07話 「Mother&Children」

「ここは…あれっ?」

 クラナガンにあるショッピングモールで高町なのはは気がついた。

「私…どうしてここにいるの」

 何かを買いに来たと思うのだけれど、何を何処に買いに来たのか全然思い出せない。
 ど忘れにも程がある。

「レイジングハート、私ここに何しに来たか覚えてる?」
【Sorry I don't understand it, too.There's an omission in my memory partly】

 ずっと一緒のレイジングハートも判らず、記録が混乱している。

「レイジングハートも?」

 2人…1人とデバイスは顔を見合わせて首を傾げていた。
 同じ頃、クラナガン郊外にあるある邸宅でも

「ん? 私何でここにいるん?」
「はやてちゃん、リインは一体何をしていたのでしょう?」

 ベッドの上ではやてとリインは目を覚ました。
 ロストロギアが関係した事件を専門に捜査する部隊を教会支部にもと走り回っていたのはおぼろげながら覚えていた。でも、そもそもどうして自宅のそれもベッドで寝ていたのかわからない。

「さぁ??」

 リインの質問にはやても首を傾げて答えるしか無かった。

「主はやて、失礼します」
「はやて~っ!」
「はやてちゃん」

 寝室の扉が開きシグナム・ヴィータ・シャマルが入ってくる。

「私達は一体何故ここに居るのでしょうか?」
「さっき気がついたらソファーの上で」
「私もです」

 どうやら3人も同じらしい。

「私もわからん。みんな何ともないか?ザフィーラは?」
「特に何も異常は…ザフィーラは外に居ます。気がついたらリビングにいたそうです。」

 ますます訳が判らなくなる。
 はやてとリインだけでなく、守護騎士全員の記憶を奪うなど出来るのか? そんなの聞いた事がない。

「とりあえず情報収集しよ。みんな所属部署にアクセスして状況確認な。私もカリムと連絡取ってみる」

 はやて自身何かが抜け落ちた様な気がしていた。 



「う~ん…私…戻ってきたんだ。痛ッ」

 ヴィヴィオが目覚めた時、彼女の体はベッドに寝かされていた。
 体を起こそうとした瞬間腕に激痛が走る。腕を見ると包帯が巻かれていた。

「起きたか」
「チンク!? イタタっ!!」
「無理をするな」

 ベッドの横に居たのはチンク・ナカジマだった。
 驚いて体を動かそうとすると今度は足や背中から痛みが走りバランスを崩した。ベッドから落ちそうになったのをチンクが支える。

「治療魔法を使えなくて、慌てていて消毒と包帯を巻くくらいしか出来なかったんだ。すまない」

 どうやら包帯は彼女が巻いてくれたらしい、慌てた彼女が想像出来ずどんな風だったのか少し気になる。

「ううん、ありがとう。ここは元の時間?」
「そうだ。私は聖王教会でカリムと話していたら突然カリムが消えて辺りも変わってしまったんだ。暫く教会内を歩いていたのだがウェンディから通信があってここに来るようにと。」

 騎士カリムも消えてしまったのに驚く

「この研究施設に着いた後、プレシア・テスタロッサという研究者にヴィヴィオと彼女をベッドに運んで欲しいと頼まれてここに寝かせたんだが…驚いたぞ、2人とも苦しそうな声を出した後、裂傷と火傷が増えていくんだから」
(そっか…あっちで怪我したらこっちにも影響するんだ)

 チンクに言われてジュエルシード事件の時を思い出した。
 ジュエルシード事件の最中に行った際、ヴィヴィオはジュエルシードを収集中のフェイトとアルフに1度倒されている。
 元の時間に戻ってきた時、なのはと一緒に側で付き添ってくれていたユーノもよく似た話をしていた。

