第5話 「わかりあえない気持ちなの(前編)」

「いらっしゃいませ♪」

 海鳴温泉への旅行も終わり、ヴィヴィオの日常も平穏を取り戻していた。

「ヴィヴィオ~レジお願い~」
「は~い♪」

 でも、旅行前とほんのちょっと変わっていて

「ヴィヴィオありがとう。もうすぐランチタイムも終わるからお昼は一緒に食べような」
「うん」

 ヴィヴィオと士郎・桃子の距離がちょっとだけ近づいていた。



 ヴィヴィオが傷ついて戻り、なのは達全員を大いに慌てさせた翌日の事

「心配かけて本当にごめんなさい」

 傷が少し痛んだけれど、ユーノの回復魔法のおかげで翌朝には大分動けるようになっていた。
 昨夜、なのはが「ユーノに似た動物を見つけて、追いかけたら森の中で転げ落ちた」と勝手に話を作り、みんなに事情を話してくれていた。そのおかげで、翌朝ヴィヴィオが顔を出してもそれほど聞かれず、ヴィヴィオは前もってなのはから聞いた話に色々と付け加えるだけにした。
 心配してくれているのに、騙すのはとても後ろめたい気分。
でも、本当の事も話せない。
 
 桃子と士郎は一通りヴィヴィオから聞いた後、約束の大切さを諭しどうして守れなかったのかを強く戒めた。
 ヴィヴィオはその時の桃子の悲しそうな表情がなのはママの顔が重なって見えた。
 この時から2人・・・高町家の全員がヴィヴィオを【来客】ではなく【家族】として迎えてくれたのかもしれない。
 すぐに表れたのは、桃子や士郎・恭也・美由希がヴィヴィオを呼んだ時だった。

【ヴィヴィオちゃん】から【ヴィヴィオ】へ

 少しくすぐったい気持ちもあったけれど、暖かい感じがして嬉しかった。



「そういやヴィヴィオ、この後すずかちゃん家に遊びに行くんだって?」
「うん、猫がいっぱい居るのすずかのお家。なのはと恭也さんも一緒。」

 ランチタイムを終え、桃子・士郎と一緒に少し遅い昼食を食べている。

「猫がいっぱいか・・アリサちゃん家も犬が何匹も居るらしいな」

 士郎とアリサの父は友人でそれぞれのサッカー教室以外でも顔を合わせるのが多いから犬を飼っているのを聞いたのだろう。

「ユーノも連れて行くのよね・・・大丈夫? 食べられちゃったりしない?」
『エッ!?』

 ユーノが一目見て判るほど青ざめている。

「私かなのはが抱っこしてるから大丈夫だよ。」

 話しているとドアの開く音と共になのはと恭也が入ってきた。

「ヴィヴィオ~お待たせ、もうすぐバスがきちゃうよ」
「うん、すぐ行く~ちょっと待って」

 慌ててサンドイッチを口にいれ

「いってきます」
「「いってらっしゃ~い」」

2人の声に送られて翠屋を後にした。




「すずかちゃんのお家、猫がいっぱいなんだよ。」
「猫が多いのは知っていたが・・・なのは、何匹くらいいるんだ?」

 聞けば恭也とすずかの姉の忍とはとても仲が良いそうで、普段無口な彼も旅行の時は凄く優しい表情をしていた。
 みんなで朝食を食べた時、2人に『恋人なの?』と聞いたら、落ち着いてニコリと微笑んで返す忍と、全く正反対で吸い物を吹き出しかけていた恭也の姿を思い出す。
 恭也は普段から落ち着いているから余計にその姿は珍しい。

『ヴィヴィオ、すずかさんの家ってこの前探しに行った家だよね?』
『そうだと思う。【月村】って名前が書いてあったから』

 本当ならなのはとフェイトが初めて出会う場所。
 子猫がジュエルシードを見つけ発動させたという記録から先に行けば落ちていると考えてユーノを連れて行ったのだが、彼の探査魔法を使っても見つけられなかった。

『ユーノ君とヴィヴィオはすずかちゃん家に行ったことあるの?』

 なのはも2人の念話を聞いていたらしい

『うん、ジュエルシードがあるかも知れないって・・その時はすずかの家って知らなかったの』
『そうなんだ! すずかちゃん家広いから探すの大変だよ』
『少し位なら離れてても探せるから』
『なのは、その話はすずかには内緒だからね』
『うん』

