20話 「揺れ動く世界の狭間で」

「おはよう、よく眠れましたか。」
(私…ここは? 誰?)

 ヴィヴィオが目をあけるとそこには知っている顔があった。ナンバーズのウーノ。
 でも彼女の表情はヴィヴィオの知っているものではなく、どちらかと言えば

(ママに似てる…)

 ヴィヴィオに向けられた優しい笑顔

「おはよう、姉様。マスターは?」
「先程まで研究室におられ、今は自室で休まれています。疲れられてるので静かに寝かせてあげてくださいね」
「つまんない~。」
「困りましたね。ではドクターが起きられましたら教えますからそれで我慢してもらえますか?」
「う~ん。わかった」

 窓に映った自分の姿をみてヴィヴィオはヴィヴィオ自身だと確認する。
 でもここは一体どこなのだろう?
 突然風景が変わり、通路の奥にあるドアをあけて椅子に座り何かをしている男性の元へと走って行く。

「マスター、これ」
「上手く出来たね。すごいじゃないか」
(スカリエッティ!! でも…)

 振り向いた男性はジェイル・スカリエッティ。スカリエッティを映像や記憶にある表情と違ってもっと落ち着いた優しい感じがする笑顔

「姉様にも見せてくる」
「足下に気をつけるんだよ」
「ウン♪」

 覚えの無い光景…

「マスター…姉様…どこにいるの?」

 広い家内を必死に走り回って探す。
 でも私の声に誰も応えてくれない。

「ここは…でもマスターがここは入っちゃいけないって…」

 立ち止まって躊躇う。

「でも、他の部屋はみんな探したし、後で見つからなかったら…」

 そう言って部屋に入ると、モニターの前に大きな箱があった。

「マスター?」

 箱に触れると部屋が動き始める。

「…オ、…ィオ…ヴィヴィオ」
(誰か呼んでる…)

 呼ぶ声に耳を傾けた時、さっきまでの光景は見えなくなっていた。



「う…うん…」
「陛下?」
「う…ん…セイン…ここは?」

 瞼を開くとベッドの横にセインが座っていた。

「ゴメン、なんかうなされてるみたいだったから起こした。ここはプレシアさんの研究施設…の医務室」

 さっきの光景は夢だったらしい。

「帰って…きたんだ。痛っ!」

 起き上がると前と同様に体の節々が悲鳴をあげる。 

「急に動いたら傷が開くよ。もう少し寝ててよ。何かあったら呼んで、私も隣にいるから。」

 隣? よく見るとセインも腕に包帯を巻いていた。

「セイン、腕どうしたの?」
「ディエチの砲撃を受けたんだ。ディードを守ろうとしてな。セインお前も怪我人なんだからベッドで寝ていたほうがいい。」

 ヴィヴィオの問いに答えながら入って来るチンク。

「チンク姉」
「砲撃!? セイン大丈夫なのっ…ってチンク、その目。イタタっ」

 チンクを見て再び起き上がって背中に激痛が走る。

「ヴィヴィオ、酷い怪我だったんだから無理するな。これは…まぁ…初めから話そう。」

 ヴィヴィオを寝かせてシーツをかけ、セインとの間に座る。

「ヴィヴィオ達が過去に向かった後で、ドクターと前の世界の姉や私達がここに向かってきたんだ。その時、姉達を除いてそれぞれがあっちの私達を相手にしようと決めたんだ。それで相手の予想出来ない方法を持っていた方が有利になると思って治して貰った。生前の騎士ゼストに受けた傷だが、ヴィヴィオや妹達を守る為になら許してくれるだろう。」
「チンク、セイン、みんな無事なの?」
「ああ、セインがディードや私を庇って地中に逃げ込んでくれたからな。少し怪我しているが皆元気だ。」
「そういうこと♪」
「そうなんだ…」
「あちらの私達を全員拘束してガジェットドローンを掃討した後に聖王のゆりかごが現れたらしい。でも八神はやて達が何とかしてくれたようだな。アースラを使って」
「聖王のゆりかご…アリシアはっ! アリシアっ」

 セインの居る反対側のベッドを見る。しかし彼女の姿は無かった。

「チンク、セイン。アリシアは? アリシアはどこにいるのっ?」

 一緒に帰ってきた筈なのにヴィヴィオと同じ様にベッドで寝かされていない。

「「……」」

 チンクとセインが2人顔を見合わした後

「ヴィヴィオ、落ち着いて聞いてくれ…アリシアは…」

 彼女の言葉がすぐに理解出来ず、暫くしてから

「…うそ…だよね…」

と言うのが精一杯だった。



「なーウェンディ」
「ノーヴェ、何ッスか?」

 ロビーで真っ暗な外を眺めながら近くにいたウェンディに声をかけた。

「外、真っ暗な状態が今日1日…このままずっと真っ暗なのかな?」
「どうッスかね。実は外に出たら黒い幕が張られてるだけってのはどうッス? 姉様に外に出るの禁止と言われてるから確かめようが無いッスけど。」
「救助隊の待機室に本が置いてあるんだけど、その中に時間を移動する話の本があったんだ。それは好きな時間に行けるけど行ったら戻ってこられなくて、知らずに使った主人公が元の時間にあこがれながら、行った時間で好きな人と一緒に暮らしていくって話だっただ」
「へぇ~恋愛モノッスか、ノーヴェもそう言う本読むようになったんですね。姉さんは姉さんはっ感激ッス!」

