第4話 「もう1人の魔法少女なの」

「家族旅行? 温泉? 明後日?」
「そうよ。ヴィヴィオちゃんも一緒」
「私も?」
「うん♪」

 いつもの様に翠屋でお手伝いをしていたヴィヴィオに桃子が嬉しそうに話してくれた。
 高町家では休日を使って家族全員で旅行に行っていて、今回はなのは達に加えてアリサとすずか、すずかの家族が一緒らしい。

(あれ? 確か明後日は・・)

 記録では月村邸へなのはと恭也が遊びに行った際ジュエルシードが見つかり、それを追ってきたフェイトとなのはが初めて出会う日。
 発見報告されていた日をチェックしていたから間違えてない筈、でも、昨日ユーノと一緒に月村邸付近を調べていたけれどジュエルシードは見つからなかった。
 それに、旅行は2泊3日で行くはずなのに、この休みを利用するなら1泊2日である。
 少しだけ記録とのズレが出てきている。

(もしかして、未来が変わってきてるの?)

「ヴィヴィオちゃん、何か別の用事あるのかな?」
「ううん、大丈夫。でもお店・・・」

 士郎も桃子も抜けるなら残った方がいいかと思う。
 でも他の店員が「楽しんでおいで。折角の休みをの間ずっと働いてちゃもったいないよ」と言ってくれたのもあり
「うん、行く!」
 ニコッと笑って答えた。



「すずかちゃん家のメイドさん!?」
「そう、ノエルは私のお姉ちゃんの専属メイドで妹のファリンが私専属」

 すずかの姉、忍とそれぞれ紹介されたノエル・ファリンと会釈を交わす。あの大きな家を見ればハウスキーパーの1人か2人いるとは思っていたが、それでも十分に驚かされた。

『アリサちゃん家も専属の執事さんがいるんだよ』
『!?』

 なのはとヴィヴィオが暮らす家にもハウスキーパーのアイナがいるが、どちらかと言えば家族の様な存在だ。
 ユーノも同じ様に驚いて声が固まっている。
 一族で旅をするスクライア族にとってメイドや執事なんて縁もカケラもないのだから当たり前かも知れない。



「あの子から反応が?」
「ああ、ジュエルシードの反応が弱いから何か封印処理をしてるみたいだけど、今も持ってる。後を追う?」
「うん」

 そんなヴィヴィオ達を遠くから2つの影が見つめているのに、彼女は気付いていなかった。



【旅館山の宿】

(ここがそうなんだ)

 海鳴とは違い、ルールーことルーテシアの居る世界に似ている。
自然が残されていて空気も美味しい。

「気持ちいいね~なのはっ♪」
「うん」

 なのはがどことなく元気がない。車の中でも半分上の空の様な時があった。

(まさか・・・)
『なのは、ユーノ、魔法の練習・・すっごくハードにしてない?』
『ううん、そんなこと無いよ。元気元気!』

 笑みを返すがどことなく表情に疲れが見える。予想が確信に変わる。

『ユーノ、昨日の今朝の練習内容教えて。』
『えっ・・あの・・』
『ヴィヴィオ、私は大丈夫だよ』
『いいから!』

 有無を言わせぬ勢いでユーノに詰め寄ると、ユーノは練習メニューを言い始めた。

『バインドと封印魔法、それと・・シューターと飛行魔法・・あと遠距離封印用の封印魔法・・』

 驚きを通り越して呆れて言葉が出ない。
 魔法に出会って間もないのに数日でシューターや遠距離魔法の練習なんてすればフラフラになるのも当たり前だ。

『僕も無理しすぎって止めたんだけど、もうちょっとって・・・』
『・・・レイジングハートは? 今なのはが持ってるの?』
『うん、これっ。えっヴィヴィオ!?』

 ペンダントの用に首にかけられたのを見て、ヴィヴィオはデバイス部分だけ取り外し自分のポケットに入れた。

『これは暫く私が預かる』
『ええっ、そんなっ。次からユーノ君の言うこと聞くから』

 デバイス無しでももう念話が使えるらしい。上達スピードは驚異のレベルだ。
 でもこの疲労の蓄積が一瞬の隙を生む。ヴィヴィオの世界のなのははこれが原因で数年後に重傷を負うのだから。

『ダメっ、約束したよね【危ない事しない】って。魔法を使いすぎて疲れちゃうのって凄く危ないんだよ。次に魔法を使おうとしてほんの少し遅れて大怪我した人もいっぱい居るんだから。だから旅行の間は私が預かる。いいね、ユーノ。レイジングハートも!』
『うん・・』
【yes】

