番外編 「発つ鳥後を…」

 事件から数日程経った頃、ヴィヴィオはなのはとフェイトと一緒に八神家を訪れた。
 アリシアが言った『チェントを家族に迎えたい』という願いをどうすれば叶えられるかをはやてに相談する為。
 彼女から話を聞いた夜になのはとフェイトにも話したが2人とも地上本部・聖王教会にそれ程顔が利くわけではなく難しい顔しか出来ず、そこで管理局・地上本部・聖王教会に顔の利く彼女に相談してみようと言う話になったのだ。
「…という訳なんですが…どうでしょうか?」
「なるほどな。なのはちゃんとフェイトちゃんはどうなん? ヴィヴィオの妹の方が皆納得するんちゃう? ギンガの娘って線も捨てきれんけど、そんな事したらギンガを狙ってる陸士部隊の男連中に睨まれる。」
「私もフェイトちゃんも保護責任者になるのは良いんだけど、チェントちゃんに何かあっても慌てて心配するしか出来ないし、その間ずっと苦しませるのも可哀相だし…」
「私も母さんと姉さんが言ってる通りだと思う」

 ヴィヴィオもなのはとフェイトの言葉に併せて頷く。

「う~ん…保護責任者の名前は公表されてしまうから、プレシア・テスタロッサがミッドにいたら大騒ぎになるし…聖王教会は保護できひんし…私が…も教会と一緒か…」
「はやてさん、どうして聖王教会は保護出来ないの?」

 元々この時間の者ではないプレシアがダメでも、聖王教会が代理として保護責任者になってくれればと考えていたヴィヴィオにとって彼女の言葉は予想外だった。

「理由はヴィヴィオと同じや。聖王ゆかり…ちゃうな聖王家直系の者を聖王教会が預かるとなると…チェントを聖王として受け入れる事になる。あと結果としてProjectFateを含む人造魔導師計画関係を正当化してしまう。それにチェントの安全は保証されるけど籠の鳥みたいになって外にも…」

 聖王教会に聖王の血を継ぐ者が入ればどうしても聖王として認めなければいけない日が来る。失念していた。

「でも、今の話を聞いたら環境から言ってもプレシアさんとこが1番良いな…アリシアもそんなに年離れてないし、周りにヴィヴィオもカリムもいるし…頑張ってみますか!」
「お願いします」

 ガッツポーズをするはやてに頭を下げた。

「でもな、その代わりといってはなんやけどな…コレッ♪」

 小箱を取り出してニヤリと笑うはやて。
 何かを考えていそうな彼女の笑み。その笑みを見てヴィヴィオには嫌な予感しかしなかった。

「…また何か着るの? 今すずかの服は無いよ」
「残念ハズレ。今日はコレ♪」
「ディスク? 何が入ってるの?」
「うん、ヴィヴィオの話をカリムから聞いてな、思い出して探したらやっと見つかったよ。」

言いながら、ディスクを読み込ませた。



「!?」
『行くよっ!私に掴まって』
『うん』
『ちょっとヴィヴィオ、1度戻らないとっ!』
『黙ってて、気が散るからっ』
 虹色の光の中に消える2人の姿

「何でっ? こ、これっ!!」
「これって…海上掃討戦の時?」
「ああっ思い出した。あの時湾岸で凄い爆発があったんだ。」



『動かないでっ。都市街での攻撃魔法使用は法で禁止されています。』
『貴方の安全の保証は法によって管理局が行います。速やかにバリアジャケットを解除し投降してください。』
『ここは…元の時間へ、またね…フェイトママ』
『!? 待てっ!!』

「エッ…エエッ、どっどうして!?」
「これってあの時逃げられた…」
「この日ってヴィヴィオが6課に来た日だよね?」
「機動6課の頃の映像やけど懐かしい。ヴィヴィオにはちょっと前の話と思うけどな」

 湾岸エリアと廃棄都市でチェントと戦った際、ヴィヴィオの姿はしっかり捕捉されていたのだ。

「リンディ提督に聞いても何も教えてもらえなくて、いつか役に立つと思って残してた♪ ちゃんとデバイス情報も取れてるから、ヴィヴィオがここに居た物的証拠やな♪」
「それで…はやてさん私は何をすればいいの?」
「ヴィヴィオ、そんなに睨まんでもいいよ。私も闇の書事件でヴィヴィオに助けて貰ったからな。でも…家族の1人がこれを見てな…」
「手合わせして貰えないか。SS以上の魔力保持者は知り合いにもなかなか居ないのだ」

