第10話 「それぞれの胸の誓いなの」

『ジュエルシード見つけたよ。なのはちゃん』
「わかりました。すぐに行きます」

 アースラで用意された自室で横になっていると、エイミイの声が聞こえた。
慌てて飛び起きてユーノと共に転送ゲートへと走る。

「ユーノ君、ジュエルシードは全部で21個だったよね」
「そうです。だから多分・・・」
「フェイトちゃんからの呼び出し・・・」
 ヴィヴィオが使った方法を聞いていた。だからなのはもすぐに勘づく。
 最後の1個を封印した時、彼女が来るかも知れないと少しだけ待っていたけど結局来なかった・・・
 でも今度は違う。その先で彼女は待っている。

「多分あちらの魔導師さん・・・からの挑発。注意して、クロノ執務官も同行を」
「了解です。」
「リンディ提督。私とユーノ君、2人だけで行かせてください。あの子・・フェイトちゃんと話し合いたいんです。どうしてこんな危険な物を集めているのか聞きたい。もし、これ以外に何か方法があるなら・・」
「! 相手は次元震を起こして、周辺世界に影響を与えた犯罪者だ。それを君は・・」
「もし、あの時の事を言ってるなら私も同罪なの。次元震を起こしたのはフェイトちゃんだけじゃないから・・・だからっ!」

 クロノ君が怒るのもわかるけれど、私はまだフェイトちゃんとまだお話できてない。ヴィヴィオに言った「彼女と友達になりたいんだ」って言ったのに何も出来てない。

「わかりました・・・でも、それには条件があります。もし・・・」
「ありがとうございます。リンディ提督」

 リンディがなのはの願いを許可した理由が、ヴィヴィオの残した言葉にあったのか? 
それはリンディのみぞ知る。



「ここは・・・臨海公園?」

 転送された場所で、周囲を見回してなのはは呟いた。

「なのは・・・」

 電灯の上に立つ少女

「フェイトちゃん・・・」
「勝負しよう。なのは」

 フェイトの側アルフはじっとなのはを見つめている。

「ただ捨てればいいって訳じゃないよね、逃げればいいって訳じゃもっとない。」
 
レイジングハートを握り、強く念じる。

「きっかけは、きっとジュエルシード・・・だから賭けよう。お互いが持ってるジュエルシード。」

レイジングハートからバリアジャケットが生まれ、なのはを包む。

「それからだよ・・全部それから・・・私達の全てはまだ始まってもいない。だから・・始めよう」

その赤い宝石は姿を杖に変え、手におさまった。

「最初で最後の本気の勝負!」

 2人のデバイスがそれぞれの意志に呼応するかの様に刃と羽を生み出す。それが2人にとって戦いの合図だった。

 
 
 なのはとフェイトの戦闘始まった時、ヴィヴィオはまだ無限書庫にいた。

「デバイス・・RHdがあればもっと早く探せるのに・・」

 いつも身につけていてサポートしてくれていたから余計に感じた。それでも探し出さなければならない。

「何処にあるのよ、もーっ! あっ」

 子供のように足をばたつかせた弾みで靴が脱げて、跳んでいってしまった。慌てて追いかける。
 ここで無くしてしまえば靴を探し出すのにも時間が取られてしまう。
 幸い靴はある本棚にぶつかって、浮いて止まっていた。

「? あれ・・何かある。」

 本棚の隅に何かを見つけた。何故か気になったヴィヴィオは近くにあった棒で引っかけ取り出す。
 表紙にベルカ系の文字が書かれているけど、中身が真っ白な1冊の書物。
 その書物を手に取った瞬間、思い出せなかった記憶が突然蘇った。




「? これ何? 本みたいだけど・・・」
「ああ、つい最近本棚の隅にあったのを見つけたんだ。中も真っ白だし、表紙も何が書いてあるかわからないから、誰かのイタズラなんじゃないかって」
「ふ~ん・・・」

 無限書庫で面白そうな本を探している時だった。
 何故かその本に興味を覚え、座れそうな場所を探して座り中をパラパラとめくる。
 司書が言ったとおり何も書かれていない本。

「誰かのイタズラか・・・あれ?」

 一瞬文字の様な物が見え、そのページを戻す。

「願う・・・時? ベル・・擦り切れてて読めないよ。 思い出?」

 呟いた瞬間、視界が真っ白になった。



 
「これっ!! これこれ~♪ 見つけたーっ!!」

 中身を解読すれば、どうしてこの時間この世界に来たのかも判るだろうし、元の世界への戻り方も書いてあるかも!
 ヴィヴィオはドキドキしながら開こうとする。

(!・・もし、このまま元の世界に戻っちゃったらなのはとフェイトはどうなるの?)

