08話 「彼女の不安」

「ヴィヴィオっ!!」
「なのはママっ」

 小1時間後ヴィヴィオがウェンディ達と話しているとなのはが駆け込んで来た。
 肩で息をしている。余程急いできたらしい。
 ヴィヴィオの声を聞いて再びこっちに走ってきたけれど、あと2、3歩のところで立ち止まってしまう。

「ヴィヴィオ…」

 見せたくない格好…ヴィヴィオの姿を見てなのはも痛々しそうに顔をしかめた。
「ヴィヴィオ達が寝ていたら突然…治癒魔法が使えず処置だけさせて貰ったんだが…すまない」
「……」
「ううん、チンクのせいじゃないよ。」
「使ったんだね…ヴィヴィオ…」
「うん…でも私がちょっと失敗しただけ…なのはママ、平気だよ。ホラっ」

 立ち上がって微笑む。
 足や腕、背中に痛みが駆け巡る。でもなのはに心配をかけるのに比べたら何でもない。
 でもなのはの所まで歩こうとした時足がふらつきバランスを崩した。

「ッッツ!!」

 倒れると思った瞬間、柔らかいものに包まれる。目をあけるとなのはの顔がすぐ近くにあった。

「もういい、もういいから…もういい…お願いだからこれ以上無茶しないで…」
「……ごめんなさい……」

 こんな間近でなのはの涙を見たのは初めてで、それ以上何も言えなかった。


「なのはちゃんっ遅れてゴメンっ!!」
「ヴィヴィオちゃん!!…って」 
「私達…もしかしてお邪魔?」
「無事だったんだからいいんじゃねえか?」
「そうだな…」

 遅れて入ってきたはやて達の存在にヴィヴィオ達が気付いたのはそれから数分が経過した後である。



「フゥ、骨にも異常ないみたいですし怪我も治ったからこれで大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。シャマル先生」
「ありがとうございます。」

 さっきまで寝ていた部屋でヴィヴィオはアリシアと共にシャマルの治療魔法を受けた。
 暖かい緑色の光が消えると傷や背中、全身の痛みが消えていた。巻かれていた包帯を外すと傷も完全に無くなっている。
 その場でピョンピョンと跳ねて腕をグルグルグルっと回してみる。違和感もない。

「でも、怪我を治すのに魔力と体力が消耗してるから、今日1日はゆっくり休んでないとダメよ。アリシアちゃんもね」
「「はい」」
(これでまた行ける…元の時間を取り戻すんだ)

もう一度追いかけられる状態になったのが嬉しく、自然と手に力が入った。



「じゃあヴィヴィオ、元気になったところで何をしていたのか教えて貰えるかな、アリシアちゃんも」
「…えっ!?」
「ヒッ!!」

 振り向いた瞬間、凍り付いて固まった。アリシアも引きつった声をあげる。

(なのはママ…怒ってる…すっごく怒ってる)

 にこやかな笑みを浮かべているなのは。でも目は全く笑っていない。

「私もウェンディからの又聞きとさっき聞いただけだからな。出来れば最初から教えて欲しい。妹達も聞きたいだろう」
「私達もな!」
「ですっ!!」
「そうですね」

 部屋に居たチンク・はやて、リインフォースⅡ、シャマルまで目が笑ってなかった。
 逃げ道は完全に閉ざされた。

「どうする…ヴィヴィオ…」
「どうするって…」

 ここまで来たら流石にごまかせない。

「じゃあさっきのロビーで…全部話します」

 そう言うとヴィヴィオに向けられた視線は幾分和らいだ。

(こ…怖かった…)

 気がつくとヴィヴィオもアリシアも足が震えていた。



「プレシアさん、少しいいですか?」
「いいわよ…ヴィヴィオ、怪我を治して貰ったのね。ごめんなさい、私が治せればよかったのだけれど回復魔法は得意じゃないの…」

 ヴィヴィオはロビーに行く前にプレシアの研究室に寄った。

「ううん、ママ達がここに来てて事情を教えて欲しいって…話しても…」

 ヴィヴィオの方を一瞬振り返った後、再びモニタ画面をみるプレシア。

「構わないわよ。今教えても元の時間に戻ればブレスレットを持たない人は皆忘れてる…最初から知らなかったと言う方が正しいわね。」
「それって、どういう…」
「過去が変われば過去から見れば未来の現在も変わってしまう。ここにいるヴィヴィオの母、高町なのはは仮初め。ヴィヴィオが過去を変えたら消えた彼女が現れた様にその時間の彼女が現れるわ。その時ヴィヴィオの話は覚えていないでしょう」
「!?」

 そこまで言われて気付いた。
 ヴィヴィオをはじめプレシア・アリシアやチンク・ウェンディ達の様に元の時間から来た者以外は時間の影響を受けている。

「でもっ前はちゃんとママは私の事も全部覚えてました。」

 ヴィヴィオは何度か時間を移動した事がある。その時は帰って来ても全部覚えていたし変わったところも無かった。

「コピーとオリジナルの違いね。コピーされた魔導書がどこまでオリジナルと一緒だったのか知らないけど、時空転移…時間移動は本来そういうものよ。先にロビーに行きなさい、今の調査が終われば後でいくわ。」

 もっと聞きたい事があったけれど、彼女の作業を邪魔したくなくて

「はい…」

 そっと研究室を後にした。



 ヴィヴィオがトボトボと研究室を出て行ったのを見送った後、プレシアはフゥッと息をついた。

「まだあの子には早すぎるわ…どれ程重い物を背負っているのかを知るには…」

 ベルカ文字で書かれた書物型デバイス【時の魔導書】ロストロギアとは言っても書物型デバイスでありそれには幾つかの詩編で今までの使い手について書かれていた。
 自らの存在だけでなく周辺世界まで巻き込む程の力。研究が終わっても決して表に出せずに消した方がいいとプレシアが即断するほど強大で危険な能力。
 これを知り、力を背負うにはヴィヴィオは幼すぎる。
 プレシアは時の魔導書を作った者を恨みたくなった。



「ヴィヴィオ、どうしたの?」
「…」

 先にプレシアの研究室に寄ると言って別れた後、気になってアリシアはヴィヴィオを探しに来た。
 彼女は研究室の前で立っていた。でも…

「ママに会えなかったの? それとも何か言われた?」
「…アリシア…ううん、何でもない。何でもないから」
(…ヴィヴィオ…)
「…うん、みんな待ってるから行こうっ」
「うん」

 笑って答えるヴィヴィオ。
 でもアリシアは彼女が何か悩んでいてそれを隠してるのがすぐに判った。

(ヴィヴィオ、ママと何かあったの? ママに何を言われたの…)

 悩んでるだけじゃなく相談して欲しかった。心に隙間風が入ってきた様な気持ちだった。


~コメント~
 高町ヴィヴィオがなのはStrikerSの世界に来たら?
 1章が機動6課の起因になった空港火災とのリンクでした。
 2章は章のタイトル通りヴィヴィオを取り巻く家族・友人達との触れ合い・葛藤・成長がメインになります。
 元の時間と同じ様に見えて色々違う別世界、ちょっと行って見たいですよね。
 なのは達に睨まれたヴィヴィオとアリシア、きっと蛇に睨まれた蛙の様だったんでしょうね。

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