16話 「用意された時間」

「綺麗だね~」
「そうだね…」
「ちょっと寒くなってきたね。」
「…ねぇアリシア、本当にここで合ってるのかな?」
「う~ん、多分…」

 元の時間が慌ただしくなっているのを知らないヴィヴィオとアリシアは湾岸エリアで陽が沈むのを眺めていた。
 海原に沈む陽が幻想的な色を醸し出している。
 2人は一緒に湾岸エリアを歩き回りながらウィンドウショッピングをしたりレジャー施設に入って色々見て回ったり、少し足を伸ばしてマリンガーデンが出来る予定の海底遺跡付近へも行った。
 でも、いくら待ってもアリシアのペンダントは鳴らず。陽が傾いた頃から本当にここで合っているのか心配になり始めた。
 
「ヴィヴィオ、前…ヴィヴィオの家からフェイトやなのはさん、はやてさんと過去に行ったじゃない、あの時は時間どれ位ずれていたの?」

 闇の書事件の時の事らしい

「12月24日に事件が起きてて、着いたのが12月の最初の頃だったから…3週間くらい?」
「そんなにずれたの!?」
「ううん、でも後で行ったときはちゃんと思った通りの時と場所だったんだよ。私がちゃんとイメージ出来ないとずれちゃうのかも」
「そうなんだ」

 最初に行った時は何をイメージしたのか覚えていない。
 闇の書事件も「冬」といった漠然としたイメージだけだった。でも後でリインフォースに会いに行った時は思い通りの時間に着いたし、数日前の空港火災もそうだ。

「イメージ次第か…ヴィヴィオ、昨日行ったマリンガーデンを思い浮かべなかった?」

 そう言われてみれば、湾岸エリアと言われてヴィヴィオが最初に連想したのは昨日なのはと行ったマリンガーデンの光景だった。だから同じ位の時間に飛んだのか?

「う…そうかも。どうしよう、もう1回移動した方が」
「ダメ、連続で時間移動しちゃ、ママに止められてるでしょ。う~ん、あ! そっか」

 アリシアが何か思い当たったらしい。

「どうしたの?」
「空港でチェントはフェイトやなのはさん達を狙って来たんだよね。じゃあここでも…」
「あっ!!」

 機動6課が出るのを狙って来る可能性が高い。

(まだ私が機動6課に来る前だけど…この頃はえーっとえーっと…思い出せ思い出せ)

 昔の記憶を必死に思い出す。

(ルールーが来たのはもう少し後だし…)

 考えていると上空からヘリのローター音が聞こえてきた。

「ヴィヴィオ、あれそうじゃない?」
「暗くて見づらいけど、機動6課で使っていたヘリによく似てる…海上? そうだ! ガジェットドローンが出てきたんだ!」

 海上飛行するガジェットドローンの編隊を墜とす為になのはとフェイト・ヴィータが向かった記録を思い出す。



『ねぇなのはママ、どうしてこの時砲撃魔法を使わなかったの? フェイトママも』
『懐かしいな~機動6課の記録を見てたんだ。』
『ウン!』
『そうだね…ヴィヴィオ、ママとジャンケンして勝ったらお菓子が貰える時、ママがグーを出したらどうする?』
『パーを出す。お菓子欲しいもん』
『そうだね。この時ママ達は誰とジャンケンしてるか判らなかったからグーじゃない手を出せなかったの。ママ達がグーを出すって知ってたら敵はパーを出そうとするでしょ』
『??』
『まだちょっと難しいかな』



機動6課解散間近の頃、なのはとの会話を思い出す。
あの時は判らなかったけれど今なら判る。手の内を隠す意味を

【Caution Emergency Caution Eme…】

「「来たっ!」」

 ヘリが沖合に向かったのに時間を合わせたかの様にアリシアのデバイスがアラートを響く。
2人は辺りを見回す。

「ここじゃわかんないっ。アリシアはここで待ってて、RHd行くよっ!」

 ヴィヴィオは胸のペンダントから赤いクリスタルだけ取って叫んだ。叫んだのと同時に虹色の光が体包み込む。消えた後には真っ白なバリアジャケット姿

「う、うん!」

アリシアが頷くのを見て飛び立った。 


 
(チェントはなのはママを狙ってきたの?)