 すぐ開いてなのはママの所へ帰りたい。でも・・・もし・・・この世界に来た影響がまだ残っていて、戻った時なのはママやフェイトママが居なかったら・・・
 少し考えた後ヴィヴィオは本を閉じて、そのまま持って書庫を出た。

(アースラに戻らないとっ)

 行き先はレティ提督の部屋。本の持ち出しとアースラへのゲートを使う許可を貰う為。

(なのは・・・フェイト・・・ユーノ・・・)

 今まで本を探すのに集中していたからか、急に胸騒ぎを感じていた。
 


「そろそろ決着がつくか・・」
「なのはちゃんもあっちの子ももう殆ど魔力が残ってないから大技が来るかな? それにしてもクロノ君、よくなのはちゃんとフェイトちゃんの勝負に何も言わなかったね」
「ああ、2人の勝負は止められないと思っていたから、止めてもなのはは行っただろうしな。それに・・・」
「それに?」
「彼女フェイト・テスタロッサが主犯だとは思えないんだ。フェイトとアルフの後ろで指示している者が居るなら、このチャンスは逃がさない」
「それがさっき言ってた【囮】と【封鎖】?」

 クロノもヴィヴィオ・なのはと戦ったフェイト映像となのはとユーノから聞いた彼女の様子を聞いて彼なりにフェイトの人物像を描いていた。その中でどうしても彼女が主犯だと思えない点がいくつもあったのだ。
 ヴィヴィオのジュエルシードを目の前にして立ち去ったのもそうだが、臨海公園でわざわざなのはと戦わなくてもアルフに牽制して貰っている間にジュエルシードを回収・離脱、別のどこかで封印処理をすればいいのだ。
 稚拙さからの行動なのか? 
 更に、フェイトにジュエルシードを集めるように指示を出している者がいるとすれば、発端となった輸送船の事故原因に関係するのではないかと考えていた。

「言い方はおかしいが【囮】はそうだ。逃さないでくれ、主犯が居るなら決着が着いた直後に何か起こるはずだから」
「了解っ、バッチリ準備OK♪」

 モニタに映るなのはとフェイトを2人も見守っていた。



「・・・・・」

 現地のユーノとアルフも2人の勝負を固唾を飲んで見守っていた。
 それ程なのはとフェイト、2人の勝負は拮抗していたのだ。
 高速接近戦を得意とするフェイトとバルディッシュ、強固なシールドと中長距離攻撃を得意とするなのはとレイジングハート。
 移動速度の差がある2人の戦いは、高速軌道が出来て戦闘経験を持っているフェイトが有利に進めるだろうと誰もが思っていた。
 だが、なのははフェイトとの戦いの中で見せていなかった魔法を次々と連発したのだ。
 6個のシューターを全て制御するだけでなく、速射タイプと拡散タイプという複数のバスターの応用。只でさえ防御の薄いフェイトはなのはの火力に遮られ接近戦に持ち込めない。そしてなのはが苦手と思われていた接近戦をなのはからしかけた瞬間もあった。
 魔法理論を知らないから理屈そっちのけで作ってしまう魔導師、その怖さは見ていたクロノも感じていた。

 

(手加減していたら・・・こっちがやられるっ)

 砲撃魔法は魔力消費が大きい。勝機が見えるまで迂闊に使えない。戦闘中フェイトはそう考えていた。でも、なのはがこの戦闘中でも成長しているのを感じ頭を切り替える。
 なのはとの距離を取るのと同時に多重バインドをしかけながら、遂に切り札を出した。

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし・・・」

 捉えてしまえば、もう勝利は手にしたも同然

「どうして? バインド!?」

 フェイトが離れるのと同時になのははバインドを警戒する。

「レイジングハートっ、チャージ始めて」
【master.but so・・】
(お父さんやお兄ちゃんが言ってた。終わったって思った直後が一番隙が生まれるんだって!)
「私は大丈夫だから、お願いっ」
【・・・PowerChargeStart. Count・・】
(フェイトちゃんの方が戦い慣れてるから逃げられない。だから・・これが私の勝負っ)

