第2話「魔法の呪文はリリカルなの」

「おかえり」
「!!」
「ずいぶん遅かったね、ヴィヴィオちゃん」

 高町家の門を入り扉に手を触れた瞬間、ヴィヴィオの左右からほぼ同時に声が聞こえる。
 士郎と恭也、2人の声から怒っているのははっきりとわかる。

「こんな遅くに、何処に行ってたんだい?」
「えっ、あのっその・・ごめんなさい」
『この時はまだ魔法の事とか知らないし、どうすればいい? ユーノ君』
 管理外世界の住人にむやみやたらと魔法の事を教えてはならない。魔法学院で最初に教えてもらった

『皆さんを心配させてしまったのだから謝るしか・・』

 ユーノの言う通り。でも、このままでは士郎も恭也も納得してくれないだろう。なんて説明すればいいかあたふたとしていると助け船が入った。

「ヴィヴィオちゃんびっくりしちゃってるじゃない。2人とも心配していただけなの、もうこんな事しないわよね。」
「・・・はい・・・」

 桃子の言葉は何故か重みを感じ、頷く。

「それじゃこの話はおしまい。ヴィヴィオちゃん捜し物は見つかったのかな?」
「はい、この子を見つけた場所の近くに・・」

 咄嗟に首からかけていたペンダントを取り出す。ユーノが持っていた物と同じ様な赤い宝石

『それはっレイジングハート!!何故あなたが?』
『これはレイジングハートじゃないよ。これは・・今は教えられないの。もし・・これを使う時があれば、きっと・・』

 これをユーノに教えてしまえば、過去が更に変わってしまう。ヴィヴィオはそう考えてユーノの問いかけに答えなかった。

「そうなんだ、よかったね。ヴィヴィオちゃん、お風呂沸いてるから入っちゃって。そうだ、なのは~」
「どうしたのお母さん? あ、ヴィヴィオちゃんおかえりー」
「なのは、ヴィヴィオちゃんと一緒にお風呂入らない? あとフェレット君もちょっと汚れちゃってるし」
「うん、いいよ」
「!」
「ええっ!!」

 ジュエルシードを封印した際巻き上がった土埃で服まで汚れており、目についた桃子が風呂に促したのは当たり前といえば当たり前だった。
 が、なのはやユーノと一緒に入るとは思ってもみなかった。

『ユーノ君・・・』
『・・・・何?ヴィヴィオ』
『お風呂でこっちみたら絶対ダメだからね。わかった?』
『はいっ!』
「?ヴィヴィオちゃん何か言った?」
「う・・ううん何も、速く行こうっ」

 少しだけなのはにも念話が聞こえたらしい。魔法資質を持っているなのはの前で念話は気付かれ無いよう気をつけようと思った。



(これで、良かったのかな・・・)

 【なのはが魔法少女になるきっかけ】ジュエルシードの暴走を止めたのを布団の中でヴィヴィオは考えていた。
 このまま進めばなのはは魔法と関わらず違った未来へと進む。
 だが、それは幼きヴィヴィオとなのはが出会うきっかけを失う事にも繋がるはず。
 以前無限書庫で読んだ本を思い出す。
 時間の流れは幾つかの方法で表されるが、集約すれば大きく2つのパターンになる。
「平面を進む車輪」と「木の枝」。
 過去が変わってしまった場合、現在・未来に影響するのか?
 車輪の場合は過去が変わってしまえば進む方向も変わり現在・未来にも影響する。
 だが、木の枝の様に同じ時間軸に複数の世界が進んでいるのであれば、元の世界はそのままでヴィヴィオがこの世界に来た事で新しい枝を作ってしまったのだと説明がつく。
 過去を変えてしまったのにヴィヴィオは存在している。
 司書長である方のユーノにこの本を持って聞いてみると「時間軸の交差」「修復値変動」や全然わからない用語が連発し、たちまちヴィヴィオは混乱した。
 そんな彼女にユーノは苦笑いをしながら「まだヴィヴィオには難しいかも知れないね」と言っていたのを覚えている。

