第6話 「わかり合えない気持ちなの(後編)

「なのは・・大丈夫?」
「ここは?・・・そっか・・私・・」

 フェイトとの勝負が決して2間ほど経った頃、客室のベッドでなのはは目覚めた。
 心配そうに見つめていたすずかとアリサも安堵の息をつく。

「なのはちゃんごめんね。それに・・ありがとう、アイを助けてくれて」

ニャーとすずかに抱かれて鳴く子猫を撫でながら

「良かった。本当に・・・良かった。すずかちゃん、アリサちゃんごめんね心配かけて」

 元気は無いけれど、それでも受け答えがはっきりしているのでヴィヴィオもホッと一息ついた。
 そんな時、恭也がヴィヴィオにさりげなく近寄りそっと耳打ちをする。

「ヴィヴィオ、ちょっと・・・」
「うん・・・すずか、アリサちょっとだけなのはをお願い」

 予想していたヴィヴィオは2人とファリンに任せ客室から出て恭也の後を追った。


「ユーノが逃げ出して、なのはが追いかけたの。私も気になって後を追いかけたら、アイが木から落ちかけているのを見つけて、なのはが助けようと木に登ったんだけど・・」
「落ちちゃったの!?」

 頷く。
 忍の部屋へ案内されたヴィヴィオは、入るなり「何があったんだ?」と恭也に聞かれた。
 なのはがヴィヴィオにしてくれた様に、ヴィヴィオもそれらしい話を作って2人に話した。空から落ちたのもユーノを追っていたのも本当だし、なのはの運動嫌いは恭也も良く知っているから信じて貰えるだろう。
 ユーノの結界が解かれ、気を失ったなのはを見つけられた時から聞かれると思って考えていた。

『魔法使いと戦って負けちゃいました。』なんて口が裂けても言えない。

「ヴィヴィオ・・・旅館の件といい、今回といい・・僕達に何か隠してるんじゃないか?」
「う・・ううん・・・」

 流石に勘が鋭い。
 恭也は何かに感づき始めている。
 本能的にそう感じて、続けて何か言えばボロが出そうだ。

「恭也、そんなに怖い顔しないで。今はヴィヴィオちゃんとなのはちゃんの話を信じましょう。」
「・・・・・」
「・・・・・」

 恭也がヴィヴィオの目をじっと見る。緊張して時が経つのを遅く感じる

「・・・・判った。父さんと母さんには僕から話す。忍、すまないが病院まで送ってくれないか? なのはは病院で検査しておいた方がいい」
「そうね。ノエル」
「わかりました。お車を準備いたします。」

 それから恭也は海鳴大学病院と翠屋に連絡を入れ、ヴィヴィオと一緒になのはを連れ病院へと向かった。



『ヴィヴィオ』
『何?なのは』
『あの子の・・・あの黒い服の女の子、知ってるんでしょ。教えて』

 病院でなのはが検査しているのを待っていると、念話が飛び込んできた。
 なのはからの念話

『私、何も・・・』
『ヴィヴィオ、あの事旅館で会ったよね。「またあなた」って』

(なのは・・フェイトと向き合おうとしてる・・・)
 念話でも十分伝わってくるなのはの想い。でも、ヴィヴィオはまだ迷っていた。

『ゴメン、もう少しだけ考えさせて。』
『いいよ。ヴィヴィオ、私はあの子とお話したい。あの子、私を攻撃した時、悲しそうな目をしていたの。綺麗な目をしているのに、その時凄く悲しそうに。それだけ・・・』

 そう言うとなのはからの念話は切れてしまった。



 なのはを助けるつもりが怪我を負わせ、フェイトとも出会わせてしまった。
 そしてなのははフェイトと、ジュエルシードと正面から向かい合おうとしている。
 ヴィヴィオがしたのは、ただかき混ぜてこの世界をおかしくしただけ・・・
 フェイトが集める筈のジュエルシードもいくつか既に封印している。フェイトとアルフはヴィヴィオ達がジュエルシードを集めているのをもう知っている。近いうちに奪いに来るだろう。
 もう時間の問題
 更になのはのデバイス、レイジングハートが傷ついてしまった。
 ユーノは壊れたんじゃないから自己修復を全開ですれば数日後には直るって言ってたけれど、このままもう一度戦っても、デバイスはともかく術者の経験が違いすぎる。
 次にフェイトと会った時、なのはは今以上の怪我を負えば・・・考えたくない。