 何か引っかかりながらもアリシアを置いてヴィヴィオは近くに見えたビルの屋上に降りた。

「チェントも虹色の魔力光を持ってるから…居たっ!」

 遠くで一際輝く光を見つける。周りから光を集めている様にも見える。

「あれ…集束砲!?」

 きっとなのは達はガジェットドローンの掃討でこっちに気付いていない。無防備な状態に集束砲なんて撃たれたら…
 ヴィヴィオは一気に飛び出した。

(このままじゃっ)

 バスターもシューターもこの距離からだと掻き消される。チェント
の砲撃そのものを止めないと チェントが撃ち出す体制を取る。 

(お願い、間に合って!!)

 強く願った瞬間、気が付くとチェントの正面へと移動していた。

(何がっ?)
「チェントォォーっ!!」

 何故瞬間移動の様に移動出来たのかなんて考える間もなく無我夢中で叫び同時に砲撃魔法を撃ち出す。狙いはチェントではなく彼女の作った魔力の集束体。

【ドォォオオオオオオオオン】

砲撃魔法を間近で浴びた集束体はバランスが崩れ次の瞬間大爆発を起こした。



【……ォォオオオオン】
「まさか…ヴィヴィオ!!」

 アリシアは胸騒ぎというより今の爆発がヴィヴィオ達が起こしたのだという確信を持って音の鳴った方へ走り出した。



【……ォォオオオン】

その音は洋上にいたなのは達の元にも届いた。

「爆発? ヴァイス君」
『確認しました。何か爆発した様ですが周囲にガジェットドローンは見あたりません。それと…』
「何?」
「こっちは手一杯なんだ。早く言えっ!」
『スミマセン、複数色の魔力残滓を確認。まるで虹の様な…』
「虹…私どこかで…」
「なのは、ボケッとすんな。そっちに1編隊行ったぞ」
「なのは、先にこっちを」
「りょ、了解!」

 頭を切り換えフェイトとヴィータのフォローへと戻った。



「フェイトちゃんとシグナムとヴィータは正面、近接型の戦闘機人を相手にしてキャロとルーテシアでガジェットドローンの対応エリオはそのサポート、新型に注意な。スバルとギンガはガジェットドローン掃討とこっちの戦闘機人達をフォロー。なのはちゃんとティアナでセンター固めて。遠距離砲撃もあるから各人注意」

 聖王教会本部から少し離れた場所では既に激戦が繰り広げられていた。
 ミッド地上本部は元々AMF下での戦闘経験を持った魔導師が殆ど居らず、本局との通信トラブル中に襲撃された影響もあって時間を置かずに落とされてしまった。
 しかしこっちは違う。オーバーSランクを筆頭にAMF下でも戦闘経験がある者達だ。しかもこっちにも戦闘機人がいる。
時間稼ぎくらいは出来るだろう。

「北部洋上に浮遊物確認。モニタに映すよ…これって!!」

 エイミィの報告を受けてメインモニタを見る。

「これって…そんな…」
「聖王のゆりかご…まだあったなんて…」
「やっぱり持っとったか」

 映っていたのは巨大な船。それも前に落とした聖王のゆりかごと同じ姿だった。
 ヴィヴィオと同じベルカ聖王を複製母体とする者、彼女達は時間移動能力以外にもう1つ忌むべき能力を持っている。ロストロギア【聖王のゆりかご】の起動キーになるという能力を

「どこまで持たせられるか…」

 呟き唇を噛んだ。
  


 爆発によって巻き上がった煙が収まった頃、ヴィヴィオはチェントの前で構えず立っていた。

「チェント…教えて、どうしてママ達を狙うの?」

 どうしてなのは達を襲うのか? 
 彼女のマスター、ジェイル-スカリエッティの命令だからなのか。ヴィヴィオはチェントから直接聞きたかった。
 最初は声を聞いただけ、初めて会った時はスカリエッティと一緒に現れた。臨海空港で話す機会はあっただろうが、ヴィヴィオ自身が怒りの矛先を彼女に向けていたから聞こうと思う余裕が無かった。
 でも今は聞きたいと思う。ここに来る前なのはが言った【ヴィヴィオしか出来ない事】だから。

(確かにチェントと正面から戦えるのは私だけ。でも、私達の中でチェントと話す機会を作れるのも私だけ)

 スカリエッティをサポートしているだけで彼がヴィヴィオとの約束を守るのであれば、わざわざ過去に言ってなのは達を消す必要は無い。消すとしてももっと昔、ヴィヴィオがした様にジュエルシード事件前のなのはに干渉してしまえば済む話だ。