「チンク、アリシアは?」
「隣で良く眠っている。」

 チンクの指さした方を見るとアリシアが寝息を立てている。

「よかった…」

 一緒に戻って来られたのと無事だったのを知って安堵の息をつく。

「これだけ騒いでも起きないのだからずいぶん熟睡しているんだろう。」

 多分違うと彼女に突っ込みたかったけど、そんなのより気になる事がいくつもあった。

「って、ここで寝てる場合じゃないんだ!! ッツ!!」

 ベッドから降りて立ち上がろうとするが足に痛みが走り力が入らずふらつく。

「無理をするな。ノーヴェに薬を持ってきて貰う様に頼んでいる。届くまで安静にしていてくれ。」
「私なんかの事よりチンク! 今どうなってるの?」

 元の時間、元の世界に戻ったのか? 戻っていないのか? 
 それ以上になのはやフェイトは無事なのかがヴィヴィオには気がかりだった。

「…わかった。ヴィヴィオが起きたら連れてきて欲しいとも頼まれている。少し待っていてくれ」

 そう言いチンクは部屋を出て行き再び入ってきた時、彼女は車椅子を押していた。



「ヴィヴィオ、教えてくれないか…」

 プレシアのいる部屋に行くまでの間、車椅子を押しながらチンクが聞く。

「何?」

「プレシア・テスタロッサとアリシア…テスタロッサというファミリーネーム、何よりアリシアは彼女とあまりにも似ている…と思うんだが」

 気にもなるだろう。教えて良いものかどうか少し迷う。
 でも賢い彼女の事だからすぐに調べあげるだろうと思い直し

「絶対みんなに話しちゃダメだよ。あのね…」

 腰を上げてチンクに顔を近づけてそっと耳打ちした。

「! まさかそんな事が…そうか、ヴィヴィオや私達…彼女はDrのあの技術を持っているのか…」

 戦闘機人と騎士・魔導師という違いはあるけれど、チンクとヴィヴィオは似たような生まれ方をしている。元の遺伝子、複製母体から作られたクローン。そしてフェイトも…

「…うん…」
「…今の話は私の胸にしまっておこう」
「ありがと、チンク」

 元ナンバーズの7人が聖王教会と管理局局員の1家庭に預かられている。彼女達の近くに主犯スカリエッティと同じ技術を持つ者が居ると知られれば要らぬ疑いを持たれかねない。
 なのは・フェイト・はやてとリンディを初めとする関係者が隠している理由のひとつがそれだった。
 ヴィヴィオもその重要性は判っているし、ヴィヴィオにとってはフェイトはフェイトであってアリシアじゃないし、アリシアもそうだ。
 そんな話をしているとプレシアの居る研究室に着いた。

「失礼します」
「起きたのね、お疲れ様」

 振り向いたプレシアはヴィヴィオに微笑んだ。

(プレシアさん…少し疲れてるみたい。)

 もしかして、ヴィヴィオ達が過去に行っている間ずっと何か調べていたのか? 心配になる。

「その様子じゃデバイスの解除は成功したようね。アリシアには辛い役目を受けて貰ったけれど、2人とも無事で良かったわ。」
「!?」

 ヴィヴィオは聞き返した。まだRHdの起動解除が出来た事を話していないのに知っている。

(まさか…)
【ヴィヴィオは向こうのなのはさんやフェイトさん、知っている人には絶対に会わないこと。理由はわかるわね】
(アリシアが会うのは止めてなかった…あの時アリシアはプレシアさんが何をして欲しいのか何の為に一緒に言って欲しいのかにわかってたんだ。)

 火災が起こる前に逃げてと言った時、それまで一緒に探すと彼女が言っていた理由をその時知った。
 後で彼女が起きたらもう一度ちゃんと礼を言おう、ありがとうと。

「早速で悪いのだけど、過去であった事を教えて貰えるかしら」

 ヴィヴィオは向かった先、過去の臨海空港で何が起きたかを彼女に話す。
臨海空港の荷物にレリックが運び込まれて当時のクアットロが持ち去った事、証拠隠滅を図るために火災を起こした事、炎で空港内が真っ赤に染まった時チェントが現れた事、チェントの目的はなのはやフェイト・はやての様にスカリエッティとナンバーズを捕らえた者への復讐だと言う事。
 スバルを守る為に無我夢中で砲撃魔法を撃ち終えた後、彼女の姿は無かった事…
 プレシアとチンクはヴィヴィオの話を何も言わず聞いていた。
 ヴィヴィオが一通り話終えたのを見計らって

「臨海空港…新暦71年4月頃、確かにクアットロがレリックを回収していた。チェント…ナンバー100か、ドクター…彼の教育を受けているのなら私達を奪われたと考えているのも頷ける」

