第7話 「4人目の魔法使いなの!?」

「私に無茶しないでって言ってて、ヴィヴィオの方が無茶してるっ!」
「なんて危ないことを・・・」

 治癒魔法をかけて貰った後、なのはとユーノの2人が声を揃えヴィヴィオに怒った。

 病院へなのはを迎えに行って、その足で家に帰ったヴィヴィオ達。
だが、その途中でなのははヴィヴィオが左手を庇っているのに気付いた。

「ヴィヴィオ、ちょっと手を見せて」
「何でもないって。ッツ!!」

 手を取ったなのはの指が手の平に当たり、手を隠す。

「ゴメン。ちゃんと見せて」
「・・・・・」

 こっちをまっすぐ見つめられては隠す訳にもいかず、おずおずと手を出す。
 ヴィヴィオの手の平を見てなのははギョッとした。
 手の平を横に分けるかの様に親指と人差し指の間から小指の付け根まで黒ずんでいたのだ。ちょっとやそっとの怪我ではない。赤く熱した鉄にでも触れない限りここまで酷くならない。

「どうしてこんなっ・・酷い火傷。どうして」
「・・・ジュエルシードをかけてフェイトと勝負したの。それで・・・怪我しちゃった♪」

 ヴィヴィオは冗談交じりで言ったつもりだったがなのはとユーノには通じず、通り思いっきり怒られたのだ。

 魔法戦において魔力ダメージのみに制限していれば、攻撃魔法で怪我は負わない。
 だがフェイトはヴィヴィオとの勝負においてその制限を外していた。それはヴィヴィオの壁を抜くのが魔力ダメージのみでは無理だと考えたからであり、結果としてフェイトはヴィヴィオに一矢報いていた。
 バルディッシュの魔法刃を直接手で受け止め、叩き割ったという無茶な戦法を聞いてなのはとユーノを驚かせた。 

「あんな高圧縮の魔力を掴んじゃうなんて無茶もいいところだよ。失敗すれば手が無くなってるよ!」

 ユーノに至っては呆れかえっている。

「痛そう・・・それにお母さん見たらまた驚いちゃうよ。どうしよう・・・」
「あ・・・どうしようっ! なのは。」

 2人揃って続けて怪我をしているのだから、酷く心配するだろう。
 次元震の予兆を感じて躊躇した一瞬の出来事だったから、ヴィヴィオも桃子や士郎が心配するのを完全に忘れていた。
 このまま包帯を巻いて帰って見つかれば、2人まとめてお説教が待っているし、それ以上に2人に心配をかけたくない。

「大丈夫、この位なら回復魔法ですぐ治るよ」

 そう言ってユーノがヴィヴィオの手に回復魔法をかけはじめた。
暖かい光が手に集まり痛みが和らいでいく。

「それで、フェイトちゃんとは?」
「うん、勝ったよ。それでね・・・・」

 ヴィヴィオの手が治る迄の間、なのはとユーノの2人とこれからどうするのかを話し合った。
 フェイトのバルディッシュも暫く使えない様にした事、次にジュエルシードを見つけた時ヴィヴィオは手伝わないと言う事、その時は必ずフェイトも来るからなのはがどうしたいのか決めておく事。
 だが、ヴィヴィオはフェイトが戦う前から怪我をしていたのは言わなかった。
 なのはが知ればフェイトと全力で向き合えないだろうからと思ったからかも知れない。
 


「あれ・・・私・・何か大切な事を・・・」
「どうしたの、なのは?」

 医療班スタッフやシャマル・ユーノの治癒魔法によってヴィヴィオの傷が消え、部屋に彼女の寝息が聞こえる様になった頃、なのはがポツリと呟いた。

「うん・・・あのね、私がヴィヴィオと同じ位の頃、よく似た女の子に会っていた気がするの。ちょっと無茶する女の子・・・でも人違いだよね絶対。うん、何でもない」
「ヴィヴィオによく似た? それってなのはみたいに横で髪をまとめた?」
「ユーノ君知ってるの?」
「ううん、僕もあまり覚えてなくて・・・でも僕も知ってるような知らない様な・・・」

 2人の脳裏に映る少女が誰なのか、まだ思い出せなかった。




「ヴィヴィオはこの後、どうするつもりなの?」

 なのはともう一度会う約束を取り付ける為にフェイトに勝負を挑んだ。それを聞いたなのははそれ以上怒れなかった。
 なのはがヴィヴィオに『もう一度、あの女の子と会いたい』と言ったから、ヴィヴィオはそれを叶えてくれたのだ。

「なのははあの子・・フェイトと会ってどうしたいの?」

 会ってどうするつもりなのか?
 ヴィヴィオに聞かれて考えた。
 私はあの女の子、フェイトちゃんと会ってどうしたいのか。どうしてジュエルシードを集めてる・・・どうしてアイを・・・そうじゃない、そうじゃ。
 そう、どうして悲しそうな顔をしたのか、病院のベッドで何度も思い出していたあの顔

「私は・・・会ってお話してみたい・・ジュエルシードは関係ないの。もっと・・ちゃんとお話してみたい。」

 まだ上手く言えないけど、それがなのはの本心だった。



「・・ジュエルシードは関係ないの。もっと・・ちゃんとお話してみたい。」
(大丈夫、まだ元の世界に戻る)

 なのはの言葉でヴィヴィオはそう思った。でも、判らない事もあった。

(フェイトママは私と一緒って言ってた。でも、どうしてプレシア・テスタロッサはアルハザードに行こうとしたの? フェイトママのお姉ちゃん、アリシアさんは生き返らなかったの? フェイトママは生まれたのに?)

