第14話 「それから」

 学院に戻ってから数日が経った頃、ヴィヴィオは再び無限書庫を訪れていた。
 目的は2つ、ヴィヴィオの知る記録と今のこの世界の記録がどれ位違っているのかを調べるのと、

「ヴィヴィオ~♪」
「ヴィヴィオ、久しぶり」
「なのはママ!、フェイトママ!」

 2人の母親、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの2人をある場所へ連れて行く事だった。
 
 その発端は一昨日、ヴィヴィオの通う学院に転校してきた彼女がヴィヴィオに

「遊びに来ない?」

と自宅へ招いた事だった。
 
 しかも2人の母親も一緒にと・・・

 流石に困ったヴィヴィオは昨日1日必死に考えた。
 何も言わず1人で遊びに行って、後で2人の事をママ達が知ったら・・・きっと悲しそうな顔をして

「どうして教えてくれなかったの?」

と言うのは容易に想像出来る。
 でもよくよく考えてみると、ヴィヴィオに会ったらママ達に知られるのは時間の問題だし、知られてマズイのであればそもそもヴィヴィオの通う学院を選んで転校なんてしてこない。

(フェイトママにも会えるから・・・ま、いっか)

 いっそのこと2人を連れて行ってしまえばいいやと開き直り、早々になのは・フェイトの2人に伝言メールを送った。




 本局からミッドチルダへ移動、クラナガン経由して教えて貰った住所まで向かう迄の間、ヴィヴィオはドキドキだった。

「ヴィヴィオ、呼んでくれてありがとう。でも、変なんだ・・・今担当している広域捜査があるのに、突然今日と明日だけ休暇命令が出ていたの」
「フェイトちゃんも? 私も担当してる部隊全員が今日と明日だけカリキュラムが変わって、休暇命令が出てたんだよ。しかも私だけ!」
「それで上層部に聞いても、理由を教えて貰えなくて」
「そうそう!」

 どこの誰だかは知らないけれど相当無茶なゴリ押しをしたのだろう。
 横で2人の会話を聞いていても額に一筋の汗が流れ落ちる位の無茶振りだ。

(誰だか知らないけど、後し~らないっ!)

 ヴィヴィオも2人の休暇が今日だけではなく【明日】も含んでいる辺り、何が起こるか予想している者の仕業だと思った。
 


「え~っと・・この辺・・・あった♪」
「お友達の家族って教会関係の職員さんなんだ。」

 シスターや騎士、聖王教会関連部署で働いている職員用に割り当てられた住宅地にヴィヴィオは2人を伴ってやって来た。
 ドアフォンを鳴らすと「は~い」と声が聞こえてくる。

「ごきげんよう、高町ヴィヴィオです」

と答えると

「ごきげんよう。入って入って~♪」

と返ってきた。

 そのまま入ろうと思ったが、先に一応注意しておいた方がいいと思い直し、立ち止まって振り返る

「なのはママ、フェイトママ・・・」
「なに? 入らないの?」
「ヴィヴィオ、忘れ物?」
「・・・ううん、気だけはちゃんと持っててね」
「「?」」

 そう言うと門柱を開け中に入っていく。
 後ろから何だろう?何かあるのかな? と2人が首を傾げながらついてくる。

(すぐにわかるよ、すぐにね・・・)

【ガチャ】

 ヴィヴィオが玄関をあけるとそこには

「ごきげんよう。いらっしゃいヴィヴィオ♪」

 彼女、アリシア・テスタロッサは出迎えてくれた。

「!!フェッ・・フェイトちゃん!? でもっ、こっちにフェイトちゃんは居るし、えっ? えっ? えええーーーっ!!」
「・・・・・・ま・・・・まさ・・まさか・・・ア・・・アリシアなの?」

 エースオブエースでも人一倍冷静な執務官でも流石にこの状況を正確に理解出来なかったらしい・・・
 ヴィヴィオは慌てふためく2人を見て、思わずやっぱりと頭を押さえた。

(先に話しておけば良かった・・・)

