17話 「不屈な心」

「3人とも下がれっ! ダァァアアアアッ!」
「「「りょ、了解っ!」」」

 ノーヴェが叫んだ直後、彼女の蹴りを受けて数体のガジェットドローンが粉砕される。

「強いAMF空間じゃ足手まといだ。もっと薄い場所へっ」

 相手が戦闘機人とガジェットドローンに限られているのを良い事に恐ろしく強いAMF空間が作り出されている。ノーヴェ達は戦闘機人モードで戦えるがこれほど強い空間を味わった事のないエリオ・キャロ・ルーテシアは為す術が無かった。
 姿を消すガジェット・ドローンと初めて遭遇し退くに退けない3人を助けようとノーヴェは単身飛び込んだのだ。
「後ろっ!」
「なっ!」
「偽物は消えろぉおっ!!」

 エリオの叫び声で反応して身を返す。そこにはナンバーズだった頃の自分と同じ姿のノーヴェが迫っていた。

「ここは私が押さえるからなのはさんのところにっ。ジェットエッジ行くぞっ! デリャアアッ」

 ノーヴェの蹴り避け、その勢いを殺さずに脚を軸にして回り彼女の背中を蹴り飛ばす。

「まさか自分と戦える日がくるなんてな…相手してやっから正面からかかってこい!!」

 土煙の中からノーヴェがノーヴェに襲いかかる。彼女に併せるようにノーヴェの動き2人がぶつかった瞬間新しい土煙が舞い上がった。



「なのはちゃん、ヴィータ、教会北側からゆりかごが近づいてる。」
『何だって!?』
『嘘でしょ』
「こんな時に嘘言う余裕ない。アースラを後退させたら私とリインも行くっ。先に駆動炉の破壊頼めるか?」
『『了解』』

 全体を指揮出来る者が居ない状態ではここから離れられない。聖王のゆりかご内部に入った経験のある2人に先に入って貰い後で追いかけるしかない。

「こんな事ならグリフィス君とルキノも残しといたら良かった」

 運悪く2人とも本局所属で海に戻っていて連絡が取れていない。
 本人達が聞けば背を震わせるような事をはやては呟きながら次の対応を考えていた。
 


『なのは、気をつけろ。あの中には多分【アレ】がいるぞ』
『うん、わかってる』

 戦線をシグナムとザフィーラ・ティアナに任せてなのはとヴィータは北部から迫る船に向かっていた。
 アレとはなのはとヴィータを背後から襲ったガジェットドローン。2人から言わせれば因縁のある相手。

(もう2度となのはは落とさせねぇ)
『ヴィータちゃんも無茶しないで。いざとなったら裏技もちゃんとあるから』
『バカヤロっ! お前の裏技ってブーストだろうが。そんなもん使わせたら後でシャマルに怒られる。絶対使うな.危なくなったら逃げろ。わかったな』
『ウン、やっぱりヴィータちゃんは優しいね』

 思念通話の中でなのはが笑った気がした。

『バッ…バカヤロ…』

 そんな話をしていると巨大な船が姿を現す。グラーフ・アイゼンを握る手にも力が入る。

「アイゼン雪辱戦だ。行くぞっ」
【Jawohl】

相棒の力強い声を聞き

「ダァァアアアアアッ」

 ラケーテンハンマーによって無理矢理侵入口を作り中へ飛び込みなのはも後を追った。



(このままでは…マズイな)

 運が良かったのか悪かったのか…
 チンクは初手から向こう側のチンクとセッテに出くわしていた。
 チンク1人であればなんとかなったのだけれど、よりにもよってセッテが一緒とは…
 セッテは後発組であり、チンクがスバルによって受けた傷を癒すのと入れ替わりに動き始めている。だからどういう戦い方をするのかが読めず、セッテの攻撃を避けつつ終始情報収集に追われていた。
 身を守るコートも見るも無惨な姿になっている。
 チンクの投げたナイフをかわすのと同時に彼女目掛けてナイフを投げる。しかしセッテに全て弾かれる。

「クッ!!」

 何とかセッテの攻撃をかわした所にチンクが再びナイフを放つ。
 ナイフをコートで防ごうとした時地中から手が伸びチンクの体は引き込まれた。

「チンク姉引いてっ」
「セイン!?」
「今ディードが向かってるから体制立て直そう。」
「お前、相手はっ」
「こっちの私達はティアナとシャッハが止めてくれた。だから一旦引いてっ」

