9話 新生活?

 エリオが再び目覚めたのはフェイトの膝枕だった。

「えっ!僕どれくらい?」
「今日の捜査はおしまい、今は六課に戻ってる最中・・・エリオすごく疲れていたみたいだったし」

 フェイトの言葉を聞いて青くなるエリオ。フェイトの前に立ち頭を下げる。

「もっ申し訳ありませんっ。始末書は後で提出します。」
「大丈夫、今日は打ち合わせが主だったし、それに・・・」

 フェイトは胸元から紙片を取り出してエリオに見せた、それはエリオの休暇届だった。しかも八神隊長のサインが既に入っている。

「もしエリオがそのまま捜査の打ち合わせに来た時は余った時間でどこかに行こうと思ってたんだ・・でも、凄く疲れていたみたいだったから・・」

 エリオを嬉しかった。フェイトと同じ任務に就ける事もあったが、何より六課の仲間が自分の事を心配してくれていた事に

「フェイトさん、ありがとうございます。明日からはしっかり働きます。」
「うん。それと、キャロの事なんだけど・・」

 フェイトは再びエリオを横に座らせ

「キャロ、今すっごく心細いと思うんだ・・・表だっては私やエリオ以外にも話してるみたいだけど、それでもどこか壁を作ってる。」

 エリオはここ数日間のキャロを思い出す。
 自分が居るときは凄く嬉しそうに回りの人とも話しているが、フェイトや自分が不在の時は寂しさを紛らわす様な風に接していたのかもしれない。

「はい・・」
「だから、ここからは私のお願い。エリオさえ良ければキャロの部屋で寝てあげてくれないかな?」


「・・・・・・・・はい?」
 
 エリオは何か聞き慣れない言葉を聞いた感じがした。

「だ・か・ら、キャロの部屋でエリオが寝てあげてくれないかな?」
「僕が・・・キャロの部屋で?・・キャロと・・・」
「ええっ~~~~~~~~~~~っ」

 思わず叫んだ声でヘリが揺れる。

「あのっ・・・それって女子寮で寝るってことですよね?僕・・男ですよ?」

 フェイトは咄嗟に耳を塞いだ手を下ろしながら 

「うん・・・だから最初に女性局員には全員了承をもらっているの。」

 エリオの頭の隅に今朝はすれ違う女性局員全員がエリオを見る度に何か変わった物を見るかのような視線を感じた事を思い出した。
 そうか・・そう言うことだったんだ・・・

「それに・・・キャロのプライバシーとか・・僕の荷物とか・・・他の仲間に説明出来ないとか・・・」
「キャロにはまだ言ってないけど、喜んでOKすると思うし、荷物はグリフィス君に頼んであるし、他の男性局員にはグリフィス君から『このままでは部屋にも風呂にもゆっくり居れないかもしれない』と話すと全員が納得したって聞いてる」
「じゃぁ・・じゃぁ・・」

 既に外堀どころか内堀まで完全に埋められていた。フェイト・・・八神隊長以下の仲間が全て先の手を打っていると悟った。フェイトは エリオの考えを読んだかの様に

「あのね、これはキャロやエリオ・・それにみんなの為でもあるんだ・・・もし、夜中にエリオの部屋に行く間に事件に巻き込まれたり事故に遭うかも知れない。今のキャロは魔法も使えないから、凄く無防備・・・それにキャロって最近訓練まで隠れて見に来てるんだよね?」

 既にフェイト達も気づいていたらしい

「・・・はい」
「もしも、もしもだよ。なのはや私、エリオが戦闘訓練の最中にキャロに流れ弾や衝撃波が向かっちゃったら・・・」

 一番考えたくない事

「!!!そんな事っ!」
「だから、キャロの部屋で一緒に寝るって約束する事で【危ない場所には行かない】って約束してもらう。もし、それでもキャロが訓練の場所に来た時は・・・・ね」