(あの時、フェイトが私のジュエルシードを奪わずに去ったけど、あれはきっと)

 時空管理局の艦船『アースラ』ももう近くに来ている。フェイトがそのまま去る理由が他に考えつかない。
 そうすれば2人の戦いを見逃す筈はないだろうし、完全に敵対したフェイトをリンディ・クロノの2人が受け入れてくれるのか?
 考えれば考える程、深みに陥ってしまう。
 何をしたかったの? 
 はじめはなのはを助けたいと思った。だから魔法から遠ざけようとした。
 でもなのはは魔法を知ってしまい、今は魔法と向き合うと決めている。
 どうすればいいの?どうすれば?
 その言葉だけがヴィヴィオの胸中で繰り返された。



(あの子はどうしてあんな悲しそうな顔をしたの?)

 病院のベッドで横になりながらなのはは考えていた。
 なのはの放った魔法は全て避けられ、撃った後の隙を突かれて何も出来ないうちに負けていた。
 テレビで見た魔法少女の様に、誰かを助けられるんだと思ってユーノ君を手伝い始めたのに、そんな夢みたいな話は一瞬で吹き飛んでしまった。

(あの女の子とお話したい。でも、その前に・・・)

 もう一度会える気がする。でも、今のままじゃ変わらない。

(もっと強くならなきゃ・・・もっと強く)

 お父さんお母さんやお兄ちゃんお姉ちゃん、すずかちゃんやアリサちゃん、そしてヴィヴィオの悲しそうな顔を見たくないから。
 この時から1人の少女は魔法少女、魔導師として自分の足で歩き始めた。


 
「ヴィヴィオ、珍しいな。こんなところで」

 ヴィヴィオはなのはを病院に連れて行き、後で来た桃子と入れ替わるように高町家へ戻った。
 1人で考えたい。家の隅にある道場の真ん中で正座していると入り口の方から声した。

「士郎さん・・」
「恭也から話を聞いた。ありがとうなヴィヴィオ、なのはを助けてくれて。」
「・・・・ごめんなさい」

 何を何故・・・言えない。それに謝るくらいしか出来ない。

「昔な、仕事の最中に酷い怪我をしたんだ。立って歩くどころかいつ死んでもおかしくない位の酷い怪我を・・・でも、その代わり友達を、友達の娘を、友達の友達を・・守れた。代わりに桃子や恭也、美由希・・なのはにつらい思いをさせてしまったがな。」
「考えたよ、ベッドの上で【もし、あの時こんな事になるのが判ってたらどうしただろう】って」

 士郎の昔話。そんな事があったんだとヴィヴィオは聞き入る。

「・・・どうするの?」
「多分、同じ様に守るだろうな。そりゃ全員助かるのが一番いいさ。でも、もしどっちかしか取れないなら、あの時と同じ様に助けて怪我を負う。もし、ここに帰れなくなったとしてもな・・・助けられるのに助けないのは、今まで生きてきたのを全部否定してると思うんだ」
「・・・・・・・」
「こんな話、桃子や恭也に言ったら怒られそうだがな。でも・・・後悔はしてない。」

 なのはの想いの強さ、ゆりかごの中で自らを削ってまで助けてくれた者達の強さ。
 ヴィヴィオは士郎からもその強さを感じた。

「でもっ、桃子さんは? 凄く悲しむよ。恭也さんも美由希さんも・・なのはも。もし・・いつか同じ様にどっちかを取らなくちゃいけない日があるかも知れないよ。それでも?」
「それから逃げたら・・・多分一生悔やむから・・・これで士郎さんの昔話はおしまいだ。ちょっとは気がまぎれたか?」