 ユーノも最初のジュエルシードを疲労から封印を失敗しているので、否定も出来ないしレイジングハートも使用者の疲労を知っていたみたいだ。

『わかった。でも、旅行から帰れば・・』
『疲労が抜けたのがわかったら返す。』
『はい・・』

 有無を言わせぬヴィヴィオの言葉にションボリするなのはだった。

「なのはちゃ~ん、ヴィヴィオちゃ~ん。お姉ちゃん達が一緒にお風呂へ行こうって」

 そうこうしているとアリサとすずかがこちらの姿を見つけて、手を振っている。

「今日と明日は魔法の事忘れてみんなで遊ぼ♪」
「ウン♪」

 そう言うとなのはの手を取りアリサ達のいる方へ手を振り返した。




『ユーノ君・・・・』
『・・・・何?』
『変な目で見たら、正体・・みんなに教えちゃうからね・・・』
『ど・・どうしてそれをっ!?』
『変な目って何? ユーノ君の正体?』
『ななななっなんでもないっ!』

 慌てふためくユーノに首を傾げるなのは。
 アリサとすずかとなのは、そしてすずかの姉忍、なのはの姉美由紀と一緒にお風呂へと来たのだが、なのははそこにユーノを連れてきたのだ。
 勿論なのははユーノと一緒に入ろうと思っての事、みんなも別に変だと思っていない。
 だが、ユーノを除いてこの中で正体を知っているヴィヴィオだけは流石に一緒は恥ずかしく、
 もしユーノが変なことをしようものなら変身魔法をキャンセルしてしまおうかと釘をさした。

『わかった?』
『はいっ!』
『・・・変なの・・・』
 2人の訳の判らない会話になのはだけが首を傾げていた。



「わ~Fantastic!!」
「すご~い、ひろ~い!!」
「すごいね」
「ホントです」
「わ~・・」

 広いお風呂、機動六課のより広いかも。

「お姉ちゃん背中ながしてあげるね。」
「ありがとう、すずか」
「じゃ、わたしも~」
(私も姉妹がいれば、こんな風なのかな・・)
「ヴィヴィオ、ちょっと待ってて。先にユーノ洗っちゃうから♪ ユーノ、あんたは私が洗ってあげるわね。」
「!?」

 ギョッとなってキューキュー悲鳴を上げ暴れているユーノをアリサは逃げられないようにしっかり捕まえている。

(アリサ、ここでユーノの正体知っちゃったら卒倒するかな・・)
『ヴィヴィオ・・なのは・・助けて・・』

 かすかに念話でユーノの声が聞こえたが、なのはもヴィヴィオもワザと聞こえないふりをした。


「じゃあ、お姉ちゃん、忍さん、お先で~す」
「なのはちゃん達と一緒に旅館の中とか探検してくるね」
「さぁ!行くわよ、ユーノ」

 ヴィヴィオもなのは達と一緒に先にお風呂からあがる。
 アリサに隅々まで洗われてグッタリしているのを見てほんの少しだけ同情する。

「この服、スースーする・・・」
「浴衣って言うの。お祭りにも着るんだけど旅館とかでみんなこの服を着るんだよ」

 着物みたいで慌てて動くとすぐに脱げそうでちょっと心許ない。でも、なのは達も気にせず着ているから見よう見真似で着てみた。

「みんなで卓球しない?」なのは達と廊下を歩きながら談笑していると、目の前に1人の女性がやってきた。

(!!まさかっ!)

 身長も違うし耳と尻尾を隠しているけれど、面影は変わらない。
フェイトの使い魔、アルフ
 すれ違い様にアルフはヴィヴィオにだけ聞こえる位の小さな声で

「おチビちゃん、お友達を巻き込みたく無かったら後でここの裏山に来な。」

 バッっと振り向く、だがアルフはこっちを振り向かずそのままお風呂場の方へ消えた。

「どうしたの、ヴィヴィオ」
「あの人がどうかした?」
「ううん。あっ、私忘れ物しちゃった。後で行くから先に始めてて」
「えっ、あっ!」

 お風呂場の方へ走っていくのを見て、アリサ達は「先に始めてよ♪」と遊技室の方へ歩いていった。

(あんなのアルフの声じゃない)

 邪魔する者は誰であろうと排除する、そんな声。
 ヴィヴィオの知ってるアルフは凄く優しくて何度も遊んでくれた優しい子だ。
 それに、どうしてここが? 本当であれば今日はすずかの家でフェイトとなのはが初めて出会うのに何故か先に旅館に来てるイレギュラーな状態。 更にここではジュエルシードは見つかっていない。じゃあどうして・・・
 脱衣所で浴衣からさっき着ていた服に着替え、美由紀に部屋に持っていって貰う様に頼む。その中にレイジングハートも潜ませる。