 そう言い地中を移動するセイン。いつもの余裕が感じられず、彼女を見ると左肘から下が無くなっていた。

「セイン、お前…手は?」
「さっきの戦闘で、大丈夫、大丈夫。これが終わったらすぐ直して貰うから」
(普段冗談ばかり言っているが、セインもセインなりに必死なのか…)
 
「セイン、この辺でいい。あとはディードと抑えるから下がっていてくれ」
「うん…チンク姉…また後でね、絶対だよっ」
「ああ」

 防衛戦を張っているチンクが下がり過ぎるとここに戦闘機人やガジェットドローンガ集中して押し切られてしまう。
 それを知っているからこそ、あえてセインを引かせた。

「もう迷っている場合ではないな…」

 あの移動速度ならば時を置かず2人は来るだろう。

「騎士ゼスト…あなたの望んだ時を今は私も見たいと思う…だから、許してくれ。」

 そう呟き右手で眼帯を外した。



「プレシア・テスタロッサ…少しいいか?」
「ええ、何かしら?」

 先日、目覚めたヴィヴィオからいきさつを聞いた後、チンクは1人プレシアの研究室を訪れていた。

「傷を直して貰いたい。10年程前に受けた傷なんだが…出来るだろうか?」

 眼帯を外して見せる。

「治療魔法は使えないけれど、その程度ならカプセルで半日もあれば治せるわ。でも10年も治さなかった傷をどうして?」

 自嘲気味に笑いながら

「ドクターは私のマスターだったからな。次の手も予想はつく…」

 今更マスターと呼ぶとはと思いつつ、今は少しでも多くカードを持っておきたかった。
 かつてチンクがナンバーズとして管理局員ゼストと戦った際負った傷。油断した自身への罰として、彼の最後の一撃を受け止める意味で直さずにいた右目

「…わかったわ、カプセルを用意するから待っていて頂戴」
「頼む」



 同じISを持っている者に勝つには限られた方法しかない。
 守りきらなければ元の時間に戻れない。この世界にもスバルやギンガ・ゲンヤがいる。でも3人は家族ではない。
 だからこそ戻りたい、また会いたいと心の底から思う。
 その想いがチンクの楔を解き放っていた。


 
「ここは…玉座の間?」
「らしいな…」

 なのははヴィータがグラーフアイゼンを向けた先を見つめる。奥に3人の人影。

「ヴィヴィオ!?」

 駆け寄ろうとするがヴィータに無言で遮られる。

「やぁ、久しいね。」
「ジェイル・スカリエッティ…」
「ああそうか、君達とは直接会うのは初めてだね、はじめまして。ヴィヴィオ、彼女もヴィヴィオと言えばヴィヴィオであり、聖王陛下でもある。」
「……」
「同じ遺伝子から生まれた姉妹、いや同一人物かな。」

 スカリエッティが彼女の頭を撫でると彼女は嬉しそうな表情をした。ヴィヴィオと同じで幸せそうな表情。

「僕達は彼女をチェントと呼んでいる」
「っ!!」

 ヴィヴィオから聞いた名前、聖骸布から生み出された命。

「チェント、あなたもヴィヴィオと同じなんでしょう? だったらどうしてこんな事をするの?」
「あなたもヴィヴィオと一緒のこと言うんだ。」
「一緒?」

 話し合えばチェントとも通じ合える。ヴィヴィオと同じなら絶対に…そう思っていた。でも
 再びヴィータがなのはを遮った。

「なのは、無駄だ。あいつらにはあいつらの思いがある。私達が守らなきゃならないのは何だ」

 言われて思い出す。
 ここでしなくちゃいけないのはこの船を、聖王のゆりかごを墜とす。

「ジェイル・スカリエッティ、ウーノ…あなた達を逮捕します。あなた達の安全は管理局によって保護します。武装を解除し投降してください」

 ヴィヴィオ達を元の時間に返す為にはこの船を近づけさせられない。レイジングハートを構える。

「仕方がない。チェント頼めるかい?」
「はい、マスター♪」

 チェントがスカリエッティに頷くとなのはとヴィータめがけて突っ込んでくる。
 この時、聖王の間での戦いの幕は切って落とされた。



「トーレ姉っ!! ノーヴェも聞いてくれっ、ウワッッ!!」

 同じ頃、ノーヴェもこの世界のノーヴェと事もあろうにトーレを相手に孤軍奮闘していた。
 トーレの高速機動からの蹴りを受けて地面に叩きつけられる。
(自分と戦うとは言ってたけど、まさかトーレ姉とまでとはな。)
「あんまり気持ちいいもんじゃないな…」