「今日は戦いに来たんじゃない。話を聞かせて欲しいの。どうしてママ達を狙うのか教えて欲しい。もしこのまま別の世界、誰にも迷惑かけない管理外世界に行ってくれるなら何もしない。ママ達にもお願いする。」

 ヴィヴィオにそんな権限も無いし、どうすれば良いかもわからない。わからないけれど争って戦って誰かが悲しい思いをする位なら争わない戦わない方が良い。
 ヴィヴィオがそう言うと睨んでいたチェントが頬を緩めた。

(わかってくれた)

 だが内心喜んでいたヴィヴィオにとって彼女から発せられた言葉は想像をかけ離れていたものだった。

「やっぱり甘いんだね。同じだよ、ヴィヴィオと私は。」
「同じ?…それって?」
「マスターの言った通りこっちに来たんだ。ヴィヴィオも早く戻った方がいいよ。じゃあね♪」
「待って! 私と一緒ってどういう事? 教えて」

 ヴィヴィオの問いに答えずチェントは虹色の光の中に消えてしまった。



「私と一緒って…それに早く戻った方がって何?」

 さっきまでチェントが居た場所を見つめながらヴィヴィオは考えていた。

「ヴィヴィオーっ!」

 後ろから呼ぶ声が聞こえ振り返ると遠くにアリシアの姿が見えた。

「アリシアっ」
「ハァッハァッ…良かった、無事で」
「うん。チェントはここからママ達を狙ってたんだ。ギリギリだったけど間に合った。」
「良かった~。じゃあ戻ろ元の時間に。これで元の時間に戻ってたらいいね」
(元の時間…)
『マスターの言った通りこっちに来たんだ。ヴィヴィオも早く戻った方がいいよ。じゃあね』
「どうしたの?」
「言った通りって…チェントは私をここにワザと呼び出したの? ママ達を狙って来たんじゃないの?」
「ヴィヴィオ?」
「どうして呼び出した…」
「ねぇ?」
「あっ!!」

 いきなり大きな声をあげたヴィヴィオにアリシアが驚いて後ずさる。

「!? ビックリした~っ。どうしたのよ急に」
「アリシア! ここに来たチェントの目的はママ達じゃ無かったんだ。私たちなの」
「どうして?」
「私たちの体は元の時間で眠ってる、無防備。だからこっちに呼び出して…元の時間で」
「!!」

 ヴィヴィオと同じという言葉はまだ引っかかっていたけれど、チェントが言った『戻った方がいい』というのは元の時間で更に何かが起きていると言うこと。
 つまり、彼女は囮

「アリシア、行くよっ!私に掴まって」
「うん」

―願うは我が眠りし時―

「ちょっとヴィヴィオ、1度戻らないとっ!」

 戻る為の紡ぐ言葉ではなく再び時間移動しようしているのに気づき慌てるアリシア

「黙ってて、気が散るからっ」

 再び集中する。

―願うは我が眠りし時―
  ―類する者が居る地へ―
―時は若葉芽吹く季節―
  ―望むは家族・知己の下―

 アリシアが腕に掴まったのを確認したヴィヴィオは本を取り出し呟いた。
 彼女達を虹色の光が包み込み、光が消えた後彼女達の姿は無かった。



「彼女達は一体何者なのでしょうか?」
「何かを追いかけてるみたいやね…でもあれは」
「部隊長の知人ですか?」
「多分やけど…ずっと前にな。グリフィス君、この記録ディスクにコピーした後消去してくれるか」
「了解しました」
(あれは、9年前私たちを助けてくれた…ううん、そんな訳ない。でもどうして…)

 機動6課の管制室のメインスクリーンにはヴィヴィオとアリシアの姿が映し出されていた。



~~コメント~~
 もしヴィヴィオがなのはStrikerSの世界にやってきたら? 9話の海上戦時に行ったヴィヴィオ達でした。元々戦技が嫌いなヴィヴィオというのが今話の高町ヴィヴィオです。
 空港火災では緊迫した状況やRHdが使えなかったり、チェントが来た理由を知って頭に血が上った彼女ですが、2章でちょっとだけ冷静なってなのは同様に戦う為ではなく理由を知りたいと思ってもいいかも知れませんね。

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