第05話 「ニアミスパニック(その1)」

「八神はやてちゃん、私のお友達。こっちがヴィヴィオちゃん…親戚の子でこっちに遊びに来てるの」
「八神はやてです。よろしくな♪」
「ヴィヴィオです」
(どうして私、紹介されてるの??)

 訳の判らないままヴィヴィオははやてから差し出された手を取って握手した。
 話は小一時間ほど遡る。
 ヴィヴィオが図書館で本を読んでいると

「ヴィ~ヴィ~オちゃん♪」
「キャッ!?」

 突然すずかから声をかけられで思わず飛び上がりそうになる。静かな館内で聞こえた悲鳴、何人かの視線が痛い。

「すずか…ビックリさせないでよ、もうっ」
「やっぱりヴィヴィオちゃんだった。ごめんなさい。そ・れ・よ・り コレっ♪」

 すずかは手に持った紙袋をヴィヴィオに見せる。
何が入っているのかさっぱり判らない。

「何か入ってるの?」
「いいから、ちょっとだけ来て」
「あ…本…」
「後でまた来るんだから、受付に預かって貰えばいいよ」

 そう言ってそのままズルズルと手を引かれ、図書館の側に停まっていた車に押し込まれた。


「ヴィヴィオちゃん、こっちの方が似合うよ絶対!」
「……あ…ありがと…」

 車から降りてきたヴィヴィオは呆然としていた。

(ここは本当に前と同じ世界なのよね? すずかって凄くお淑やかな女の子じゃなかったの?)

 聞けば、この前会った時にヴィヴィオの格好に凄く違和感を感じていて、「なのはちゃんに秘密だったらもっとちゃんと変装しないと」という【境地】に辿り着いたらしい。
 蒼く染められウェーブをかけた髪と前髪をとそれを留めるカチューシャ、ロングのワンピースを着た自分の姿を見たらその変わり様にこうもなるだろう。

「これでもう会っても私の親戚に見えるよね。うん♪」
(何だったっけえっと…あの変な箱、こっちじゃ『パンドラ』だったかな…もしかして開けちゃった?)

 それでも、さっきまでの男の子の格好より気が楽になった。

「ありがとう、すずか」
「ううん。喜んでくれて嬉しいよ」

 なのは達がヴィヴィオの青く染まった髪を見て何て思うかが少し心配だったけど、この際気にしないことにした。
 自分で思う以上に順応性はあるのかも知れない。
 その後、再び図書館に戻って受付に本を取りに行ったところ、司書が先のヴィヴィオと今のヴィヴィオが同一人物と判らず、預けた本を返して貰うのに四苦八苦した。



そして…

「八神さんも本好きなんだ」
「はやてでええよ。うん、ファンタジーとか好き」

 ヴィヴィオはその後、すずかに監視対象者の八神はやてに紹介された。まさかこの世界のはやてと話をするとは思っても見なかったヴィヴィオは最初ドギマギしていたが、はやてとすずかの談笑を聞いていつの間にか混ざっていた。
 ファンタジーって本のタイトル?

「ヴィヴィオちゃんは?」
「私も好きかも、古代魔法とか…」

 はやてと話していて魔法文化が無いのをすっかり忘れていたヴィヴィオはしまったと我に返る。しかし、はやてとすずかは魔法使いの話だと思ってくれたらしく

「魔法? 魔法使いの話、ヴィヴィオちゃんもファンタジー好きなんやね」
「!? あっ、そうそう。ファンタジーファンタジー…」

 ファンタジーというのは空想系の本らしい。
ホッと胸を撫で下ろした。


 少し経ってシャマルとヴィータがはやてを迎えに来たが、2人ともすずかの隣にいるヴィヴィオを見ても特に警戒している風には見えなかった。それに…

「はやてっ、今夜のご飯何作るの?」
「ヴィータは何たべたい?」
「何でもいい! はやての作るご飯美味しいから。シャマルは手を出すなよ」
「ヴィータちゃんひどい~っ!」
「う~ん…せやな…」
「はやてちゃんまで…」
(シャマルさんもヴィータさんもはやてが大好きなんだ…絶対元に戻さなきゃ)

