18話 「重なる心」

「っと、ここは? ゆりかご!?」

 ヴィヴィオとアリシアが降り立った場所、そこは聖王のゆりかごで見た玉座の間そっくりの部屋。

「ヴィヴィオ?」

 呼ぶ声に振り返るとなのはとヴィータを見て慌てて駆け寄る。

「なのはママっ、ヴィータさん」

 見るからに2人ともボロボロ…誰が一体…

「何でお前達がっ!」
「ヴィヴィオっ、来ちゃダメ」

 
 なのはもヴィータもデバイスに体を預けなければならない程ダメージを受けている。

「追いかけて来たんだ。」
「チェント・スカリエッティ・ウーノ!!」

 チェントの声を聞いて振り向く。そこに居た3人の姿を見て何があったのか瞬時に理解した。

「ヴィヴィオ、お願いヴィータちゃんを連れて逃げてっ…ヴィータちゃん…このままじゃヴィータちゃんが消えちゃう。」

 荒く息をつきながら言うなのは。

「ママ達をこんなにしたの…チェントなの?」
「そう、私がした。」

 なのはの代わりにチェントが答える。チェントを睨む。
 わかっていても素直に言われ心に怒りに火が灯る。

「どうしてっ! どうしてママ達にこんな事するのっ。止めようよ。チェントは私と同じなんでしょ。だったら私の気持ちもわかるよね」
「クスッ、また聞くの? そうだよ、言ったでしょヴィヴィオと一緒だって。マスター」

 その時、ヴィヴィオはチェントがスカリエッティに向けた笑顔を見た。
 無邪気な笑顔。信頼…それ以上の感情を持っているからこそ出来る表情。
 彼女の表情をみて同じと言っていた理由がヴィヴィオにもわかった。

(だから…チェントが一緒って言ったのって…チンクが言ってたみたいにチェントにとってスカリエッティやウーノ達が家族なんだ…私がママ達を助けに行ったみたいにチェントも掴まった家族を助けたいって…だから…)

 今のスカリエッティ達を助ける為に動き、過去を変え…再び離ればなれにならないように邪魔するなのは達を再び過去を変え消した。


『落ち着いて考えてくれ。ヴィヴィオにとってなのはさんやフェイトさんを家族と慕う様に彼女にとっては私達が姉なんだ。今ヴィヴィオが2人を助けようとする様にチェントもそうしているんだ』
『ヴィヴィオ、善悪じゃないの…あなたの言う通り、奪われた…無くした家族を取り戻したいと思う気持ちは誰にでもあるわ…私も…それは善悪という前に心の問題なのよ』
(チンクとプレシアさんが言ってたの、これだったんだ…)


 どっちが悪くてどっちが良いなんてわからない。

 でも…
   だけど…
     だからこそ…

 ヴィヴィオにもゆずれないものがある。
 守りたい人達、一緒にいたいと思う家族・友達がいる。

 以前のヴィヴィオであれば怒りに身を任せていた。でももう今は違う。チェントがヴィヴィオと同じだと知ったから。

「なのはママ、ヴィータさん、アリシアをお願い。アリシア…ママ達の怪我をみてあげて」
「うん」

 そう言いってチェントの方に1歩、また1歩近づく。

「ヴィヴィオ、何する気?」
「止めろっ!」
「なのはさん、ヴィータさん、ヴィヴィオを信じて。」
(ありがとう、アリシア…)

 アリシアの方を向いて笑みを返す。

「「……」」

「チェント、私は元の時間に戻したい。だからこの船を壊す。」
「ダメ、私はここがいいの。だから壊させない。」

 そう、チェントは複製母体が私と同じマテリアル…憎いからじゃない、怒りからでもない。
 同じだから…だからこそ譲れないものもある。

「わかった…じゃあ仕方ないね」
「うん。」

 胸に下がったデバイスを握る。

「絶対に負けない、RHdセェェットアァァッッッップ!!」

 虹色の光が包み込み、RHdが身体の中に入ってゆくのと同時に身体を白いバリアジャケットが包み込んだ。
 その時

【Barrier Jacket Setup.CoreLinkSystem start】
(何? これっ?)

 中から聞こえる声と包まれる温もりに驚く

【Completed in the same period】

 光が消えた時、纏っていたバリアジャケットを見て納得した。

(そっか…そうなんだ…)

 胸元にかけていたもう1つのデバイスが消えていた。
 元の世界のなのは達から貰ったRHdとここのなのはに貰ったまだ名前も付けていないデバイス、2つとも【ヴィヴィオの為に作られた】デバイス。
 それが1つになったのだ。
 ヴィヴィオは2人のなのはの温もりを感じた。

(ありがとう。よろしくねRHd)
【Yes Mymaster】



「あれが…ヴィヴィオ…」

 なのはは目の前の光景が信じられなかった。
 ヴィヴィオは良く笑い、明るくて魔法の勉強を始めたばかりの女の子…
 なのはにとってのレイジングハートと同じ様にヴィヴィオのパートナーになればと思って作ったデバイス。あれにはこんな戦闘用のプログラムを入れていない。
 でも目の前にいるのはよく似たバリアジャケットを纏ったヴィヴィオの姿。

(ヴィヴィオが大きく…すごく大きく見える。)

 9歳の子供なのに彼女の背が大きく見えた。 

「なのは、あのジャケット…」

 ヴィヴィオの姿にヴィータも気付いたらしい。

「うん…」

 闇の書事件、なのはにとってはジュエルシード事件の時に来た魔法使いの女の子。ヴィヴィオの名前を聞いてずっと思い出せなかったけれど今ハッキリと思い出す。
 バリアジャケットの細部は違っているけれどきっと…
 そして改めて思い知る。

