03話 「支える者・支えられる者」

「ヴィヴィオっ!」

 ぼう然としていたヴィヴィオは呼ぶ声が聞こえ振り向く。
そこにいたのは

「アリシアっ!? どうして」
「あっちで服見てたらいきなりこんな風に変わっちゃうし、みんな居なくなっちゃうし…何が起きているの?」
(他にも残ってた…私以外にも…)
「アリシア…アリシアぁぁあああっ!!ワァァァアアアアッ」

 1人になった寂しさ、それ以上にこんな状態にした辛さに耐えきれずアリシアに抱きついて泣きじゃくった。
 
「落ち着いた?」
「…うん、ごめんね…」

 アリシアにしがみついたまま暫く泣いた後、ヴィヴィオは手頃な瓦礫に腰を下ろしていた。
 アリシアが居てくれて良かったと思いながらも変なところ見せた恥ずかしさもあってなかなか彼女の顔を見られない。

「…すごい光景…まるで仮想空間…でも現実なんだよね」
「ねぇ、どうしてアリシアは平気だったの? みんなこんなに変わっちゃったのに…ママ達も」

 気持ちを察してか話題をくれたのを感謝しつつ聞いた。
 スカリエッティ達が過去が変えた事で現在も影響を受けて町が瓦礫に変わってしまった。きっとそれはここだけじゃなく、ミッド…管理世界・管理外世界にも影響しているだろう。現にここも変わり果てていてなのは達とも連絡が取れない。
 そんな状態なのにどうしてアリシアが無事なのか?
 彼女はう~んと少し考えた後

「多分だけど、この時間で生まれて無いからかな? ホラ、私って魔導炉実験だった?…あれに巻き込まれずに生きていたらフェイトよりもずっと年上なんだよ。それと…」
「それと?」
「これが守ってくれてるみたい」

 彼女は胸元からペンダントを取り出してヴィヴィオに見せる。フェイトのデバイス-バルディッシュに模したペンダントは淡く光っていた。何らかの機能が動いているらしいが何の為に動いているのかわからない。

(なにかのフィールド?)

それを見たヴィヴィオはある可能性に気付いた。

「もしかして…」
「うん、今から行ってみよう。ちょっと遠いけど行けない距離じゃないよ♪」
「うん♪」

 彼女のデバイス作成者、プレシアの所に行けば何かわかるかも知れない。そう思うと少しだけ元気が湧いてきた。
 立ち上がってアリシアの手を取り

「行こう、プレシアさんのところへ!」
「うん♪」 
「じゃあ私も一緒にいっていいっスか?」
「「!?」」

 突然上から声が聞こえた。驚きながらもアリシアを庇うように1歩前にでる。

「ウェンディっ!?」

 ヴィヴィオ達の目に入ったのはウェンディ・ナカジマだった。

「どうしてここに」
「オフだからセイン達の所に向かってたら、いきなり建物は消えてくし、乗ってたレールトレインも走ってる途中に線路ごと消えてに岩にぶつかりそうになるわでホント散々な目にあったっス。ここに来たのはヴィヴィオの念話が聞こえたからっスけどね~♪『誰か答えてっ!!』って」

 ヴィヴィオの全方位に向けた念話は届いていた。必死になって送ったのが知っている人に届いていて嬉しかったけれど、それよりも気になる事があった。

「ウェンディどうして消えなかったの? みんなは?」

 一緒に何故消えなかったのかが気になった。
 さっきアリシアが言う通りだったらこの時間で生まれているウェンディは巻き込まれて消えてしまう。

「多分これのおかげっスね。チンク姉から貰ったブレスレットで聖王教会の特別製らしいっス」

 格好いいでしょうとブレスレットを見せるウェンディ。
 彼女のブレスレットも淡い光を放っており、何かわからないプログラムが動いているのが判った。

「私のとよく似てる…ウェンディさん、これ誰が作ったのか知っていますか?」
「んや、細かい事は知らないっス。チンク姉は私達ナカジマ家組も教会組もみんな身につけているって言ってたッスからまだ監視用されてるのかって…これはノーヴェの愚痴っスけどね」
「きっとプレシアさんが作ったんだ…」

