第3話 「街の危険は起こる前に」

「ごちそうさま」
「あら、もういいのヴィヴィオちゃん」
「うん・・もうお腹いっぱい・・お部屋に戻る」
「そう・・・」

 そう言いダイニングから出て行く後ろ姿を見送り、残された桃子達は顔を見合わせる。

「ヴィヴィオちゃん、どうしたのかしら? 店であんなに元気だったのに」
「・・・・・」

 桃子の言葉に「さぁ?」と首を傾げる士郎達。
 その中でなのはとユーノは原因が自分達のせいだとは言えなかった。

 ヴィヴィオはなのはの部屋へ入り電気もつけずベッドに座る。
 ユーノのジュエルシード集めを手伝ったのは、なのはを魔法に関わらせない為。

(ユーノ君にちゃんと言っておけば良かった・・・・)

 失敗と偶然が重なって、なのはがレイジングハートを起動させ魔法を使ってしまった。

(頑張ったのに、どうして・・・)

 ヴィヴィオの願いは叶わなかったのだ。



「ユーノ! どうして・・・どうしてなのはにデバイス渡しちゃったの!」

 神社の前でバリアジャケットを纏ったなのはがジュエルシードを封印したのを目の辺りにし、ユーノに向かって叫ぶ。
 管理外世界で魔法について知られるのは原則禁止である。
 ユーノはそれを破り、更に現地の民間人にデバイスを渡し起動させたのだ。

「ゴメン・・でもヴィヴィオ聞いて。あのままジュエルシードを外に出すわけには・・・僕の結界も破られてしまって・・・」

 ヴィヴィオが向かっている最中に張った結界が破れ、もしもあのまま人通りの多い場所に向かわれたら民間人に多数の被害が出たかも知れない。
 あの場所になのはが居なければそうなっていただろう。
 そう考えればユーノの言い分も最もだった。
 だが、今のヴィヴィオにはそんなのは言い訳にしか聞こえない。

「でもっ私がここに向かってた!」
「・・・ゴメン・・・」

 魔力資質を持っているなのはにユーノの念話が届いてここに来てしまうのも予想できたし、それ以上にヴィヴィオはこのジュエルシードを失念していたのだ。
 ヴィヴィオにも責任がある。

 ユーノの言葉で少し頭が冷えたヴィヴィオは頬の涙を拭い2人に背を向け

「・・大きな声出してゴメン・・先に帰るね」
「ヴィヴィオっ」
「ヴィヴィオちゃんっ」

 ユーノとなのはの静止の声を無視し、来た道を戻った。



『ヴィヴィオ・・言っておかなきゃいけない事があるんだ・・・』

 部屋の中で俯いているとユーノから念話が届く

『・・・わかってる、レイジングハートがなのはに同調したんでしょ』
『! どうしてそれをっ』

 インテリジェントデバイスなレイジングハートは使用者との相性により能力が左右される。
 ヴィヴィオの知るなのはが今もレイジングハートを使っているのだから相性は良い筈で、それ位想像するのは容易かった。
 そしてそれが、今後のジュエルシードを封印する役割がユーノからなのはに移った事を意味しているのも・・・

『法に触れる行為だったのはわかってるよ。でも、あの時なのはが居なければあの場所から飛び出して・・』
『もういい・・聞かない』

 ユーノの判断が間違っているのではない。
 なのはを、大切な人を危険に晒してしまうのが嫌で頑張ったの、にそれが叶わなかったのが悔しいのだ。

【コンコンッ・ガチャ】

 部屋の明かりが灯り足音が近づく。
 ドアの方を見るとなのはが立っていた。

「ヴィヴィオちゃん、ここいい?」
「ここはなのはの部屋・・」

変な事を言う。

「そうだね、変なの。」

 なのはは少し笑った後ヴィヴィオの隣に座る。

「ヴィヴィオちゃんもユーノ君の事知ってたんだ・・あなたも魔法使い?」

コクンと頷く。

「羨ましいな。私そういう取り柄なかったから、ユーノ君が私なら凄い魔法使いになれるかもしれないんだって。私も・・・」

魔法使いになれるかな? と続く言葉。
それはっ、それだけはっ!

「ダメっ!凄く危ないんだよ。大怪我しちゃうんだよ。あんなのとずっと戦わないといけないんだよ!なのはが怪我しちゃったらみんな悲しむよ、絶対。アリサもすずかも桃子も・・私も・・」

