26話 「ファイナルリミット」

「ヴィヴィオ…」
「簡単に呼ばないでっ!」

 呼びかけにも答えず、聖王となったヴィヴィオがなのはに向かって魔法弾を撃ち込む。
 なのははそれをかわしチェーンバインドで聖王ヴィヴィオを縛る。しかし

「こんなのっ効かないっ!! ハァアアア」

 ヴィヴィオはそれを簡単に引きちぎって魔法弾を撃ち出し直前で爆発させた。 

「ウッ…アアッ!!」

 もうすぐヴィヴィオを操作している者の位置がわかる。それまで持ちこたえればっ

「ブラスター2っ!」

 聖王のゆりかごの中、軌道上へと移動するゆりかごを抑え聖王ヴィヴィオを助けようとなのはは戦っていた。
 作り出したブラスタービットが聖王ヴィヴィオへと向かった瞬間、2人の間に虹色の光球が現れる。

「ィオォォオオオッ!!」

 中から現れたのは、聖王ヴィヴィオと同じ顔の女性。

「ヴィヴィオ!」
「誰だっ!」

 聖王ヴィヴィオも構える。

「ここゆりかごの中か…高町なのはとヴィヴィオ、2人とも一緒なら丁度いいや。」
「何を言ってっ、クッ!!」

 聞く間もなくヴィヴィオそっくりの女性がなのはに向かって迫った。突然襲いかかられデバイスで防ぐが、彼女の拳はヴィヴィオより強く重い。

(このままじゃ…)
「邪魔するなぁああ」

 聖王ヴィヴィオが彼女にも魔法弾を撃ち込むが

「邪魔してるのはそっち。折角なのはを消してあげるんだからヴィヴィオはじっと待ってればいいのっ!」
「グアッ」

 魔法弾を全て蹴散らし、一瞬の内に背後へ回り込みヴィヴィオを蹴り飛ばした。

「ヴィヴィオっ!」
「心配してる余裕、あるの?」
「!? キャアアアアッ」

 ヴィヴィオとは比べようの無い程の強い力で殴りつけらけ後ろに飛ばされ壁に打ち付けられる。

「これでおしまい。バイバイ、な・の・は・マ・マ」

 ニヤリと笑みを浮かべた彼女が手に光球を作り出す。
しかし、それはなのはに届く事は無かった。
 彼女が現れた時と同じ虹色の光球が現れ中から複数の魔法弾が彼女に向かって打ち出されたのだ。

「こ…今度は何?」

 そこから現れたのは1人の少女。

「なのはママ、ごめんなさい…巻き込んじゃった。」
「ヴィヴィオ?」

 また1人現れたヴィヴィオそっくりな少女が悲しそうな顔でなのはを見つめていた。



「なのはママ、ごめんなさい…巻き込んじゃった」
「ヴィヴィオ?」

 聞かれて振り返る。崩れた壁から聖王化したヴィヴィオも立ち上がる。

「ごめんなさい。でも…ここしか思いつかなかったの。私とチェントが戦っても迷惑かからないところ…」

 どこに行っても周りを巻き込んでしまう。
だったら消えてしまう船の中がいい。
 元々消えてしまう物ならそれ以上壊しても時間に影響しないし誰かに迷惑かかる事もない。
 そう思ってここにチェントを飛ばし追いかけてきたのだけれど、元の時間に戻った分だけ着くのが遅れてしまった。
 その分なのはを辛い目にあわせてしまった。

「チェントもう終わりにしよう。あなたの中にあるレリックを壊して…一緒に行こう。私のところはチェントのマスター達も消えていない。きっといつか会えるよ。」
「誰がそんなの信じると思う? ヴィヴィオあの本持ってるんでしょ。それでもう一度最初から作り直す。全部っ!!」

 完全体のレリックは戦う意志を強制させる。
 特にゆりかごの中では心が弱ければその意志に飲み込まれてしまう。
 ヴィヴィオにも覚えがある。

(私がゆりかごで飲み込まれたのも…それが原因)
「ううん、もうこれはチェントに渡さないし使わせない。一緒に連れて帰る。」
(これが最後、もう迷わないし間違わないっ!!)