 かつて同じ様にスカリエッティの教育プログラムを受けているチンクにとっては納得がいくらしい。

「でも、その為にあいつは…チェントはなのはママ達をっ!!」
「落ち着いて考えてくれ。ヴィヴィオにとってなのはさんやフェイトさんを家族と慕う様に彼女にとっては私達が姉なんだ。今ヴィヴィオが2人を助けようとする様にチェントもそうしているんだ」
「でもっ!」
「ヴィヴィオ、善悪じゃないの…あなたの言う通り、奪われた…無くした家族を取り戻したいと思う気持ちは誰にでもあるわ…私も…それは善悪という前に心の問題なのよ」
「……」

 チンクとプレシアの話はヴィヴィオにも理解出来る。
 でも頭で判っても高町ヴィヴィオ…高町なのはの娘としては到底納得できなかった。

「今はまだ納得出来ないでしょう。話を変えましょう。」

 それ以上この件について話しても意味が無いと考えたプレシアは話題を変えた。来た時と同じ様に今の記録と元々の記録を表示し、異なる部分をピックアップしていく。

「今の状況だけれどあなた達が過去に行ってから今日で4日目、昨日あたりからミッドや管理世界が変化してきたわ。」
「今は時空管理局の本局も各管理世界の地上本部・聖王教会も存在している。勿論フェイトやなのはさん達もこの時間に居るわ。」

 なのは達が居る。それを聞いて俯いていた顔を上げた。

「でも、まだ元の時間には戻っていないわ。ここでもJS事件は起きているけれど、機動6課が解決していないの。」
「どういう意味ですか?」
「機動6課は設立されてレリックを追っていた様だけれど、設立から5ヶ月後…公開陳述会前に査察があって機動6課は解体されているわ。彼女達は関係者の何人かでそのまま調査チームを作って捜査を続けたみたいね」
「彼女だとあまり不思議でもないな」
「私も一度会ったけれど、彼女なら追い続けるでしょう」

 ヴィヴィオもそれには同意できる。

「その後、本局所属の艦船アースラを廃艦前にミッド地上へ移動、最後は聖王のゆりかごを止める為に突貫させたらしいわね。」

「…そ、それも不思議ではないな…」
「調査チームの活躍でスカリエッティ・戦闘機人全員を逮捕・保護。でも度重なる命令違反と本局から地上本部への強制介入と言われた責任を取って八神はやては管理局を退官。」
「うそっ!」
「直後に聖王教会騎士団に所属。彼女の家族以外の関係者は元の部署に戻ったそうよ。」
「……」

 どうやらこの時間のはやても凄いらしい。色んな意味で

「相違点の始まりは…75年の5月頃だけれど…詳しい情報欲しいわね。ヴィヴィオ、アリシアはまだ眠っているの?」
「えぇっと…はい…とても…」
「判ったわ…リニスお願い。後で行くから起こしてきて頂戴」

 プレシアに呼ばれて隅で寝ていたリニスが起き上がり部屋を出て行った。

「リニス…いつの間に?」
「ウェンディが私達をここに集めた後連れてきた」

 プレシアやアリシアにとってリニスも家族の一員だから首輪にアリシア達と同じフィールドを作れる様にしていたらしい。

「話はわかったわ、詳しい時間を調べている間部屋を用意するからそこで休みなさい」

 プレシアはそう言うとモニタへと視線を移し、中断していた作業へと戻った。

「チンク…出た方がいいみたい」
「そうだな」

 彼女の表情が先程まで話していた時の優しい顔から真剣な顔に変わったのを見てチンクに声をかけ部屋を後にした。

「ノーヴェやディエチ…みんなここにいるの?」
「ああ、さっきセインを連れてきたからロビーでみんなくつろいでいる。会いにいくか?」
「うん」

 ヴィヴィオはそのまま車椅子を押して貰いロビーへと向かった。



「ごきげんよう~♪」
「おかえり~ヴィヴィオっ♪ って!!」
「ごきげんようって、陛下!?」
「ちょちょっとヴィヴィオ!」
「ヴィヴィオ、どうしたんだ!?」
「「陛下!?」」
「ヴィヴィオ、その怪我は…」