 はやての話に併せた様に部屋に入ってきたのは

「シグナムさんっ!?」
「と…これがプレシア・テスタロッサを保護責任者にする交換条件。どうする?」
 
 どうするといわれてもと藁をもすがる思いでなのはとフェイトの方を向く。きっと2人こんな理不尽な交換条件を何とかしてくれる。 
 しかし…

「シグナムさんだったら、ベルカ式だし近接戦闘もママより凄いし、良い勉強になるよ。私もそのうちお願いしようと考えてたの。」
「私…そこまでバトルマニアじゃない…」

 なのはは旗を持って応援するつもりらしい。
 最後の1人、フェイトの方を向くと彼女は目をキラキラさせてこっちを見ていた。 

「ねえ、シグナムとの模擬戦終わった後で良いからフェイトママとも模擬戦しない?」
(フェイトママ…やっぱり言うと思った…)

 前は逃げ切ったが今度はそういう風にも逃げられない。
これはもう試練なのだろう…

「ヴィヴィオ、どうする? 嫌なら止めてもいいよ。でも…」

トドメの一押し

「わかりました。模擬戦…受けます。」

そう言うしか道は残されてなかった。



「それでまたここへ来たと…」
「ゴメンな、ヴィータ…教導中に」

 はやての性格は思い立ったが即行動、元機動6課のあった場所へヴィヴィオは連れてこられてた。
 逃げ出したくても今回は逃げ出せない。

「ううん、全然大丈夫。はやて…来週施設の改装あるからちょっと位なら壊してもいいけど…シグナム滅茶苦茶にすんじゃねーぞ。」
「誰に言っている」
(シグナムさんと私じゃ経験違い過ぎるしすぐに負けちゃえば…)
「あっそうそうヴィヴィオ、すぐに負けたら良いなんて考えたらアカンよ。なのはちゃんとヴィータは武装隊の教導官やし、フェイトちゃんとシグナムも教導経験は豊富。手を抜いたらすぐにわかるからな。」
「……」

 見破られてる。
 ここまで来たら全力で行くしかない。でも…

(はやてさんはともかく…)
「ヴィータさん」
「何だヴィヴィオ?」
「ごめんなさい」
「?」

 先に頭を下げて謝っておこう。きっと後でも謝る事になるけれど、少しは罪悪感は軽くなる。 


 
「一応確認な。ダメージは魔力ダメージのみ、物理攻撃もありやけどシグナムは特にヴィヴィオのシールドまで抜かんように気をつけること。ヴィヴィオは全力で行っても良いけど訓練施設から外に出る魔法は気をつけて使ってな。カートリッジは6発」
「はい」
「わかりました。」
「ヴィヴィオ、シグナムさんを倒すつもりでやっちゃおう!」
(プレシアさんとアリシアの為だし、もういいや)
「うんっ♪」

 考えるのを止めた。

「では、試合開始っ!!」
「RHdっセーットアップ!」
【StandByReady】

 虹色の光がヴィヴィオ包み、白いバリアジャケットが彼女の体を包んだ。

「続けて、行くよっ!」

 ヴィヴィオが祈る仕草をした瞬間、バリアジャケットが弾け中から白と黒の騎士甲冑が現れヴィヴィオを包んだ。

「面白い、まさしく聖王の鎧だな」

 同じく騎士甲冑を纏ったシグナムがレヴァンティンを抜いて笑みを浮かべた時、2人は同時に動いた。



「ヴィヴィオやるもんだな」

 高速で近づき切りにかかるシグナムの剣を左手に魔力を集中させて受け、時には避けながら魔力弾を撃ち込むヴィヴィオの姿を見てフェイトが何かに気付いた。

「うん…でも…なんか戸惑ってない?」
「そうなん?」
「私もそう思う。ヴィヴィオーっ! 遠慮しなくて良いから思いっきりやっちゃえ!!」
『ママ達、バリアジャケットを着て離れて見ててっ』

 なのはが声をかけた直後、ヴィヴィオが念話を返してきた。

「私達もジャケットって?」
「集中できないんじゃないかな? 私達が視界に入って」
「まぁ言うとおりにしよか」

 頭に疑問符を浮かべながらもそう言って各々バリアジャケットと騎士甲冑を纏って訓練場の端まで移動した。

『ヴィヴィオ、これでいいの?』
『ありがと、ママ。近づいちゃだめだからねっ』
 


「念話をする余裕があるとはな。舐められたものだ」

 あからさまに不機嫌なシグナム。

「ごめんなさい。でも…ママ達巻き込みたくないから」
「…まあいい、何をするつもりか知らないが付き合おう」
レヴァンティンを鞘に収め居合いを打つ構えをとる。

(戦うのは嫌いなんだけど…)