 何も言っていないのに、士郎はヴィヴィオが何かに迷っているのに気付いていたのだ。
 それで彼自身の昔話をしてくれた。

「私が迷ってるの・・・どうして?」
「まぁヴィヴィオよりずっと長く生きてるからな。そうそう、桃子がもうすぐ帰ってくるそうだ。なのはも特に異常が無いらしいから明日には帰れるらしい。それじゃな」

 よかった。
 なのはの無事を聞いてホッとした。
 道場から出て行く士郎を見送り、再び正座をして目を瞑る。
 なのははあの後再び立ち上がって空へ戻ったのだ。自らの想いを貫くために

(もう一度・・・もう一度、元に戻そう、私の知ってる歴史に。なのはママとフェイトママが一緒に笑ってくれた日の様に)

 歪めてしまった歴史を戻す。過ぎてしまった時間は戻せないけれど、2人が話し合えたらなんとかなるかも知れない。
 ただそこまでにはいくつかの【壁】がある。
 なのはを見ていないフェイトを振り向かせる。その為には・・・

 ヴィヴィオがそう考えた時、胸の辺りが少しだけ暖かくなった。
 胸元を覗き込むと胸のペンダントが点滅している。

「解除キー・・・誰がこれを・・・ママ?」

 デバイスの解除は彼女しか出来ない。

『ヴィヴィオがちゃんと考えて決めたんだから、なのはママは応援するよ』

 そんな声が聞こえた気がした。

(わかった・・・ありがとう。なのはママ)

 立ち上がるヴィヴィオ。その顔にはもう迷いは無かった。



『なのは・・ちょっとだけいい?』
『ヴィヴィオ? 何? ジュエルシード見つかったの?』
『これからの話は誰にも言わないって約束できる? 私となのはだけの秘密』

 この世界で念話が使えるのはまだなのはとユーノだけだろう。近くにフェイトが居るかも知れないが聞かれても構わない。ユーノには念話を聞かないでとお願いしている。

『うん』
『ある女の子の話。昔お母さんと一緒に女の子が仲良く暮らしていたの。女の子のお母さんは研究者で凄く忙しかったんだけど、娘との時間を大切にしていた。
 でも、ある時お母さんの研究が失敗して、大きな事故を起きたの』
『・・・・・・』
『いっぱい人が亡くなった・・・その中には女の子も含まれていた。お母さんはとっても悲しんだ。でも、お母さんは悲しみの中で思いついたの 『死んだ娘を生き返らそう。もう一度2人で暮らした時に戻ろう』って・・・それで生まれたのが・・・そしてお母さんが探しているのを集めている』
『・・・それってまさか』

 誰とは言わない。

『2週間後、海鳴臨海公園であの女の子・・フェイトと会える。レイジングハートはあの子の戦い方を覚えてるから練習も出来るし、自己修復で数日もすれば直る。』
『でも、その間にヴィヴィオはどうするの? ジュエルシードも封印出来ないよ?』

 なのはもヴィヴィオもフェイトに完敗している。今のままでは2人がかりでも勝てないと思うなのはの心配は当然だった。
 でもそんな心配を余所にヴィヴィオは明るく答えた。

『大丈夫! もう負けないから・・なのはは次にあの子、フェイトと会ったらどうしたいのか? ちゃんと決めて』

 なのはが魔法の道を志すならそれで良い。
 だったらなのはの想いを尊重して歪めた歴史を元に戻そうと決めたのだ。

『うん、ありがとう。ヴィヴィオ』

 ヴィヴィオの言葉に再び力強く応えた。

『これで大切なお話は終わり。明日から頑張ろうね』

 そう言って念話を切ろうとした時、なのはが聞いてきた。

『ねぇ、1こだけ聞いていい?』
『何? なのは』
『ヴィヴィオってどこから来たの? 魔法の世界?』
『ナイショ♪』




「桃子さん、明日なのはを迎え行っていい?」

 桃子が帰ってきて全員で遅い食事を取っている中で桃子に聞いた。

「そうね~みんな学校とお店があるから。ヴィヴィオ、お願いね」
「うん♪」
「キュッ」
「そうだった。ユーノも一緒になのはのお迎えお願いね」
「キュッ♪」

そして、その夜

「ユーノ・・お願いがあるの」
「どうしたの?」
「明日だけど、ユーノだけ先に病院に行って欲しいの。病院に着いた後は私が行くまで絶対になのはから離れないで。レイジングハートの中のジュエルシード、全部取られちゃったら大変だから」
「うん。じゃあヴィヴィオのジュエルシードも封印しないと・・・1つ持ってるよね?」