 ヴィヴィオにもどうして彼女たちがここに居るのかを説明出来る訳もなく、詳しく聞かれてもどうしようもなかったのだが・・・

「リニスっ! もうっあなたは勝手に食べちゃって、それはお客様に出す為の・・・あ、ごきげんよう。いらっしゃい高町ヴィヴィオさん」

 ある意味トドメを刺すかの様に、更に廊下の奥から1匹の猫と共に1人の女性が現れる。

 彼女を見て

「プレシアさん!?」
「ごきげんよう、高町なのはさん、フェイト・T・ハラオウンさん」

 ひっくり返ったなのはの声を聞いて、プレシアは持っていた調理器具を隠しつつ恥ずかしそうに笑って答えた。

「・・・・フッ・・・・」
【バタッ】
「フェイトちゃん!? しっかりして!! フェイトちゃんってば!!」

 プレシアが答えたのとほぼ同時に、フェイトはヒューズが切れた様にその場で卒倒した。

(・・・・そうなるよね・・・やっぱり・・・・)

 慌てふためくなのはとプレシア、アリシアもアハハハと苦笑いしている。
 きっとこれは試練なんだとヴィヴィオも思い直す事にした。
もうそうとしか考えたくなかっただけだろう。



「・・・大丈夫?」
「・・・うん、平気・・・ちょっと・・・凄くビックリしただけ」

 なのはとプレシアによって中に運びこまれソファーに寝かされたフェイトは、濡れタオルで額を冷やされ意識を取り戻す。

「夢じゃ・・・ないよね?」
「違う。私もさっきまでそう思ったんだけど・・・」
「ゴメンね、なのはママ、フェイトママ・・驚かせちゃって」

 ヴィヴィオは流石に申し訳無い気持ちでいっぱいだった。

「ううん、もう大丈夫・・・起きるから」

 そう言って起き上がるフェイト。だかまだかなり動揺しているらしく元気がない。

「アリシアにもう少しちゃんと言い聞かせていれば良かったのですが、ごめんなさい」
「い・・・いいえ・・た・多分、聞いていても同じ結果だったと思いますので、気になさらず・・・」

 そう言うとプレシアがハーブティーをフェイトとなのはに差し出した。緑茶に砂糖とミルクを入れるのでなくて安心する。



「それで・・・単刀直入に伺いたいんですが、あの時の・・13年前のプレシアさん・・・なんですか?」

 フェイトが動揺しすぎてて聞けないだろうと思い、プレシアがソファーに座った直後、なのはが話を切り出した。

「正確には少し違いますが、庭園であなた達と会ったのは私。」
「アリシアちゃんはあの時のポッドの? まさかアルハザードへ?」

 ヴィヴィオもその話を聞き漏らさない様に耳を傾けていた。
あの場にはヴィヴィオも居たのだから。

「そうね・・・順に話しましょうか、私が魔導駆動炉の実験に失敗してアリシアを亡くし、生き返らせる為にジュエルシードを使ってアルハザードへ行こうとした。この認識で合っているかしら?」

 なのはとフェイトは頷く。

「ある人が事故が起きる直前にアリシアとリニスを逃がしてくれて、私もその人に庭園から落ちて行く最中を助けて貰って、今まで別世界で暮らしていたの。」

 そうなんだ、とヴィヴィオは思ったが更なる疑問が生まれる。
 話の辻褄が合わない、アリシアが生きていればプレシアはジュエルシードを求める必要が無いのだ。

「・・・でもそれじゃフェイトちゃんは」
「そうね。アリシアが生きていたら私はフェイト、リニスを生み出さない。私も助けて貰うまでアリシアは死んでいると思っていたの。さっき言ったアリシアを助けてくれた人、彼女はそれも考えて先に研究中の私のラボから素体を2つ持ち出していたの。研究課程で体を壊すのを見越して治療薬をその場において・・・私はその素体をアリシアとリニスだとずっと思っていたのよ。笑っちゃうでしょ。」

 専攻している研究者が本人と素体に気付かないなんて・・・と自嘲気味に笑う。

「ちょっと待って下さい」

 その話の不自然な点を見つけたフェイトが会話に割って入った。

「今の話だと、プレ・・・母さんが虚数空間に落ちたのは13年前、素体が持ち出されたのはそれよりも以前、魔導駆動炉の実験は更に前に起きている。素体を持ち出して母さんを助けられても、素体とアリシアを入れ替えるのは時間が逆行している。」
「!!」

(あ! 私なんだ・・・2人を助けたの)

「・・・・・・」

 なのはも無言でヴィヴィオを見つめた。
同じ事を考えているのだろう。
 そう、制限を持ちながらも時間を越える能力を持っている者。しかもこんな身近な場所で使おうと思う者、それは1人しかいない。