 今までキャロは危ないとか言った理由ではエリオの元に来ることをやめなかった。しかし、今回はエリオと一緒にと言うことを約束する事で確かに守るだろう。

「それに・・・これは私のお願いなんだけど、みんなで一緒の家で暮らしたいなって・・・」
「!!!・・・わかりました・・・」
「エリオ、ありがとう」

フェイトはエリオを抱きしめ囁いた



 帰路の間にエリオからの了承が取れた事を、フェイトがはやてに伝えると一気に物事は動き出した。エリオの荷物は一気に運び込まれ(どうやらスバルのウィングロードとシャマルの旅の扉を使い文字通り一気に運ばれた様である。)その間キャロはポカーンと自室の変わりゆく様を見つめているだけだった。
 念の為にとルキノとアルト・ティアナは『エリオ用』と『他局員用』の注意事項マニュアルまで作っていた。そしてヘリが隊舎に着いた頃には引っ越しも全て終わっていた。

「お帰りなさい、フェイト隊長、エリオ。準備は全て完了です」
「ありがとうございます、なのは隊長。それでキャロは?」

 なのはは少し笑いながら

「自室で何が起こったのかとビックリしているんじゃないかな。」


 実際、キャロはいきなり運び込まれた多数の荷物に目を白黒させていた。

「キャロ・・入るね」
「はい」

 そこに、戻ったフェイトとエリオが入ってくる。エリオは少し顔が赤い

「フェイトママ、いっぱい荷物が」
「うん、びっくりした?」
「・・・うん」
「あのねキャロ、今からフェイトママはとっても大切な事を言うから、しっかり聞いてね」
「うん・・・はい」

 微笑んでいたフェイトの顔が少し真剣になった事でキャロは黙ってフェイトを見つめた。

「ここ毎晩キャロはエリオの部屋に行ってたよね?フェイトママやなのはさんからも『危ないから行っちゃダメ』って言われても。」
「それに・・・エリオの朝と夜の訓練の近くに隠れて行ってるよね?」
「でっでも・・・・はい」

 怒られると思ったキャロはうつむいた。ヴィヴィオはなのはやフェイトと同じ部屋で寝ているのにどうして私だけという不満は戻ってきた直後から持っていたのだが、なのはやフェイトから『ヴィヴィオのお姉さんなんだから1人でも大丈夫だよね』とキャロに一部屋宛がわれていた。

「キャロをひとりぼっちにして寂しいっていうのもわかるんだけど、エリオの部屋まで行く間に、もしキャロに何かあったらフェイトママも悲しいな・・・」
「・・・うん・・」

 少し涙ぐむキャロ

「それでね、みんなと相談して今夜からエリオがキャロの部屋で寝る事になったの」
「・・・・え?」
「だから、今日からエリオと一緒に寝てもいいよ」

 涙目のキャロがフェイトとエリオを見つめる。エリオはキャロの視線が恥ずかしいらしく少し横を向いていた。

「うん・・じゃかなった・・はいっ!」

 先程の表情とは一転して凄く嬉しそうなキャロ。そのままエリオに抱きつきそうだ。
 しかし、フェイトはここで表情をきつくした。

「でもね、もしキャロがフェイトママやなのはさん、みんなの言うことを聞かなかったり、訓練してる所に来たら・・・・その時はエリオも元の部屋に戻って、朝から今日みたいにず~っとフェイトママと一緒に居るからね。絶対約束を破っちゃだめだよ」
「はい!」

 真剣なフェイトを顔を見て、キャロも真顔に戻り頷いた。これで訓練の中キャロの心配をせずに済むだろう。



 夕食の時、エリオはグリフィスのもとへ赴いた。

「あのっ、ありがとうございました。」

 グリフィスは余り気にした風でもなく

「僕は男連中を説得しただけさ、実際に一度キャロが浴室に入ってきてる事もあったからみんなに『部屋に間違えて入るかも知れない』って言えばすぐに全員が納得したよ。それに最近エリオのやつれ具合がすごかったからね・・・」

 エリオは半分穴があれば入りたい恥ずかしさもあったが

「その辺はまだ全て解決って訳ではないですが、キャロと約束しましたから」
「そうか・・・頑張れガードウィング!」
「はい」

 その後も、エリオは関係者と出会う度に礼を言っていた。中にはやっかみやからかう者もいたがエリオ自身はキャロと一緒という恥ずかしさの中に少しだけうれしさも感じていた。


