10話 「高町ヴィヴィオ」

「ヴィヴィオ、どこに行っちゃったんだろう?」

 なのは達に今までの経緯を話した後、彼女は忽然と姿を消してしまった。
 何時に行けば良いかも判らないし、今日1日は休む様にシャマルからも言われているから他の時間に行ったとは思えないし…

「アリシアちゃん、ヴィヴィオ見なかった?」
「なのはさん? 私も探してまして」

 施設の中をうろついていると、なのはから声をかけられる。

「そうなんだ、ヴィヴィオ見かけたら私が探していたって」
「わかりました」

 そう言うと、なのはは休憩室の方へ歩いて行った。
(なのはさん、元気になったみたいで良かった…ママはっきり言いすぎるんだからっ…)

 アリシアは持って回る言い方をされるのは嫌いだ。でも今ははっきりズバズバと言い過ぎるの考えものだと思った。
 プレシアがヴィヴィオや全員の目の前でなのは達に『今のあなた達は仮の姿、時間に作られた偽物』と言い切ったのだ。
 彼女の言うとおり何も間違ってない。でも、それを聞いたなのは達とヴィヴィオはかなりのショックを受けただろう。

「ママ…そうだっ! ヴィヴィオの事聞かなきゃ」

 引っかかったのは、彼女が廊下で1人何か悩んでいた事。
 プレシアの研究室前で居たのだから何か知ってる筈。アリシアはヴィヴィオを探すのを一旦止めて研究室へと向かった。


 
「ママっ、ヴィヴィオに何か言ったでしょっ!!」

 部屋に入るなりプレシアに言う

「アリシア、入るならちゃんと言いなさい。危ない物があったら…」
「ヴィヴィオに変な事言ったでしょっ、何を言ったの!」

 振り返りながら言うプレシアをたたみ掛ける。

「何を…ロビーの話かしら?」
「ううん、その前にヴィヴィオがここに来た時」

 彼女は少し考えてから何か思い当たったのか

「ええ、時の魔導書について少しレクチャーしたわよ。今の世界は偽物でここの高町なのはに話しても、元の世界に戻してしまえば元の世界の彼女は話した内容を覚えていないって」
「……」

 彼女がヴィヴィオに話したのはロビーで全員に話した内容とほとんど同じだった。

(みんなに話したのとほとんど同じ…ヴィヴィオはどうして悩んだの?)

「それがどうしたの?」
(違うところ…ママは『戻してしまえば』って…じゃあヴィヴィオはっ)

 アリシア・テスタロッサは魔法資質を持っていない。
 その代わりに管理局執務官の妹、フェイト・T・ハラオウンを同等以上の思考の柔軟さを持っている。
 臨海空港へと向かう前に交わした一言からプレシアがアリシアに何を求めているのかを読み解いたのもその柔軟な思考からだった。

「ママ、ヴィヴィオに『元の世界に戻してしまえば』って言ったの?」
「ええそうよ」
(やっぱり!)

 彼女が何を悩んだのかが判った。折角会えたなのはとも話さずに姿を消した理由とも合う。

「ママのバカッ!! ヴィヴィオの気持ち考えてよっ!」

 そう言い残して研究室を飛び出した。



「ここは変わってないや…」

 ヴィヴィオは1人聖王教会にやってきていた。今日は休むように言われているし、次にどの時間に行けばいいのかが判らないと動くにも動けない。
 ここはプレシアの研究施設から歩いて来られ、ヴィヴィオのお気に入りの場所でもあった。
 教会の庭園から少し歩くと辺りが一望出来る丘がある。そこに横になって木々の香りと風を感じるのが好きだった。

『過去が変われば過去から見れば未来の現在も変わってしまう。ここにいるヴィヴィオの母、高町なのはは仮初め。ヴィヴィオが過去を変えたら消えた彼女が現れた様にその時間の彼女が現れるわ。その時ヴィヴィオの話は覚えていないでしょう』

 彼女の言葉、それは即ち

「私が決める…望む未来か…」

 先人の言葉を借りるなら、時間の…今いる者全ての未来をヴィヴィオは握っている。
 ベルカ聖王が何故聖王として君臨出来たのか? 
 この力を使った結果なのだろう。敵対する者や意に反する者を全て消し去る、元から居なくなってしまえばいい。
 証拠も何もないけれど、ヴィヴィオにはそうだと思う確信があった。

「私はまた違う未来を作っちゃうのかな…」

 このまま時の魔導書も今まで持っていた本も手放したい、無くなっちゃえばいい。でも、そうしたらこの時間をヴィヴィオ自身が選んだ事になる。

『―聖王に課せられた呪い―』

   『―閉ざし開く事が出来る鍵―』

     『―世界を統べるが為に課せられた代償―』

『―何度世代が変わっても消える事のない―』

   『―それも1つの世界、無数にある世界の1つ―』

     『―血に課せられた呪い―』

 前に行った闇の書事件でヴィヴィオが闇の書に取り込まれた時、闇の書の意志によって見せられた悪夢と彼女の言葉。あの時は心を揺さぶる為の物だと思っていた。
 でも…闇の書は…彼女は…

