23話 「力の理(ことわり)」

「はい」
「ありがとう」

 高町邸の縁側で湯飲みを受け取る。
 道場と隅に作られた花壇、ヴィヴィオにとってはジュエルシード事件が数ヶ月前の事なのに凄く懐かしく思えた。

「そっか、友達に怪我させちゃったのか…」
「うん…」
 流石に魔導師だったり未来については話せない。ヴィヴィオは魔法については語らず、アリシアを傷つけた事だけを話した。

「ヴィヴィオ、アリサちゃんを知ってるかい?」
「アリサってなのはの友達の?」

 士郎が全く違った話題を持ち出してきたのに少し驚きながらも彼の話に耳を傾ける。

「そう…2年くらい前かな、学校から桃子と一緒に呼び出されたんだ。行って驚いたよ。なのはがクラスメイトとケンカしたって聞いてな。それもつかみ合いでなのはも相手の女の子も髪は無茶苦茶で顔にひっかき傷を作っていたし、ケンカを止めた女の子は2人の間でずっと泣き続けてたんだから」
「…アリサとすずか?」
「後でなのはに聞いたんだ。その女の子は泣いていた女の子が大切にしていた物を取り上げてからかっていたらしい。それを見てなのはが止めさせようとしたけど、言うことを聞いてくれなくて叩いたんだって。ヴィヴィオはなのはが正しかったと思うかい?」

 なのはが止めようとしたのはヴィヴィオにも判る、でも言うことを聞かなかったから力ずくというのは…
 その事に思い至った時、ヴィヴィオ自身の行動を思い返した。
 空港火災ではなのは達を消された怒りと流れのままに戦ってしまった。
 湾岸エリアでも不意打ちの様な形で止めたし、ゆりかごの中でも沸き起こる怒りとチェントを倒すという衝動が抑えられなかった。

「全部話し合いで解決出来れば1番いいさ。でも力を使わなきゃいけない時もある。」
「うん…」
「だから後で本当に正しいと思った事をしたのか? 力を使わなくても良かったんじゃないか?って考えるようにしてる。剣でも魔法でもこれは同じだと思うんだ」

 優しく微笑んだ士郎の言葉に一瞬固まってしまった。

「ヴィヴィオもフェイトちゃん達と同じで魔法使いなんだろう?」
「あの、そのっ…うん…」

 ジュエルシード事件時に何度か気付かれそうな時もあったし、闇の書事件時もなのはが魔法について打ち明けたのと同時期に海鳴に来ていた。
 振り返ってみれば気付かれていてもおかしくない。

「これで士郎さんの話はおしまいだ。そうそう、話に出て来た女の子はヴィヴィオが言った通りアリサちゃんとすずかちゃんだよ。ケンカしてもちゃんと話せば友達になれるんだ。なのはのことだからフェイトちゃんやはやてちゃんも同じ様にして友達になったんじゃないかな」

『「もしヴィヴィオが誰かとケンカしちゃって、それでも友達になりたいならまっすぐ見つめてお話しようよ。「名前をよんで」って』
(ママ…)

 ヴィヴィオを見て話す士郎となのはの顔が重なって見えた。



「うん、わかった♪ ありがとう」

 士郎はヴィヴィオがアリシアを怪我させた事だけを悩んでいるのではなく、もう1人の自分=チェントとの接し方にも悩んでいるのに気付いていた。
 だからなのは達の昔のことをはなしてくれたのだと。