 そして就寝時間に近づいた頃、2人はベッドを目の前に立っていた。

「キ・キャロ・・・それじゃ寝ようか・・」
「・・・・う・・ん・・・・」

 エリオはキャロが普段は「1人じゃ怖いから一緒に寝ていい?」とか気づけば既に目の前で寝息を立てたりとしていたから意識しないと思っていた。
 しかし、部屋に入るなり「お兄ちゃん♪」と抱きつかれると思っていたが、それも無く目の前のキャロはどこか恥ずかしがっている様にも見えた。
 どことなく変わった緊張感が漂う

「キ・キャロ?」
「はっっはい!」
「そろそろ・・・寝ないと」
「・・・う・・うん」

 2人はベッドに恐る恐るベッドの中にそれぞれ反対方向から入った。
機動六課の隊舎および局員の宿舎は以前営業していたホテルを借り受けリフォームしたものである。その為、家具などは新品だが入るサイズはほぼ決まっていた。
 そのサイズは大人用に決められていた事もあり、エリオとキャロの2人が一緒に眠るには余りある広さだった。

 エリオもキャロもお互いに意識してかベッドの隅の方で横になっている。そんな中微かに聞こえるような声でキャロが呟いた

「お兄ちゃん・・・起きてる?」
「う・・うん。なに?キャロ」
「あのね・・・今日の事・・・・」
「今日のこと??」

 エリオの今日の一番の大事件は現在進行中だった。

「うん・・・フェイトママ・・あんな風に言ってくれたけど・・・私って・・・お兄ちゃんとかフェイトママとかみんなにいっぱい迷惑かけちゃってたのかな・・・」
「そんなこと・・ないよ・・きっと」
「お兄ちゃんは?」

 キャロの方を向くと真剣な顔で見つめている。

「ぼ、僕は・・」
「・・・・・」
「訓練場とか宿舎にくるのは危ないって・・・でも、こんな風に一緒に寝られるのは・・」
「・・・うん・・・」
「ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいかな・・・」

 キャロは少しだけ近づいて

「本当?」
「・・・うん・・だから、危ない場所には来ないって約束」
「うんっ!」

 と嬉しそうにエリオに抱きついた。




 同じ頃、ミッドチルダとは遠く離れた世界

「ゲホッ・・・ゲホッ・・お・・お父さん」
「キャリア、ここにいるよ。お父さんはここにいるから」

 キャリアは何度も咽せながらトーリアを呼ぶ。キャリアの手を握るトーリア。
 その顔は赤く、魘されるように眠っている。しかし反対にトーリアの握った手は水に触れた様に冷たかった。

『今までも大丈夫だったんだ、今回もきっと大丈夫・・・きっと』

トーリアは一抹の不安を覚えつつもキャリア自身今も戦っている事を信じざるえなかった。


 数年前、キャリアが急に倒れたとスクールの先生から連絡があった。友達と一緒に遊んでいた所いきなり胸を押さえて倒れ込んだらしい。
 その後、医師の診察から出た言葉は彼を一気に絶望へと追いやるに十分だった。
 キャリアの病、それはリンカーコアが一時的に暴走するというものだった。正常な魔導師のリンカーコアは一定の魔力を放出し安定しており、魔導師自身の身体も魔力適合が済んでいることで魔法をつかってもさほど影響は無い。
 しかしキャリアや元々魔力を使えない者の体内にいきなり魔導師クラスの魔力が体内にあふれ出すと、魔力が体外へ放出されずその結果身体そのものを内部から破壊してしまう。
 
 事実、トーリアの妻キャリアの母はその病で数年前に没していた。今まで遺伝の報告が無かった病だけにトーリア絶望した。しかし、ベッドの中のキャリアを見て思い直した。キャリア自身がもっと元気になればなんとかなる、そう考えたトーリアは緑も多く、過ごしやすい場所を探して今の場所にやって来た。
 その時に独りぼっちでは意味がないと昔同じ研究チームに居た『彼女』の様に使い魔を作り出し簡単な魔法をキャリアに教えて貰うことにした。
 ここで『彼女』と少し違ったのは、研究の仕事をしながらもトーリアはいつも一緒に食事をしたりたまに一緒に遊びに行くといった、家庭的な部分を常に持っていた事だった。
 実際、その後も軽くふらついたりする事はあったが、魔法が少し使えるようになったことでこの症状も最近は見せなくなっていた。

それが・・今何故・・・?

 彼の頭の中にはどうすればいいのかという葛藤のみがめまぐるしく回っていた。

 そうこれはミッドチルダから遠く離れた場所の話

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