「リインフォースさんはこれを言ってたんだ…」

 揺さぶったのではなく、真実を教えてくれていた。
 本当に呪いそのもの。手放す事も出来ず、抗う事も出来ずただひたすらに持ち続けていく。
 終わることの無い恐怖。

「私…どうすればいいのかな…」
「このままでいいんじゃない?」
「!?」

 声が聞こえて慌てて起き上がるとそこにはアリシアが立っていた。

「アリシア」
「多分ここじゃないかってね。大正解♪」

 彼女はニコッと笑って隣に腰を下ろす。

「さっき、ママのところに行ってから何か悩んでるでしょ」
「…ううん、何も悩んでないよ」
「ウソ。さっき言ってたじゃない『私どうすればいいのかな』って」

 独り言を聞かれていたのに気付く。

「アリシアいつから聞いてたの?」
「リインフォースさんが…ってとこから。」

 彼女が来たのはついさっきみたいだ。

「それで、何を悩んでたの?」
「だから、何も悩んでないって!」

 アリシアに言えばきっと何かしようとするだろう。
 空港火災で1つ間違えば死んだかも知れないのに、ヴィヴィオを助ける為に怪我してまでRHdを解除しようとしたのだ。
 それが判っているから余計に言えない。

「意地張るなら勝手に考えちゃうね。ヴィヴィオは今自分の力、時間を移動出来る力が怖くなってる。フェイトさんやなのはさんや私が居なくなる時間を作っちゃったらどうしようって、そう思ってる。」

 一瞬言葉を失う。

「…どうしてそれを」
「やっぱりね…」

 そう言ってフゥッとため息をついた後、突然彼女はヴィヴィオに馬乗りになって頬をつねった。

「ヒョ、ヒョッホ(ちょ、ちょっと)」
「前に言ったよね、それが何なの? 胸をはってよ、ヴィヴィオしか出来ないんじゃない、ヴィヴィオだから出来るんだって。私達まだ子供なんだから今すぐ出来なくてもいいじゃない。頑張って出来る様になればいいんだから。」
「……」
「ヴィヴィオ…未来のヴィヴィオが助けてくれたから、私達はここに居るの。昔の王様なんて関係ないじゃない。」
「ヴィヴィオは高町ヴィヴィオでStヒルデ学院初等部3年生で本が好きでちょっと変わった魔法が使える女の子…そして」
「……」
「私のとっても大切な親友」

 そう言うとつねっていた手を離した。

「アリシア…」

 ずっと1人で悩んでいた。彼女の言う通り怖くなっていた。
 なのはがママになってくれた時、嬉しい気持ちの中にチクリと胸が痛んだ。
 もし私のママにならなければもっと違う未来があったのか、その未来を私が奪ったのかと。

 世界は必然が折り混ざって成り立っている。
 それがどんなに偶然と思われようと、何か理由があるからそこにある。
 ユーノが教えてくれた言葉 

 私は聖王なんかじゃない。
 なのははなのはママで私は娘、高町ヴィヴィオなんだ。
 理由なんて要らない。
 私が私、高町ヴィヴィオで居られるだけ、それだけで十分なんだ。
 何度間違っても良い、最後まで諦めなければそれが私の未来なんだ
 さっきまで黒く覆われていた闇が晴れた気がした。

「そうでしょ?」
「うん、そうだね。本当にそうだ…ありがと」
「イエイエ♪」

 そう答えた彼女の笑顔が心に鮮明に焼き付けられた時だった。
  

~~コメント~~
 もし高町ヴィヴィオがなのはStrikerSの世界にやってきたら?
 AntherStoryで何故成長したヴィヴィオがプレシア・アリシア(リニス)を助けたのかというフラグをなんとか回収できました。
 アリシアにバカと言われたプレシアの表情をちょっと見てみたいです。きっとそれはもう世も末だと言うくらいの顔をしているでしょう。
 第1章のタイトル「再びの悪夢」、ヴィヴィオはいくつかの悪夢の様な出来事に遭遇します。スカリエッティ達に会った事、なのは達が自分のせいで消えてしまった事、そして最も彼女の心を揺るがしたのは彼女自身が歴史、過去・現在・未来を変える事が出来る力を改めて感じた事です。
 でも、そんな悪夢を乗り越えたからこそ成長したヴィヴィオがいるのでしょう。
 第2章は更に登場するキャラクターも増えてくるので…ちゃんとまとまるか心配です。
 そんなSSですが楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。

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