 ユーノもどうして何個もジュエルシードを持っているなのはじゃなくて、1個しか持っていないヴィヴィオをフェイトが狙ったのか考えていたらしい。
 あの後も一緒に行って何度も探査魔法を使っていたのだから知られていると思っていた。

「ううん、これは私がこのまま持ってる。見つけて貰う【目印】だから」

 そう、これは目印。
 どこにあるか判らない物を見つけるより、何処で誰が持っているのか判る方をきっと選ぶ。

「そんなのヴィヴィオが危ない! 僕もサポートに」
「大丈夫。それより絶対になのはから離れないで・・・お願い」

 手を合わせて頼むヴィヴィオ。
 ユーノは暫く考えた後呟いた。

「わかった」と。


 その後、ヴィヴィオはなのはのベッドで横になった。
 主の居ないベッド、ずっと2人だったから少し広くなっただけ。
だけど、それが広く寂しく感じた。

(もう迷わない。絶対大丈夫)
 

 

 翌朝、家を出る恭也と美由希を見送り、続いて店へと向かう桃子と士郎と途中で分かれ、ヴィヴィオは人通りの少ない場所を選んで1人歩いていた。
 ユーノとはさっき別れて、今頃なのはのいる病院に居るだろう。
 ヴィヴィオは病院とは正反対の方向、海鳴市を一望出来る丘を目指していた。頂上に公園があるらしい。
 そして、丁度その丘の上の公園が見えた時、辺りの雰囲気が一変する。

「結界!?」

 辺りの時が止まった様に静まりかえっている。辺りを見回す。
すると奥の林から声が聞こえた。

「おチビちゃん。1人で歩くと危ないよ~」
「もう1人はまだ動けない。サポート役もあっち。あなたを助けに来る人は居ない」

 フェイトとアルフが姿を現す。

「結界を作ったから誰も邪魔できない。だから・・・手荒な真似はしたくない。大人しくジュエルシードを渡して」

 旅行でフェイトに襲われた後、ヴィヴィオもユーノと同じ様にどうして狙われたのかを考えていた。ヴィヴィオがジュエルシードを拾った後、ずっと後を尾行していたなら士郎か恭也が気付いていただろうし、1つでも多く欲しいならヴィヴィオよりなのはとレイジングハートを狙う筈だ。
 それにユーノもヴィヴィオがジュエルシードを1個持ってるのを知っていた。
 それらから、ヴィヴィオのデバイスでは完全に封印出来ておらず、アルフやユーノの探査魔法で見つかったのだと考えた。
 その証拠にフェイトがなのはを倒した後、レイジングハートを持ち去らず傷つけそのまま見逃した。あの時レイジングハートを持ち去ってしまえば、後でジュエルシードを取り出すのは簡単だろう。
 
 なのはとユーノを近づけずにフェイトともう一度話したい。
それにはどうすればいいか? 
 簡単だった。なのはとユーノが一緒にいる状態で、人気の少ない場所に1人で居ればフェイトは必ずこっちに来る。
 そして想像していた通りフェイトとアルフはこっちを狙ってきた。しかも前回の反省からか結界魔法も既に張られている。


「ジュエルシードを渡して」

 再び言ったフェイトの要求に首を振って断る。

「フェイト・テスタロッサ、私と勝負しない? 私が負けたら今持ってるジュエルシードをあげる」

 フェイトもアルフも怪訝な顔をする。勝負にならないのにどうしてそんな勝負をするかと思っているだろう。

「もし・・私が負けたら?」
「もう一度、なのはと・・白い服の魔導師と会ってほしい。次にジュエルシードが発動するまでその子を襲わない。その代わり、私はあなたの持っているジュエルシードはいらない」