「時間跳躍の魔法なんか、それこそアルハザードにでも行かないと」
「・・・フェイトちゃん、13年前・・・私と初めて会った頃の事、覚えてる?」
「何? 急に・・・覚えてるよ。母さんに言われてジュエルシードを集めようとしたらなのはが集めてて・・・」
「私ともう1人、こんな風に髪をまとめた女の子、覚えてない? 臨海公園で戦う前に私と会うって約束をしてくれた女の子・・・」

 なのはは自分の髪を指して聞く。

「覚えてる。黒いバリアジャケットを着てて、庭園でもう一度会った時は白い服に変わってて、名前は確か・・・!」

 信じられない様子でヴィヴィオを見つめる。

「ヴィヴィオ」
「うん、RHdセットアップ」

 ヴィヴィオはバリアジャケットを纏った。なのはのバリアジャケットに似た姿で髪はサイドにまとめられている。

「ヴィヴィオ格好いい~♪」

 アリシアはヴィヴィオの周りを回りながら興味深そうに見ている。

「ヴィヴィオ・・・だったんだ・・・」

 驚いて立ち上がったフェイト、暫くして力が抜けたように再びソファーに座る。

「ごめんなさい。フェイトママ」
「ううん、いいの・・・」

 相当ショックだったのか、フェイトはさっきの勢いがウソだったかの様に力なく答えた。


 その後、フェイトはプレシアやアリシアが本人だと判り嬉しくて泣いた。それを見てプレシアはフェイトを抱き寄せ言った言葉が印象的だった。

「ごめんなさい、フェイト・・・あなたは失敗作なんかじゃない。アリシアとあなたは別人。あなたはフェイトなのよ」

 ヴィヴィオは彼女達を見て良かったと思う反面、不安だった。
少なからず、もう一度あの本を使い過去へ行かねばならない。
 アリシアとリニスを連れ出し、ポッドを回収し、崩壊直前の時の庭園でアースラに気付かれぬ様プレシアを助ける。
 ちょっとでも失敗すると未来が変わってしまうのはもう体験している。
 だから余計に怖かった。

「ヴィヴィオ、怖い?」
「なのはママ、うん・・・」

 ヴィヴィオの気持ちに気付いてなのはがヴィヴィオを抱きしめる。

「でもね、プレシアさんやアリシアちゃんを未来のヴィヴィオが頑張ったから、フェイトママもプレシアさんもあんな顔出来るんだよ。あんな嬉しそうなフェイトママを見られるなら頑張ってみない? 今は怖いと思うけど、ちゃんと勉強して魔法を使えるようになればきっと大丈夫。」
「・・・・うん!」

 フェイトのこんな嬉しそうな顔を見られるなら、とヴィヴィオは思った。



 翌日、プレシア・アリシアの家で泊めて貰った3人は久しぶりに機動六課の隊舎のあった場所へとやって来ていた。
 3人でここに来るのは久しぶりで、一緒に出かけられるのが嬉しかった。
 機動六課の隊舎は今も別の部隊が訓練施設として使っている。

「フェイトちゃん、許可貰ってきたよ~」
「ありがとう、なのは。」
「本当にするの?」
「モチロン♪」
「フェイトママ、楽しそう」
「うん♪ 約束だから・・・ヴィヴィオとね♪」

 嬉しそうに答える。

(約束? 私何かフェイトママと約束した?)

 何のことか判らず、ヴィヴィオは首を傾げる。

「うん! ねぇヴィヴィオ、13年前にアースラでさよならって言った時、約束したの覚えてる?」

 アースラで? 約束?

『ヴィヴィオ、次に会ったらもう一度勝負を受けてくれる。手加減しないで全力で』
『うん、約束♪ 代わりに・・・私からもお願い。これからは誰でもないフェイト・テスタロッサとして時間を使って、フェイトは1人じゃないんだから』

 アースラでの別れ際、フェイトと話した会話を思い出す。

まさか・・・本当に?・・・冗談・・・だよね??