 強い気持ちと意志を持って胸にあったデバイスを取り外す。
そして天高くかざして叫んだ。

「行くよ、レイジングハートセカンド。セーットアーップ」
【Standby Ready.Setup】

 ヴィヴィオを虹色の光が包み、光が消えた後には白いバリアジャケットを纏った姿があった。
 そしてチェントと昔の自分自身である聖王ヴィヴィオとなのはの方を向く。

「なのは、なのはママはまだ知らないけど私、なのはママとずっと前に約束したの。『いつか私がママを助ける』って。」

 機動6課が解散する少し前、Stヒルデ学院を訪れた時に交わした約束。

(私の時間…私の未来は私が作るんだっ!!)

 そうヴィヴィオが心に決めた時、呼応するようにバリアジャケットが弾け中から現れた白と黒の甲冑が身体を包んだ。



「レイジングハートセカンド!?」

 AMFの空間内で白いバリアジャケットを纏った少女を見た

「ヴィヴィオ!?」

 驚きと同時になのはの中に眠っていた海鳴の記憶が蘇る。


『あの…たか…じゃなかった。ヴィヴィオです。』
 初めて自己紹介をしてくれた時、少し恥ずかしがりながら自己紹介したヴィヴィオ

『ダメっ!凄く危ないんだよ。大怪我しちゃうんだよ。あんなのとずっと戦わないといけないんだよ!なのはが怪我しちゃったらみんな悲しむよ、絶対。アリサもすずかも桃子も士郎も…私も』
 まるで自分の事の様に怒った理由…今ならよくわかる。

『ヴィヴィオのバリアジャケット、わたしのとよく似てる。色は違うけど』
『えっ、それは…そう! なのはのバリアジャケットを真似したのっ! だからだよ。うんうんっ!』
 ヴィヴィオがあの時のヴィヴィオだったらきっとそうする。

『ProjectFate…記憶を持ったクローンを、人造魔導師を生み出す技術。そんな技術、犯罪でも生まれてきたら新しい命、人なんだよっ。フェイトはフェイト、アリシアじゃないっ!!』
 まるで自分の事の様に叫んだの…ヴィヴィオ…知っていたからなんだ…


 今まで欠けていたピースが埋められていくように記憶が蘇る。

「なのは、なのはママはまだ知らないけど私、なのはママとずっと前に約束したの。『いつか私がなのはママを助ける』って。」

 ヴィヴィオが言った直後、バリアジャケットが弾け漆黒の騎士甲冑を彼女は纏っていた。
 その姿を見て確信する。


『なのは、フェイト。遅れてゴメンね』
 闇の書事件でもうダメだと思った時、助けてくれたヴィヴィオ…
『ヴィヴィオを落ち着かせて。間違ってない、ママ達は大丈夫だって』
あの時の声…どこかで聞いたと思ってたけど、フェイトちゃんだったんだ…

『言ったよね…貴方はロストロギア…古代の遺物だけど私もそうだって…油断しないでね』
 リインフォースさんに言った言葉、遺物なんて…

「ヴィヴィオ…だったんだ…」
「うん、ただいま…なのは」

 そう一時だけ笑みを浮かべて答えた彼女になのはは何も言えなかった。



「次元航行部隊到着まであと40分」

 はやてとリインがゆりかごに突入して少し経過した頃

「東部森林地区より巨大浮遊物体確認。サブモニタに表示します」
「これはっ!」
「もう1隻…あったのか。シャーリー、あの船が軌道上まで上がる時間の算出を。」

 アースラの艦長席横で指揮をしていたグリフィスが指示する。

「すごい速度…30分…ううん25分以内に軌道上へ上がっちゃう」
「…どうすれば」

 前線メンバーは全員出動し、部隊長のはやても既にゆりかご内にいて通信できない。
 今から追いかけるのは到底不可能。残されたグリフィス達に手はなかった。

「どうすれば…」



 ゆりかご内の玉座の間では激戦が繰り広げられていた。
 AMF空間の中でも魔法が自由に使え、無理矢理聖王化も精神操作もされていないヴィヴィオとチェントは4人の中でも数段上回っていた。
 高速で動きながらチェントに対し魔法弾、セイクリッドクラスターと砲撃のインパクトキャノンで牽制しながら詰め寄るヴィヴィオとそれらを弾き、防ぎながら死角をついて近接戦に持ち込もうとするチェントの能力は拮抗していた。

【Wide Area Search successful.Coordinates are specific. Distance calculated】

 レイジングハートの声をなのはとヴィヴィオは聞いた。
 なのはは突入してからクアットロの位置をずっと探していたのだ。

(クアットロからの精神操作を無くせばここの私は意識を取り戻す)

