「なぁ知ってるか、何でも今になってスカリエッティ関連の施設が見つかったらしいぞ」
ミッドチルダのとある訓練施設を壊してから数日が経った頃、ヴィヴィオは調べ物をする為に無限書庫へ向かっていた。その最中局員の話し声を耳にする。
(スカリエッティの施設?)
聞き慣れた言葉を聞いて耳を傾ける。
「ねえ、本当に行くの?」
「うん。明日行こうと思ってる・・・母さん達にはもう話した。」
学院近くのカフェテリアでStヒルデ中等部の制服を着た2人が話していた。
「ねぇ、やっぱり私も一緒に」
「ううんアリシア・・・これは私、1人で行かなきゃ。アリシアもプレシアさんも今のアリシアには会ってないでしょ。」
「うん・・・それはそうなんだけど・・・」
「待ってて、それで明後日一緒に行こう。」
事件から数日程経った頃、ヴィヴィオはなのはとフェイトと一緒に八神家を訪れた。
アリシアが言った『チェントを家族に迎えたい』という願いをどうすれば叶えられるかをはやてに相談する為。
彼女から話を聞いた夜になのはとフェイトにも話したが2人とも地上本部・聖王教会にそれ程顔が利くわけではなく難しい顔しか出来ず、そこで管理局・地上本部・聖王教会に顔の利く彼女に相談してみようと言う話になったのだ。
「なのは、大丈夫?」
「ヴィヴィオ、ヴィヴィオこそ大丈夫なの?」
「ヴィヴィオ、ママーヴィヴィオはわたしっ!」
ヴィヴィオの放ったスターライトブレイカーによってチェントのレリックは粉々に破壊された。
スターライトブレイカーの余波は凄まじく、彼女の背後射線上にあった駆動炉に直撃しこちらも粉々に撃ち砕いてしまった。
一瞬で主と供給源を失ったゆりかごは落下を始める。
ヴィヴィオが大穴の開いた玉座の間から気を失ったチェントを抱いて元の場所、ゆりかごへと戻ってくるとこっちも戦闘は終わっていた。
なのはに抱えられる昔のヴィヴィオ自身を見てヴィヴィオもホッっと安堵の息をつく。
「ヴィヴィオ…」
「簡単に呼ばないでっ!」
呼びかけにも答えず、聖王となったヴィヴィオがなのはに向かって魔法弾を撃ち込む。
なのははそれをかわしチェーンバインドで聖王ヴィヴィオを縛る。しかし
「こんなのっ効かないっ!! ハァアアア」
ヴィヴィオはそれを簡単に引きちぎって魔法弾を撃ち出し直前で爆発させた。
「ウッ…アアッ!!」
もうすぐヴィヴィオを操作している者の位置がわかる。それまで持ちこたえればっ
「ブラスター2っ!」
聖王のゆりかごの中、軌道上へと移動するゆりかごを抑え聖王ヴィヴィオを助けようとなのはは戦っていた。
「見つけたチェントっ!!」
排水処理施設なのか、地下に作られた空洞の中でヴィヴィオはついにチェントに追いつく。
「追いかけて来たんだ…」
今まで聞いていた彼女の声とは違う深く沈んだ声に驚く。
彼女のジャケットが破けている。至近距離での爆発と爆風を受けたのか?
