第9話 「突然のさよなら」

「さて、早速ですけどあなた・・・ヴィヴィオさん、この世界・・時間の人間じゃないわね」
「ブッ! ケホケホッ」

 気付かれているだろうと思ってはいた。でもまさかいきなり核心を突かれるとまでは考えてなかった。
 思わずお茶を吹き出しそうになる。

「どっ・・どうしてそう思うんです?」
 胸の鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思う位ドキドキと鳴っている。

「あなた達がここに来てからの様子を見せて貰っていたの。あなたとなのはさん、ユーノさんの様子を。あなただけが緊張も怯えも見せていなかったのよ。初めてやって来た所に緊張も怯えもしないって・・・変よね」
「好奇心が強いだけです・・・緊張は・・しています・・・」
「そう・・・じゃぁ、もっとわかりやすい答えを出しましょう。エイミイ」
「はーい、失礼します。」

 リンディがエイミイを呼んだ瞬間ドアが開き、エイミイが入ってきた。

「ヴィヴィオさんに説明してくれるかしら」
「ヴィヴィオちゃんの持ってるデバイスって時空管理局製だよね? っていうより管理局の本局メンテチームに作られてるよね。 管理局には局員デバイスを盗難されて悪用されても直ぐに対処出来る様にセーフティ、安全装置が組み込まれるの。」
「それ以外にも幾つか情報が入っていて、いつ、どこで、誰が、誰の為に作ったデバイスなのか?っていうのも入っていて、特定のコードを入れると判っちゃうんだな~これが♪」
「それで?」
「ヴィヴィオちゃん、金髪の女の子と戦った時とさっきの戦闘で結界を作った時、そのデバイスを使ったよね。その時照会しちゃえば・・・」
「そういうこと♪ デバイスの製作日は・・これから十数年後あたりかしら。」

 外堀どころか、中まで入り込まれていた。
 だが、それでも知られてはならないモノはある。

「製作者・・・知ってるの?」
「いいえ、私はいつのデバイスかを聞いただけ。でも、エイミイは知ってるわ」
「はい、名前は・・・」
「ダメ!! 言わないでっ! 誰にも教えないでっ!!」

 この後、直接関係するリンディがソレを知ってしまえば、この先どうなるか判らない。
 折角なのはとフェイトを・・・・折角元に・・・

「お願いだから・・・」
「・・・・判りました。この件については、まだ向こうに問い合わせていないわ。知っているのは私達2人だけ。エイミイ、ヴィヴィオさんのデバイス・・今のままでもコード変更できるかしら?」
「え・・・出来ますけど?」
「じゃあ、制作者は私の名前で・・日付はそうね・・今日でおねがい。」

 ヴィヴィオが後で聞いた話だと、デバイス情報を無断で書き換えるのは犯罪であり、提督権限を持っていても何らかの処罰は免れない。
 もちろん、それはリンディもエイミイも知っている

「・・・了解です、艦長。ヴィヴィオちゃん、暫くデバイスを借りるわね」

 そう言い、ヴィヴィオから受け取ったエイミイは部屋から出て行った。

「グスッ・・ありがとうございます。リンディさん」
 


「これからどうするつもりかしら?」

 ヴィヴィオが落ち着くのを暫く待ってから、リンディが聞いた。
 これから・・それは、ヴィヴィオが未来を変える為にやってきたのか? それとも・・という意味とこの後ヴィヴィオが帰る方法があるのか? という意味合いを持っていた。
 ここまで知られているのだから隠す気はない。

「これで元の・・元の世界に戻ったと思います。まだちょっと違う所はあるけど・・・このまま時間が進めばきっと・・・。どうしてこの時間に来たのかは・・判りません。でも、無限書庫からこの世界に来たから、行けばきっと」
「未来や過去なんて言われてもよくわからないけれど、1つだけ言えるなら・・・ヴィヴィオさんはあまりあの世界に関わらない方が良いと思うわ。もし、ちょっとした物事が変わっただけで、未来では凄く大きく変わるんじゃないかしら?」
「はい・・・」

 リンディに言われた通り、ユーノを助けてしまっただけで未来が大きく変わってしまったのだ。

「今なら次元も安定しているし、本局へ転送できるわよ」
「お願いします。でも・・その前に」

 お礼と別れを言いたい人がいる。

「・・・判りました。エイミイ、管理局へのゲートとパスの発行をお願い。それとレティに連絡は・・これは私が書くわ」
『了解です』
「ヴィヴィオさんは、少しだけ待っていてくれるかしら。なのはさんとユーノさんにだけですが、お話出来るようにするわ」
「ありがとうございます。」

そう言うとリンディは艦長室から出て行った。


 
「ヴィヴィオ、遅いな~」

 クロノに元居た場所に送られた頃、辺りは既に夕暮れに染まっていた。
 突然元に戻ったユーノを連れて帰ったら大騒ぎになるだろうからと、フェレットに戻ったユーノと一緒に帰り、お母さんにヴィヴィオが遅くなると言っていたのを伝え、ベッドに横になっていた。