「来たよ! どこっ!」

 アルフに言われたとおりヴィヴィオは旅館の裏山にやって来ていた。
【ジャキッ】

 硬い金属音が上から聞こえる。音のした方を向くとそこには

「アルフ・・この子が持ってるの? ジュエルシード」
「ああ、停止状態だけど反応してるよ」
「そう・・・あなたの持ってる青い石・・探してるの。こっちに渡して」

 ヴィヴィオのもう1人の母親、フェイトママ。ここではまだフェイト・テスタロッサと呼ばれるプレシアの計画を進める1人の少女。そしてその使い魔アルフ
 フェイトとアルフの優しい瞳はこの世界の2人には感じない。
 既に戦闘用のバリアジャケットを纏っている。

「これ・・何に使うの?」 
「そんなのおチビちゃんに関係ないね。渡すの? 渡さないの?」

(失敗した。フェイトママも来てるなんて・・・逃げられない)

 アルフの戦闘時は知らないがフェイトは高速で接近戦で挑まれると・・・フェイトだけでも逃げられる自信は無い。ユーノへの念話も通じないから何かで遮断されているのだろう。
 ヴィヴィオは焦るのを隠してフェイト達の動揺を誘う。

「フェイト・テスタロッサと使い魔アルフ。プレシア・テスタロッサのProjectFateから生み出された生命体」
「!!」
「あんた一体!? 管理局の人間かっ!」

 呟きに動揺する2人。ヴィヴィオは続ける

「プレシアがアルハザードへと行く為にジュエルシードを集めている。プレシアの本当の娘、アリシアを生き返らせる為に」
「どうしてそれをっ!」
「フェイトっこいつ管理局だっ! 黙らせないとっ」

 ただ単に奪い取って終わりと思っていた2人にとって、ヴィヴィオの口にした内容は聞き捨てならない物だった。知られてしまえば隙を突かれかねない。

「そんなの・・ダメだよ。フェイトもアルフもそんなことしてもみんなが困るだけだよ」
「私はっ!、私は母さんに笑って欲しいだけなんだっ!」
「フェイトは本当にそれでいいの? ねぇっ!」
「言うなぁぁぁああああっ!」

 バルディッシュを構えヴィヴィオに向かってくる。

「!!」

 ジュエルシードの暴走体より遙かに速い、一瞬の間に距離を詰められそのまま一気にバルディッシュを振り下ろす。が、ヴィヴィオの周りに虹色の防壁が生まれバルディッシュの刃を受け止めた。

「何っこれ、アルフっ!」
「ハァッ!!」

 アルフもフェイトの声に併せてヴィヴィオにパンチを繰り出すがこれもヴィヴィオの手前で止められてしまう。

「フェイトっ私の話を聞いてっ!」

 時が違っても2人は大切な人、そんな2人にヴィヴィオは手を上げられる筈無かった。
 無理な説得なのも判っている。それでも、2人を止めたかった。

「それならっ、ハーケンセイバーッ!」
【YesSir】

 バルディッシュの金色の刃が飛び出しヴィヴィオに当たると思われた。がしかし、刃は軌道を変える。フェイトの狙ったのはヴィヴィオの足下。
 土砂毎ヴィヴィオを吹き飛ばしそれを狙ってアルフが魔法球を作り中から槍状の魔法弾が撃ち出した。

(フォトンランサーっ!!)

 ヴィヴィオも防ごうと防御魔法を使うが、アルフの狙いはヴィヴィオでは無くヴィヴィオと一緒に巻き上げられた土や石。それらに当てて方向を変えさせヴィヴィオへと突き進む。
 これもヴィヴィオには当たらない。だが運動エネルギーまで相殺する事は出来ない。

「キャァアアアッ!」

 聖王の鎧。固有技術で魔法攻撃・物理攻撃共に無効化できるが、無効化状態であっても爆風等の2次的要素を相殺する事は出来ない。
 フェイトとアルフはそこを突いたのだ。ヴィヴィオは10m近く上に飛ばされた後、それに勢いを付けて地面に叩きつけられ悶絶する。
 ある程度は防御魔法で緩和していたが、相殺しきれなかった。

「これで判った? さぁジュエルシードを・・」
「フ・・フェイトっ・・話を・・」

 彼女とは戦いたくないし、ジュエルシードを渡す訳にもいかない。

「まだ言うかっ!」

 再びフェイトがバルディッシュを構えた瞬間

「おぃ、こっちから何か声が聞こえたぞ。誰かいるのか!?」

 気取られない様に結界を張らなかったのが仇となった。ヴィヴィオを吹き飛ばした音で誰かが様子を見に来たらしい。

「フェイトっ!」
「・・・うん、次は必ず渡して貰うから」

 そう言い残すと2人は森の中に消えていった。




「ただ・・いま・・」
「ヴィヴィオちゃん! どうしたの!?」

 部屋に戻ったヴィヴィオの姿は全員を慌てさせるに十分だった。
 服も髪も全身が泥だらけで、顔や腕、足の何カ所から血が出ており、血が泥と混ざって固まっているところもある。

