第4話「悲しみのTrio -三重奏-」

「あの~すみません、兄の…ヴァイス・グランセニックの病室はどこでしょうか?」
 数日前、ラグナ・グランセニックは久しぶりに兄と出会えたのに避難命令のせいで話も出来なかった。

 でもつい先日機動6課の八神はやてという兄の上司から連絡がありここに入院していると教えて貰いやってきた。
 病室を教えて貰って向かい、部屋のドアをノックするものの応答が無い。
失礼します~とそーっと入ってみるとベッドはもぬけの空。
(検査中…なのかな?)

ふとそう思い部屋の前で待とうと部屋から出た時、ラグナに気付いた職員が近寄ってくる。

「グランセニックさんのご家族さん?」
「はい。妹です…兄になにか…」
「グランセニックさん、どこに行ったか知らない?」
「……はい?」
 ラグナは職員の話を聞いてハァーため息をついた。
 昨夜までこの病室にいたのだけれど、今朝来てみると手荷物と一緒に消えていたらしい。しかもベッドシーツを伸ばし、病院服がその上に綺麗に畳まれていたそうである。

「手分けして辺りを探して見たんだけど、見つからなくて…」

 それはそうだろう。ここまでしていたら戻ってくる気は欠片も無いのはすぐにわかる。
 病院嫌いがここまでくればある意味立派だ。決して誉められた方ではないが…

「あの…機動…機動6課に連絡して貰えますか? 多分そこに」

 そう言うと職員はまさか~と笑い飛ばしながら近くの端末を使い機動6課に連絡をした。するとラグナの予想通りヴァイス・グランセニックは職場に戻っているという答えが返ってきた。

「うそっ、も~っまだ抜糸も終わってないのに~っ!」

と怒るその職員にラグナは申し訳なさから平謝りするしかなく、更にこれ以上手をかけて貰うのも済まなく感じ

「私が迎えに行ってきます」
 そう言って機動6課への行き方を教えて貰い出て行った。


「あの~すみません。こちらにヴァイス・グランセニックはいませんでしょうか?」

機動6課に着いた時、入った所で出会った局員に声をかける。

「グランセニック…ああ、ヴァイス陸曹の事ですね。多分格納庫にいると思いますよ。案内しますから少し待ってて貰えますか?」

 名前で呼び合っているのか一瞬誰か判らなかったらしい。
声をかけた局員はにこやかに答えた。
 ペコリと頭を下げ言われた場所で待っていると遠くから慌ただしい声が聞こえた。その声の中からはっきりとある言葉が聞こえる。
【ヴァイス・倒れた・医務室】
さっきの局員も【ヴァイス陸曹】と言っていた…

(まさかっ)

急に胸騒ぎを覚え、声のした方へ駆けだした。

「お待たせしました~。あれ?」

再び局員が戻って来るとそこに彼女の姿は無かった。


 声を追って建物の中に入ると局員の一団とすれ違う。すれ違い様に「医務室・かなりの重傷」という言葉が耳に入った。

「あの、すみません。医務室にはどう行けば…」


「あの…ティアナさん…ですか?」

 局員に医務室の場所を教えて貰い近くまで来た時、壁を背にしゃがみ込んでいる人を見つけた。

「‥あなたはヴァイスさ‥陸曹の」
「妹のラグナです。」

 ラグナがティアナと直接会った事は無い。でも一度だけ写真で見たことがある。
 兄が送ってきたメールの中で写っていた女性…それがティアナだった。彼女の顔は涙で濡れその時とはまるで別人の様で、ラグナも最初確信を持って声をかけることが出来なかった。

「私のせいでっごめんなさいっごめんなさい…訓練中に失敗したのをヴァイスさんがっ…」

 ティアナの話は嗚咽が混ざっていて最後まで聞き取る事は出来なかった。

(他にも大切に想ってくれる人がいるんだ…)

 ラグナ以外にも兄をヴァイスを大切に想ってくれている人がいたことが嬉しく、少し寂しい気もした。そしてヴァイスも…きっと…そんな確信がラグナの中に生まれていた。

「昔のこと…少し前の兄と私の事、ティアナさんは知ってますか?」

 唐突に話を切り替えたのについて来れずもティアナが頷く。
 悲しい事件、ほんの小さな距離がラグナとヴァイスの間に深い深い溝を作った事件。ラグナはその事に気を止めていなかったが、瞳を見る度にヴァイスが悲しい顔をするのが辛かった。

「あの時から‥兄は余所余所しくなって、私が話しかけても全然応えてくれなくて」
「どうして…どうして、私にその話を」
「ティアナさん、事件の後に会った兄と同じ顔してます。もしかして『あの時もっと気をつけていれば』とか思ってませんか?」

 頷く彼女。思った通りだった。
 それだけを考え続けていたのかも知れない。
 このままだともしヴァイスが目覚めても彼女は罪悪感から彼を避けてしまうだろう。そうなったら私達と同じ過ちを繰り返す。

「ティアナさん、もし兄が目を覚ましても絶対に兄に謝らないで下さい。」
「えっ?」

 ほんの少しだけ胸がチクリと痛む。ティアナはどうしてという顔をして見つめている。

「謝るなら…そうですね。そう何か1つだけ兄の頼みを聞いてあげて下さい。きっと兄も悔やんで落ち込んでいるティアナさんを見るより、笑顔のティアナさんを見たいと思うから。」

 胸の痛み以上に、もしかすると彼女は…という期待の方が大きくなっていた。

「どうして…どうしてそこまで言えるんですか?どうしてっ、今笑えるんですか?」
「どうして、兄と私だから…じゃないですね。きっと【同じ過ちの道】を通ってきたから」

 どうしてそんな事を言ったのか、それは言った後でも判らない。
 それでもティアナがその言葉で気付いてくれた事がわかると、ラグナにはもうここで待っている必要は無かった。
 兄はきっと目覚めるだろう。しかも無理をしてでも笑顔でティアナを迎えるだろう。ティアナに同じ道を歩ませない為に。ラグナはどこかで確信していた。

「それじゃ、私は戻ります。兄が目覚めたらまた来るって言っておいてください。」
「でも…もし…」

 その言葉の続きをティアナが言う前に首を振りやんわりと遮る。

「ティアナさん、兄は、ヴァイス陸曹は誰にでもどんなに優秀な人でも教える訳じゃ無いんです。覚えておいて下さいね♪」


 隊舎から出た後、もう一度ラグナは隊舎に振り返った。
 彼女、ティアナとはまた会えるだろう。その時はもっと色々聞いてみたいな。ふとそんな風に思っていた。

~~こめんと~~
Trio-三重奏-は1人では奏でられません。
ということで、今話は2人目の奏者ラグナ・グランセニックの視点で進めました。
ラグナはなのはStrikerSでも殆ど出てこないので少し言葉を選んで話している感じにしてみました。
実際はどんな風に話しているのでしょうね

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