22話 「答えを探して」

 セインが出て行った直後、ヴィヴィオはそっと部屋から抜け出した。プレシアの研究室に行けば彼女は何か知っているだろうし、もしかするとアリシアもそこにいる。
 アリシアがいると考えられるのは研究室か彼女が良く出入りする部屋のどちらかだ。
 途中ウェンディとノーヴェが話ながら来るのを見て物陰に隠れる。
 そしてヴィヴィオの眠っていた部屋から1階下に来た時部屋を出るプレシアの姿を見つけた。
「後でまた来るわね」
 そう言って部屋から出て来る。
(アリシア、ここにいるんだ)

「アリシア、いるの?」

 プレシアが立ち去るのを見て部屋に入るとそこには横になって眠るアリシアの姿があった。
 そっと近づくヴィヴィオ、

(あの時アリシアはやっぱり…どうして)

 彼女の腕にはまだ治癒魔法がかけられたままになっているし、カプセルに入れる薬の香りが部屋に残っている。
 ヴィヴィオ達が戻ってきてから既に2日経っているのに、彼女はそれ程重傷だったのだ。

「アリシア…」
「…ママ?」
「アリシア?」

 何か言っている、何を言っているかを聞こうと顔を近づける。

「………ヴィヴ…が…めだよ…」
「!?」

 再び静かに寝息をつくアリシア。

「…私を…どうして…私…」

 その時

「ヴィヴィオっ!」

 目の前が真っ暗になる。最後に聞こえたのは誰かが私を呼ぶ声だった。



「プレシア・テスタロッサ!、ヴィヴィオを知らないか?」
「ヴィヴィオ? 見ていないわ。目が覚めたのね。」

 研究室へと向かうプレシアを見つけ声をかける。
 アリシアが眠っている部屋をヴィヴィオは知らない。だから彼女の事を聞くためにプレシアに会いに行ったと考えていたのだけれど、違うようだ。

「ヴィヴィオが居なくなった…まさかっ」

 プレシアが言葉の先を読んで気付いたらしい。駆け出す彼女を追いかけた。

「ヴィヴィオっ!」

 扉の向こう、アリシアの眠るベッドの横にヴィヴィオは倒れていた。



『ヴィヴィオ怒っちゃだめ、ヴィヴィオが見失ったら間違っちゃうよ。だめだよ』
(私…アリシアが止めてくれなかったら…)

 アリシアの言葉が繰り返される中、ヴィヴィオはチェントと戦った時の事を完全に思い出した。

 チェントがヴィヴィオからアリシアに標的を変えた時、無防備な彼女を狙ったチェントに対して憎しみを抱いてしまった。直後にあふれ出してくる力の奔流に意識が流され次の瞬間、力任せにチェントを背後から横腹に蹴り飛ばしていた。
 この時ヴィヴィオの意識とは別の力によってヴィヴィオ自身は動いていた。
 そして、

『チェントがそういうつもりなら私もそうする…』

 そうヴィヴィオ自身が言った瞬間目の前に魔法球が現れAMF空間を保っていたエネルギーまで取り込み集束させた。

(あれは…)

 ヴィヴィオの母、高町なのはの「スターライトブレイカー」そのもの。
 それをヴィヴィオはチェントではなくスカリエッティとウーノへ撃とうとしていたのだ。

『チェントが無防備なアリシアを狙うなら、私も無防備な2人を狙う』という意味。
 それにいち早く気付いてアリシアがヴィヴィオに飛びつき射角を変え、チェントが身を挺して2人を守った。アリシアとチェントがいなければ変わり果てた玉座の間の如く2人は影もなく消し飛んでいただろう。

(アリシアがこんなになったの…私のせいだ…)

 聖王のゆりかごは主=聖王の戦う意志によって動く。
 あの場所で戦おうとすれば聖王を有利にするようにされていても当たり前。
 JS事件でも戦いたくないと思っていたのに無理矢理戦わせられた時があった。

(アリシア…私…ゴメン…本当にゴメン…)
「…ィオ」
「…ィヴィオ」
(だれ? 私を呼んでるの?)

 次第にハッキリ聞こえる声、その声の主を思い出した。

「アリシアっ!!」



「アリシアっ!!」
「おはよ、ヴィヴィオ♪ よく眠れた?」

 ベッドから飛び起きた時、横の椅子にはアリシアが座っていた。

「アリシア? ここ…医務室?」
「おはよヴィヴィオ。そうだよ2日間ずっと寝てたんだよ。起きないかと思って心配したんだからっ」

 目の前にアリシアがいる。

「アリシア…アリシアーっ!!」

 居ても立ってもいられずヴィヴィオはアリシアに抱きついた。

「ッタ!」

 痛そうな声を聞いて慌てて離れる。彼女も怪我をしているのだ。

「ごめん…痛かったよね」
「ううん、大丈夫。もう殆ど治ってるから。」
「でも良かった~元気で。」
「アリシアもういいでしょ。ヴィヴィオ、アリシアは怪我して熱があるのよ。だからまた明日ね」
「え~っ、私元気だよ? ねぇヴィヴィオ」
「ちゃんと治ってからね」
「つまんない…はい、ママ。ヴィヴィオまたね」

 そう言うとアリシアはプレシアと共に医務室を出て行った。

(…アリシア…)


「全くもう…アリシア大丈夫?」
「う…うん…だいじょうぶ」

 医務室をでて少し歩いたところでアリシアはプレシアに抱かれ元居た部屋へと向かう。
 数時間前、チンクがヴィヴィオを呼ぶ声でアリシアは目覚めた。直後近くにいたプレシアにヴィヴィオが自分を見て倒れたのを聞いてどうして倒れたのかを知り2人に頼んだのだ。

