学院に戻ってから数日が経った頃、ヴィヴィオは再び無限書庫を訪れていた。
目的は2つ、ヴィヴィオの知る記録と今のこの世界の記録がどれ位違っているのかを調べるのと、
「ヴィヴィオ~♪」
「ヴィヴィオ、久しぶり」
「なのはママ!、フェイトママ!」
2人の母親、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの2人をある場所へ連れて行く事だった。
「ごきげんよう。昨日はじゃなかった。お久しぶりです」
「こんにちは・・じゃなかった。ごきげんよう、お姉ちゃん。」
クラナガンから聖王教会へ行く為列車に乗ろうとした時、私はあの親子と再会した。女の子はちょっとだけ大きくなっていて、私が会ったのはこの位だったかなと思い出す。母親もやつれていた頬が元に戻り、幸せそうだった。
この魔法を使えば喪失感を感じてしまう時がある。でも、こういう時は嬉しい。挨拶した後、立ち話をしていると列車が出そうになり、慌てて乗り込む。
「ありがとうございました。あの時は・・・お礼も言えなくて・・・」
元々優しい人だったんだろう。今が彼女の本当の姿なんだ。
「いえ、私も・・・私じゃなくて・・・えっと、とにかく私もお世話になるかも知れないので・・」
彼女の家に何度も遊びに行ったのだから彼女にも会っている。あの時にはもう知ってたんだ。
あれから数年が過ぎ、私は管理局へと入局を決めた。
母さんは「あなたが考えて決めたなら、頑張りなさい」と背中を押してくれた。
でも・・・でも・・・私は管理局に入る前にしなければならない事がある。
「行くんだね・・・もう一度」
「うん、すぐに戻るから・・・もし、私の身体に何かあっても心配しないで。絶対に戻ってくるから」
この魔法と出会った時、それを封印せず私に丁寧に使い方と危険性を調べ教えてくれた家族。
彼に打ち明け、用意してもらった物を持って私はもう一度旅立った。
(これで・・・良かったの? 本当に?)
アースラの中でヴィヴィオは1人考えていた。
ジュエルシードはなのは・フェイト・クロノ、そしてヴィヴィオの同時砲撃魔法で何とか封印出来た。
だがそれも彼女、プレシア・テスタロッサにとっては予想範囲内だったのだろう。
撃ち抜いた際に出来た穴を通ってなのは達が降りてくる。
その中にはフェイトとアルフの姿もあった。
「ちょっと待ったっ!」
「「!!」」
アルフの道案内で居住区と思われる場所にやって来たヴィヴィオ達をアルフが突然静止させた。
「アルフ?」
「結界だ。あれを壊さなきゃこの先進めないよ。」
見れば結界魔法というよりシールドに近い魔法が通路全面に張られている。
「まだですか~? レティ提督」
「まだよ。 ねぇ少し落ち着いたら? そうそう美味しいお茶があるの。あのね・・」
「緑茶にミルクと砂糖をいっぱい入れたのは遠慮します。全力で!」
「あらそう・・・美味しいのに・・・」
ヴィヴィオは無限書庫で探していた本を見つけ、急いでアースラに戻ろうとレティ提督の部屋に来ていた。
本の持ち出しとゲートの使用許可を貰う為だ。
しかし、無限書庫の管理蔵書も次元航行部隊所属艦船への転送も管轄が違うらしく、申請はしたもののすぐに許可が下りないらしい。
その間ヴィヴィオはレティの部屋で待つ羽目になった。
『ねぇはやて、来週なんだけど・・・こっちに来ない?』
「どうしたんカリム?」
『ん~ん、ただ久しぶりにお茶したいな~って』
「ええよ、それじゃ来週な」
『美味しいお茶とクッキーを用意して待ってるわね』
一週間前、突然カリムから連絡を受けた八神はやては何か事件かと一瞬だけ緊張した。しかし、はやての予想は完全に外れていて通信を切った後、先程とはうって変わって頬が緩んでいた。
(全く・・聖王協会と管理局の橋渡しとかで忙しいやろうに・・カリムはもうっ)
『ジュエルシード見つけたよ。なのはちゃん』
「わかりました。すぐに行きます」
アースラで用意された自室で横になっていると、エイミイの声が聞こえた。
慌てて飛び起きてユーノと共に転送ゲートへと走る。
「ユーノ君、ジュエルシードは全部で21個だったよね」
「そうです。だから多分・・・」
「フェイトちゃんからの呼び出し・・・」
「さて、早速ですけどあなた・・・ヴィヴィオさん、この世界・・時間の人間じゃないわね」
「ブッ! ケホケホッ」