でも…
「起きる前に消えちゃえば苦しまなくて済んだのに」
「…私を狙ったんだ。やっぱり」
「……」
「チェント、チェントが私を憎むならそれでいい。でも少しだけ話を聞いて。ゆりかごの中で私はアリシアとチェントに助けて貰った。ありがとう、それとごめんなさい…」
「見ての通り今は現在が決まらない不安定な場所。だからこちらの記録を照合して何時の時間に行けばいいのかは調べられないわ。でもアリシアのペンダントに入っていた転送軌跡は新暦75年6月中旬頃で、彼女も傷ついてるから移動もできないでしょう。あとは時間が不安定な理由もそこにあるわ…」
「6月…不安定な理由」
プレシアの話を聞いて時期を思い出す。
(6月、私がなのはママ達…機動6課へ行った頃…)
頭の中でモヤモヤしたものが浮かんでいる。考えていても仕方がない。
「はい」
「ありがとう」
高町邸の縁側で湯飲みを受け取る。
道場と隅に作られた花壇、ヴィヴィオにとってはジュエルシード事件が数ヶ月前の事なのに凄く懐かしく思えた。
「そっか、友達に怪我させちゃったのか…」
「うん…」
セインが出て行った直後、ヴィヴィオはそっと部屋から抜け出した。プレシアの研究室に行けば彼女は何か知っているだろうし、もしかするとアリシアもそこにいる。
アリシアがいると考えられるのは研究室か彼女が良く出入りする部屋のどちらかだ。
途中ウェンディとノーヴェが話ながら来るのを見て物陰に隠れる。
そしてヴィヴィオの眠っていた部屋から1階下に来た時部屋を出るプレシアの姿を見つけた。
「後でまた来るわね」
そう言って部屋から出て来る。
「プレシア・テスタロッサ、ヴィヴィオが目を覚ました。」
チンクは施設にある部屋を訪れていた。
「そう。傷は塞がっただけだから今日は動かないように言っておいて」
「ああ、さっき言ってきた。…アリシアは?」
「大丈夫よ。酷い怪我だけれど持たせていたシールドとヴィヴィオが逸らしてくれたから致命傷にはなっていないわ。」
ホッと安堵の息をつく。
先日ヴィヴィオが落ち着いたと安堵した直後続けてアリシアが苦しみ始めたのだ。
セインに聞いたところ、ヴィヴィオに治癒魔法を使っていたプレシアはアリシアの様子を見るなり血相を変え彼女を抱きかかえ部屋から出て行ったらしい。
彼女は今昨日チンクが入っていたカプセルの中で眠っている。カプセルには正常な細胞を活性化させる様にセットされている。
彼女はアリシアが普通に治せるレベルを越えたと考えたのだろう
「おはよう、よく眠れましたか。」
(私…ここは? 誰?)
ヴィヴィオが目をあけるとそこには知っている顔があった。ナンバーズのウーノ。
でも彼女の表情はヴィヴィオの知っているものではなく、どちらかと言えば
(ママに似てる…)
ヴィヴィオに向けられた優しい笑顔
「おはよう、姉様。マスターは?」
「先程まで研究室におられ、今は自室で休まれています。疲れられてるので静かに寝かせてあげてくださいね」
「つまんない~。」
「困りましたね。ではドクターが起きられましたら教えますからそれで我慢してもらえますか?」
「う~ん。わかった」
窓に映った自分の姿をみてヴィヴィオはヴィヴィオ自身だと確認する。
でもここは一体どこなのだろう?
「プレシア・テスタロッサ、2人に何かあったのか?」
「……」
拘束したこの世界のチンクとセッテをティアナに引き渡した後、チンクとディードは一緒にセインを連れて施設へと戻ってきた。
戦闘機人さえ倒してしまえば相手の主戦力はガジェット・ドローンだけ。特殊なタイプであっても所詮は機械仕掛けだ。地上本部を墜とした戦力だったが、世界・時間が違うとは言え元機動6課フォワードと戦闘機人7人が力を合わせて協力した甲斐もあり、事態は沈静化へと向かっていた。
しかし、空はまだ戦闘が続いているらしくなのはとフェイト、八神はやての騎士達は空へと上がっていった。
チンクも遙か上空に聖王のゆりかごらしき影をを見たが今のチンク達ではどうすることも出来ず、ノーヴェ・ウェンディ・ディエチの3人に施設の守備を任せ一旦プレシアの元へと戻ることにした。
「っと、ここは? ゆりかご!?」
