11話 「穏やかな休息」

「ねぇヴィヴィオ、明日一緒にお買い物行かない?」
「えっ?」

 アリシアと一緒に研究施設へと戻ってきた時、駆け寄ってきたなのはの言葉に思わず聞き返す。

「だから、明日一緒にお買い物に行こうよ。服とかアクセサリーとか見たり、一緒にアイス食べたり。それか一緒に遊びに行こう!! きっと楽しいよ。だからね!」
 なのはママと一緒にお出かけできる。色々ありすぎて羽を伸ばしたい気持ちもあるし、ママと一緒ならきっと楽しい。

「でも…」

 元の時間に戻れば、今のなのはは一緒に行った事も忘れてしまう。言わば目の前の彼女はそっくりな別人。それに…

「それに…次行く時間が判ったら…」

 元の時間を取り戻しにに行かなきゃいけない。

「シャマルさんに聞いたら、明日くらいゆっくりした方が良いって。プレシアさんにも許可を貰ってるし」
「行っておいでよ。私はママのお手伝いしてるから…」
「あれだけ大変な目にあったんだ。母に甘えてくればいい、存分にな」
「そうそう♪」

 アリシアも、近くで聞いていたチンクも勧めている。

「じゃあ、うんっ♪」
「決まり♪ じゃあママ家に戻って着替えとか取ってくるね。ヴィヴィオ制服しか持ってないでしょ。アリシアちゃんのも持ってくるね」
「うん、ありがとママ」
「お願いします」
「じゃあ家まで送るッス。チンク姉、行ってもいいッスか?」
「ああ、ウェンディ頼む。」
「了解ッス」

 トントン拍子に話が進んで、ライディングボードに乗って2人は飛んでいってしまった。
 明日が楽しみになった。


 ―翌日―

「じゃあ行ってきます。アリシア何かあったらすぐに教えてね」
「うん、楽しんできて。」
「陛下~お土産よろしく~」
「あっ私のも!!」
「セイン、ノーヴェ! 2人の話は気にせず楽しんできてくれ」
「はい行ってきます」

 ヴィヴィオはなのはと手を繋いで施設を後にした。



「ママのお手伝いしてくる」

 2人を見送った後、アリシアがそう言って彼女の部屋へ向かったのを見てチンクは2人に声をかけた

「セイン、ノーヴェ…妹達をロビーに集めてくれるか。」
「了解~」
「わかった」

 2人はそう答えてそれぞれ呼びに行った。

「考えすぎだと良いのだが…」

 そう呟きチンクもロビーへと向かった。


「チンク姉、みんな集まったよ~」
「何か?」
「気になる事があってな集まって貰った。昨日、セインに教会本部に様子を見に行って貰ったんだ。セイン、すまないがさっき聞かせてくれた話をたのめるか」
「いいよ。昨日教会本部に戻ったんだ。でもなんか変でさ、私たちの部屋は無いし、騎士カリムや騎士シャッハも居てごきげんようって挨拶してくれるんだけど、初めて会ったみたいな感じで話すんだ」
「私たちの部屋は残っているのでしょうか。」
「ううん、宿舎も見たけど3人とも見つかんなかった」

 ディードの問いに答えるセイン

「昨夜それを聞いてな少し引っかかったんだ。今の世界でもJS事件は起きている筈なんだが、私たちの居場所が無くなっている…ここでは元々無いんじゃないかとな」
「チンク姉、どういう…?」
「私達の元居た時間ではセイン・オットー・ディードは聖王教会に、ディエチ・ウェンディ・ノーヴェ・私はナカジマ家で暮らしていた。だが、ここでは私たちはそうではないんじゃないかと…」
「じゃあ…」
「ここにはここの私達がいるのだろう」