『ヴィヴィオと私を医務室に連れて欲しい、今見たのがヴィヴィオが夢だと思えるようにして』と
 無論その場にいたプレシアもチンクも止めたがアリシアは頑として聞き入れなかった。
 ヴィヴィオがアリシアの事を知ったら傷つくからと判っていたから。

「約束はちゃんと守ったわよ。治るまではちゃんと寝てなさいね」
「はい、ママ。ありがとう…疲れたから寝るね…」

 そう言って目を閉じ、暫くすると規則正しい寝息が聞こえてきた。

「お疲れ様、アリシア」

 ベッドに彼女を寝かせた後、プレシアは額にキスをし部屋を去った。



「いつまで真っ暗なの続くのかな」

 ロビーから外を眺めながらセインは呟いた。
 吹き飛ばされた腕も完全に治っている。吹き飛ばされてどうしようかと考えていたけれど、後で見に行くと黒く焦げた手が転がっていた。一応拾ってはきたものの今ばかりは戦闘機人の体に感謝した。

「そうですね。いつまで続くのでしょう?」

 隣でディードも同じように外を眺めている。

「陛下とチェントが動かなければずっとこのまま。」
「うわっ!?」
「! 驚かせないで下さい、オットー」

 背後から突然声をかけられて飛び上がった。

「オットー頼むから先に声かけて。」
「いまかけた。」

 悪意がないのはセインにも判っている、判ってはいるんだけれど…怒る気が失せた。

「オットー、陛下とチェントが動かなかったらって?」
「遠い未来や過去から今に時間移動するのは魔力量から見ても巡航艦クラスの魔力運用が必要だからありえない。だから今、近い過去・未来を変えられる能力者は陛下とチェントだけ。でも2人ともあれから動いてない。陛下もそうだけどチェントも負傷してるはずだって。」
「時間移動能力者が動かないから今から未来が見えなくなってるってこと?」
「そうだとプレシアが言ってた。」

 セインにはややこしい話はわからなかったけど、今すぐ攻められる事もないのがわかって気が軽くなった。

「でももうすぐ変わる。さっき陛下が動く準備してた。」
「「ええっ!?」」

 今度はディードと2人揃って声をあげた。




「プレシア・テスタロッサ。ヴィヴィオに用か?」

 ロビーに向かおうとチンクが歩いていると、向こうでプレシアが早足で歩いて行くのを見た。
 何かあったのかと思い後を追いかけると彼女はヴィヴィオの部屋に入っていった。
 ヴィヴィオはさっき、着替えて自分の部屋で休むとベッドで眠っている筈だ。
 プレシアに続いてヴィヴィオの部屋に入ってみると、ヴィヴィオは静かな寝息をたてていた。

「やはりまだ疲れが残っているんだろう。少し休んだ方がいい」

 そう言い部屋を後にしようとした時、プレシアから発された言葉はチンクにとって予想外のものだった。

「いいえ、ヴィヴィオは他の時間へ行ったのよ。」
「何っ! 行ったってどこ…いやどの時間に? まさかチェントを追って…」
「いいえ、それはまだ調査中よ。」
「ではどこに行ったんだ。」
「……」

 誰にも告げず何処に行ってしまったのか? 

「帰ってくるのを待つしかないのか…私達は…」

 一体どこに行ったのか、チンク達に知る術は無かった。



「あっ、いらっしゃいヴィヴィオ」
「おや、ひさしぶり。元気にしてたかい?」
「いらっしゃい~」
「こんにちは、桃子さん、士郎さん、美由紀さん…」

 ヴィヴィオは管理外世界、なのはとはやての出身地である海鳴にきていた。
 何故か判らないけれど無性にここに、桃子や士郎達に会いたくなった。

「なのはは今、まほ…じゃなかった、え~っとそうそう! ちょっと旅行に行ってるの。フェイトちゃんとはやてちゃん達と一緒に」

 イメージしたのは海鳴の翠屋だけだったからいつの時間に飛ぶか判らなかった。今は3人とも管理局の研修に行っている時期らしい。

「今日は遊びにきたの?」
「はい、そんなところです。近くまで来たからみんなと会いたいなって」
「嬉しい事言ってくれるね。桃子、後任せていいかい? ヴィヴィオを家まで送ってくるよ。行こうかヴィヴィオ」
「えっ? あの、その…」
「ヴィヴィオ、今日はこっちに居るんでしょう? じゃあご飯食べてって。桃子さん、腕ふるっちゃう♪」
「わっ、えっと…はい…」

 士郎や桃子にかかると勢いに呑まれてしまう。でも…

(こういうの…なんだか良い…)

 ちょっと嬉しかった。



「ヴィヴィオ、何か悩んでるんじゃないか?」

 翠屋から高町家へと向かう最中、士郎に言われてドキッとする。
 士郎は前を向いて歩いてるのに、気持ちを見透かされていた。

「どうしてわかるの?」
「まぁ、ヴィヴィオより長く生きてるからな。良かったら話してくれるかい?」
「………うん…」

 無意識にこの世界を選んだのはきっと士郎に聞いて貰いたかったからなんだと思った。


~コメント~
 AnotherStoryにおいて、ヴィヴィオがなのはとフェイト、どうすればいいか悩んでいた時、士郎が助け船を出してくれました。なのはの両親はそういう洞察力がありそうですね。

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