 この時ヴィヴィオは少し、本当にほんの少しだけはやてとシグナムに怒りを覚えていた。
 必死になって元の世界に戻ろうとしてやっと帰って来れたのに言葉だけでも【交換条件】と言われたから。
 チェントの体を心配し彼女の未来を思い、家族として受け入れようと考えてくれたプレシアとアリシアの気持ちを模擬戦と比べられたから。

(だから・・・ちょっと位いいよねっ!!)

 バッっとシグナムと距離を取りながら背後に回り込む様に動き無数の魔法弾を作り出してばらまいていく。
 そして、レヴァンティンを構えるシグナムめがけて数発のグループ毎に加速させ

「クロスファイアァアア、シュートッ!」
「!?」
【ドォオオオオオンッ】

 四方八方から砲撃を撃ち込んだ。

「ヴィヴィオ・・・いつの間に!?」
「なるほどな、私らが居たらアレは出来んな。」
「…確かに凄いけど、あの使い方には欠点がある。」
「うん…シグナムはそれに気付いてる」


「ティアナのアレンジか…確かに凄い魔法だが、中心から高速で移動すればダメージもほとんどない。」
 それはヴィヴィオも判ってる。
 【魔力の残滓を無理矢理大量に作る】【煙でシグナムの視界を覆う】そして【再収集するまでの時間を作る】だけの布石。
 クロスファイアシュートによって起きた煙が晴れて、シグナムの姿が見えた瞬間。
「いっけーっ!! スターライトッブレイカーっ!!」
 シグナムの直上から一気に撃ち放った。


    
「シグナム…」
「あれは逃げられないね…きっちり施設ギリギリまでに広がってたし」
「……」
「確かに訓練施設の外に出る魔法じゃないね…ホントはこういう使い方しないんだけど」
「ごめんなさいっ!!」


 施設ギリギリまで広がった大きなクレーターの中で感嘆混じりになのは達は呟く。シグナムは見ていた局員に医務室へと運ばれていった。
 ティアナのクロスファイアーシュートのアレンジはほぼ満点。
 周辺に散らばった魔力を極限まで集め開放するスターライトブレイカー。
 砲撃でも直射砲撃に近いソレを1点に集中する方法はなのはも日々研究しているが、それを集中させずに意図して拡散させるとは・・・
(無意識にしちゃったんだろうけど、【聖王の鎧】でエリアをコントロールしてる。クレーターが出来ている時点で内部のコントロールまでは出来ていない。でもそれが出来れば目標物を壊さずに周りだけを破壊するなんて使い方も・・・)
「ううん、ママ驚いちゃった。」

 ほんの少し前までは戦技魔法を覚え始めただけだったのに、それだけ必死になって元の時間に戻そうと頑張ったのだろう。

『戦うのは嫌い。だけど力が無かったら守りたい助けたいと思っても何も出来ないから』

 ヴィヴィオが何度も話してくれた戦技魔法を学びたい理由。
対象物だけを避け撃ち出す集束砲。彼女の優しさが彼女のスターライトブレイカーにも宿っている気がした。

「ねぇヴィヴィオ、ヴィヴィオがよかったら別の魔法も覚えてみない?」
「う・・・ウンッ♪」

 嬉しそうに頷くヴィヴィオの頭を撫でるなのはだった。



「って、この後始末どうすんだよっ!! こんなんで改装なんかできねえって!!」
 
「…私はヴィヴィオに付き添って一緒に来ただけだし。帰ろっか、ヴィヴィオ、フェイトちゃん」
「そっそうだね。これじゃ模擬戦もう出来ないし。そうだヴィヴィオ、家で一緒にお祝いしよ。シグナムさんに勝ったお祝い。なのはもいい?」
「もちろん♪」

「あっ、なのはちゃん、フェイトちゃんずるいっ!! 私もっ」
「はやては私と一緒に隊長室。ちゃんと説明して始末書書いて貰うからっ!!」
「そんなぁああ…」
 クレーターの中から悲痛な叫び越えが響くのであった。


~コメント~
 AgainSTStoryのサウンドステージ的なお話です。本編が結構シリアスな話が続いていたので少しドタバタ風なイメージ加えてみました。
 あえて言うなら策士策に溺れる・油断大敵 といったところでしょうか?

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