「私、帰ります。何も言わずにこっちに来ちゃったから…」

スタッと縁側から飛び降りて立ち上がり、士郎の方を向いて言った。

「そうか…頑張れよ」
「RHdセットアップ…ありがとう。今度はなの…ママと一緒に来ます。」

 虹色の光に包まれた後、バリアジャケットを纏ったヴィヴィオは笑顔で手を振る士郎に手を振って返しその時を後にした。

 10年後、なのはがヴィヴィオをつれて海鳴に遊びに来るが、彼女と何度も会ったヴィヴィオが同じだと知るのはまだ先の話である。



「おかえり、ヴィヴィオ」
「たっただいま…ノーヴェ」

 自室で目覚めた時、周りには誰も居なかった事に感謝しつつそーっと部屋を出た時、横から声をかけられて飛び上がった。
 一目でノーヴェが怒ってるのが判る。

「ヴィヴィオ、プレシアに起きたら連れてこいと言われてる。行くぞ」
「えっちょっと待って、わっ、キャアッ」

 有無を言わさずヒョイと担がれて、ノーヴェはそのままプレシアの研究室へと向かった。



「チンク姉、ヴィヴィオを連れてきた」
「ああ」
「ありがとう。」

 部屋に入り下ろされたヴィヴィオの前にチンクとプレシアが待っていた。

(…やっぱりばれてる)

 ノーヴェの様子からして、勝手に時間移動したのがばれているのは感じていたが、2人の顔を見て確信した。

「ごめんなさい、勝手に動いて」
「…判っていればいいわ、どこに行っていたの?」
「10年くらい前の海鳴に行ってきました。」
「海鳴? 聞いた事がある地名だが」
「うん、なのはママの家がある管理外世界…それで、なのはママの家族に会って来ました。」

 答えるヴィヴィオの顔をみて 

「見つけたのね。」

 何がという事でも何をという訳でもない。

「はい、だから次は…ううん、後は私1人で行きます。」
「!?」
「なんで」
「…理由を教えて貰える? アリシアに危ない目に遭わせたくないから?」

 プレシアの表情が険しくなる。でもヴィヴィオは彼女を怖れる事なくプレシアの目をみる。

「それもあります。でも私こっちに来てアリシアに何度も助けて貰ってた。空港火災とかゆりかごの中でもそう。それに私が落ち込んだり悩んだ時、アリシアはすぐに気付いて助けてくれた。だから今度は私が1人でちゃんと出来るところ見ていて欲しいんです。」

 助けられるばっかりじゃなくて、ちゃんと1人でも出来るところを見ていて欲しい、待っていて欲しい。

「それに、次にチェントと会ったらママ達を襲った様にアリシアも襲うと思います。私はチェントが同じだと思ってました。チェントもそう思ってる。でもアリシアは違ったから…」

 チェントはバリアジャケットを使ったヴィヴィオより強かった。彼女を追いかけた先で会えばアリシアは真っ先に狙われヴィヴィオには止められない。

「ゆりかごの中でチェントがアリシアを襲った時、どうして友達まで傷つけるのって怒って…心の中の黒い気持ちに飲み込まれました。」

 アリシアのデバイスから映像を見ていればそれがどんな結果を生んだのか…プレシア達は既に見ているだろう。

「黒い気持ちに取り込まれた私はチェントの奥にいたスカリエッティとウーノを狙って…チェントと一緒ですよね。無関係じゃないけどAMFの中で無防備な人を狙うなんて。それにずっと奥にはママ達が居たかも知れないのに…アリシアが助けてくれなかったら私は間違って…でもそれでアリシアはカプセルに入る位の怪我してて、それなのに…私の前では笑ってくれて」
「ヴィヴィオ…お前」
「知っていたのね」

 静かに頷く。目覚めて彼女に抱きついた時、彼女の体から少しだけ培養液の香りがして、赤くなっていた手はずっと動かさなかった。ううん動かせなかったんだ。
 彼女がヴィヴィオを落ち込ませないように精一杯の嘘をついてくれたのだと。

「だから、私が帰ってきたら今度はお帰りなさいって言って欲しいんです。私の大切な親友だから」

 1人で立って歩けるのを見ていて欲しい。ママ達にも、アリシアやプレシア、チンク達にも。
 ヴィヴィオの顔を暫く無言で見つめるプレシア。
そして

「判ったわ」

と一言頷いた。

~コメント~
 なのはの父、士郎はAnotherStoryでも迷っているヴィヴィオに道を示しました。
 アリシアを怪我させたのにそれを隠そうとする彼女自身の思いを知って更に迷っているヴィヴィオ。そんな彼女に求めている答えとヒントを士郎は持っていたのではないでしょうか

Comments

Comment Form

Trackbacks