 ヴィヴィオはPT事件でフェイトの母、プレシア・テスタロッサがアースラに送った映像を知らない。機動六課にいた頃、ヴィヴィオやなのは、フェイトが眠るベッドの横にはアリシアとプレシアが写った写真が立てられていた。
 だからヴィヴィオは、この後アリシアは生き返りプレシアと一緒にどこか別の世界に旅立ったのだと思っていた。

「でも、もしフェイトちゃんが向き合ってくれないなら・・・向き合って貰いたい。それが・・」

 言葉の裏に【なのはも本気の勝負をする】という決意があるのをヴィヴィオもユーノも気付いていた。

「それで・・・ヴィヴィオにお願いがあるんだ・・」
「何、ユーノ君?」

 ずっと2人のやりとりを聞く方に回っていたユーノが口を挟んだ。

「なのはに魔法を欲しいんだ」
「私が?」

 ヴィヴィオは首を傾げる。
 ユーノの方が多彩な魔法を使いこなしているし、教え方も上手い。
ヴィヴィオもユーノに魔法を教えて貰った時期もあったから、そっちの方が良いと思っていた。
 それにレイジングハートの仮想空間を使って訓練すれば、飲み込みの良いなのははグングン伸びるだろう。
 どうしてコーチがいるのか? 思いつかなかった。

「あの女の子、フェイトは凄い速さですぐに接近戦に持ち込んじゃう。今のなのはじゃアレを追いかけられないし逃げられない。」
「でもヴィヴィオ、さっきフェイトちゃんとの勝負で魔法刃を掴んで割ったって言ってたよね。それってフェイトちゃんと同じくらいの速さだったのかなって」

 要はフェイト戦を想定しての仮想敵になってほしいのだ。
 デバイスは違うけれど、戦闘スタイルならフェイトの真似事位は出来るだろう。

 ヴィヴィオの脳裏に一瞬あの【集束砲】が蘇る。
アレだけはもう二度と受けたくない。

「フェイトのデータ、レイジングハートに入ってるんじゃないの?」
「もっと応用できる様になりたいの。フェイトちゃんと向き合えるように」

 ヴィヴィオの世界のなのはと目の前のなのは、同じ頃を比べると明らかな差があった。原因はヴィヴィオがジュエルシードを集めてしまったから。本当であればユーノが発動したのを見つけ、なのはが1個1個魔法を駆使して封印したのに対して、こっちのなのはは一度だけ封印前に戦っただけで、その後は封印を少し練習した程度でフェイトと出会ったのだ。
 才能や魔力の差は無くても、経験は圧倒的に違っている。

「・・・・ユーノ・・魔力ダメージだけに設定・・できる?」

 一応確認しておかないと、流石に怖い。魔力ダメージだけでも少し腰が引いてしまうけれど、無いよりは余程いい。

「うん、出来るよ。どうして?」
「う・・うん、なんとなく。じゃあ明日からでいい?」
「ありがとう、ヴィヴィオ」

 嬉しくてヴィヴィオに抱きつくなのは、
 だが、彼女とは対象的に抱きつかれたヴィヴィオは一抹の不安を持っていた。
 ヴィヴィオ自身でも判る程【アレ】はトラウマになっているみたいだ。



 ヴィヴィオは翌朝からユーノと散歩に行くと言って、フェイトと戦った丘の近くにある公園で結界を作りなのはの練習を始めた。
 なのはとユーノはヴィヴィオのバリアジャケットを珍しい物の様に見つめている。

「どうしたのなのは? どこか変?」

 白を基調としたなのはのバリアジャケットとは正反対の黒を基調とするヴィヴィオのバリアジャケット。相反した色なのに、何故か雰囲気がよく似ている。

「ううん、ヴィヴィオのバリアジャケット、わたしのとよくよく似てる。色は違うけど」
「うん、細部は違うけどイメージがよく似てるかも。珍しいね」
「えっ、それは・・・そう! なのはのバリアジャケットを真似したのっ! だからだよ。うんうんっ」
「そうなんだ。それまでバリアジャケット持ってなかったの?」
「デバイスは持ってたのに?」

 なのはとユーノは不思議そうに見つめる。視線が痛い
「うん、そうそう。そうなの!」
(嘘はついてない、嘘はついてない。ただちょっと時間が違うだけ)