 彼女の話を聞いて確信する。プレシアはやっぱりこの事態を予測していたのだ。

「ウェンディ、私達を教会近くにある研究施設まで連れてって。今すぐにっ!!」
「OK! 2人とも飛ばされない様しっかり掴まってるッスよ~っ!」

 はいと言う間もなく、ウェンディは2人を脇に抱えてジャンプした。

「キャッ!!」
「あと、下手に喋ると舌かむっスよ ライディングボードっセットアップ」

 ウェンディがカード状のデバイスを取り出し叫ぶとカードがらライディングボードが現れ、それに乗ったウェンディ達は一路聖王教会のある方向へ飛び立った。


(スカリエッティとチェント…絶対許さないからっ)

 この後何をどうすればいいのかわからない。それでもヴィヴィオは絶対元に戻してやるという決意を胸に込めていた。


 
「ママっ」
「アリシアっ」

 ウェンディのおかげで数十分と経たずに研究施設へとやって来た。ヴィヴィオとウェンディは駆け込むアリシアの後を追ってプレシアの研究室へと向かう。
 中に入るなりプレシアに抱きつくアリシア。
 ヴィヴィオの前では気丈に振る舞っていたけれど凄く心細くて怖かったのだろう。

(アリシアも怖かったんだ…それなのに…)

 プレシアに抱きついたまま肩を震わせて泣くアリシア。
 怖いのを隠してヴィヴィオを元気づけようとしてくれていたのを知り、改めて彼女の強さを知った気がした。

「ごきげんよう、プレシアさん」
「ヴィヴィオ…それに…」
「ウェンディ・ナカジマっス。姉達…聖王教会のセイン達がお世話になってるっス」
「そう…あなたが…ブレスレットを付けているから時間が変異しても影響を受けなかったのね」

 プレシアは抱き上げたアリシアを下ろしながらウェンディのブレスレットに目をむける。

「おかげさまで」
「あの、プレシアさん…私…」
「大体は事態を把握してるけれど、何が起きたのか最初から教えて貰えないかしら」
「うん…あのね…」

 ヴィヴィオは順を追って話した。
 数日前に感じたどこかわからない場所で見た様な夢の事、今日送られた念話の事。そしてスカリエッティともう1人のヴィヴィオ ― チェントに会って時間を超える為の本を渡してしまったこと。
 アリシアと時間移動が出来るのを初めて聞いたウェンディは驚いたらしいが、あえてヴィヴィオの話を折らないように口を挟まないでいた。

「話はわかったわ…ヴィヴィオが彼に本を渡したのは懸命な判断ね。Drスカリエッティの研究していたプロジェクトFateにはいくつか現在では到底不可能な…持ち得ない技術があるの。それを知った私はアルハザードへ行く道があるんだと考えたのよ。結局行かなくても望みは叶ったのだけれど…。話が逸れたわね、管理局が彼に対してずっと技術を渡していたそうだから、彼がアルハザードが存在した時間からの技術・知識を持っていて、中に『ベルカ聖王の時間移動』にあれば知っていても当然ね」
「じゃあ、どうすればいいんですか。そんなの私にありませんっ」

 過去の技術や知識を持っている彼をどうやって止めれば良いのか

「落ち着いて。彼にも持っていない物はあるわ。なぜ彼がもう1人のあなた…マテリアルを使った…連れて来たんだと思う?」
「それは…護衛と時間を…あっ!!」
「そう、彼は1人じゃ時間を移動出来ない、だから一緒に来た。だったらどうすればいいか判るわよね」
「チェントを…捕まえるか本を取り返す…」