 何度2人に呼びかけても応えてくれない。こっちに私達がいるのを知ってそういう風にしたのか? 立ち上がるのと同時にトーレとノーヴェが近くに迫っていて身構える。
 だかそこに2本の青い光が伸びて

「ディバインッバスタァァアアーッッ!!」

間近に迫っていた2人を退かせた。

「遅れてゴメン、大丈夫?」
「ギンガ・スバルっ!?」
「えっさっきアッチに…2人? 何で私の名前知ってんの?」

 トーレの居る方を向いて驚くスバル。

(そうか、こっちじゃ私達はナカジマ家に行ってないんだ)

 2人に会えた感慨にふけっている場合じゃない。

「ギンガ・スバル、2人でトーレを抑えててくれっ。その間にあっちの私を拘束する。トーレ姉のISは高速移動だっ」
「了解」
「了解、無茶しないでよ」
「誰に言ってるんだ、誰に」

 トーレの事を2人に任せノーヴェに渾身の蹴りを食らわせる。

(トーレ姉、こっちの私…ゴメン…私もあっちのギンガとスバルの方がいいや。)

 空に4本の光の線が交差する。
 家族として迎えてくれた本当の2人に会いたいとノーヴェは心から思った。
 


「チンク姉様っ!」
「ディード…来てくれたのか。」

 チンクが何とかこの世界のチンクとセッテを拘束した時、ディードが現れた。

「無事でなによりです。姉様…その…目は」

 後発組のディードが目覚めた頃には既に碧眼になっていたから今の姿を見て驚いたのだろう。

「ああ、これか。昨日プレシア・テスタロッサに治してもらった。急場を凌ぐ程度だから後で診て貰わなければならないがな…」

 傷で覆われていた部分を切除し、不足分を周辺細胞の活性化によって埋める。聞こえは良いが通常使わない薬を使わなければならない諸刃の剣。

(暫くは大人しくしておかなければな…)
「2人をアースラまで連れて行って貰えるか…何だアレは?」

 フゥっと息をつき捕らえたチンクとセッテの方を向いた時、空に浮く船が視界に入った。

「…聖王のゆりかご…」
「アレが…」

 浮いている様は記録映像でしか見たことが無く、呆然と見つめる。
その時何か光が入っていくのが視界に入り目で追う。

(アレは何かの攻撃か?)
「ディード、2人をティアナに渡して研究所に戻ろう。」
「はい姉様っ。」

 この時チンクは嫌な胸騒ぎを覚えていた。



「もうおしまい?」
「ッッ…」
「何でっ、アイツはここでも動けるんだっ!」

 ヴィータはヒビの入ったグラーフ・アイゼンを支えにして立ち上がった。

「簡単な話さ、ここは王座の間。強力なAMFは魔法をほぼ無効化する。ただしこの間の主、聖王を除いてだがね」

 スカリエッティが言うとおり体内でさえ魔力の連結が殆ど出来ない。存在自体が防御プログラムという体の為か動くのも辛い。
 ここで自由に動けるのは聖王のみ。 

「でもっ、私達がゆりかごを止めるしかないんだっ。ヴィータちゃんはこの部屋から出ていてっ、レイジングハート…いくよ」

 そう言ってなのはは立ち上がりレイジングハートを構えた。
ハッと気付く。

「なのはっ 止めろっ!」



「なのはっ 止めろっ!」

 後ろからヴィータの叫び声が聞こえる。
 彼女の言うとおり今無理をすればなのはは2度と空を飛べなくなるかも知れない。でも、ゆりかごを墜とすにはもうこれしか手はない。
 限界を超えた自己ブースト魔法。

(ゴメンね…レイジングハート…こんな無茶に付き合わせちゃって)
【There's me with a master. Forever】
「ありがとう。レイジングハート…いくよっブラスター…」

 なのはが魔法を起動しようとした時、目の前に光が舞い降りてきた。



~~コメント~~
初めて100%バトルSSになってしまいました。ちょっと反省

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