25話 「すれ違った世界で」

「見つけたチェントっ!!」

 排水処理施設なのか、地下に作られた空洞の中でヴィヴィオはついにチェントに追いつく。

「追いかけて来たんだ…」

 今まで聞いていた彼女の声とは違う深く沈んだ声に驚く。
 彼女のジャケットが破けている。至近距離での爆発と爆風を受けたのか?
でも…

「起きる前に消えちゃえば苦しまなくて済んだのに」
「…私を狙ったんだ。やっぱり」
「……」
「チェント、チェントが私を憎むならそれでいい。でも少しだけ話を聞いて。ゆりかごの中で私はアリシアとチェントに助けて貰った。ありがとう、それとごめんなさい…」
「……なによそれ…」
「チェントは私とあなたが一緒だって言ってた。私もそう思ってた。でも、私達は同じ様に生まれてきただけで全然違う。私は聖王とかマテリアルじゃない。高町ヴィヴィオなの」
「でも、私はヴィヴィオと同じ」
「違うよ。私はスカリエッティやウーノ達が怖い。チンク達とは友達だけど私のお姉さんじゃない。チェントのママはなのはママじゃない。私達が目覚めるのが違ったら入れ替わってたかも知れないけど、今は私が高町ヴィヴィオ、私はチェントじゃない。」

 アリシアが言いたかったこと、
 ヴィヴィオはヴィヴィオなんだということ
 だから胸を張ってよと言われた理由
 チェントがヴィヴィオが同じだと言って怒った理由
 それが今のヴィヴィオの言葉にあった。

「チェントにも守りたい、譲れないものがあるのと一緒で私にも守りたくて譲れないものがある。本当はチェントと戦いたくないしもっとお話したい。」

 それが心からの言葉

「無理だよ。もう…マスターも姉様も消えちゃった…」
「えっ…」

 ポツリと洩らした彼女の言葉。それが彼女の深く沈んだ声になった理由だとすぐに判った。
 最初に会いゆりかごで見たスカリエッティは前の世界の彼だったのだと。
 何らかの方法でここに転移したものの、ゆりかご戦で存在出来る時間が消えてしまい向こうのなのは達同様に消えてしまったのだと。

「私は私のマスターと姉様達を助ける。ここにはまだマスター達がいる。」
「させない。私はあなたを止める」

 前の世界とは逆の立場。

(もう迷わない。私が止めるんだっ!)

 そう思った瞬間、真っ白なバリアジャケットが弾け白と黒の騎士甲冑が現れた。
 そして纏いきった直後に溢れ出す力。

「それが『本当の姿』?」
「うん、今の私の全力」

 2人が相対して3度目、互いに頷いた時戦いの幕は切って落とされた。



『こちらライトニング4、緊急事態につき現場状況を報告します。サードアベニューF23の路地裏にてレリックとおぼしきケースを発見。ケースを持っていたらしい小さな女の子が1人。』
『女の子は意識不明です』
『指示をお願いします。』

 はやてが部隊長室でなのはとフェイトと話していた時、キャロから全体通信が飛び込んできた。
 レリックを持った少女。今までに無かったパターン。
 課内に緊張が走る。

「スバル、ティアナ、ゴメン、お休みは一旦中断」
『はい』
『大丈夫です』
「救急の手配はこっちでする。2人はそのままその子とケースを保護、応急手当をしてあげて」
『『はい』』
「全員待機体制、席を外してる子達は配置に戻ってな。安全確実に保護するよ。レリックもその子も」

 なのはとフェイトの顔を見て頷き現地に行って貰う。ジャケットを羽織って管制室へを向かうはやての下に更に連絡が飛び込んできた。

『部隊長、サードアベニューに隣接した区画で複数の爆発音。魔導師同士の戦闘と思われます。推定ランクはSS以上』
「!?」

 息を呑む。
 キャロとエリオの居る区画から近い、何か関係があるのか?

「最優先は2人と一緒にいる女の子の保護とレリック確保。状況報告は随時してな」
『了解』

 カリムかクロノに連絡を取ってリミットを外せる様にしておかなければ。なのはとフェイトだけでなくフォワード全員リミット開放の可能性もある。

「SS以上…どこの魔導師か知らんけどなんて無茶を…」

 歩む足を速めながら呟いた。



『救急の手配はこっちでする。2人はそのままその子とケースを保護、応急手当をしてあげて』
「「はいっ」」

 はやてからの通信が切れた後、キャロとエリオはケースを持ってきた少女の方へと視線を移した。
 ボロ布を着ただけの少女、彼女は2人を見た直後意識を失ってしまった。

「エリオ君…この子…」
「うん…僕も同じ事考えてた」

 レールトレインで会った少女、アリシアにあまりにも似すぎている。姉妹というより双子…同一人物じゃないかと思える位似た女の子。

「アリシアちゃんの妹…?」
「わからない。でも、ここまで似てて他人とも思えない」

そこまで言って続きを言うのを躊躇う。

(まさか…ProjectFate…)