「ユーノ君・・・これからどうしよう・・」
「わかんない・・」

 いきなり【事件の事を忘れて元の世界で何も無かったように暮らせ】なんて言われても、はいわかりました。なんて言えない
 気がかりはフェイトちゃんの事・・・
 勝負もついていないし、なによりお話もしていない。

「ユーノ君・・・私・・・フェイトちゃんとお話したい。」
「・・・・僕もそれがいいと思う。でも・・・ちょっとだけ考えさせて」
「うん、ユーノ君おねがい」

 そう言った瞬間、突然携帯が鳴り始めた。

「はい、もしもし?」
『こんばんは、リンディ・ハラオウンです。』
「リンディさん! あの・・・そのっ!」

 話し合った結果を聞いてくるにしてはかなり早急だ。

『今はその件じゃないの。ヴィヴィオさん』
『なのは・・ユーノ・・・』
「ヴィヴィオ、どうしたの?」

 電話の向こうでヴィヴィオの声が聞こえた。いつもの元気な声じゃない。

「ヴィヴィオ、どうしたの?」
『私・・・お家に帰るから・・・なのは、ユーノありがとう。桃子さんや士郎さん、恭也さん・美由希さんにもたくさんありがとうって伝えておいて、じゃぁっ!』
「ヴィヴィオ! ヴィヴィオ、ねえっ、帰るってどういう事?」
「ヴィヴィオが帰る!?」

 突然の話になのはも、ユーノも驚きを隠せない。

『ヴィヴィオさんの故郷はその世界じゃないのは気付いていたでしょう。それで、こちらで聞いてみたらヴィヴィオさんのお母さんが心配して探されているのがわかったの。だから・・・』
「・・・・そうですか・・・リンディさん、ヴィヴィオに元気でねって伝えてください」
『判ったわ。あの話はまた後でいいからゆっくり考えてね・・』

 そう言うと携帯は切れてしまった。

「ヴィヴィオ・・・帰っちゃったんだ・・」
「お母さんが心配して探してたんだって」
「そうなんだ・・・」

 ポフッと音をたてながらなのははベッドに横になった。
 『折角お友達になれたのに』という少し悔しい気持ちと『お母さんが心配してたんだから』という気持ちが絡まりながら、それでも胸にポッカリと抜けた空虚感を感じていた。

 翌朝、なのはは昨夜の電話の内容を家族に伝えた。

「そうか・・・帰ったのか・・・少し寂しいな」

 そう言った士郎の言葉、それが家族全員の気持ちだった。



 同じ頃、ヴィヴィオはゲートの前にやって来ていた。
 自分で決めた事なんだからと意地を張ってみたものの、昨夜は悲しさは埋められず枕を涙で濡らした。
 少し赤い目をしていてもそれをリンディもエイミイもクロノも聞かないでくれた。

「それじゃ、ヴィヴィオちゃん。行きましょうか。いざっ管理局へ!! っていうのも変か」
「はいっ」
「エイミイ、向こうでレティ提督にこれを渡してね。ヴィヴィオさんが無限書庫へ立ち入るのに必要な書類だから」
「寄り道するんじゃないぞ」
「大丈夫だって、エイミイさんを信じなきゃ」

 胸を張るエイミイを見て「だから信じられないんだが・・」とボソっとクロノが呟いたのがおかしかった。

「リンディ提督、お願いがあります。この後なのはとユーノはジュエルシード捜索に協力するって言うと思います。だから・・」
「ええ、その時は協力してもらいます。2人とも優秀な魔導師ですから」
「艦長っ!」

 リンディの言葉を非難するクロノ。
 ヴィヴィオも彼と同じように彼女の答えに首を振って否定する。

「それもあるけど、もう1人の魔導師の女の子・・あの子と戦いたいって言って、もしその時が来たら教えて下さい。ちゃんと見届けたいんです。この先を・・・」

 私は見届けないといけない。この時間をかき回した者として。

「わかりました・・・その時は必ずヴィヴィオさんにも伝えます。」
「お願いします。」
「準備できたから行くよ~、いいヴィヴィオちゃん」
「はい」
「それじゃ、艦長いってきます」
「気をつけてね~~」

 手を振るリンディにヴィヴィオも答えた。



「フェイト、ヤバイよ。管理局が来たらジュエルシード残り全部もってかれちゃう・・・」

 ある部屋の一室でアルフはフェイトの傷に包帯を巻いていた。

「でも・・・ジュエルシードが無いと母さんが悲しむ・・・もうちょっとだけ頑張ろう、アルフ」

 フェイトの瞳には優しい母さん、プレシア・テスタロッサの微笑む姿が映っていた。



「ここが・・・無限書庫・・・・」

 エイミイに連れられレティ提督を訪れた時、ヴィヴィオは少しだけ驚いた。
 レティ提督がグリフィスにとても似ていたのである。
 親子なのだから当たり前だが、ヴィヴィオがレティに会うのは今日が初めてだった。
 その後、ネコミミをした局員2人・・・誰かの使い魔だろうか・・に案内され、暫く過ごせる様に用意された個室を見た後、無限書庫に案内して貰った。
 目の前に広がる無限書庫の【惨状】をみて呆然としていた。