 今のなのは自身が仮初めの姿なのだと…

「ママ、あとは任せて。今度は私が…ヴィヴィオがママを助けるから。」

 アリシアの言った通り後はヴィヴィオに任せようと思った。



「それが本当の姿なんだ」
「そう。今の私の全力」

 チェントの前に降りて答える。
 臨海空港とは違う。彼女に対して怒り憎しみがないなんて言えないけれど、もう振り回されたりしない。
 2人が同時に頷いた時、火蓋は切られた。



 怒号と魔法による爆発音が部屋に木霊している。

「……」
「……」

 なのはとヴィータはヴィヴィオの戦いをじっと見つめていた。

(私達が魔法が自由に使えない位強いAMFなのに、ヴィヴィオはやっぱり…)

 ヴィヴィオがベルカ聖王のクローンなのは知っている。
 知ってるけれど…実際目の当たりにすると言葉が出なかった。

「ヴィヴィオ、頑張って」

 アリシアは隣で祈るようにヴィヴィオの姿を追っている。彼女の側にいるとAMFの効果が幾分和らぐらしく回復魔法も使える。

「やっぱりヴィヴィオは…」
「それ以上言うな…アイツの母親はお前だ。ヴィヴィオがなんでここに来たと思ってるんだ。」

 ヴィータがグラーフ・アイゼンの先で頭をコツンと叩く。

「そうです。ヴィヴィオは連続で時間移動してここに来たんです。連続移動って凄く疲れるからママも止められてたのに…どうしてヴィヴィオが無茶してここに来たと思ってるんですかっ!」

 大好きな人を、家族を、なのはを助ける為…

「そうだね、ありがとう。ヴィータちゃん」
「ああ、そうだな。あいつらに水を刺すけど行くかっ。おまえはどっか隅に隠れてろ。」
「うん」

 まだ出来る事はある。ヴィータと互いに頷き玉座の間を後にした。



(連続で移動したからっ!?)

 ヴィヴィオが思っていたとおり、チェントもレリックを内包した近接戦型だった。
 空港では出会い頭に砲撃魔法で倒せば彼女の思い通りの未来になったのにしなかった。湾岸エリアでは砲撃魔法を使おうとしていたのに、見つけて着いてから止められた、チャージ時間がかなり長いから今は使わない。 
 デバイスにも差があるけど近接戦ではスピード・四肢の長さが結果に影響する。
 でもそれ以上に…

「ハァッハァッ…」
「ヴィヴィオ、もう終わり?」
「違うっ!!」
(このままじゃ、どうすればチェントに…)

 初めて味わうAMF空間と連続転移の影響なのか、うまく魔法が使えない。それなのになぜか力が溢れ空回りする。
 それらがヴィヴィオから少しずつ冷静さを削り焦りを生み出していた。 

『ヴィヴィオっ聞こえるかっ』

その時念話が届く

『これからママ達が駆動炉を壊す。だからヴィヴィオはそれまで時間を作って』
『ママ達怪我してるのに、そんなの無茶だよっ!!』

 なのはとヴィータを見ていたから即座に言い返す。

『聞いてヴィヴィオ、やっぱり私は今のヴィヴィオのママじゃないの。本当の私、本当のヴィヴィオのママに会わせてあげられるのが今私達が出来る事なの』
『!?』
『アイツを止めていてくれたら後はこっちで何とかする。危なくなったら隅で隠れてるフェイトそっくりな奴を連れて元の時間に戻れ、いいなっ!』
「ママ…ヴィータさん…」
「時間稼ぎか。あの2人…駆動路まで行けるかな」
「まさか…知ってて」

 チェントがニヤリと笑う。その笑みの理由はすぐに判った。

『どうしてここに…ヴィヴィオっ』

 突然なのはからの通信が途絶えたのだ。



「ヴィヴィオと同じ…」
「チェントと同じって言った方がいいだろうな」

 駆動炉へ向かうなのはとヴィータの前には複数の人影があった。
 その姿はどれもヴィヴィオ、チェント同じ姿をして戦闘機人と同じ様なジャケットを着ている。
 スカリエッティ達が追いかけてこなかった理由はこれらしい。

『なのは…ここは押さえるから先に行けっ』
『ヴィータちゃん。私も』
『何を優先するかを考えろ。レリックは前の事件でほぼ回収してる。だからこいつらは姿は似てるけどあっちのような強さは無い。AMFも弱いから私だけでも十分だ。それにお前はこいつらを倒せねえ』

 ヴィータの言うとおり今はこの船を落とすのが最優先。
 外の戦況がどんなに有利でも月の魔力が受けられる軌道上に上がられてしまえばひっくり返される。
 それに彼女の言うとおりなのはにはヴィヴィオとそっくりな戦闘機人達。

『わかった。後で迎えに来るからねっ』
「邪魔しないでぇぇえええっ! ディバイィインッバスタァァアアアッ!!」

 ディバインバスターを戦闘機人目掛けて放ち避けてあいた場所へと飛び込んだ。

『無茶しちゃダメだからねっ』

 そう念話で送った後、なのはは振り返らずに駆動炉を目指した。


~コメント~
 ヴィヴィオが今居る世界にはもう1人のヴィヴィオがいます。『同じ様で違う世界を出す』というコンセプトはAnotherStoryを書いていた頃から暖めていた話でしたので書けて嬉しかったです。

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