 涙をハンカチで拭うウェンディ。

「茶化すな。それに、その目薬はどっから持ってきた。」
「さっき、医務室に行った時」
「………」

 どこまでが本気でどこからが冗談なのか姉ながらにわからない…

「それで話は戻すけど、ヴィヴィオってそう言う能力があるって言ってたから…昔のベルカ聖王も同じ能力者だったなら、あの本も実際にあった話だったのかなって」
「あると思う…」
「「!?」」

 突然聞こえた声に驚く。

「ディエチ、驚かすな!!」
「あ~ビックリしたッス」
「伝記や創作系は昔あった記録を組み替え組み合わせて作られてる。著者が昔そう言う本をいくつも読んでいて書いた本もある。だから時間移動について書いてる本でも当たっているのがあると思う」
「ふーん、ディエチは良く本読んでるみたいッスけど、ノーヴェの言った本に心当たりあるッスか?」
「何冊か…」
「帰ったら読みたいから、ディエチ後で教えてくれ」
「帰ったら部屋にある。」
「帰ったらッスね~」
「帰ったらか~」

 家から離れて1週間が過ぎようとしていた。普段なら何も思わないのに、何故かノーヴェはスバルやギンガ…ゲンヤと会ってみたいと思い始めていた。

「いつになったら暗闇から出られるんだろうな…」
「…してっ、…は…くのっ!」
「待て…では…」

3人揃って窓の外を見ていると何か言い争いの様な声が耳に入った。

「チンク姉とヴィヴィオみたいッスね。」

 ヴィヴィオが目覚めたらしい。ノーヴェは普段大声をあげない2人の声が気になった。

「私達も行ってみよう」



「チンク離してっ! アリシアのところに行くのっ」
「ヴィヴィオ、まだ傷はふさがっただけなんだ。無理するんじゃない!」

 チンクはヴィヴィオを押さえながら内心しまったと後悔していた。
 ヴィヴィオがアリシアの事を聞けばどう動くかなんてわかりきっていたのにそれを言うなんて…

「どいてっ、こんな怪我RHdが一緒なら。お願いRHd」
「まてっ、今の体で起動なんかしたらっ。」
 RHdのコアにレリックが組み込まれている。それは以前なのはから聞かされていた。
 自己増幅魔法と比べたらヴィヴィオの自己ブーストは負担も少ないが無いわけではない。
 ヴィヴィオの手からRHdを取り上げようとして気づく。

【……】

彼女のデバイスが主の求めに応じなかったのだ。

「どうして、お願いアリシアのところに行きたいの。力を貸して」
【……】
(RHdが壊れている訳ではないみたいだが…デバイスの意志か)
「ヴィヴィオ、デバイスもヴィヴィオが心配なんだ。アリシアが気になる気持ちもわかるが先に自分の身体の事を気にしてくれ。」
「RHd…」

 デバイスが答えてくれなかった事が彼女を冷静にしてくれたらしい。

「代わりに私が2人の所へ行ってくる。セイン、ヴィヴィオの事頼んだぞ。ノーヴェ、ウェンディ・ディエチもな。部屋の外にいるのは判ってる。」
「ヤバッ」
「バレバレッスか」
「チンク姉…ゴメン」
「全く…」

 3人ともヴィヴィオとの言い争いを聞いて来たのだろう。
 4人いればヴィヴィオも無理矢理動いたりしないと考えて

「暫く頼む」

 そう言って部屋を後にした。



「アリシア…」

 目覚めてすぐに気づくかなきゃいけなかった。
 どうしてアリシアが私を押し倒した格好で倒れていたの?
 私はチェントに圧されていた…ううん、チェントはきっと私と戦ってるんじゃなくて遊んでいる感じだった。彼女が本気になったら一瞬で勝負がついていた。
 なのにどうして?
 ベッドで横になったヴィヴィオはゆりかごの中であった事を思い返していた。
 アリシアが叫んだ後、気がついたらアリシアが目の前にいた。
 それに溢れ出した力と感じた事のない高揚感。アレは何だったのか。

(闇の書事件でもあんな感じは無かった。ママから貰ったデバイスのせい? それとも…ううん、そんなの何でもいい。アリシア…)
「心配かけてゴメンねRHd。次はもっとがんばるから…」

 それ以上ヴィヴィオは考えず、微睡みへと向かった。
 少しでも早くアリシアと会うために。 



~~コメント~~
 新章スタートです。海上ガジェット戦からゆりかごの中に移動したヴィヴィオには前世界のなのはやはやて達がどんな風に動いたのか、結局どうなったのかを知りません。そんなヴィヴィオを中心に再び動き始めます。


 

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