 正々堂々とジュエルシードを手に入れられ、もし負けてもフェイトの持っているジュエルシードは減らない。
 フェイトにとって好条件だろう。


 ヴィヴィオの思っていた通りフェイトはコクンと頷いた。

「勝負の方法は?」
「フェイトが決めていいよ」
「結界もあるから・・1対1の魔法勝負・・でどうかな? もし私が負けそうになってもアルフには手を出させない。いいねアルフ」
「あいよ♪」

 アルフもフェイトの楽勝だろうと鷹をくくっている。

「わかった。」



(どうする気?)

 フェイトはヴィヴィオの意図が読めないのが不安だった。
 正体が判らない魔法を防ぐシールド系魔法は気になる。でも、それも攻略する方法が見つかっているから、負ける要素が見つからない。
 戦い以外の勝負だと負けるかも知れないけど、方法まで私に決めて良いという。
 勝っても負けても私のジュエルシードは取られない。勝てば1個手に入る。

(すぐに終わらせる。あの子の為にも)
「バルディッシュ、セットアップ」
【Yes Sir】

 フェイトのデバイス、バルディッシュが待機モードから戦斧、戦闘用へと形を変え、フェイトもバリアジャケットを纏った。



 それを見てヴィヴィオは瞼を閉じる。

(後には引けない。引くつもりも・・・もう無いっ!)

 再び開いた瞳にはもう迷いは無かった。胸に付けたペンダントを取り出して、起動キーを口にした

「RHdセットアップ」
【StandbyReady Setup】

 ヴィヴィオを包む虹色の光にフェイトとアルフは驚いて息を呑む。

「「!!」」
 レイジングハート2nd。
 通称RHd。管理局メンテスタッフとユーノによって作られ、なのはとフェイトから贈られたヴィヴィオの専用デバイス。
 インテリジェントタイプやユニゾンタイプの様に自我を持っておらず、普段は端末や生活の中で使う魔法のサポートを行うストレージタイプに近い存在。
 だがヴィヴィオ専用と言われるのには理由があった。
 【JS事件】の際、ゆりかごから救出されたヴィヴィオと一緒に持ち帰られた彼女の体内に埋め込まれたレリックの欠片。これがこのデバイスのコアとして組み込まれている。
 そして起動させるにはヴィヴィオの意志と彼女の母、高町なのはの解除が必要だった。

 遠き未来と現在を繋ぐ絆。
それに気付いた時ヴィヴィオはフェイトとの勝負を決めたのだ。


 漆黒のバリアジャケットを纏ったヴィヴィオを目の前にし、バルディッシュをギュッと握りしめるフェイト。

「どうして前に・・・」

 驚きと疑問があるだろう。温泉旅館でも月村邸でもデバイスを使う機会は何度もあった。それなのにどうしてという疑問。
 今なら答えられる。
 前にフェイトと会った時、ヴィヴィオ自身どうしたいのかなんて決まってなかった。
 フェイトもアルフも私にとって大切な家族。
 家族となんて戦いたくなんかない。そして

「私の力・・みんなと違うから・・誰も怪我させたくないから」

 自分自身の力への恐れ。それらに【答え】が見つかったからこの姿になったのだと
 
 だが、言われたフェイトの表情が変わる。
 彼女より自分が弱いと言われたのも同然なのだから怒りを覚えるのも当然だった。
 目を細めひと言

「判った・・すぐに終わらせる」

 そう言い一気にヴィヴィオとの距離を縮めた。
 こうしてヴィヴィオとフェイトの勝負は幕を開けた。

  