「あなたっ救急箱借りてきてすぐにっ、恭也はお湯用意してっ、美由希はタオルをっ、なのははヴィヴィオちゃんの着替え、そのバッグにあるから」
「消毒薬とガーゼ・包帯なら持っています。ファリン、恭也さんを手伝ってあげて」
「はいですっ、お姉様!」

 見るとすずか・アリサは驚きの余り言葉が出ないみたいだ。
 だが考えられたのはそこまでで、ヴィヴィオは桃子の声を聞きながら意識を失った。


「う・・ん・・」

 再び目覚めると、辺り既に暗くなっていた。

「起きた?ヴィヴィオ」

 布団に寝かされているらしい、起き上がろうとするとあちこちから激痛が走る。聖王の鎧でも全て相殺出来ないらしい。

「だれ? なのはママ?・・」

 大切な人の声におぼろげながら答える。

「なのはだよ。」

 徐々に意識ははっきりしてきて視界も戻ってくる。なのはが心配そうにこっちを見つめている。

『治療魔法を使ってるからそのまま動かないで』

 暖かい感じがすると思っていたのはユーノの回復魔法だったらしい。

『何があったの、ヴィヴィオ?』

 フェイトとアルフがジュエルシードを奪いに来た。と素直に言えばフェイトを止めに入るだろう。
 それに今まではなのはの事だけを考えていたけれど、このまま進めばフェイトとアルフはどうなってしまうのだろう。思いがまとまらない。今はまだ言えない。

『ゴメン・・まだ今は言えない・・・終わったらきっと話すから』
『そう・・・もし私が手伝えるなら』
『その時は相談する。ユーノもそれでいい?』
『うん』
『あ、そうだ。美由希さんからレイジングハート受け取った?』
『うん』

 なのはの首もとで赤く輝いている。

『もし、次にジュエルシードを見つけたら、手伝って欲しいな』

 多分少しの間は激しい動きが出来ないだろう。それに考える時間が欲しかった。

『うん、わかった。そ・れ・と、後でみんなすっごく心配したんだからね。卓球してても全然戻ってこないし、お風呂場に行ったらお姉ちゃんから服と一緒にレイジングハート渡されちゃうし、探してたら凄い爆発あって・・もしかして・・あれって・・』
『今はまだ言えないの・・・ごめん』

 まだフェイトの事は言えない。もう少し考えたかった。

『もう少し眠るね・・』
「うん、お休み」

 ヴィヴィオはもう一度フェイトの事を考えていた。今までなのはの未来を変えるのを目的にしていたが、フェイトはどうなるのだろうと。
 ジュエルシードを集めていく中で必ずフェイトかアルフ、その後ろにいるプレシアと会わなければならず、その時はきっとジュエルシードを巡って争わなくてはいけないし、争いになれば管理局【アースラ】が気付かない筈がない。
 既に手元にある1個を含めて15個のジュエルシードが集まっている。中にはフェイトが集めるはずだったのも幾つか混ざっている。
 もし、なのはとフェイトがジュエルシードを巡って争わなければ、フェイトはどうなるのだろう
 プレシアは病気だったらしいし、その頃のフェイトの事を聞いてもフェイトやアルフはもちろん、なのはやユーノまでも教えてくれず想像つかなかった。。




「回復魔法をっ! 急いで」
「どうして突然」
「わかんない。でもこのままじゃ・・」

 時空管理局の医療班ではユーノをはじめ医療班スタッフ、そして事情を知ったはやての指示で【風の癒し手】であるシャマルまで来て総出で回復魔法をヴィヴィオに使っていた。
 ベッドで眠るヴィヴィオが苦悶の表情をした瞬間、顔や四肢に裂傷が現れたのだ。
 命に関わる傷では無いものの、突然現れたものであった為、緊急で癒さざるえなかった。

「ヴィヴィオ・・」

 その姿を見守るなのはは今は何も出来なかった。ただ見守る事しか



~コメント~
if~もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たら~
1期4話「ライバル!? もう1人の魔法少女なの」の一部と
1期5話「ここは湯のまち、海鳴温泉なの」
時間で進んでいます。

 敵対するフェイトとアルフの登場です。
ヴィヴィオにとって2人は大切な人達ですが、この時間では2人とも敵意を持っています。
 ヴィヴィオの迷いがもう少し描ければ良いのですが・・・稚拙で本当にすみません。


 

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