04話 「必然の出会い」

「ここは…空港・・・だよね?」

 ヴィヴィオ達が来たのは人が行き交っているエリアだった。
 大きな荷物を持って行き交う人々や職員が誘導していたりと雑踏めいている。
 他管理世界行きの転送ゲートへの案内表示や近隣世界との定期運行船、奥には管理局艦船の姿も見える。

「空港…でもこんな空港あったかな?」

 初めて見る空港の様子に少し戸惑う。遠くに見える山や海岸線はどこかでみた覚えがあるけれど、それがどこで見たのか思い出せない。
 

「ちょっと待ってて。今調べてみる」

 アリシアがペンダントを取り出して操作しはじめる。

「ん~と、今は新暦71年4月29日…だって」
(71年の4月…空港火災! ということは…ここは火災前の臨海空港?)


 ミッドチルダの北部と中央部の丁度中間辺りにあった臨海空港。
 新暦71年の4月にミッド史に残るほどの大火災にみまわれる。その後閉鎖されて誰も入れない区画になっていた。しかし機動六課解散とほぼ同時期に旧施設が撤去されて今は公園として一般に開放されている。また、公園の中央部には退役した艦船アースラがその身を休めている。
 今日はその大火災が起こる日だった。

(闇の書事件の時は考えてた時間と2週間以上ずれていたのに、これがオリジナルとコピーの差?)

 なのは達と一緒に13年前の海鳴市へ時間移動した際、闇の書事件の最終戦があった12月24日を目指した。しかし実際ついたのは2週間以上前の12月に入った頃だった。
 それが今回は思った日についたのだ。

「まぁちゃんと着いたんだからいっか」
「ヴィヴィオ何か食べない? 丁度お昼過ぎだし、私お昼食べてから何も食べてないからお腹すいちゃった」

 そう言われてみればヴィヴィオもスカリエッティ達と一緒に居た時ケーキを頼んでいたけれど、結局一口も食べていなかった。
でも流石に色々ありすぎて何かを食べたいという気分でもなく

「私はいい…あれ? アリシア」

 答える前にアリシアの姿は消えていた。慌てて見回すと彼女は既にフードショップの前で頼んでいる。

(はやっ!)
「お兄さん~このパイ2つ」
「はい、ありがとうね~お嬢ちゃん。これおまけだよ」
「わぁありがとう~お兄さん、大好きっ♪」

 どう見てもユーノやクロノより10歳以上年上の『おじさん』からパイと小さな袋に入ったクッキーを2つずつ持って帰ってきた。

「はいヴィヴィオ♪」
「あ…ありがとう」

 順応性が高いと言うか好奇心旺盛と言うか…彼女の世渡りのうまさに呆気にとられていた。


 人混みを避ける為にロビーの壁に背をつけ、アリシアから渡されたパイを食べながら様子をうかがう。何か起こるような雰囲気はない。

「ねぇヴィヴィオ、前に見せてくれたバリアジャケットは使えるの?」

 パイを食べながらアリシアが聞いてくる。

「ううん、RHd…私のデバイスは凄く強くて危ないから、ママ…なのはママの解除が無いと通信とか検索魔法みたいな魔法しか使えないんだ。もっと勉強して練習してちゃんと魔法が使えるようになったら解除して貰えるんだけど・・・」

 元の時間のなのははもう居ないからRHdは使えない。

「そうなんだ。解除ってザフィーラを助けに行った時のアレ?」
「うん…どうして?」

 彼女がどうしてそんな事を気にしたのか気になった。

「ヴィヴィオがバリアジャケットを着たらいかにも管理局員ですっ!って感じで格好いいでしょ。でも使えないんじゃしょうがないよね」
「うん…」

 使えないのを当てには出来ない。

(スカリエッティとチェント…あの2人をどうやって止めたらいいんだろう…)

 アリシアと話している間も頭の中ではそんな事を考えていた。
 2人は何が目的でこの時間に来るのか、それすらも判らない。


 
 そんな中楽しそうに走ってくる1人の少女が目にとまった。
 年は同じ位だろうか。何かを追いかけているらしく上を向いたまま走っていると…

「…あ、転んだ…」

 何も無いところで盛大に転んだ。
 しかも顔から思いっきり。
 2人は慌てて彼女に駆け寄る。

「大丈夫?」
「…うん…グスッ」

 涙目な彼女をヴィヴィオが抱き起こして打ったところはないか見る。額と膝が少し赤くなっているくらいだ。

(良かった、そんなに酷い怪我じゃなくて…アレ? どこかで…見たような…それに声も)
「動かないでじっとしててね~、ハイ。」

 アリシアがポケットからファーストエイドキットを取り出して赤くなっている所に貼った。
 その時、再び聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「スバル~、どこにいるの~?」
(スバル? まさか…)
「お姉ちゃん!」
「スバル! ダメじゃない、1人で先に行ったら…転んだの?」
「ええ、さっきここで転んじゃって、少し擦り剥いただけなので直ぐに治りますよ」
「……」
「ありがとうございます。スバル、ちゃんとお礼言った?」
「ううん、ありがとう。恥ずかしいところ見られちゃった。」
「ううん…」
「私達待ち合わせをしているのでこれで。ありがとうございました」
「バイバーイ♪」
「またね♪」