「ウソだろっ・・・」
『この勝負に手出しをしない。』

 そう言われたアルフはフェイトの勝負を見ているしか出来ない。
 2度も見られているから、フェイトの戦闘スタイルを見抜かれているとは考えていた。
だが、あの黒い魔導師はフェイトの速度と同じか上回っている。
 デバイスを持たずに四肢のみで攻めるという違いはあるが、フェイトと同じ高速近接戦闘。魔法らしい魔法もほとんど使っていないのに、確実にフェイトの魔力を削っている。
 逆にフェイトの攻撃が決まったと思った瞬間、虹色の壁が現れ全て防いでしまうのだ。
 フェイトも同じ方法を取らずに副次的な効果を用いたり、フェイトの魔法資質である電気属性をフルに活用すべく電撃魔法系で攻撃しているが、デバイスのサポートをうけたあの魔導師には無意味か同じ電撃系魔法で相殺されてしまい決定打にはほど遠かった。

 先日のなのはとの戦闘「プロと素人」と例えるなら、今の戦いもそれと同様かそれ以上の差があった。
 互いの立場は全くの逆だったが・・・


 余裕のある戦闘をしていると思われていたヴィヴィオも、直ぐに向かってくるフェイトに対してそれ程余裕はなかった。
 余裕が無い理由、それはフェイトの攻撃に違和感を感じて集中できないのだ。
 フェイトの高速戦闘スタイルは何度もみている。
 それはヴィヴィオが付け焼き刃程度で並べるレベルじゃなく、もっと高レベルに精錬された領域の技。だから良くて五分の戦い。
 そう考えてRHdを使った。
 しかし向かってくるフェイトの攻撃は魔法も打撃も全て軽いのだ。
 攻撃魔法の精度、威力・スピード、どれを取っても弱い。
あの旅館で会った時の方が速く、威力も強かった。
それがヴィヴィオの集中力を奪い、積極的な行動に出れなかった。
 今のフェイトを魔力ランクで測ればBか良いところA程度だろう。
 そんな時、バルディッシュを振り上げたフェイトに苦痛の表情を見た。グローブから除く傷痕

「何? 怪我?・・・どうしてっ?」

 バルディッシュを振り上げた瞬間、注意深く見るとマントに隠れた四肢にあざや傷が浮かんでいる。なのはとの戦闘じゃない。それより前に出来ていると思われるあざもいくつもある。
 誰に? どこで? どうして?
 嫌な想像が脳裏をかすめる。

 なのはママと会う前のフェイトママの事を知りたくて、ヴィヴィオは聞いて回った時があった。
 しかし、フェイトやなのはだけでなく、それ以外の誰もが口を濁した様にフェイトがハラオウン家に来る前の話をしたがらなかった。それに関係するのか?

「フェイト、怪我してるっ」
「! 今はそんなの関係無いっ」

 決定打を与えられず余裕の無い時に敵に気遣われたら苛立ちが増すだけ、ヴィヴィオにはそれが判らない。

「先に治してからっ」
「勝ってからっ、ジュエルシードを手に入れてから治すっ!」

 ヴィヴィオは心理戦をしているつもりは無い。だが、彼女の行った事がフェイトを心理的に追い詰める結果を生んでいた。
 ヴィヴィオを前にして周りが見えていない。かといってヴィヴィオも負けるわけにはいかない。

「・・・わかった・・」
 狙いを絞る。
 狙いはフェイトじゃなくバルディッシュ。
 コアには傷をつけずに暫く使えない様にすればフェイトも動けず怪我も治るだろう。
 砲撃魔法は使えない。今直撃させてはなのはとの会うどころの話で無くなってしまう。
 同じ電撃系魔法なら耐性あるはず。
 両手に魔力を集めていく。電気属性が付加された魔力は集めるとバチバチッと言う音が大きくなり小さな雷光を生み出す、そしてそれはあるレベルを超えた時点で音が消えた。

「フェイトっ!」
「アルフ、来ちゃダメっ!」

 ヴィヴィオの攻撃が今のフェイトにとって致命傷になりかねない、そう本能的に気付いたアルフが加勢に入ろうとするが、フェイトはそれを止めた。

「でもっ、それはっ!」
「当たらなければ・・・関係ないっ!」
「・・・・いくよ・・フェイト」

 バルディッシュから伸びる金色の刃とヴィヴィオの両手の光、それが残像を残して一気に動いた。

「「ハァァアアアアアアッ!」」

 双方の魔力がぶつかった瞬間、森が、公園が、周りの空気が、海鳴が揺れた。

(次元震っ!! ダメっ。)