「・・・ふたりともあまり話さないが・・・ケンカでもしているのか?」
「「!!」」

 恭也が何も話さないなのはとヴィヴィオに聞いた。
 バスに乗った後、念話に夢中で会話らしい会話をしていなかったから、恭也が勘違いしたみたいだ。

「ううんっ! ちゃんと念・・じゃなかった、いっぱいお話してるよ。ケンカなんかしてないよ。ねーなのはっ」
「うっうん! そうそう! ヴィヴィオっ♪」
「キュイキュイ!」

 何故か聞かれていないユーノまで答えている。

「それならいいんだが・・」
「それより、もう着くんじゃない?」

 運良く月村邸近くのバス停が見えてきたので、自然と話は切り替わった。

『お兄ちゃん、すっごく勘がいいから気をつけてね』
『うん、わかった・・・』
(そういえば、最初のジュエルシードを回収して帰ってきた時、みんな玄関にいたよね・・・)

 なのは以外の家族と一緒の時は念話を使わないでおこう。そう思った。


 

 それから1時間後、そんな気持ちの良い空気は完全に失われていた。

「なのはっ!」

 なのはを見つけて茂みから飛び出したヴィヴィオが見たもの
 月村邸を包む結界の中、ジュエルシードが取り憑いたらしく巨大化した子猫のアイが気を失っている。
 ユーノは見あたらず、傍らでバリアジャケットを纏ったなのはが寄り添い、なのはの視線の先には黒いマントを羽織った少女、フェイトが彼女の愛機バルディッシュをなのはに向けていたのだ。


(この子もジュエルシードを集めているの?)

 ジュエルシードの反応を追ってフェイトが着いた時、ジュエルシードは既に現地の動物に取り憑いていた。
 封印するにも一度気を失わせねばならない。
 怪我をさせない様フォトンランサーを弱めて放ち、気を失わせた後ジュエルシードを封印しようとした時、目の前に1人の少女がその動物に寄り添った。
 杖とバリアジャケット、一目で魔導師だとわかる。

(バルディッシュ、いつでも封印出来るように待機してて)
【Yes Sir】

「危険な物がこの動物の中に入っている。危ないから近づかないで」
「どうして・・」

 少女が振り向きフェイトを睨んだ

「どうしてこんな事するのっ」

 おかしな事を言う。このまま置いておけばジュエルシードによって何が起こるかわからない。
 気を失わせる程度ですむのだから、最善の方法。

「これが、1番良い方法」
「だって!」
「なのはっ!」

 奥の茂みから別の少女が現れた。

 顔をみて思い出す。

『フェイト・テスタロッサと使い魔アルフ。プレシア・テスタロッサのProjectFateから生み出された生命体。』
『プレシアがアルハザードへと行く為にジュエルシードを集めている。プレシアの本当の娘、アリシアを生き返らせる為に』

 名乗っていないのにフェイトやアルフだけじゃなく、母さんの事も知っていた少女。
 アルフは管理局員だと言っていた。前は動揺して逃がしたけど、今度は結界の中だから逃がさない。
 バルディッシュを握る手にも自然と力が入る。
 


「またあなた・・・今度は逃がさない」

 レイジングハートと同じ様なデバイスを向けた少女を見つめる。

(またあなた? ヴィヴィオを知ってる。まさかっ)

 なのはの脳裏に旅館で怪我をしたヴィヴィオの姿が蘇る。
 フェレットがそうそう近くに居る筈がないし、何かを隠してるのは気付いていた。ただ、ヴィヴィオが話したがらなかったから聞かないでおこう、そう思っていたのだけれど、まさか・・・

「またって・・・まさかヴィヴィオが怪我したのって」
「私」

 無感情な声で答える少女。
 その言葉がなのはの心に怒りが芽生えさせた。

「どうしてっ!」

 もう1人の魔法使いはなのはの問いに答えなかった。



 そもそもの発端は少し前に戻る。
 恭也となのはと一緒に月村邸にお邪魔してすずかや先に来ていたアリサとお喋りをしていた時だった。
 子猫のアイがユーノを追いかけ始め、必死に逃げるユーノと追いかける子猫にファリンが足を取られ転びそうになり、なのはとすずかがファリンを支え、トレイから溢れたティーカップを床に落ちる寸前でヴィヴィオが受け止めた。
 その騒ぎでこの子猫が家の外に出てしまい、運悪く転がっていたジュエルシードを発動させたのだ。
 気配を察知したユーノは一足先になのはと一緒に封印に向かった。その後結界が張られヴィヴィオも後を追いかけた。
 そして追いついた時、2人の魔法使いは出会っていた。

(未来は変えられないのっ!?)