 フェイトが作った多重バインドのひとつに捕まってしまう。でも、それは承知の上。

「なのはっ、それは・・」
「なのは、今助けにっ!」
「手を出さないでっ! ユーノ君もアルフさんも、フェイトちゃんとの1対1の勝負だからっ!!」
「でもそれは本当にやばいんだよ・・・」

 わかってる。耐えてみせるんだ、それが私の想いだから。
 空に大きく広がったフェイトの魔法陣を睨んでいた。



「フォトンランサーっ、ファランクスシフト。打ち砕けっ!! ファイアァァアッ!!!」

 数十基のフォトンスフィアを同時に展開し、目標物へフォトンランサーを連続で発射するフェイトの魔法。魔力ダメージのみに絞ってはいても、この魔法を人に向けて撃つのは初めてだった。

(お願いっ、無事でいてっ)

 自身の最大攻撃魔法で攻撃しながら攻撃目標の身を案じているフェイトの姿を、この時誰も理解出来なかっただろう。もし理解しているならば、彼女と精神リンクをしている使い魔アルフだけ。
 だが、それが彼女に隙を作ってしまった。

 全てのフォトンランサーを打ち終え煙が風によって消えた時、フェイトもユーノとアルフも、そしてアースラでモニタを見ていたスタッフ達も目を疑った。
 なのはが魔法陣を広げ攻撃態勢を取っていた。
 髪を結んでいたリボンは取れ、スカートにはいくつもの穴が空き、ジャケット部分とリボンは見あたらない。
 そして、彼女の正面に輝く光球

【Charge completion】


(ほんとにギリギリ・・)

 連続で打ち込まれて何度も気を失いそうになった。
 でも、前みたいには絶対倒れない。なのはの想いを受けレイジングハートが守ってくれた。

「ありがとう。レイジングハート」

 もう魔力も僅か・・・でも、それはきっとフェイトちゃんも同じだから・・・

「だから・・受けてみてっ! ディバインバスターのバリエーションっ」

 ヴィヴィオの見せてくれた魔力を集中させる方法。私の魔力を使うから減るんだ。だったら周りの魔力を集めて使えばいい。フェイトちゃんと私の魔法の欠片を
 ユーノ君は重要なのは私のイメージだって。
 集めた魔法の欠片を1つに集めて一気に放つイメージ
 なのはとレイジングハートがイメージ空間で練習していた魔法。それを一気に解き放つ

「これが私の全力全開っ! スターライトッブレイカァアアアアアッ!」

 
 ヴィヴィオがもしこれを見ていたら、暫くの間悪夢にうなされるだろう。そしてフェイトも・・・
 なのはの放った集束砲はフェイトの視界全面に広がり、フェイトが放った魔力弾とシールドを一瞬で呑み込み、彼女を魔力ダメージで意識を飛ばせた。そして更に

「戦闘エリア内のフィールドに干渉? ええっ!? 持ちません!!」
「なっ!!」
「!!」

 臨海公園付近に展開していたアースラの結界を容易く破壊した。
その時伸びた桜色の光は、後に怪奇現象か化け狐が蘇ったのかと一部で騒がれる事になる。



「ハァッハァッ・・・」

 息も絶え絶えにフェイトの居た場所を見る。もう飛んでいるのもかなりキツイ・・・煙の中落ちていくフェイトの姿を捉える。

「フェイトちゃん!!」

 落ちていくフェイトを精一杯飛んで追いかける。
 そしてフェイトの手に触れた瞬間、それは襲ってきた。

「魔力攻撃来ますっ!」
「ユーノさん、なのはさんととフェイトさんを守って! クロノっ」

 まさか1人の魔導師によってアースラが張った結界を破壊されるとは誰もが予想していなかった。それが逆に災いする。

「急いで現地にっ!」
「待ってクロノ君。こっちにも攻撃きますっ。あと5秒」
「!?」

 次元を越えた魔法攻撃になのはとアースラは為す術が無かった。


~~コメント~~
if もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代にやってきたら・・・
このお話はそんなお話です。
 なのは1期10話「それぞれの胸の誓いなの」11話「思い出は時の彼方なの」と同じ時間軸で進んでいます。

 ヴィヴィオメインの筈なのに、なのはvsフェイトが思いっきり浮き出てしまいました。反省します。

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