ヴィヴィオとアリシアが降り立った場所、そこは聖王のゆりかごで見た玉座の間そっくりの部屋。
「ヴィヴィオ?」
呼ぶ声に振り返るとなのはとヴィータを見て慌てて駆け寄る。
「なのはママっ、ヴィータさん」
見るからに2人ともボロボロ…誰が一体…
「何でお前達がっ!」
「ヴィヴィオっ、来ちゃダメ」
「3人とも下がれっ! ダァァアアアアッ!」
「「「りょ、了解っ!」」」
ノーヴェが叫んだ直後、彼女の蹴りを受けて数体のガジェットドローンが粉砕される。
「強いAMF空間じゃ足手まといだ。もっと薄い場所へっ」
相手が戦闘機人とガジェットドローンに限られているのを良い事に恐ろしく強いAMF空間が作り出されている。ノーヴェ達は戦闘機人モードで戦えるがこれほど強い空間を味わった事のないエリオ・キャロ・ルーテシアは為す術が無かった。
姿を消すガジェット・ドローンと初めて遭遇し退くに退けない3人を助けようとノーヴェは単身飛び込んだのだ。
「綺麗だね~」
「そうだね…」
「ちょっと寒くなってきたね。」
「…ねぇアリシア、本当にここで合ってるのかな?」
「う~ん、多分…」
元の時間が慌ただしくなっているのを知らないヴィヴィオとアリシアは湾岸エリアで陽が沈むのを眺めていた。
海原に沈む陽が幻想的な色を醸し出している。
2人は一緒に湾岸エリアを歩き回りながらウィンドウショッピングをしたりレジャー施設に入って色々見て回ったり、少し足を伸ばしてマリンガーデンが出来る予定の海底遺跡付近へも行った。
でも、いくら待ってもアリシアのペンダントは鳴らず。陽が傾いた頃から本当にここで合っているのか心配になり始めた。
「チンク姉、ちょっと聞いていい?」
「何だ? セイン」
バリアジャケットを纏い武装をチェックしているチンクにセインが声をかけた。
ナカジマ家組のチンク・ディエチ・ウェンディ・ノーヴェにはそれぞれナンバーズだった頃の武装とバリアジャケットをデバイスとして与えられていた。
聖王教会組のセイン・オットー・ディードにも支給されていたがセインとオットーの2人は固有技能が戦闘向きではない為、同じ教会組のディードと共に最後の防衛ラインにあたる事にした。
戦闘機人としてこの世界の自分が出て来た場合はそれぞれが相対すると決めているが…
「リイン、調整次第フェイトちゃんを呼び出して」
席に座ったはやては通信系端末を調整していたリインに言う
「はいです。でも本局とは通信無理かと思いますよ」
「さっきなのはちゃんが近隣世界からフェイトちゃんの通信があったって教えてくれたんよ。フェイトちゃんきっと転送魔法を使って本局からこっちに向かってる。」
「なるほど~、バルディッシュの反応をキャッチしました。はやてちゃんの言った通りヴァイゼンにいらっしゃいます。メインモニタに映します。」
「「ただいま~」」
「おかえり、ヴィヴィオ楽しかった?」
「うん♪」
「いっぱい甘えたか?」
「私甘えん坊じゃないよっ!」
「これおみやげです。」
「わぁ~ありがとうッスなのはさん!」
夕方ヴィヴィオ達は研究施設に戻ってきた。遊んでいる間に何も起こらなかったらしい。
出迎えてくれたアリシアやノーヴェ・ウェンディの顔を見て自然と笑みが溢れる。
「ヴィヴィオおいしい?」
「うん、ママのはおいしい?」
「うん。食べてみる?」
「あーん。おいしい、私のもはい、あーん」
「ありがと♪」
マリンガーデンの中でヴィヴィオとなのははアイスを食べていた。
海底遺跡以外にも海洋生物がそのまま見られたり、別世界の様に綺麗で凄くて…
(元の時間の方も行ってみたかったな…一緒なのかな?)
そんな事を考えながらも、なのはと一緒にあっちこっち見て回ったり、お買い物したりとヴィヴィオは楽しんだ。
でも、時々なのはは暗い顔をするのがすこし気になる。
(まただ…)
「ねぇヴィヴィオ、明日一緒にお買い物行かない?」
「えっ?」
アリシアと一緒に研究施設へと戻ってきた時、駆け寄ってきたなのはの言葉に思わず聞き返す。
「だから、明日一緒にお買い物に行こうよ。服とかアクセサリーとか見たり、一緒にアイス食べたり。それか一緒に遊びに行こう!! きっと楽しいよ。だからね!」