 痛々しいなのはの姿を思い出し、言葉を遮る。

「でも、私がしなくてもヴィヴィオちゃんやユーノ君はあんなのを封印しないといけないんだよね。そうだったら私もお手伝いさせて欲しい。」

 心に決めてしまったら絶対諦めないなのはの性格。もしダメと言っても譲らないだろう。
 それにもうなのはしか完全にジュエルシードを封印出来ない。

「・・・わかった。その代わり約束、絶対危ない事をしないって、もし何か感じたら私かユーノ君に知らせるって」
「わかった。約束」
「うん、約束」

2人で指を交わらせる。この世界の約束。



 時と場所を越えた時空管理局では1人の女性士官が通路を走っていた。
 険しい表情の彼女を見て局員達は道を空ける。

「ユーノ君! ヴィヴィオはっ?」
「今はまだ・・」

 部屋に駆け込むとそこにはユーノが立って窓の向こうを見つめていた。
 その窓の奥には眠った様にベッドに横になったヴィヴィオがいる。

「司書の1人が無限書庫で気を失ったヴィヴィオを見つけてすぐにここに運んでくれて、僕にも知らせてくれたんだ。・・・ヴィヴィオは見た目眠ってる様なんだけど、バイタルが無いんだって。普通なら方法があるんだけど、彼女は・・・」
「あ・・・」

 過去のベルカ聖王家の聖骸布(ベルカ聖王の遺物)から生み出された命。
 それが規格外なのは聞くまでもなく

「こっちだけじゃわかんないから、クロノを通じて聖王協会で調べて貰ってる」

2人はまだヴィヴィオがこの時間に居ないのを知らない。




 早朝からヴィヴィオは近くの河川敷へ来ていた。
 報告ではこの付近でジュエルシードをある少年が手に取り、それを友人の少女に渡した瞬間に発動したとされている。
 この発動がなのはが積極的に魔法に携わるきっかけになったのは、なのはやユーノの昔話を聞いて知っていた。
 もしそのジュエルシードを先にヴィヴィオが手に入れてしまえば被害も出ず、なのはが積極的にジュエルシードを集めるきっかけが無くなってしまう。
 思いついて探しに来てみたのだがなかなか見つからない。
 ユーノを呼んで一緒に探して貰おうかと思い立ち上がった時

「何か捜し物?」

 後ろを見ると1人の少年が立っていた。
(あ・・この男の子・・・)
見た覚えがある。最初に拾った男の子。もしかして

「あの、これくらいの青い石なんだけど、この辺で落として・・」
「その石ってこれ?」

 ポケットからゴソゴソと取り出してヴィヴィオに見せる。
発動前のジュエルシード、まだ目覚める様子はない。

「うん、それっ!ありがとう。見つけてくれて」
「さっきあっちで拾ったんだ、はい」

 ヴィヴィオはジュエルシードを受け取り、礼を言う。

「本当にありがとう。また後でね~♪」

そう言ってその場を後にした。

「綺麗な石だったんだけど、いいや。でも・・また後でって?」

残された少年は首を傾げていた。



「♪~~♪~~」

 ジュエルシードを見つけて自分のデバイスへと入れた後、ヴィヴィオは家に戻り桃子の朝食の準備を手伝っていた。
 昨日とはうって変わったご機嫌なヴィヴィオに

「ヴィヴィオちゃん、今日はご機嫌ね~何か良いことあった?」
「うん、ちょっと♪」

 なのはから聞いたキッカケになったジュエルシードを先に見つけられたから、
 このまま他のジュエルシードを集めても、彼女にすればお手伝い感覚で終わるだろう。
 しかも、残りのジュエルシードが何処で見つかったか判っているから、発動前に回収してしまえば危険な目にも遭わない。

(これで【PT事件】も起こらない。)

 そう考えたら凄く気が楽になっていた。

『ヴィヴィオ、少しいいかな』
『どうしたのユーノ君、猫に追いかけられた?』

 あまりにも機嫌が良いヴィヴィオのペースに少し戸惑いながらも

『あ・・え・・ううん、そうじゃなくて・・あの、なのはに魔法を練習して貰おうと思うんだけどどうかな?使い慣れていた方が良いかなって』
『うん、賛成。その間私がジュエルシード探すから。』

 ユーノの探査魔法とヴィヴィオの情報で10以上のジュエルシードを集め終えていた。
 特に海鳴海浜公園沖に眠っていた複数のジュエルシードを一気見つけられたので一気に増えていた。 
 それらも既にレイジングハートの中に入っている。

 この時間軸ではヴィヴィオの保護責任者の1人、フェイト・テスタロッサがこの世界でも同じ様に集めているだろうが、フェイトの集めたジュエルシードの発見場所も知っているから彼女が発見する前にヴィヴィオが集められる。
 そう思っていた。

『うん、じゃぁ暫くお願い。』
『これでいいのかな?・・ヴィヴィオちゃん、聞こえる?』

 早速なのはが念話を使い始めたらしい。

『うん、聞こえるよ。なのはも私の声聞こえる?』
『うん♪』
『なのは、私の事ヴィヴィオちゃんじゃなくてヴィヴィオでいいよ。』

 ちゃん付けされるのは何かしらくすぐったかったのもあり、魔法のことを知ったのだから少しだけうち解けたい。
 まだ話せない事もあるけれど・・

『なのは、レイジングハートを持ったまま心の中で話しかければ僕やヴィヴィオに聞こえるから話すね。これまでの事とか・・・』
『うん、でも・・今日はアリサちゃんとすずかちゃんと一緒にお父さんのチーム応援に行くから終わってからでもいい? そうだ、ヴィヴィオちゃ・ヴィヴィオも一緒に行かない?』
『いいの?』
『うん、お父さんに聞いてみる』