 遠ざかる3人の幸せそうな顔がヴィヴィオの胸に強く印象付けられた。ヴィヴィオは誰も欠けさてはならないと改めて心に誓った。



「ちょっと変わってたけど、面白い子やったな~」

 はやては浴槽の中で今日の事を思い出していた。

「すずかちゃんの親戚って言ってたけれど、あれってすずかちゃんの服やな、きっと」
「どうしたの、はやて?」

 一緒に入っているヴィータが怪訝な顔をして聞く。

「あ、今日なすずかちゃんに親戚の女の子を紹介して貰ったんやけど、ちょっと変わっててな魔法の本好きな癖にファンタジーって言っても知らんみたいで」
「フ~ン、何て名前なの?」
「ヴィヴィオちゃん。名字は知らんけど、本が好きって言ってたから図書館で会えるんちゃう?」

 曖昧な答えに思わずヴィータが湯船に落ちそうになる。

「まぁ、次会った時判るしその時はヴィータも紹介してあげるな」
「いいよ、恥ずかしいから」

 はやては少し変わった女の子=ヴィヴィオにまた会いたいなと思った。 



同じ頃…

「…クククッ!!…流石過ぎる…クククッ!!!」
「…ヴィヴィオ…それ…」
「…どうした…の?」
「なのはママ、あのね…」
【バタッ】

ヴィヴィオが説明しようとする前に、フェイトが倒れた。

「フェイトちゃん!!」
「フェイトママっ!!」
「ヴィヴィオが悪い子に…」
「はやてさん、フェイトママを…ってはやてさん?」
「ゴメン、ちょっとだけ待ってて。アカン…面白すぎて腹が…ツボに入った…」

 青くなったなのはと気を失ったフェイト、腹を抱えて笑いを堪える涙目なはやて。
 この後ヴィヴィオが3人に説明出来たのは2時間後の事である。



「はやてちゃん!!」
「リイン!?」

 なのは達をベッドに寝かしアリシアが帰宅して暫く経った時、ドアが開きリインフォースⅡが飛び込んできた。珍客の来訪にユーノは驚いた。

「はやてちゃん、はやてちゃんはどこですか? ユーノさんっ!はやてちゃ~ん!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、リイン」
「落ち着いてなんかいられないですっ! ユーノさんっ、はやてちゃんは何処にいるですか?」

 飛び回って辺りを探すリイン。でも、いくら何でもモニタの裏とか食器棚の中には居ないと思うのだが、ユーノは勢いに押されて突っ込めなかった。

(リインサイズでかくれんぼしてる訳じゃないんだけど)
「とにかくっ!! 落ち着いてっ」
「!!…何するんですか!? ユーノさん」

 このままでは部屋の中をかき回して探しかねないと思ったユーノはリインを捕まえてもがくリインに向かって言った。

「ちゃんと説明するからっ! 部屋をぐちゃぐちゃにしたらなのは達に後で怒られるよ」

 リインは【なのは達に怒られる】というのが効いたのか、シュンとなって

「…すみませんです」

と素直に謝り暴れるのを止めた。


「地上にいたら突然はやてちゃんとのリンクが切れちゃって、慌ててシグナムやみんなに連絡入れたら同じだって、はやてちゃんに何かあったんだと思って飛び出して来たんです。」

 さっきまでの勢いは何処へやら、リインはテーブルに正座してここまでの経緯をユーノに話した。

「なのは・フェイト・はやて・ヴィヴィオは今向こうの寝室で眠ってるんだ。調べて無いから判らないけど、多分バイタルが消えたからリインやシグナムさん達とのリンクも切れたんじゃないかな?」
「はやてちゃんに何かあったんですか!?」
(ヴィヴィオの事どこまで言ってるんだろう…)

 迂闊に「過去へ行ってます」とも言えず、はやてがどこまでリインや守護騎士達に話しているのかユーノには判らない。でも今の時点では彼女の能力についてリインには何も教えていないらしい。 

「ちょっと別の場所に行ってるけど、みんな一緒だから大丈夫だよ。きっと」
「? でもさっき寝室で眠ってるって?」
「ま、まぁ、その辺は後ではやてに直接聞いてみて。ちょっとしたら帰ってくる筈だから」

 リインはユーノの話を聞いてしきりに首を傾げ考えていた。


~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやって来たら? というのがこの話のコンセプトです。
 今回はアニメのシーンとは少し離れた話です。
 過去と現在が平行して進んでいるあたりをどういう風に表せば面白いかを考えてみたのですが、いかがだったでしょうか?
 ヴィヴィオの変装した姿を見てみたいです。

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