 ヴィヴィオ自身がクアットロへ壁抜きの砲撃魔法を撃ち込む事はできる。でもそれは新たなイレギュラーを生んでしまう。

「なのはっ」
「わかってる。でもっ」
「なのは、先に私をコントロールしてるクアットロを撃ち抜いて。それでここの私は目を覚ます。撃つ時間…私が2人を抑えて作るからっ!」

 昔の自分の事だからしっかり覚えている。

「…ヴィヴィオ、お願いっ」

 チェントだけでも手一杯、でもここは無理してでも止める。

「ブラスター3っ!!」

 なのはがヴィヴィオを背にレイジングハートを構えた。

(RHdお願い、私に力を貸してっ)

 チェントのキックが腕に触れた瞬間

「逃がさないっ!」

 体全身を耐電させて腕を受け止める。耐電系の魔法で彼女の動きが一瞬止まるのは前回の戦闘で判っている。彼女が身体に触れ硬直した瞬間を狙って思いっきり叩き飛ばした。
 直後聖王ヴィヴィオがなのはに向かって撃ちにかかるが、ヴィヴィオが瞬時に移動し前に立ちはだかった。

(強い願い・希望を叶える石、ジュエルシード。)

 これまでに何度か強く願った時に限って瞬間移動したかの様に移動出来た時があった。RHdの中にあるジュエルシードが力を貸してくれていたんだ。

「昔の私…ちょっとだけ我慢してね。」

 両手から砲撃魔法を聖王ヴィヴィオめがけて放った。
 聖王同士の戦いには聖王の鎧は発動しない。それを知らず鎧を過信していた彼女は吹き飛ばされる。

「なのはっ今っ!!」
「ディバィィイイン、バスタァアアアッ!」

 叫び声と共に辺りが桜色の光一色に染まった。
 

 
「なのは…ママ…」

 なのはが撃ち終えた後、起き上がった聖王ヴィヴィオの呟いた言葉を聞いて彼女が精神操作から解放されたのを知る。あとは… 

「あとは…私達だけ」

 吹き飛ばしたチェントの姿を追おうと振り向くと玉座が視界に入った。その時ふと脳裏に前の世界で見た王座の間を思い出す。

「聖王が何人もいたら…ゆりかごもまさか…」
(プレシアさんはJS事件でゆりかごはアースラの船首突撃によって速度を落とされたって言ってた。でもあの時間にはもう1隻…私とチェントが戦った聖王のゆりかごがあった。)
「まだこっちにも…ゆりかごが残ってる。」

 前の世界でゆりかごははやて達と次元航行部隊によって墜とされている。でもヴィヴィオがチェントと戦ったのもゆりかごの中にある玉座の間で、チンクが前の世界で聖王のゆりかごを見たと言っていた。
 聖王のゆりかごを止めるには聖王【全員】が戦意を無くさなければならない。ここのヴィヴィオはもう大丈夫。ヴィヴィオ自身もすぐに出来る。でも…

「止めなきゃ…ゆりかごを…」
「ヴィヴィオ?」

 近寄るなのはに

「なのは…ううん、なのはママ、あとはなのはママが私を助けて。」
「ヴィヴィオ?」
「ヴィヴィオォォオオオっ!」

 吠えるチェントの声を聞いて構える。流石にあの程度じゃ無理らしい。

「なのは…また後でね。」

そう言ってチェントの前に降りた。

「あとは私達だけの問題…行くよRHd」
【All Right】
(―望むはもうひとつの船―)
「チェント、いくよ!」

 飛びかかるチェントをかわし背後に回ったヴィヴィオはそのままつかんでその場から消えた。



「ハァッハァッハァッ…時間移動じゃないけど…」

 時間移動じゃなく、場所の移動も出来るかと思ってやってみたけどなんとか出来た。
 誰も居ない王座の間。AMF空間が作られているのを知る。真新しい壁や天井、もう1隻のゆりかごに飛べたらしい。

「チェント、ここで終わらせよう。」
「私はっ! ここから始めるんだっ!」

 それ以上2人に言葉は要らない。



「マスター…どこにいるの? 姉様っ」
(何これ? プレシアさんの施設…ううん違う)
「マスター!」

 近くの扉を全て開けて中を探していく。

(マスター…何処かで、夢でみてたのと同じだ…じゃあマスターってスカリエッティ?)