 まさかとは思いながらもその可能性を捨てきれないエリオだった。



 エリオとキャロが幼いヴィヴィオを保護したのと同じ頃、強固な素材で組まれている地下空間が数分も経たずに見るも無惨な廃墟と化し始めていた。
 その廃墟に似つかわしくない程美しい虹色の光球が乱れ飛ぶ。
 聖王ベルカ戦争の時もそうだったのだろう。
 それがヴィヴィオとチェント、ベルカ聖王を複製母体とする2人の戦い。
 完全な近接戦志向のチェントに対しヴィヴィオは近接戦をしかけながらもその差を中距離魔法によって補っていた。
 押されそうになったら魔力弾と砲撃でカバーしつつ体制を立て直す。

(廃棄都市でも…ダメ、みんなに迷惑かけちゃう)

 咄嗟に闇の書事件の様に海上へ出たらと思うが、ミッドの洋上は通信用ケーブルや海洋産業に使われている。

(どうすればっ)

 戦いの中でヴィヴィオは違った焦りを感じ始めていた。



「ヴィヴィオっ頑張って」

 元の時間では苦しむのを見てアリシアが手を握って声をかけ続けていた。
 今朝、アリシアが目覚めヴィヴィオの部屋に行くと彼女は眠っていた。

「おはよ~ヴィヴィオ。まだ寝てるの?」

 声をかけてもピクリとも動かない。
 近寄って声をかけても彼女は微動だにしなかった。

「…ヴィヴィオまさか!」

 ただ眠っているだけじゃない。これは…

「ヴィヴィオは行ったわよ。75年の6月に」

 後ろから声が聞こえ振り返る。そこにはプレシアが立っていた。

「ママ…そっか、ヴィヴィオ行っちゃったんだ…私を置いて…」

 今まで一緒にいたから、元の時間に戻るまでずっと一緒に居たかったのに、

「私、置いてかれたんだ…ママ、私…ヴィヴィオは私が一緒なの嫌だったのかな? 迷惑だったの? 勝手に動いて怪我しちゃって、ヴィヴィオが迷惑に思うのも当たり前だよね…」

 そう聞いた次の瞬間、パァァンと音が響いた。音に驚いていると頬が熱くなっていた。
 一瞬何が起こったのか判らなかった。
 でもプレシアの方を向いて頬を叩かれたのだと気付く。
 今まで怒られた事は何度もあった。でも何も言わずに叩かれたのは初めて。

「自分の思いだけじゃなくて、ヴィヴィオの気持ちを考えなさいっ。」
「……」
「ヴィヴィオはアリシアに何度も助けて貰った。間違ってたら教えてくれた。大切な親友だって。ずっと助けて貰うだけじゃなくて、私も1人で出来るのを見ていて欲しい。帰って来たらお帰りなさいって行って欲しいって。」
「……」
「そこまで言ってくれる子が迷惑とか嫌なんて言うと思うの? アリシアがカプセルから出た時ね、ヴィヴィオはそれに気付いていたのよ。でも何も言わなかったわ。」

(知ってたんだ…あの時)

「もっとヴィヴィオを信じてあげなさい。アリシアの親友なんでしょう」

 プレシアの声が震えている。
 見ると彼女の瞳に涙が浮かんでいた。

「……ごめんなさい…ママ、ヴィヴィオ待ってるからね…」

 そう言いヴィヴィオの手をギュッと握りしめた。



「外が見えてきたって?」
「うん、まだ薄暗いけど時間が経つにつれて変わってきてるッス」
「陛下が元に戻そうとしてくれてる…」

 研究施設のロビーにはノーヴェ、ウェンディ、セインに続いて1人、また1人と集まってくる。
 変化に気付いたのは1時間ほど前。
 何もする事がなく、ロビーで読書をしていたディエチが外を見た時微かな光が差し込んでるのに気付いたのだ。
 暫く眺めていると僅かだが周りの風景が見え始めている。
 それをチンクとオットーに話した所全員に伝わったのだ。

「何日間も変わらなかったのに…」
「ヴィヴィオが原因を突き止めたんだろう。」

 ここにいる全員とも過去の世界で何が起きているのか知らない。

「次が必ず元の世界だという確証は…」

 チンクの言葉を隣で外を見ていたセインが遮る。

「チンク姉大丈夫だって。次はちゃんと元の世界に戻ってるよ。」
「そうだよ。ヴィヴィオが向こうで頑張ってるんだから信じなきゃ」
「そうッス」
「…そうだな…私達が信じなくてどうする」