 手を振るアリシアに併せてヴィヴィオもぎこちなく手を振りかえす。スバルは大きく手を振った後、姉の元へ走っていった。

「ねぇヴィヴィオ、あの2人って…スバルさんとギンガさんでしょ」
「えっ?」

 2人の姿が人混みの中に消えた後、固まっていた理由をズバリ言い当てたのに驚く。
 最初に走ってきて転んだ少女がスバルで、後で追いかけてきた少女がギンガ。ヴィヴィオも良く知る2人。

「ヴィヴィオの様子見てたら判っちゃった。本当に過去なんだここ…。」

 改めて時間移動したのを実感しているらしい。

「うん…どうして治療用のファーストエイドキットなんて持ってたの?」
「だって、最近どこかの誰かさんがよく怪我してるから。」

 どこかの誰か…とは誰と言われなくても身にしみてわかっている。
最近始めた戦技用魔法の練習で生傷が増えていた。

「ありがと」
「イエイエ♪」

 ニコッと笑って返すアリシアの何でもない気遣いにヴィヴィオはちょっと嬉しかった。
 

 
 ヴィヴィオと一緒に来たけど、本当に時間移動しちゃったんだ。
 本当は2度目になる時間移動だったけど、1度目は小さかったからあまり覚えてない。
 アリシアはスバル達を見送りながら不思議な体験をしているのを改めて感じていた。
 ヴィヴィオはバリアジャケットが使えないらしい。
 JS事件はミッドに来た後少し調べていた。

(個人名称が事件名になる位の犯罪。スカリエッティはニュース映像しか見ていないしヴィヴィオの言ってるチェントの2人がどんな人かは知らない。でも、2人ともヴィヴィオとは繋がりがある。)

 ここに来た時は何をどうすればいいのか判らなかったけれど、今は何となく

(私に出来ること…ちょっと大変だけどそれしかないか…ママ、そうだよね)

 ここに来る前にプレシアが言った言葉を反芻し、気合いを入れ直した。
  


「確認しておくね。ここは臨海空港…私達の時間では公園になってて、アースラのある公園知ってるよね、私達は今そこにいるの。後数時間でここは火災に巻き込まれる。」
「臨海空港火災…だね。その後閉鎖されちゃったんだよね」

 パイを食べ終わってヴィヴィオはアリシアと状況の確認を始めた。

「スカリエッティとチェントはこの時間で何かをするつもりだと思う。だからアリシアは起きる前にここから離れて。逃げて欲しいの」
「どうして?」

 不思議そうに言うアリシア

「どうしてって…凄く危険なんだよ。今はバリアジャケットが使えないからアリシアに何かあっても助けにいけない。お願い。」

 スカリエッティはとにかくチェントはレリックを持ってる。もし聖王化した時みたいに攻撃されたらヴィヴィオ1人でも逃げられるかわからないのに、アリシアがいてもし何かあったら…
 ヴィヴィオには考えたくなかった。

「…わかった。でも、火災が起きるまで一緒に2人を探す。いいよね」
「うん…」

 決意じみた雰囲気を感じたヴィヴィオは結局押されてしまい。彼女の言葉に訝しげに思いながらも頷くしかなかった。
 それからヴィヴィオはアリシアと2人で空港内を歩き回った。
 時々彼女が何かを見つけて興味津々に見るといった風に、2人でおでかけした時の感じもしていたけれど、そんな楽しい時は一瞬で変わってしまう。


【Caution Emergency Caution Eme…】
「来たっ?」

 アリシアのペンダントが突然警告を発したのだ。辺りを見回すヴィヴィオ

「誰かがこの時間に来たみたい」

 誰か…時間移動できる者は限られている。
 ヴィヴィオ自身かチェント…

『そうか、じゃあ仕方無いな。チェントは君と同じ聖骸布から生まれたマテリアルだ。しかも彼女の中には既にレリックを組み込んである。』

 スカリエッティの言葉を思い出した。
 今思えばJS事件でも彼はレリックを集めていた。前は聖王のゆりかごとヴィヴィオを聖王化させるのに必要だったけれど、今度は何に使う気か判らない。
 でもそのまま見ている訳にもいかない。

「…もしかして、ここにもレリックがあってそれを狙ってきてるの?」
「レリック?」
「うん、凄く強力なロストロギア…危険な物なの。アリシア約束した通りすぐにここから逃げて。おねがいっ」
「ヴィヴィオっ!」

