた争いや戦争を止める為に取った先人達が負った代償が引き継がれた物。私はそう考え感染型のロストロギアに目をつけた。
 感染型の特徴は感染者の魔力を使って人格を形成する物が多い。
 あの子の魔力はそれをとても形成出来る程も無く、感染したとしても入れ替わられる心配も低かった。そして感染させる事でリンカーコアを変質させれば好転できる可能性は十分にあった。」

「ただ、ここでも誤算があった。キャロがキャリアのリンカーコアに治癒魔法をかけた時、文字通り変質して本来の機能が動き出してしまったんだ。はやて、彼女に渡したペンダント今持ってる?」

「本来の機能・・・まさか」

 はやてはペンダントを取り出す。

「そう、それが周囲の魔法を吸い込んでしまう性質。これはキャリアがここに居る間持っている様にと持たせていたペンダント。これにはちょっとした機能があって、あるスイッチを入れたら周り・・2m位の範囲だけ念話が遮断されるんだ。彼女がこっちに来た時見せて貰ったんだけど1回しかその機能使われてなかった。でも、念話が通じなかった事は何度かあった。これは推測だけど、キャリアが無意識でスイッチを入れたのと同じ状況を作ってたのかも知れない」

 ユーノの推測を後押しする様にトーリアが続けた。

「娘が身近な者のリンカーコアを欲しがったのは突然異常な動きを始めたコアを捨て元に戻そうと身体動いたんだと思う。無差別に狙わず特定人物だけを狙った理由も納得がいく。一番取り出しやすい者を無意識に選んだのだろう。
 だが、それで治る訳はない。もし治るのなら私のコアは既にキャリアか妻に渡していただろう。」


(一体どうすればいいの?)

 このままキャリアに魔法をかけ続けることは出来る。
 だがそれはその場しのぎであり、いつ再び暴走するかもしれない。そしてそれはフェイトやエリオだけでなく六課、更に彼女は近くに居る者全てのリンカーコアを求め続けるか、それとも・・・

(私じゃキャリアを助けられないの?)

 声には出せなかった。もし出しても返ってくる答えは決まっているのだから。
 機動六課は時空管理局の部署であり、レリック専門の部隊である。キャリア、彼女1人を助ける為の部署ではない。時には非情な決断を迫られる場合もある。
 聞かされてはいても、今のキャロにその決断をする事もその決断に納得することも出来なかった。

『ねえ、キャロ』

 悔しさをこらえている中で声が聞こえた。中のキャロだった。

『なに?』
『あのね・・・』

 キャロはもう1人のキャロに考えた事を打ち明ける

「ええっ!!そんなのダメ!」

 沈黙の中突然キャロが立ち上がって大声をあげた。モニタの向こうでユーノやトーリア、はやても何か起きたのかと見る。

「どうしたの?何がダメなの?」
『でも・・他に何か良い方法あるの?キャロもママもお兄ちゃんも大好きだし、キャリアも大好きだよ。難しすぎて全部はわかんないけど、キャリアのリンカーコアが動けばキャリアも元気になるんだよね』

「そうだけど。でも、もしキャリアのコアが止まっちゃえば・・・」
「キャロ?・・もしかして」
「もう1人のキャロと話してるの?」

 いつの間にか涙が滲んでいた。横で見ていたフェイトとなのはが心配そうに聞く。

『うん、でもそれはキャロが一緒なら。あのね・・・』

 モニタの向こうに居るはやてやユーノ・トーリアもキャロを見守っていた。


「私と・・・私から提案があります。キャロが・・・私の中のキャロがキャリアの中に入ってキャリアのリンカーコアを封じます。もう1人の私、キャロがキャリアと同化します」
「!!!」

 キャロは涙を拭ってモニタを見据え言い切った。

「でも、その方法はロストロギアの人格・・キャロが消えてしまうかも知れない。それに感染型が簡単に移せるとは・・・」

 トーリアの意見にユーノも頷く。だがそれにも凛として答える。

「リンカーコアの一部にキャロが移ってから取り出して、それをキャリアに送り込みます。もしキャリアのが停止しても私のから新しいリンカーコアを作ります。もし正常に動けば私のを媒介にしてキャリアに移る事が出来ます。」

 キャロはキャリアのリンカーコアを正常に戻そうと言うのだ。しかも内部から。
 もし今のが停止したり壊れてしまった場合は一緒に送り込まれたキャロをリンカーコアを中心に作り直し、正常に動けばキャロ自身が残り、もしこの後何かあった場合に備えてキャロのリンカーコアを維持し続ける『繋ぎ役』をする事になる。
 暴走させた魔力はキャロ自身の物ではなくリンカーコアを通じて周囲の魔力を常に集めていた為、キャリアのリンカーコアが魔力を生み出さなくてもキャロのリンカーコアがあれば周囲から取り込みキャリアの中で生きる事が出来る。

 感染型のロストロギアが自らの意志で感染者から離れた事例は無かった。
 更にリンカーコア内を知る者なら外部から何かをするより治る可能性は十分にあるだろう。
 何よりロストロギア自身の意志がそうしようとしているのだ。

「・・・それなら・・・」
「なんとかなるかも知れない」

ユーノとトーリアは頷き合う。だが、それには

「キャロ、いいの?」

 フェイトが心配そうに聞いた。
 そう、それはキャロと中のキャロとの別れを指す。

「フェイトママもキャロもお兄ちゃんも大好きだけど、キャリアも大好きだから」

 入れ替わったキャロはニコッと笑って答える。
 それが2人の中で導いた答えだった。

~~こめんと~~
15話は凄く台詞が長いです。ごめんなさい。
使わないだろうと思ってノートに×印をつけていた設定が日の目をみるとは思いませんでした。
 「もう1人のキャロ=感染したロストロギア」が浮かんだ際に感染するならどんどん移っていく事もできるのでは?という物だったので、それはそれで組み合わせると面白かったかもしれません。
 収集つかなさそうですが(苦笑)

次回16話でラストです。

Comments

錯乱坊
ラストに向けて頑張って下さい。
2008/10/01 01:30 PM

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