 士郎が抜けたら翠屋は忙しくなるのに、自分まで抜けたら桃子達は更に忙しくなるんじゃ?
 気になって朝食を作っている桃子に聞く。

「なの・・桃子さん、今日なのは達と一緒に居ていい?」
「なのはと? ああ一緒に応援に行きたいのね。いいわよ。ずっとお手伝いして貰ってるから今日はお休み。」
「いいの? お店もっと忙しくなるよ」
「大丈夫、その分桃子さん頑張っちゃうから! その代わり、明日からまた手伝ってね」
「うん♪」

 2人でいると桃子となのはが時々重なって見える。雰囲気が似ているのかもしれない。
 ヴィヴィオはちょっぴりなのはに会いたいと思った。




「アリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃん、それでこっちはヴィヴィオこの子がユーノ君」

 みんな揃っての朝食を食べた後、士郎がコーチをしているチームの応援にやって来ていた。

『これってこっちの世界のスポーツなんだよね?』
『そうだよ、サッカーっていうの。ボールを足で蹴って相手のゴールに入れたら1点・・』
『・・・』

 1個のボールを追って全員が走り回るスポーツ。横で応援しているアリサやすずか、走り回っている男の子達も凄く楽しそう。

『へぇ、面白そうだね』
『うん面白そう・・』
『ユーノ君とヴィヴィオはスポーツ得意なの?』
『僕は研究と発掘ばっかりであんまり』
『私も、なのはは?』
『私も全然ダメ』

 照れ笑いするなのはを見て思い出す。
 ヴィヴィオは運動は嫌いでは無いがそれほど得意でもない。
 それでもヴィヴィオの世界のはやてやフェイトに言わせると【同じ年の頃のなのはより】はかなりマシだそうだ。
 どれだけ運動が苦手だったのだろう?

 そんな事を考えていると【ピィー】とホイッスルが鳴って試合が終わる。

「試合終了、2対0で翠屋JFCの勝利」

 士郎のコーチをしているチームが勝ったらしい。アリサもすずかも喜んでいる。



「あれ、君は今朝の・・応援に来てくれたんだ、ありがとう」

 祝勝会を翠屋すると言う士郎の後をついていくと、横から声をかけられた。声のする方を見ると朝ジュエルシードを拾った少年がいた。

「今朝はありがとう。すごく格好良かったよ」
「あ、ありがとう」

 少し赤くなる少年。あまりこういうのに免疫はないらしい。

「ヴィヴィオ、知り合い?」

 アリサが興味深そうに聞いてくる。その奥でジュエルシードに巻き込まれたもう1人の少女がこっちを気にしている。

(あっ、そっか)
「ううん、朝散歩してたら偶然会ったの。彼女待ってるよ」

 少し大きめの声で向こうに居る少女にも聞こえる様に

「あっ、うん。またね」
「バイバイ♪」

 少年が走っていった先で待っていた少女もこっちを見たので、手を振ると振り替えしてくれた。

(この世界じゃなのはだけじゃなくてみんなの未来も変えちゃうんだ・・気をつけなきゃ)

 未来を変えようとしているのだから、ヴィヴィオ自身が知らない内に全く関係の無い人の未来まで変えてしまうかも知れないのだ。
 考えて動かないと・・・
 

 
 ヴィヴィオ達が翠屋に向かって歩いている最中、河川敷のあたりで2つの影があった。

「ねえ、反応があったのこの辺?」
「ああ、昨日探した時はこの辺からだった。でも、今はもう反応が無いみたい」
「誰か・・集めてるのかな。いい、次探そう」
「わかった。見つけたらすぐ連絡するね」
「うん」

 会話が終わると2つの影は見えなくなっていた。


~コメント~
if~もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たら~
1期3話「街は危険がいっぱいなの」の時間で進んでいます。

 ヴィヴィオはなのはとユーノ・フェイト・アルフやクロノといった身近な者が出会った事件ですので、色々聞いているかも知れません。
 9歳くらいでここまで考えついたら・・末恐ろしいモノもありますが、少しくらいその時を楽しんで欲しいです。

 次回は遂にあの方達の登場ですが・・あれ?・・・

Comments

フレンダ
なのはが魔法少女にならなかった場合、未来が変わりヴィヴィオはなのは達に出会う事も無く、フェイトやはやて達も最悪物語から退場したりと鬱展開になる所だった。
親殺しのパラドックスとは違うが、なのはが魔法に関わらなければ、なのは達がヴィヴィオに出会う事も無く、ヴィヴィオが過去に来た事実が無くなり、原作展開になるが未来でヴィヴィオと会うので……結局どうなってたんだろう?。
とにかく面白そうなので、続きも一気に読ませて頂きます。
2011/08/19 01:05 AM

Comment Form

Trackbacks