 6人が息をのむ。

「まぁ、ここの私達が別の場所で暮らしているのは構わないんだ。しかし昨日ヴィヴィオが言っていたチェント、NO100はヴィヴィオが時間移動出来るのを知って、ドクターに話しているだろう。ドクターなら計画を妨害するヴィヴィオを排除する。」
「…ここの私達や捕まった姉達が来るんだね、ここに」
「ああ…あくまで推測だ。それで聞きたい。もしドクターから協力して欲しいと言われた時、どうするどうしたいかを。」

 チンクには効率を重視するスカリエッティがわざわざ戦闘機人同士を戦わせるのではなく、最初に何らかの方法で7人に接触し協力して欲しいと頼むと考えた。
 チェントを含め、ディードも残っていたら20人になる。
 それだけの人数が居れば今のミッドチルダに混乱を巻き起こし、管理局は勿論、聖王教会本部を破壊するのも容易だろう。

「私は元の時間の家族や友人、知り合った人に会いたい。だから断るつもりだ。それぞれ考えておいて貰えないか? 今日1日考えをまとめる時間くらい余裕はあるだろうから。」
「チンク姉」
「そんな事で悩んでたの?」
「考えるまでも無いッスよ」
「ええ!」
「私も元の時間のみんなに会いたいし」
「早く解決して戻る」

 6人全員がチンクの方を向いて頷いた。

「まぁ、こっちの私がここを襲うなら相手になるよ。一度自分と戦ってみるのも面白いと思ってた」
「そうッスね、久しぶりに思いっきり暴れるッスか」
「ここを壊さない程度に」
「ウーノ姉とかトーレ姉が来るとちょっときついかも」
「その時はその時さ、私達もあの時の私達じゃないんだからさ」

盛り上がる6人に

「…ありがとう」

 頭を下げて言った。
 心配のタネは無くなった。
 ここだけはどうしても守らねばならない。たとえどんな結果になっても彼女、彼女たちだけは守りぬく。チンクは長年の楔を外そうと心を決めた。



「ヴィヴィオ、今日はどこに行きたい?」

 レールトレインに乗る前に聞かれたヴィヴィオは少し考える。
 なのはとならどこに行っても楽しいけれど、ヴィヴィオが『どこでもいい♪』と言えば行く先を決めるのに悩むだろう。
 その時、ふとある事が思い浮かんだ。

「う~ん…マリンガーデンに行ってみたい」
「マリンガーデン? 何回も行ったけれ…そうだね行こっか」
「ウン♪」

 言ってみるものだと思った。マリンガーデンはマリアージュ事件後改修中で閉鎖されており、行きたかったけれど諦めざるえなかった。でもここは同じ様に見えて違う世界。もしかしてとこっちが違う時間軸で進んでいるならと言ってみたらこっちは事件が起きておらず、こっちのヴィヴィオはなのはと何度もきていたらしい。

(イクスはどうしてるんだろう?)

 眠ったままの友人、彼女はこっちではどうしてるんだろう? ちょっとだけ気になる。でも今日はなのはと思いっきり遊ぶんだと気持ちを切り替えた。
 なのはも何か思うところはあるみたいだけれど、今日はママなのだから一緒に思いっきり遊んじゃおう、そう決めた。

「じゃあマリンガーデンに行こうっ」
「いこ~♪」



「はやてちゃん、もう朝ですよ。起きて騎士団に連絡だけでも」
「う~ん…リイン、もうちょっと寝かせて…昨日夜おそかってん…」
「ダメですっ」

 ヴィヴィオ達がレールトレインに乗ろうとしていた頃、八神家ではリインフォースⅡがはやてを起こそうと頑張っていた。

「う…んわかった、わかったから」
「絶対ですよ。先に朝食の準備してくるです」

 そう言ってリインは部屋を出て行った。
 のそっと起きるはやて。寝ぼけ眼で辺りを見回すとコルクボードが目に入った。ベッドから降りてボードの前に行き一面に貼られてある写真を見る。

(これも作りもんなんか…いっぱい楽しかったり嬉しかったり、悲しかったり辛かった事あったんやけどな…)