「管理世界の全ての歴史が埋まっている場所らしいんだけど」
「書物は増える一方、ここを管理する部署もあるんだけど機能してないから事実上入れっぱなし。何処に何があるのやらさっぱりわからない。今は倉庫代わりだね。原則は持ち出し禁止なんだけど・・・」
「何処に何がどれだけあるかわかんないんだから、誰が何を置いて持ち去ってもわかんないんだよね~」
「・・・・・」
「この子、驚いてるよ」
「そりゃそうよ。この中から1冊の本を探すなんて・・見つけた頃にはお婆さんか白骨になってるって」
「・・・・時間あれば手伝うけど、何かあったら私達に連絡してね。行くよロッテ」
「ああ、頑張ってね~♪」

 レティ提督とグリフィスの顔以上に驚かされた。
 管理世界・管理外世界どころかいつの時代かなんてみんなバラバラで、とりあえず本棚に収まっている・・・放り込まれている感じだ。
 攻撃魔法の本の隣に料理のレシピ本が並んでいたりするのだから言葉もない。

(これを・・ユーノさんは片付けたの!?)

 でも、探さない訳にはいかない。タオルをハチマキの様に巻いて

「ご飯もいっぱい食べた。デバイスは無いけど・・これ位っなんとかなるっ!。検索魔法術式っ、時代は聖王ベルカ全域、キーワードは時に纏わるものっ 展開っ」

 ヴィヴィオは心底、この魔法をユーノに教えて貰って良かったと実感した。1冊ずつ見ていたら本当に終わらない。


 
 同じ頃、なのはとユーノはヴィヴィオの言った通り、臨時局員としてジュエルシードの捜索に協力を伝えていた。



「これも違う・・・これも違う・・・「時を越える魔導書」・・・惜しいけど違うっ!・・・これは・・・「主を渡り浸食」・・・どうしてこんなのが引っかかるのっ!」

 最初は元にあった場所へと戻していたが、あまりにもバラバラになっていた為、途中からピックアップされた本を積み上げ始めた。
 ヴィヴィオの探した本の中には半年後、なのはやフェイト・アースラスタッフが求める本もあり、それを探すのがユーノ・スクライアだったのだが、この時のヴィヴィオにそんなのを気にしている余裕は無かった。
 もし【聖王のゆりかご】についての記述があったとしても無視していただろう。
 それが良かったのか悪かったのか・・・それはユーノだけが知っている。



 ヴィヴィオが無限書庫で無限と言われる位の書物と格闘している頃、なのは達もジュエルシードを集め始めていた。
 先に集めた分とフェイトが持っている分を含めると残り3つ。そのうち2つはフェイトに先を越されていた。
 原因はエイミイが抜けた事で、アースラの処理能力が低下したことにあった。発見してなのはとユーノが向かった時にはフェイトが既に回収した後という始末。
 急遽エイミイが戻り、最後の1個だけは先を越されずに回収できた。
 結果フェイトが3つ、なのはが17個を集めた。
 これで仮にフェイトの持つ3つを発動させても次元震は起きないと考え、艦内の空気も幾分和らいだ。
 だが、それを見越していた者は既に動いていた。


数日後・・・
「アレックスもランディもしっかりしてよ~、そんなんじゃ管制主任なんてもっと先だよ~」
『『すみません』』
「エイミイ、ジュエルシードの反応は?」
「反応ナシ。ユーノ君が言ってた全部で21個っていうの、本当だったら全部集めちゃったんじゃない?」
「ああ、そうなら向こうが持ってるのは3つ。1個でどれ程の次元震を起こせるのかは判らないが、手元に3つでは心許ないだろう」
「クロノ君の執務官としてどうです?」

 エイミイが手に持っていたスプーンをマイクの様に向ける。

「茶化すんじゃない。まぁ・・考えられるのは、【囮】と【封鎖】かな。それに気になっている事もあるし・・・」
「囮と封鎖?」
「ああ・・・」

突然アラームが鳴り響いた。 

「ジュエルシード発見! でも・・どうして?」


~~コメント~~
if~もしも、ヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たとしたら?
これはそんなお話です。

今まで同じ時間帯の話をタイトルにしていましたが、今話は少し違います。同じ時間軸で言えば10話あたりでしょうか?

 ヴィヴィオが滅茶苦茶な状態の無限書庫を見たら、どんな事を思い浮かべるのでしょうか? 
 この話を書こうと思いついた時に一度は来て欲しい場所でしたので使い魔2人と一緒に登場して貰いました。
 この時代だと、ほかにどこに行きたいでしょうね。

Comments

Comment Form

Trackbacks