 思い直し再び外を眺める。
 世界の変換は始まっている。



(このままじゃ…)

 ヴィヴィオはチェントの拳を逸らし距離を取る為に魔法弾を至近距離で数発撃ち込む。
 しかし魔法弾はチェントによって弾かれ天井に直撃した。
 脆くなっていた天井は魔力弾の直撃に耐えられず崩れ、そこから陽が差し込む。そして陽と一緒に…

「ハァッハァッ…この音は…ヘリ? キャアアッ!!」

 ヘリのローター音が聞こえ耳を傾けてる間にチェントの拳をまともに受け吹き飛ばされてしまう

(ヘリが来た…まずいっ、このままじゃ私とチェントの事知られちゃう。)

 ヴィヴィオのRHdは管理局製のデバイス。ゆりかごの中の様に調べられない場所であれば使っていても知られることは無いが、ここはミッドチルダの都市区画、管理局のサーチャーが入れば一瞬でばれてしまう。

「何とかしなくちゃ…」

 

「後の事は任せて」

シャマルと共に少女がヘリに乗せられる。スバル達の方を向いて指示を出す。

「シャマルさんお願いします。私達は残ったレリックを捜索。廃棄都市区画には近づかないで、SSランククラスの魔導師が戦ってるから。」
「ダブルエスっ!?」
「それって…なのはさんより…」

 なのはとフェイトは空戦Sプラスで魔力値の高いはやてがSS、今暴れている魔導師は魔力値だけで言えば制限を外したはやてと同等かそれ以上。今のなのは達が巻き込まれたら只では済まない。
 だからと言って残されたレリックを回収しない訳にはいかない。
 なのははニコッと笑って

「大丈夫。戦闘エリアは限られてるからその付近に近づかないように捜索。私とフェイト隊長はヘリの援護とみんなのフォローに回るから。」

 スバル達が巻き込まれないように。

「了解です。行くわよみんな」

 ティアナの掛け声と共に4人はバリアジャケットを纏って地下道へと入っていった。



(気付かれない場所…壊れても迷惑かからない場所…)
『気を散らさないで、集中しながら違う事を考えるの。一流の魔導師はみんな同時に幾つもの事を考えているんだよ』

 なのはから魔法を教わっている時に何度も教えられた言葉。
 目の前のチェントに集中しながらヴィヴィオは次の手を考える。

(気付かれない…壊れちゃっても良い所…そうだ!!)

 1つの答えが導き出される。

「でも…それは…」

 彼女、チェントの持つ【アレ】を取り戻さなければ。

(チェントはどこかに持ってる。あのジャケットが私のと同じなら)
 賭けてみるしかない

「アァァアアアアッ!!」

 右手に帯電させた魔力を集め殴りにかかる。いくら同じでも耐電していたら一瞬動きが止まる。

(思った通りっ、右のプロテクターっ!?)

 しかしチェントは考えていたより早く動かれてしまい、ヴィヴィオの体は格好の位置だった。

「キャアッ!」

蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる。

「ッタタッ…でもっあったっ!!」

 引きはがしたジャケットの中から出て来たのは1冊の本。
 チェントがハッと気付き

「返せぇええええっ!」
「!? キャッ」

 目の前に迫られたチェントに奪い返されながらも魔法弾を撃ち込んだ。目標はチェントでは無く、彼女の持った1冊の本。

(ゴメン…でも今これしかないのっ)

【バンッ!】という炸裂音と共に本がチェントの手から離れバラバラに飛び散った。

「ケホッ…これで時間移動出来るのは私のだけ。チェントはもう移動出来ない。」

 叩きつけられた際に落ちてきた瓦礫の中から立ち上がり時の魔導書を手に取る。

「ヴィヴィオ、それを渡して。」
「…」
(―願うは聖者の船が浮かぶ時―)
「渡してくれたらヴィヴィオの家族や友達には手を出さない」
「…」
(―古の王が目覚める地へ―)
「渡してくれないなら」
「渡さないって言ったらどうするの?」
(―時は葉色変わる季節―)
「無理矢理にでも奪い取る」
(―望むは我自身ー)

 チェントが距離をつめたのとヴィヴィオから虹色の光が現れたのはほぼ同時だった。
 包まれようとする瞬間

「ハァァアアアッ!!」
「!?」

 光の中からチェントの斜め横に飛び出て壁の反動を使って体当たりをしてチェントを光の中に突き飛ばした。

「ヴィヴィオォォオオオッーっ」
 チェントの叫ぶ声が消えた時、彼女の姿は光と共にその場から消えていた。

「…うまく…うまくいった?」

 咄嗟に考えた作戦だった。
 戦う場所と時間を変える。その為にはチェントと一緒に移動しなければならない。しかし近接型の彼女を簡単に移動させる事もできないし、彼女も写本を持っている。
 そこで写本を取り戻してヴィヴィオが誘導する。