「はやて、起きた?」
「おはようございます。主はやて」
「ヴィータ、シグナム…おはよう。昨日は良く眠れたか?」
「うん、グッスリ」
「ええ、ヴィヴィオとプレシア・テスタロッサの話を気にされているのですか?」

 シグナムにはわかってしまうらしい。

「まぁな…みんながここに居て、思い出や記憶もちゃんとあるんやけど…作り物、偽物って言われてもな…」

 彼女たちが言うのだから嘘ではないだろう。
 多分記憶を突き詰めていけばどこかで狂いが出てくるだろうがしたいとは思わないし意味もない。

「考え込むのは良くありませんよ」
「そうだよ、考えててもしょうがないって」
「流石にシグナムとヴィータみたいに簡単に割り切れへんって」

 はやて自身もなのは程強くはないがそれなりにショックを受けていた。

「では、こういう考え方はいかがでしょう。」
「聞きましょう♪」

 シグナムがどういう風に今の状況を考えているのか興味がわいてベッドに腰をかけ聞く体制をとった。

「私達がここに居る意味はなんなのかと考えて見てはどうでしょう。ヴィヴィオが言うには元々の世界がスカリエッティ・チェントによって主はやてや高町なのは、フェイト・T・ハラオウンを含む多くの者が消えた世界が出来て、ヴィヴィオ達がなんとか今の世界まで戻しました。では何故ここで私達が居るのでしょう?」

 言いたいことが把握出来ず聞き返す。

「というと?」
「ヴィヴィオ達が時間を戻しているだけなら私達がここに居る必要が無いからです。なのはやフェイトはヴィヴィオの保護者です。プレシア女史は聖王教会直属の研究員ですから騎士カリムやシャッハも存在するには必要でしょう。また、主はやてもヴィヴィオやプレシア女史とは縁もあるでしょうから居なければなりません。ですが、私やヴィータ・シャマル・ザフィーラ・リインはヴィヴィオと繋がりがあっても他の者と比べれば希薄です」

 どうも元の時間から来た者達との繋がりの強さを考えているらしい

「でもなシグナム、私がいたら守護騎士とデバイス…みんなが居ないと辻褄あわんやろ?」
「ですが、ヴィヴィオが直す前は全員が居なかったそうです。記憶や思い出そのものも変えられるのであれば誰かが欠けていても気づかないでしょう。本当は私達以外に家族が居る可能性もあります。例えば主はやての夫・子供」
「ないない」

 苦笑しながらも彼女の話には一理ある。
 成る程、そういう考え方もあるかと思い直した。
 まだ元の時間に戻っていないなら本当は知らない者が一緒にいても気づかないし、逆もまた然りだ。

「なるほどな…」
「ですから、私達はここで何かをする為にいるのではないかと…」
「何か役割があってここにいると? ヴィータはどう思う?」

 ヴィータにも聞いてみようと話を振る。

「何だっていいよ、そんな難しい話。元の時間、世界…どっちでもいい。そっちじゃみんな一緒に楽しく暮らしてるんだから、ここがもし消えてもはやても私もみんないるならそれでいい」
「せやね、ヴィータらしいわ」
「そうだな」

 シグナムと2人笑う。

「はやてちゃん~朝ご飯用意できましたです。はやく降りてきて下さい~」

 リインの声が聞こえた。

「じゃあ着替えてご飯食べて、役割とやらを探しますか」
「そうですね」
「うん♪」

 そう言うと立ち上がってパジャマを脱ぎ始めた。


~~コメント~~
もし高町ヴィヴィオがなのはStrikerSの世界にやってきたら?
章間のサウンドステージ的な話です。
ヴィヴィオ達が居る世界と同じ様で少し違う部分がいくつかあります。マリンガーデンもそうですし、はやて達の所属先、ナカジマ家や聖王教会等々…ちょっと違ったパラレルワールドって違いを見つけるのが楽しそうですよね。
この世界のイクスってどうなってるんでしょう。遺跡の中で眠ったまま?

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