 ヴィヴィオのバリアジャケットは彼女の保護者「高町なのは」と「フェイト・T・ハラオウン」のバリアジャケットを基にしてイメージ・作っている。
 だから似ているのは当たり前で、なのはへの答えは嘘では無かった。
 ただ、それは十数年後の話なだけで・・・


 それから1週間は特に何も起こらなかった。
 その間、朝と夕方はユーノに結界を張って貰い実戦練習。なのはが学校へヴィヴィオが翠屋でお手伝いをしている間はレイジングハートの仮想空間を使って練習をしていた。
 更に実戦練習の時以外もレイジングハートがなのは自身に魔力負荷をかけ続け、魔力そのものを上げようとしていた。
 これら全てはヴィヴィオの世界のなのはがしていた練習方法で、フェイトから教えてもらっていたのを実践したのものだった。

(なのはママもなのはもすっごいタフ・・・・こんな練習、毎日なんて体が持たないよ・・・)

 練習しているなのはの方が一番大変な筈なのに、翌朝起きたら元気いっぱいの彼女を見て、ユーノと2人驚かされていた。

 そしてある夜のこと、高速で逃げるヴィヴィオにシューターを当てる練習をしていた時、5個のシューターのうちの1つがヴィヴィオの軌道を読んで先回りをした。

(危ないっ)

 聖王の鎧があるからヴィヴィオに当たっても影響が無い。でも咄嗟に反応して手に魔力を集中させ向かってきたシューターを叩き回避した。

『ヴィヴィオ大丈夫?』
『大丈夫。ちょっとビックリしただけ』

 シューターが消えたのを見てなのはの前に下りる。

「それよりっ、さっきどうしたの?」

 『さっき』と言われて一瞬何かあったのと思ったが、なのはがグーでパンチするような仕草をした為、ああ! と思い出す。

「これ? 手に魔力を集めて叩いたの。フェイトに勝ったのもこれの応用。相手より多く魔力を集めちゃえば盾にもなるし、直ぐに攻撃もできるから」

 魔力密度の話をしてもなのはには判らないだろうから見せた方が判りやすいと思い、ヴィヴィオは手に魔力を集めた。

「そうなんだ・・私にも出来る?」

 興味本位で聞いたのか判らないけれど、ユーノがヴィヴィオの代わりに答える。

「ヴィヴィオの魔法は僕達のとはちょっと違うから・・それに、魔力を集めるのは逆に自分の魔力をそれだけ使うって事にもなるし、何度も使えばすぐに魔法が使えなくなって疲れちゃうよ」
「そうなんだ・・・」

 この時、ヴィヴィオもユーノもこれがまさか【アレ】に繋がるとは思ってもいなかった。 
  



「バルディッシュ・・ごめんね」

 ベッドと少しの家具しか無い部屋の一室、静かに明滅を繰り返すバルディッシュにフェイトは謝った。まだ答えられる位まで直っていないらしく、バルディッシュはそのまま明滅を繰り返している。

「ごめんね・・・」

 バルディッシュのサポートが無ければ星の庭園まで飛べない。
 アルフに頼んで母さんに「ジュエルシードを集めて帰ります」と伝えて貰っている間、フェイトはジュエルシードの反応を探していた。
 あの女の子に負けた後、ジュエルシードの反応は全然見つからなかった。
 翌日から朝と夜に結界が張られているのには気付いていたけれど、フェイトが負けた時の約束『白いバリアジャケットの女の子とは暫く会わない。』それを守ろうとした。
 それでも少し気にしていたフェイトを気遣ってアルフが見に行き魔法の練習してると教えてくれた。そしてそれに気付いたヴィヴィオからの言葉も・・・
 何の為?決まっている。次に私と会った時の為に。
 バルディッシュが直るまで、フェイトは怪我を治すのに専念しようと思った。
 再戦の時、あの子を超える為に。


 
 そしてバルディッシュが直り、フェイトの傷も癒え、ヴィヴィオが指定したその日がやって来た。

「フェイトっ!」
「この反応はまさかっ、なのはっ!」
「「ジュエルシードっ!?」」
(この日が来ちゃった・・・なのはとフェイトを信じなきゃ)

 場所は海鳴臨界公園。
 ヴィヴィオの中でこの日が歴史が元に戻るかどうかの分岐点だと本能的に気付いていた。

 そして時ほぼ同じ頃

「ロストロギアの発動を確認、第97管理外世界。現地の魔導師も向かっている様です」
「アースラは次元震発生時、隣接世界への干渉を押さえます。シールド展開準備。クロノ執務官は現地でロストロギアの回収と現地魔導師からの事情徴収を」
「了解」
「了解です。艦長」
「気をつけてね~♪」
「い・・いってきます」

 時空の狭間で様子を見守っていた者達も遂に動き始めた。


~~コメント~~
 if~もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たら~
なのは1期 6話「わかりあえない気持ちなの」~7話「3人目の魔法使いなの!?」と同じ時間軸で進んでいます。
 
 慌ただしい展開ばかりなので、息がつまるかも知れませんがその辺本編と併せて読んでいただくと嬉しいです。
 

 

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