「エッ? アレ? でもっ、フェイトママと私じゃ勝負にならないし・・・そっそれに、次に会ったらって言ってたよね。だっだから! ねっ?」

 流石に今のフェイトとヴィヴィオでは魔力値は兎も角、経験等が桁違いに違っている。

「ヴィヴィオお願いっ、フェイトママあの約束があったから頑張ってきたの。訓練用にちゃんと魔力ダメージだけに絞るから」

 魔力ダメージ以外も通す設定で勝負するつもりだったの!? 思わず聞き返したくなるが、それ以上にこんな勝負は全力で拒否したい。

 両手を合わせ拝むように頼むフェイト。

だが・・・

「フェイトちゃん、ヴィヴィオ・・・逃げちゃったよ」

 フェイトが目を離した隙にヴィヴィオは全力で逃げ出していた。

「そんなの絶対ヤダ-っ!!」
「そんなこと言わずにちょっとだけで良いから~っ」
「ヤァアアダァァァアアアッッツツツ!!」



「なぁなのは・・・何やってんだ? フェイトの奴」
「ヴィータちゃん。 う~ん、久しぶりに会った親子のスキンシップ・・・かな?」
「・・・全然そんな風に見えねーんだけど・・・ヴィヴィオ、本気で嫌がってるぞ・・・」
「私も、アレ思い出しちゃったら絶対こうなると思ってたんだけど・・・止められないよね」
「あっ転けた。大丈夫か?」
「うん、大丈夫みたい・・・ホラまた走り出した♪」
「まぁここは広いし、2人とも良く知ってるからゆっくりしてくれ。じゃあまた後でな」
「うん、ありがとヴィータちゃん」

 こんな風にずっと過ごせたらいいなとなのはは2人を見ながらふとそんなことを思っていた。

「そんなのヤダーッ!」

・・・・ごもっとも

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~~コメント~~
 AnotherSideのサウンドステージ的なお話です。
 ヴィヴィオとフェイトの勝負を書いた時、最後にアリシアを出そうと考えた時からずっと書きたかった話です。
 戦闘訓練好きなフェイトがリベンジを果たしたいと思うのか、それともなのはと違う立場で母親らしさを見せたかっただけなのか・・・
 どちらにしてもヴィヴィオは大変でしょう。
 アリシア&プレシアが突然現れたら、誰かの変身魔法か罠か?と思うでしょう、でももしアリシアがヴィヴィオのクラスメイトだったら・・・パニックになるでしょう。

 本編ではあまりなかったドタバタものでしたので、書いていて楽しかったです。



~NGシーン~

「判った・・・まだ力加減出来ないから・・・どうなっても知らないよ」
「うん、気にしないで。全力で」

 ヴィヴィオはフェイトから「模擬戦~約束~」と追いかけられた。
 ヴィヴィオは逃げている最中で何で私がここまで必死に逃げなきゃいけないの?と考える。
 そして・・・そこまで言うならやってやろうじゃないか! と頭を切り換えた。

 白いバリアジャケットを纏ったヴィヴィオと真ソニックフォームのフェイトが元機動六課の訓練施設で対峙する。
 フェイトの手にはザンバーフォームのバルディッシュが、ヴィヴィオの手にも魔力で作ったのであろう虹色の剣が握られている。
 研修中の局員も、教官の筈のヴィータも一瞬で勝負がつきそうな2人を見守っていた。

そして

「模擬戦スタートっ!」

なのはの掛け声と共に両者は一気に激突した。
 ほぼ互角の戦闘を行うフェイトとヴィヴィオ、最初は固唾を飲んで見守っていた局員達だったが、次第にその規模に恐れを抱いて全員が遠くへと逃げ始めた。
 方や闇の書事件・JS事件を解決に導いたAs、方やレリックとジュエルシードを内在するベルカ聖王家の末裔。そんな2人がぶつかれば何が起こるか自明の理だった。

「・・・・なぁなのは・・・ヴィヴィオが強いのは十分わかったんだけどさ」
「うん」
「・・・訓練施設・・・誰が直すんだ?」
「フェイトちゃん♪ 私は知らないも~ん。そうだ、チョコポッド買ってきてるんだけど一緒に食べない?」
「いいのか? あのままで・・・」
「野暮な邪魔しちゃ悪いよ。それに、管理責任問われちゃうよ。一緒に見物しながら食べよ♪」
「・・・そうだな」

 訓練施設が一望出来る場所でなのはとヴィータは楽しそうに訓練施設が崩壊していく様を見ながら談笑していた。
 

NG理由:や、ヴィヴィオはそこまで好戦的ではないですし、オチがありそうなネタですよねw

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