 ヴィヴィオの挨拶に6人全員が振り向き、6人全員が挨拶の途中で詰まり、6人全員が驚いて駆け寄ってくる。
 それもその筈、ヴィヴィオは両手両足を包帯でグルグル巻きにされ、頭にも包帯が巻かれ顔にもテープが張られている。更にそんな格好で車椅子に座った状態で現れたのだから驚かれるのも無理もなかった。

「へへへ…ちょっと…怪我しちゃった」
「陛下、全然ちょっとって風に見えないですよ。首の後ろ…背中も強く打ってるでしょ」

 流石にセインはよく見てる。

「本当なのか?」

 慌ててチンクが髪をあげて首筋を見ようとする。

「痛っ!!」
「すまない。気付かなくて…」


 
(思ったより酷いかも…)

 みんなの前で笑ってはいたけど、ヴィヴィオはそう感じていた。
 いつも守ってくれた聖王の鎧が同じ聖王の鎧を持つチェントとの戦いで使えなかった。もしバリアジャケットの起動があと少し遅れていれば今よりもっと酷かっただろう。

「ヴィヴィオ、今なのはさんに連絡した。直ぐにこっちに来るそうだ。」
「ええっノーヴェ、言っちゃったの!!」
「私達は全員治療魔法を使えないからな。ノーヴェを責めないでくれ、妹達が誰も言わなくても私が後で連絡するつもりだった。」
「…」

 チンクにそう言われたら何も言えなかった。



「ヴィヴィオが大怪我したって!?」
『はい、私達も今会って知ったばかりで、両手両足が包帯でグルグル巻きにされて歩けないみたいで』
「そんなにっ! 今からそっちに行くわ。今どこ?」
 なのはは呼び出された通信を取って驚いた。
 教会関係者からの通信も珍しいけれどそれを忘れさせる程の事態がなのはを襲った。

(ヴィヴィオが大怪我…どこで…何をしたの…じゃなくて急いで行かなきゃ!!)
 
「ユーノ君とは連絡取れないし…そうだ、シャマルさん!」

なのはは走り出そうとして立ち止まり、再び端末を呼び出す。

『はい~八神です』
「はやてちゃん!!」
『久しぶり~♪、どうしたんなのはちゃん、えらい慌てて?』


 
「みんな、いくよっ! 準備して」

 通信を切ったはやてはリビングにいた全員に声をかけた。

「はやてちゃん行くってどこへです?」
「今日は外食か?」
「え~折角夕食の準備してるのに~っ!!」
「何か起きたのですか? 我が主」
「なんかちょお怖い話が聞こえた気がしたけど…ヴィヴィオが立てへん位の大怪我したらしい。シャマル急いで準備して、あと医療機器で持って行ける物があったらそれも、リインとザフィーラはシャマルを手伝って」

 一瞬背筋が寒くなる様な発言があったがそれを無視してシャマルとリインに言う

「はいっ今すぐに」
「了解ですっ」
「了解した」

 リビングから慌ただしく出て行くシャマルとそれを追う2人。

「シグナムとヴィータも一緒に行くから出かける準備して、多分やけどここに居る理由がわかると思う。元捜査官の勘みたいなもんやけど…臨機応変に動ける様にな」
「わかりました」
「わかった」

 何か事件が起きているのか、そもそも事件なのかどうかもまだ判らない。だがはやての中にはヴィヴィオがいるプレシアのいる研究施設に行けば何か判る、何かが進むと言う確信があった。

(ヴィヴィオがそんな怪我するなんて…何かあった筈や何かが…)
 

~~コメント~~
 もしヴィヴィオがなのはStrikerSの世界にやってきたら?
 今までは「ジュエルシード事件」「闇の書事件」という風に事件の起きた時間に行きましたが、今回の事件の発端はヴィヴィオと同じ時間で起きています。
 そう言う意味では行ったり来たり出来る自由度があって書きやすいと考えてましたが、後になって登場キャラクター数を思い出し頭を抱えています。
 1章は色々急展開の連続でヴィヴィオも振り回されっぱなしでしたが、2章はちょっと違った世界でのヴィヴィオの精神面が重点になりそうです。

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