気付かれているだろうと思ってはいた。でもまさかいきなり核心を突かれるとまでは考えてなかった。
思わずお茶を吹き出しそうになる。
「どっ・・どうしてそう思うんです?」
「そんなに遠くない。あっちの方向」
「うん、レイジングハートお願いっ」
【Standby Ready Setup】
「なのは~ヴィヴィオ~お散歩行くの? 車には気をつけて・・・あら?声が聞こえたと思ったんだけど・・・」
桃子がキッチンから顔を出した時、もうそこには2人と1匹の姿は無かった。
「私に無茶しないでって言ってて、ヴィヴィオの方が無茶してるっ!」
「なんて危ないことを・・・」
治癒魔法をかけて貰った後、なのはとユーノの2人が声を揃えヴィヴィオに怒った。
病院へなのはを迎えに行って、その足で家に帰ったヴィヴィオ達。
だが、その途中でなのははヴィヴィオが左手を庇っているのに気付いた。
「なのは・・大丈夫?」
「ここは?・・・そっか・・私・・」
フェイトとの勝負が決して2間ほど経った頃、客室のベッドでなのはは目覚めた。
心配そうに見つめていたすずかとアリサも安堵の息をつく。
「なのはちゃんごめんね。それに・・ありがとう、アイを助けてくれて」
ニャーとすずかに抱かれて鳴く子猫を撫でながら
「良かった。本当に・・・良かった。すずかちゃん、アリサちゃんごめんね心配かけて」
元気は無いけれど、それでも受け答えがはっきりしているのでヴィヴィオもホッと一息ついた。
「いらっしゃいませ♪」
海鳴温泉への旅行も終わり、ヴィヴィオの日常も平穏を取り戻していた。
「ヴィヴィオ~レジお願い~」
「は~い♪」
でも、旅行前とほんのちょっと変わっていて
「ヴィヴィオありがとう。もうすぐランチタイムも終わるからお昼は一緒に食べような」
「うん」
ヴィヴィオと士郎・桃子の距離がちょっとだけ近づいていた。
「家族旅行? 温泉? 明後日?」
「そうよ。ヴィヴィオちゃんも一緒」
「私も?」
「うん♪」
「ごちそうさま」
「あら、もういいのヴィヴィオちゃん」
「うん・・もうお腹いっぱい・・お部屋に戻る」
「そう・・・」
そう言いダイニングから出て行く後ろ姿を見送り、残された桃子達は顔を見合わせる。
「ヴィヴィオちゃん、どうしたのかしら? 店であんなに元気だったのに」
「・・・・・」
桃子の言葉に「さぁ?」と首を傾げる士郎達。
その中でなのはとユーノは原因が自分達のせいだとは言えなかった。
「おかえり」
「!!」
「ずいぶん遅かったね、ヴィヴィオちゃん」
高町家の門を入り扉に手を触れた瞬間、ヴィヴィオの左右からほぼ同時に声が聞こえる。
士郎と恭也、2人の声から怒っているのははっきりとわかる。
「こんな遅くに、何処に行ってたんだい?」
「えっ、あのっその・・ごめんなさい」
『この時はまだ魔法の事とか知らないし、どうすればいい? ユーノ君』
「ハァッハァッ・・・・」
「逃がし・・ちゃった・・・・追いかけ・・なくちゃ・・」
(誰の・・声?)
「誰か僕の・・声を聞いて」
(だれ? 誰なの?)
「力を・・・貸して・・・魔法の力を・・」
(力って? 答えてよっ)
声はその後聞こえなくなってしまった。
「なのはママ」
「どうしたのヴィヴィオ?」
「なのはママとフェイトママ、ずっとずっと前から仲良しなの?」
ある夜、一緒に入ったベッドの中でヴィヴィオがなのはに向かって聞いた。
「誰か友達とケンカでもしたのかな? なのはママとフェイトママはね最初はすっごく仲が悪かったの。でも、なのはママもフェイトママもお友達になりたいって思ってたんだ。だからなのはママはフェイトママに言ったの。『名前をよんで』って。それからずっと大切なお友達」
「・・・・」
「もしヴィヴィオが誰かとケンカしちゃって、それでも友達になりたいならまっすぐ見つめてお話しようよ。『名前をよんで』って」
「・・・・うん・・・」
優しく微笑んだなのはの顔を見つめて頷く。
それは、ある事件が始まる前のずっとずっと前のお話
世界は必然が折り混ざって成り立っている。
もしそれがある時を境に変わってしまったら・・・
同じ未来に繋がる?
全然違った世界になる?
それは誰にも判らない事。
でも・・・もし・・・それを知ってしまった時
あなたはどうしますか?
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