 時空転移後に見た夢で同じ様にマスターと呼んでいる人がいた。
 あの時はマスターと呼ばれていたのはジェイル・スカリエッティだった。

『無理だよ。もう…マスターも姉様も消えちゃった…』

 チェントが言った言葉を思い出す。

(これ…前のもチェントの記憶なんだ)

 チェントにとってウーノは教育係であり姉であり、スカリエッティも家族の様に慕っている。
 流れ込んでくる記憶の中には暖かいとは言えなくても、彼女の幸せな気持ちが伝わってくる。
 でも今見えている光景はどうしても…必死に誰かを捜している。
 開いていくと階段があり、それをのぼった所で視界が開けた。外に出たらしい。
 周りをアチコチ見ながら歩いて行く。その中でスカリエッティの映像が映ったモニターがあった。

「マスター♪」
「…リエッティは時空管理局によって逮捕され、公判までの間軌道拘置所に…」
「タイホ? キドウコウチショ?」
「悪者は捕まるのが当たり前なんだ。もう2度と出られないと思うとせいせいするよ」
「ええ、これで、ミッドも静かになるわ」
「マスターつかまったの…でられない…」

 周りの大人の話を聞いて知ったのはマスター達が捕まってしまい2度と出られないということだけ…でもそれで十分だった。
 走って元の道を帰り地下の部屋へと戻る。 

『チェント、あなたにはあなたにしか使えない能力があるわ。これはあなたがもう少し大きくなってから…』

 奥の部屋に入り、中にあったコンテナに近づいた。ウーノに見せられていたコンテナを開ける。
そこには赤く輝くクリスタルがあった。

(レリック!)

 それを手に取った瞬間、視界は虹色の光に呑み込まれる。

「どうしてっ!!」
「!?」

突然の叫び声でヴィヴィオは我に返った。
 目の前でチェントが頭を抑えている。

「ヴィヴィオは私と同じなのに、全然違うっ。どうして! 私にはマスターと姉様達が居たらいいのっ」

 苦しみ頭を抱えるチェント

「チェントも私の記憶をみたの? まさかチェントって…」

 レリックを使えば身体能力も魔力も飛躍的に成長する。しかし精神的な負担を与える。
 当時5歳だったヴィヴィオも聖王化した時はなのは達と同じ位まで成長した。しかし今のチェントは聖王ヴィヴィオより幼く見える。

(私より小さい子供なんだ…)
 彼女の口調が子どもっぽいのもそれで納得がいく。

「マスターっ姉様っ、助けてっ痛いよっ」

 苦しそうに壁を叩くチェント。

(意識の干渉で心が不安定になったところにレリックで戦闘を強制させられてる)
「チェントっ!」
「マスタァアアッッ」
(助けたい、助けたいけど助けるにはチェントのレリックを壊すしかない。でも…)
「あれは…」

 急いでここを離れたら…でも、この船はあってはならない物、墜とさないといけない。
 彼女を助ける方法…間違いかけた魔法…あれは強すぎる。でも…

「チェント…待ってて、」
『連れて帰る』とプレシア達に約束していた。

 だからもう迷っていられない。

「少しだけ痛いの我慢して。なのはママ、私に力を貸して。RHdっフルアタックから魔力ダメージにダメージコントロール変えて」

 彼女から少し離れた場所で精神を集中する。

(心の中でイメージを浮かべてそれをRHdに伝える…)

 なのはに教えて貰った方法。心を落ち着かせ光の輝きが集まってくるイメージをRHdに伝える。
 目をつむった彼女の正面に小さな魔法球が現れる。それは時が経つにつれ徐々に膨らみ背丈の半分程にまで膨らんでゆく。

(まだ…まだだっ、もっと集めるの私の中の力を)

 強く輝き始めた光とは別に周囲の魔力が集まる。
 それは少しずつ集まって輝きを強めヴィヴィオの作った魔法球へと吸い込まれ、吸い込まれる度に魔法球は輝きを増していく。 
 そして遂に虹色から白く輝きだした。

「いっけええええっ! スタァアライトッ、ブレイカァアアアッ!!!」

 なのはや前に使ったのまでは遠く及ばない。でも今出来るのはこれしかない。
 奇しくももう1隻のゆりかごでなのはがスターライトブレイカーを撃ち出したのとほぼ同時だった。

~コメント~
 ヴィヴィオがチェントを送った場所はかつてヴィヴィオ自身がなのはと戦った場所でした。
 AnotherStory・AgainStoryのから始まった物語、次回最終話です。

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