05話 「絆ふたたび」

「こんなに火の周りが速いなんて…」

 さっきまでの雑踏が嘘のよう。
 声の代わりに炎の燃えさかる音が四方から聞こえ、黒煙も相まって本当にここが空港だったのかと思うほど周りが見えない。
 聖王の鎧のおかげでヴィヴィオは炎に包まれた空港の中でも何とか歩き回れる。
 鎧越しに届く熱はヒリヒリと肌を焦がす様で今すぐにでも逃げ出したい。でもスカリエッティとチェントがこの時間に来たのなら必ずここに来るという確信があった。
 歩き回りながらチェントを探す。
 その時炎で壊れていく物音の中に声が聞こえる。
「スバルー何処にいるの-?」
(声? あれはギンガさん。)
「ギンガさん!」
「あっ、さっきの…お願いします、スバルを探してください。さっきまで一緒だったんですがはぐれちゃって。あの子魔法使えないんですっ!!」
「うん、じゃあいっしょ…」

 一緒に探そうと言いかけて思いとどまる。

(ここでしなきゃいけない事があって来てるのに、スバルさんとギンガさんを巻き込んじゃダメ)

 実際ギンガはフェイトに、スバルはなのはによって助け出されている。このままギンガと一緒に居ればフェイトと鉢合わせしてしまう。

「わかりました。私は奥の方を探してきます。見つけたら必ず一緒に避難しますからギンガさんはロビー近くをお願いします」

 そう言ってさっき来たエントランスの方へと駆け出した。

「あっ! ちょっと…どうして私の名前を…」



「ヴィヴィオまた無茶してるんじゃないか…って私も無茶してるんだけどっ。」

 ヴィヴィオと別れた後、アリシアも煙が立ち込めている中ハンカチを口にあてて身を低くしてロビーへと向かっていた。
 『火災が起きる前に空港から離れる』というヴィヴィオとの約束を破ってまでしなくちゃいけない事がある。
 この時間だからこそ出来る事、それが出来るのはアリシアだけ。
でも…

(一体何処に行けばいいの?)

 それをするには一体何処に行けばいいの?
 アリシアにもそれは判らない。
 

 
(一体何処に…)

 同じ頃ヴィヴィオもアリシアと同じく炎の舞う空港の中を彷徨っていた。途中逃げ遅れた人を見つけたら防御フィールドを張って中で救援が来るのを待つように言い別の場所へ向かう。
 当時の火災で重軽傷者だけだったから、これ位時間に関わっても影響しないだろう。
 せめてもの出来る事を…

 そうこうしていると燃えさかる通路の先に炎をものともせず、割れた硝子等も何も無いように歩く人影を見つけた。
 真っ赤な炎の中、金色の髪が炎の起こす風になびいている。体の周りに薄く虹色の光が見えた。
 ヴィヴィオと同じ虹色の鎧を持つ者

「見つけたよっ、チェント!!」

 ヴィヴィオの声に振り向くチェント。こっちを向いて少し驚く

「ここまで追いかけてきたんだ。どうやって…まあいいや」

 成長した外見と違って少し幼さを残した口調、間違いない。

「ここで何をするつもりなの? ここにレリックはもうないよ」
「レリックは要らない。ここは私の家族…姉さん達を奪った仕返しをしにきただけ。マスターがここが最適だと教えてくれた。」
「!? どうしてっ…」

 彼女がここに来た理由はレリックを持ち帰る為じゃなかった。スカリエッティ達を逮捕した者達、即ち機動6課設立時の主要メンバーになったなのは・フェイト・はやてとさっき会ったスバル・ギンガを…
 チェントを睨む。

(プレシアさんの言ってたママ達が巻き込まれた時間ってここなんだ!!)

 これだけ大きな災害現場であれば違和感を持たれず、証拠を残さないとでも思ったのか。

「約束した…っていってもスカリエッティがした約束であなたには関係ないって。だったらさせない! ママ達には指一本触れさせないっ」
「じゃあ、あなたから相手してあげる。」
「!?」

 笑みを浮かべたチェントがそう言うと、次の瞬間ヴィヴィオ目掛けて突っ込んできた。



(酷い…ここまで)

 なのはははやての指揮のもと空港内へ入っていた。
首都航空隊と湾岸特救が来るまでに1人でも多く助けないと。何人の民間人が巻き込まれているのか…高温でバリアジャケットもそんなに持たない。