 そう言い残してヴィヴィオは貨物が置かれている区画を目指し駆けだした。



(こんなところで役に立つなんて思わなかった)

 ヴィヴィオはそう思いながら空港の奥を目指していた。
無限書庫でJS事件の経緯を整理していた中にあったレリック情報と事件記録、そこにも臨海空港火災の原因として彼の作った自動兵器=ガジェット・ドローンが関係していたと記載されていた。
 でも、レリックが貨物として持ち込まれたという証拠は無いから少し分の悪い賭け。

【バリバリッ】

 倉庫区画に入り人気の少なくなった場所まで来た時、何か金属がひしゃげる音を聞き急いで向かう。

「こんなに苦労したのに見つかったのがこれ1個なんて…まぁいいわ。」
(ガジェット・ドローンと…クアットロっ!!)

 ヴィヴィオの聞いた音は正にその通りで、扉の部分に人が入れる位の大きな穴が開いていた。音を立てない様に入っていくと誰かがいる気配がする。物陰から見ているとそれはナンバーズのクアットロとガジェット・ドローンだった。彼女は既にレリックを手にしている。

(チェントじゃない…そっか、火災はこっちでも起きてたんだから誰か来ても…)
「何が取られたか調べられると困るわね。あなた達、ここのエネルギーラインを壊してきなさい。」
(!!)

 クアットロの言葉を聞いて思わず声が出そうになる。寸前で声を抑えて暫く見つめていると彼女は消え、ガジェット・ドローンは彼女に言われた通りに動き始めた。

(止めなくちゃっ…ううん、これはこっちでも起きていた。だから…止めちゃいけないの)

 ヴィヴィオのいる時間は空港火災が起きた延長線上にある。
 ここでガジェット・ドローンを止めるか防火設備を動かして空港関係者に知らせれば火災も起こらないだろう。でも、もしそれをしてしまうとヴィヴィオ自身の手で未来を変えてしまう。
 だからここでガジェット・ドローンのする事をみているしか出来ない。

『自分の勝手な悲しみに無関係な人間まで巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしないっ!!』
(…本当にそうだ…本当に…)

 ジュエルシード事件の際クロノが言った言葉。それがヴィヴィオの心に深く刻み混まれている。
 ここでガジェット・ドローンを止めるのは自分勝手な悲しみなんだと。判っていてもこの後苦しみ、悲しむ人が何人も出てくるのに何も出来ない自分が悔しかった。
 悔しくて噛んだ唇から血がにじんでいた。



一方同じ頃

「なのはちゃん、フェイトちゃんおまたせ~」
「ううん、私達こそゴメンね。研修中に遊びに来て迷惑じゃなかった?」
「仕事大変なんでしょ?」

 なのはとフェイトは休暇を合わせてミッドチルダ地上部隊に研修中のはやてのもとに遊びにきていた。
 元々3人共休暇を合わせて会う予定だったのだが、運悪くはやてに指揮官研修が入ってしまった。 そこでなのはとフェイトははやての研修先近くで休暇を過ごそう計画を変えて遊びに来た。
丁度今そこにはやても研修を切り上げて合流したところだった。
 はやては2人に会えた嬉しさと心遣いが心地よかった。

「ううんかまへんよ。丁度私も羽を伸ばしたかったとこや♪ 美味しいお菓子の店とか見所も色々調べてきたよ。」
「じゃあ今日ははやてちゃんのオススメツアーいうことで…思いっきりあそんじゃおう!!」
「「うん!!」」
【ドゴォォオオオオオンン!!】

 フェイトとはやてが手を上げたのと同時に大きな爆発音が周りの空気を震わせた。
 周囲の木々からも鳥が驚いて一気に飛び立つ。

「なに? 今の音…爆発音だよね」
「なのは、はやてっ! あれ」

 フェイトの指さす方を見ると建物から黒煙がのぼっている。再び起こる爆発音。

「あれって…臨海空港」

 事故、事件どっちか判らない。でもする事は決まっていた。

「なのはちゃん、フェイトちゃんゴメン! 遊びに行くのまた今度なっ。」
「はやてちゃん、私達も手伝う」
「うん。」
「でも…休暇中やのに…ごめんな」
「はやて、こういう時は『ありがとう』だよ」
「うん、ありがとうな」

 はやて達はそのまま臨海空港目指して駆け出した。


~~コメント~~
 もしヴィヴィオがなのはStrikerSの時間にやって来たら?
 コンセプトではありませんが、1つの要素になっています。
 今回はタイトル通り「なのはStrikerS 第1話『空への翼』~第2話『機動六課』」とリンクしています。もし、クアットロとスバルが何処かで会っていたら…中の人大変


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