 ヴィヴィオは知らない。
 この時、なのはの気持ちが違っていたのを。
 ヴィヴィオの時代のなのはがフェイトと出会った時は終始戸惑っていた。
 だが目の前のなのははヴィヴィオとアイを傷つけた為に静かに怒っている。
 なのはを無視して子猫からジュエルシードを回収しようとするフェイトの前に、なのはが立ちはだかる。

「どいて、邪魔するなら・・」
「・・・・・させない。この子には触れさせないっ!」
「・・・わかった。倒してから回収する・・」

 それがなのはとフェイト、2人の魔法使いの戦いが始まる合図だった。


「ハアアアッ!」
「くっ!」

 なのはの魔導師としての経験はジュエルシードを封印する際に培われていた。
 それ以外のユーノとの練習もあったが、こと戦闘技術についてはジュエルシード戦のみと言ってよかった。
 だが、この世界では発動前にヴィヴィオが見つけ回収しているので、封印する程度しか魔法を使っていない。
 そして精神面においても、なのはのジュエルシード封印に対しての向き合う姿勢が全く違っていて、それに輪をかけていた。
 すなわち【プロと素人】の差
 それ程までなのはとフェイトの戦闘技術・精神面に差が生まれていたのだ。
 いくら防御が強くシューター・バスターを使えても、当たらなければ意味が無い。高速軌道を追い切れないシューターやすぐに回避される砲撃魔法は目印以外の何物でもない。

「アークセイバーッ!」
「キャッ・・ッグ」

 バルディッシュから放たれた光刃はなのはの足を絡め取り、その間に

「ファイアッ!」

 フェイトが先に作り出したフォトンスフィアから連続して魔力弾が打ち込まれる。
 いとも簡単に勝敗は決した。

「なのはっ!」

 気を失って空から落ちてくるなのはを何とか受け止めるヴィヴィオ。それにとどめを刺すかの如く

「ファイアッ」

 残っていたフォトンスフィアがレイジングハートに直撃を与え、赤い宝石部分にヒビを入れさせた。

「これで集められない、集めてもすぐわかる」

 アイに触れジュエルシードを取り出すフェイト。ジュエルシードは吸い込まれるようにバルディッシュの中に収まっていく。
 そして、フェイトはヴィヴィオに近づく。

「もうわかったでしょ。ジュエルシードを渡して」
(レイジングハートも・・なのはがっ・・・もうダメっ)

そんな時、突然フェイトが立ち止まった。

「どうしたの?・・・うん・・わかった。1個回収したよ・・うん」

バルディッシュを待機状態に戻し

「次は必ずあなたのを貰う」

そう言うと飛び立っていった。



「魔力反応消えました。戦闘が終わった様です。まだ反応があるのは結界系魔法と思われます」
「わかりました。次元震が起こる可能性は」
「ありません。」
「・・・次回戦闘反応時に双方を押さえます。それまで転送距離内で待機」
「了解」
 時空の狭間を進む船。

 ヴィヴィオの知らない所まで、時の歪みは広がっていた。

(どうしてなのはがっ、怪我しないようにって・・・、なのはママ。どうすればいいの?)
 腕の中の気を失ったなのはと傷ついたレイジングハートを見て、どうすればいいのかわからなくなった。
 だが、その問いかけに答える者は【ここ】にはいなかった。

  


「ユーノ君っ」
「どうしたの? なのは」
「みて・・ヴィヴィオの・・」
「うそ・・・どうして?」

 医務室で眠っているヴィヴィオについていたなのははある事に気付き、横で仮眠を取っていたユーノを起こした。
 なのはの指さしたヴィヴィオの胸あたりから赤い光が点滅している。

「これって・・ヴィヴィオの」
「もしかすると、ヴィヴィオがどこかで望んでいるのかもしれない・・・なのは・・」
「わかった。そうする。」

 そう言うとなのははある言葉を口にした。

~~コメント~~
 遅ればせではございますが、明けましておめでとうございます。
本年も「さいれんと☆しーずん」をよろしくお願いいたします。

 if~もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たら~
 1期4話「ライバル!?もうひとりの魔法少女なの」の時間軸で進んでいますが、5話と逆になっております。
 4話まではヴィヴィオの視点がメインで進んでおりましたが、5話よりはヴィヴィオとなのは、フェイトの視点も加わります。
 拙くおかしい部分も有るかとは思いますがお付き合い下さいませ。

 

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