 頷くプレシア。それでスカリエッティ達の時間移動は止められる。あとはその時間で捕まえても、元の時間に連れ戻しても逃げられない。

「でも、今どこ…いつの時間にいるのかわかりません。それに行く方法も…」

 そう、何をすればいいかがわかっても2人が何処にいるのかわからない。わからなければ捕まえる方法も無い。
「わかるわよ。今すぐここで」
「えっ?」

 ヴィヴィオが途方に暮れていた難問を何でもない様に軽く返した。

「何処にいるのかは私じゃなくて今までの記録が教えてくれるわ。今まで私達がいた時間の記録と今の時間の記録を照らし合わせればすぐに。」

 驚いたヴィヴィオを横目にプレシアは端末からモニタを引き出し2つの記録を引き出した。

「時空管理局は今の世界でも存在しているけれど7年前、使用禁止になった筈の質量兵器が台頭しはじめてから急速に活動を縮小しているわ。初期に大規模な攻撃に晒されて本局や主要管理世界の本部が消えたみたいね。」

 プレシアはモニタに今まで居た時間の記録と、変わってしまった時間の記録を呼び出して相違点を強調した。

「フェイトとなのはさん、はやてさん達はそれより前に巻き込まれたのね。彼女達が行方不明になったのとほぼ同時期にミッドチルダ地上本部も崩壊。あなた達が見た瓦礫の山はその時の戦場の後ね。聖王教会はかろうじて残っているけれど、元の活動範囲とは比べられない程ささやかなものね」
「そんな…ママ達が…」

 淡々というプレシアの言葉にへたり込むヴィヴィオ。ヴィヴィオが保護されるずっと前になのは達は巻き込まれて行方不明になっているらしい。

「慌てないで。こんなもの後でどうにでもなるわ。元に戻せば子供の落書きと一緒なんだから。最初の相違点が…新暦71年4月のミッドチルダ…2人はまずここに向かったと考えていいわね」
(プレシアさん…すごい…)

 以前ヴィヴィオがジュエルシード事件から戻ってきた後、無限書庫で今までの記録を自身の覚えている事と照らし合わせた事があった。
 彼女はそれを逆に追いかけた。過去が変わったから現在も変わる。だったら過去に遡れば変わった時間が必ず見つかる。そして変わったきっかけスカリエッティとチェントは必ずそこにいる。
 でも、どうやってそこまで行けばいいのか? RHdが使えない今、本があっても行きたい時間にどうやったら行けるのか?  

「ねぇママ、私達はどうして消えなかったの? ここもそうだけど…」

 タイミングを測っていたのかアリシアがプレシアに聞く。

「それはこれのおかげよ。ママがずっとお仕事で帰れなかったのはこれを調べていたからなの」

と置かれていた1冊の本を手に取った。分厚い表紙に金属で装丁された本

「この本はかつてのベルカ聖王が愛用していた書物型ストレージタイプのデバイス【刻の魔導書】、アリシアやママが生まれるずっと昔に作られて聖王教会で大切にしまわれていたのものよ。騎士カリムに調べてもらったらママ以外に昔1度だけ貸し出された記録があったわ。それも77年前に…」

 何も言わず話を聞いていたら一瞬彼女がこっちを見た。
 ヒントは出した。答えを見つけてみなさいと言うことらしい?

(77年前…新暦になって、伝説の3提督が活躍した時代)

 彼女の話を聞いて覚えている中から持っていた本の事を思い出す。

『? これ何? 本みたいだけど…』
『ああ、つい最近本棚の隅にあったのを見つけたんだ。中も真っ白だし表紙も何が書いてあるかわからないから、誰かのイタズラなんじゃないかって』
『ふ~ん…』
 
 数ヶ月前、無限書庫であの本を見つけた時の司書の言葉が蘇る。

(ベルカ聖王が居た時代、聖王統一戦争は500年以上昔、管理局にそんな昔の本が無造作に置かれてるのは…そうか!)
「それが…まさか…」
「正解。そう、あなたの持っていた時間移動する為に使っていた本の【オリジナル】よ。」

 ヴィヴィオの複製母体、ベルカ聖王に関係する物だったら管理局にそれも無造作にあってはおかしい。聖王教会で聖骸布等と一緒に保管されている筈。
 そこに考え至った時ヴィヴィオは初めてプレシアが何の研究・調査をしていたのか、どうしてこの時間にいるのかが判った。
 オリジナルの『刻の魔導書』を調べる事が何に繋がるのか。