 強大な魔力同士がぶつかり合いが不完全に封印されたジュエルシードと呼応し、世界を揺らす。
 魔法文化の無いこの世界で次元震を何度も起こすとどんな災害を誘発させてしまうかわからない。
 気付いたヴィヴィオが急停止する。

「!? 今っ!」

 その一瞬を逃すフェイトではなかった。
 高速軌道を描き死角へ回り込んでバルディッシュを一気に振り下ろした。

 次の瞬間、硬い金属音と共に吹き飛んだのはヴィヴィオではなくフェイトだった。持っていた筈のバルディッシュはコア付近に亀裂が走り本体と柄部分が分断され、金色の刃も失われている。

「ッツ!!」

 対するヴィヴィオも左手を痛めたらしく右手で庇っている。左手を覆ったバリアジャケットだけが吹き飛んでいた。 

 
 フェイトがバルディッシュを振り下ろした瞬間、左手で刀身を受け止めて右手で横から刀身を叩き割り、その反動を利用して体を回転させた。そしてその勢いを上乗せした左手でコア付近に直撃を与えたのだ。
 ヴィヴィオのカウンターを予想出来きなかったフェイトは、シールドも作れず直撃を受け、気を失ったまま落ちていく。

 
「フェイトっ」
「フェイトぉおおおっ!」

 ハッと気付いたヴィヴィオは落ちていくフェイトを追いかけ地面に叩きつけられる前に受け止める。地面に下りて同じようにフェイトを追いかけたアルフに渡した時、アルフはヴィヴィオを睨んでいた。
 主をここまでされて黙っていられる使い魔は居ない。
 だが、アルフは

「・・・・勝負はあんたの勝ちだ。フェイトが目覚めたら連絡するよ」

 そう言い残すと転送魔法で姿を消した。


 使用者が消え、辺りを包んでいた結界が消える。

(勝った・・の?)

 もしフェイトの体調が万全であれば、カウンターを逆に利用され負けていたのはヴィヴィオだったかも知れない。あの高魔力の刃を受けていたら聖王の鎧でも耐えられただろうか?

(アースラはっ!?)

 辺りを見回すが、誰も来る気配はなかった。

『ヴィヴィオっ!』
『ヴィヴィオ』

 完全に結界が消えたのか、バリアジャケットを解除したのとほぼ同時になのはとユーノの念話が飛び込んできた。

『何があったの!? すごい地震があったの』
『結界魔法は誰がっ!?』
『うん、ちょっとね。今からそっちに行くから待ってて』

 フウッと一呼吸した後、ヴィヴィオは病院へと向かった。




「小規模次元震、発生止まりました」
「こんな世界で高位魔導師同士の戦闘だなんて・・滅茶苦茶な」
「2人とも小さいのに凄いわね~」
「マントの子はBランクかそれ以上・・もう1人は更に上かな?」
「ああ。それにあの子のシールド、意識的に張っている様には見えないんだが・・・エイミイ、あの魔法調べられるか?」
「さっきから調べてるんだけど、全然ダメ。それこそ【無限書庫】でも行けばわかるんじゃない?」
「もう少し様子を見ましょう。もし再度次元震が発生しそうな場合は、クロノ執務官」
「了解です。艦長」

 ヴィヴィオとフェイトの戦闘、それはもうアースラに捕捉されていた。


~~コメント~~
 if~もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たら~
 1期4話「ライバル!?もうひとりの魔法少女なの」と6話「わかり合えない気持ちなの」時間軸で進んでいます。

 前編から後編へ、凄くご無沙汰になってしまいました。
避けられなかったオリジナル設定で悩ませてくれたのがヴィヴィオのデバイス設定でした。何も無ければ・・・フェイトより弱ければ・・・色々考えた挙げ句が今の姿です。
 もう少し考えれば違ったデバイスになったかも知れません。

 ここは誰の気持ちなの?とか判りづらい部分もあるかと思いますが、おつきあい頂ければ幸いです。

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