「ゴメンね…後でちゃんと直すから…」

 バラバラになった本を1枚1枚集める。
 集め終わった時、空が見えた穴から声がした。

「動かないでっ。都市街での攻撃魔法使用は法で禁止されています。」

 立っているのはバルディッシュを構えたフェイト

(フェイトママ。気付かれちゃった…当たり前か)

 都市部に近い場所で戦い、殆ど原型を留めない程に壊したのだ。

「貴方の安全の保証は法によって管理局が行います。速やかにバリアジャケットを解除し投降してください。」

 少し話したい。でもここでフェイト顔を合わせると只でさえずれた時間が余計に狂わせてしまう。

「ここは…元の時間へ、またね…フェイトママ」
「!? 待てっ!!」

 フェイトがバインドをしかけた時、ヴィヴィオもまた虹色の光に包まれ元の時間へ戻っていった。



『ごめんはやて、逃がした。』
「かまへんよ、それよりなのはちゃん達に合流して。ガジェット・ドローン以外の敵が出て来てるらしい」
『了解』

 フェイトからの通信が切れた後、はやては前でオペレートしているルキノに聞く

「ルキノ、さっきの子のデバイス情報わかった?」

 センサーによりヴィヴィオの後ろ姿をモニタに映しだす。

「デバイスは管理局、本局製なんですが…」
「本局製か、製作者は誰?」
「ええ…それが…」
「何かあるのか?」

 いつもははっきりと答えるルキノが言いよどんでいる。
グリフィスも首を傾げ聞いた。

「製作者はリンディ・ハラオウン提督。製作が65年4月になっていまして…」
「 何だって!?」

 知っている名前が出て来て驚くグリフィス。
 映っている少女は後ろ姿から見ても10歳前後。それに10年前にリンディが製作したことにはやては少なからず驚くが、更なる事実がルキノの口からもたらされた。

「デバイス名とメッセージも登録されています、デバイス名『レイジングハート2nd』、メッセージに『不屈の心の名を継ぐ者と共に健やかに N.T&F.T.H』」
「何やてっ!?」

 デバイス名もそうだが、メッセージのイニシャルは間違い無くあの2人だ。
 そして黒いジャケットを纏った少女
 これらからはやてはある事を思い出す。
 リインフォースが旅立った後、礼を言おうとリンディにヴィヴィオはどこだと聞いたがリンディは『きっといつかまた会えるわ』としか答えてくれなかった。

「まさかヴィヴィオちゃん…今がその時なんか? グリフィス君、ルキノ、今の検索情報とセンサーの情報は私の端末に送った後削除。」
「え?」
「復唱」
「「りょ、了解」」

 何か理由があってリンディはヴィヴィオの情報を本局に出さずに消していた。その理由が何かは判らない。彼女に後で聞く迄情報を隠しておいた方がいいとはやては考えた。 
 だがその後、保護されたヴィヴィオの姿を見てはやては三度驚かされることになる。



「…戻ってきた…の?」
「ヴィヴィオ、おかえり」

 ベッドの上で目覚めたヴィヴィオを待っていたのはプレシアとアリシアだった。

「良かったわ、今度は何も起きなくて」

 安堵するプレシアに

「ううん、すぐに行かなきゃ…このままじゃダメなの」
「すぐって、疲れてるのに無理だよっ。ちょっとだけでも休もう」
「アリシアありがと。でもすぐに行かなきゃチェントが待ってる。ちゃんと決着つけなきゃ。大丈夫だよ次で終わるから。プレシアさん」
「何?」
「これ…預かっててください。私が持ってたの取り返しました」

 RHdの中からバラバラになった紙の束を出す。

「ええ、確かに。それとこれを持って行きなさい。要るんでしょう」

 代わりにカード式のデバイスを受け取りRHdに入れ刻の魔導書を取り出す。

「アリシア、プレシアさん行ってきます。これが最後だから…」

 チェントを飛ばした時と同じイメージを浮かべる


 ―願うは聖者の船が浮かぶ時―

    ―古の王が目覚める地へ

  ―時は葉色変わる季節―

     ―望むは我自身ー

 虹色の光に包まれ再び【その時】へと向かった。


~コメント~
 高町ヴィヴィオがもしなのはStrikerSの世界にやってきたら?
 なのはStrikerSから登場するヴィヴィオとヴィヴィオがニアミスしたり、闇の書事件時に活躍したもう1人のAs、ヴィヴィオを知るはやてだからこそ誰よりも驚いたのではないでしょうか?
 ヴィヴィオがチェントをどこへ送ったのか、そしてヴィヴィオの意図は? 残り2話になりましたがお楽しみに

Comments

Comment Form

Trackbacks