「プレシアさん…ありがとうございます。」

 彼女は何の為に? 数年後プレシアとアリシアを助けに行くヴィヴィオを見守り助ける為…

 これでスカリエッティ達を追って、なのは達を助けに行ける。
 今まで沈んでいた心に、瞳に光が差し込んでくる。

「本当にありがとう…プレシアさん」

 嬉しくて涙が溢れていた。



「過去に行くなら幾つか覚えておきなさい。もし2人が別の時間に移動しても追いかけないで必ずここに戻ってきなさい。続けて時間移動すればするほど魔力消耗が激しくなるわ、それとヴィヴィオは向こうのなのはさんやフェイトさん、知っている人には絶対に会わないこと。理由は判るわね」
「はいっ」
「それとアリシアも一緒に。いいわね? アリシア」
「うんっ!」
「でもアリシアは」

 プレシアの言葉に聞き返した。アリシアは魔法を使えない。
 行った先にはスカリエッティ達がいるから持っていた本を取り返す為に説得する。駄目な時は戦わなくちゃいけない。デバイスが使えない今、そんな危ない場所に彼女を連れて行けない。

「アリシアのデバイスには行った先の時間や移動時の魔力からある程度行き先を絞る為の解析プログラムが入っているわ。あなた1人だと前に出すぎるでしょう? 先生からも聞いているわよ。夢中になると周りが見えなくなる時があるって」
「あ…う…」

 プレシアの言葉にアリシアもウンウンと頷いている。

(一体どこから聞いたの…)

 アリシアから聞いたのか、教会を通して聞いたのかは判らないけれどヴィヴィオには否定できなかった。それに1人で行くより2人で行った方が心強い。

「わかりました。」
「ヴィヴィオ、私達の時間をお願いね。」
「はいっ!!」

 力強く頷き本を受け取ってもう片方の手でアリシアの手を握る。

「行くよっ、アリシア」
「ウンっ。」

 願うは遠い過去、
 
  旅の扉が集う地へ

   時は若葉舞う季節

    望むは大切な家族と時間

「我の願う時へ…」
 
 ヴィヴィオがそう呟くと虹色の光に2人は包まれ、光が消えた時はもう2人は床で寄り添う様に眠っていた。



「ウェンディさん、1つ頼まれてくれないかしら。」

 ヴィヴィオ達が旅立った後、プレシアは壁に寄りかかって眠っているウェンディを起こした。
 難しい話に途中で考えるのを放棄したらしく壁に背を預けて熟睡している。

「ウェンディっ!!」
「ウェッ!? ハイッス」

いきなり呼ばれた彼女はビクッと震え、目を覚ます。

「寝ているところ悪いんだけれど、ミッドにいるあなたの姉妹を全員をここに集めて欲しいの。出来れば今すぐにでも」
「いいッスけどどうして?」

 まだ頭が働いていないらしい、ハァッっとため息をついて

「あなた達の持っている時間変異緩和プログラムは長時間使えない。もし時間切れになったらあなた達が消えてしまうか敵になってここに襲ってくる事も考えられるわ。ここは私の魔力で結界を作っているから影響されないでしょうけれど…」

 プレシアの考えていた驚異はウェンディ達姉妹7人の存在。
 スカリエッティが時間を変えたのであれば、ウェンディ達はこの時間にも居ると考えて良いだろう。
 彼女たちがもし干渉・洗脳されてここが襲ってきたらいくらSSクラス魔導師のプレシアでも守りきれない。
 その時の防衛戦力として彼女達の力が欲しかった。

「りょ了解っす!!」

 ウェンディはそう言って飛び出していった。


「…急に静かになったわね…私も今のうちに…」

 そう言うと再びモニタに向かった。


~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはStrikerSの世界に行ったとしたら?今話の重要な要素のひとつです。またそれと同じ様に書きたかったものもありました。
 AnotherStoryの最後で成長したヴィヴィオがプレシアとアリシアを助けに行きます。どうして2人を助けに行ったのか? その理由が今話です。
 こんな風にAnotherStory・AgainStoryともリンクした所が幾つか出て来ますので併せて読んで頂ければ嬉しいです。


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