(急がなきゃ)
「いくよっ、レイジングハート」
「All Right」
「キャッ!」

 なのはが羽を広げ奥へ進もうとした時悲鳴が聞こえた。炎に怯えながらも奥に進もうとする少女を見つける。

「いたっ管理局です。助けに来ました。そのまま動かないで」

叫んだなのはの声に振り向いてこっちに走ってくる。

「いたっ、見つけた!!」
「!? フェイトちゃん?」

 昔のフェイトと見間違えるくらいそっくりな少女。少女はなのはの胸に飛び込んでくる。

「お願いします。RHd封印解除って言って下さい。時間が無いの」
「え、ええっ!?」

何を言っているのかわからず、なのはは素っ頓狂な声をあげた。



「お願いします。一言言ってくれればいいんです。RHd封印解除って言って! 時間がないの」

 アリシアの目的はここにあった。
 この時間に居る高町なのはに直接会ってヴィヴィオのデバイス-RHdの封印を解除してもらう。
 ヴィヴィオの言ったチェントがどんな人かは知らないけれど、もしヴィヴィオが戦う事になったらRHdを使えない彼女に勝ち目は無い。
 この前なのはがデバイスの解除をした時、なのはは「RHd封印解除」と言っただけでデバイスは解除された。
 だから彼女の言葉が鍵になっていると考えた。でもアリシア達が居る元の時間にはなのははもう居ない。だったらこの時間で解除すればいい。もし声以外の認証が必要でもなのは本人が言えばきっと解除できる。
 プレシアはヴィヴィオがなのは達と会うのを止めていたけれど、アリシアが彼女達に会うのを止めてはいなかった。
 直接言わなくてもアリシアはプレシアの意図を読み取っていたのだ。

(ここで私が出来るのはこれなんだっ!)

 こんな火災の、事件の最中ならフェイトと瓜二つのアリシアと会っても他人のそら似と思うだろう。

「お願いします。言って下さい」

 なのはのバリアジャケットを強く掴んで必死に頼んだ。

 

「キャアッ!」

 アリシアがなのはに頼んでいたのと同じ頃、ヴィヴィオはチェントの拳をまともに受けて吹き飛ばされていた。

(聖王の鎧は…チェントもそうだからっ…)

 聖王の血を持つ者同士では鎧は守ってくれないらしい。ぶつかった背中が痛くて熱い。でも、ここで逃げるわけにもいかない。
 一瞬スカリエッティの顔が浮かぶ。でもその表情は優しく、ヴィヴィオが知っている彼じゃない。
 頭を振って意識を繋ぎよろめきながらも立ち上がる。

(こんな事で倒れてられないのっ)

 支えて助けてくれる人達がいる。彼女達の期待を裏切る訳にはいかない。手も足も擦り傷だらけ、でもヴィヴィオの瞳から光は消えていなかった。



「お願いっ、言って下さい!! RHd封印解除って!!」
「…それを言ったらあなたはどうするの? どうしてそんなに言って欲しいの?」

 彼女を見て、どうしてそんなに必死になってまで言って欲しいのか?なのははその理由を教えて欲しかった。

「どうしてかは…言えません。言ってくれたらすぐに避難します。私は1人でも大丈夫だから。」

 何かの起動キー? パスワード? わからない。わからないけど、必死になって頼むのを見て

「わかった。…RHd封印解除…これでいいんだね。」
「ありがとう…なのはさん。」

 なのはがその言葉を言った後、彼女の表情は憑き物が取れたかの様に落ち着き微笑んだ。

(本当に笑ったところもフェイトちゃんそっくり…)



「封印が解けた!?」

 突然RHdの封印が解除されてヴィヴィオは驚く。でも驚いているままではいられない。もう1つの鍵、私の意志は既に決まっている。

「ハァァアアアア!!!」

 チェントに向かって駆け出し、ペンダントの赤い宝石を手にして叫んだ。

「RHdセェェットアァァップ!」

 チェントの目の前でヴィヴィオを中心に虹色の光球が生まれた。その直後光球からチェントに向かって拳が伸びる。避けられずヴィヴィオの拳で壁に叩きつけられるチェント

「クロスファイァアアアアシュートッ!」

 間髪置かず聞こえた声と共に光球から、数発の魔法弾が現れ集束しそのままチェントへ向かって伸びた。炎と煙の中で壁が壊れる音が周りに響く。

「すっごく痛かったんだからっ!」

 虹色の光が消えた場所、そこには白いバリアジャケットを纏ったヴィヴィオが立っていた。


~~コメント~~
もしヴィヴィオがなのはStrikerSの世界にやってきたら。
コンセプトではありませんが、重要な要素の1つです。
前話まででアリシアの立ち位置がはっきりしませんでしたが、今話でどういう位置に居るのか見えたのではないでしょうか。

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