 横のベッドにはなのはがスヤスヤと眠っている。

(どうしてこの世界に来たのかわからないけど、なのはママを助けられるなら)

 流石に色々起きて疲れていたのもあり、目を閉じると直ぐさま微睡みがやってきた。

(次のジュエルシードはたしか・・・)



 ヴィヴィオはその日から暫くの間、高町家に身を寄せることにした。
 突然この世界にやって来たのもあり、ペンダント型のデバイスとお気に入りのマスコット人形以外は何も持っておらず、それにこの世界に頼れる者も居ない。
 そこで、ユーノに父親役として【長期の休みを利用して海鳴に遊びに来ている】と桃子と士郎に電話を入れて貰った。
 士郎や桃子・恭也・美由希も快く受け入れてくれた。

「それじゃ、私のお部屋で一緒に」

 更になのはの発案でなのはの部屋にお世話になることにした。
 
 そして、なのはが学校に行っている間はというと・・・

「いらっしゃいませ~」

 翠屋のお手伝いを始めていた。
 ヴィヴィオの世界のなのはと一緒に何度も翠屋にも来ていたし、簡単なお手伝いはその時させて貰っていたので何をすれば良いかも大体わかっていた。

「合計1200円になります」

 魔法は複雑な計算が必要になるので、ヴィヴィオは計算もお手のものだ。

「小さいのに手慣れたものだね~何処の子?」
「友達の子。外国の学校に通ってるんだけど、夏休みにこっちへ遊びに来てるの。」
「なのはちゃんもあの年で凄いって思ってたけど、あの子も慣れてるね~」

 桃子は常連客と「最近の子はしっかりしてる」とヴィヴィオを見つめ話していた。
 その間、ユーノは外でひたすらジュエルシードの反応を探して辺りを回っていた。



そして、夕方・・

『見つけたよ、ユーノ君』
『うん、ジュエルシード封印!』

 元の世界と違う点、それは発動したジュエルシードを封印するのではなく、発動前の結晶体を見つけて封印出来ること。
 ヴィヴィオは運良く手元に残していたデータの中からPT事件において報告されているジュエルシード発動場所へ発動前に行きユーノの探査魔法によって発見・回収を進める。

 今日も無事に1つ回収出来た。だが、ユーノの疑いの視線がヴィヴィオに向けられている。
 どうしてここにあるのがわかったのか?という明らかな疑問。
 昼に反応を探して走り回って1つも見つけられないのに、翠屋の手伝いを終え合流した後ヴィヴィオに連れて行かれた場所で探すと高確率で見つかるのだから腑に落ちないのも当たり前だろう。
ユーノが疑問に思っているのも当たり前で、ヴィヴィオにそれとなく聞いてくるが答えられる訳もなく

「う~ん・・なんとなく」

としか言えなかった。

 ただ、その時ヴィヴィオはある場所にジュエルシードが眠っているのに気付いていなかった。
 報告されていたけれど、発動場所がずれているジュエルシード。時のゆらぎが迫っているのにヴィヴィオは気付いていない。




『ヴィヴィオっ! 助けてっ!』

 いつもの様に翠屋の手伝いを終えユーノと合流しようと何処にいるのか聞こうとした瞬間、突然ユーノから先に念話が飛び込む。

『ユーノ君! どうしたの? 今どこ?』
『ジュエルシードを見つけたんだけど、既に取り憑いて暴れ始めちゃって・・うわっ!』

 暴走? これまでに見つかったジュエルシードは全て取り憑く前に集めているのにどうして?

『どこにいるの?』
『・・2本の赤い塔が立ってて長い階段がある場所っ 僕だけじゃ止められないっはやく!』

(あっ! シリアルⅩⅥ!)

 シリアルⅩⅥのジュエルシード。見落としていたっ!

「桃子さん、長い階段と赤い塔のある場所教えて下さい」
「赤い塔と長い階段・・・神社の事かな。あっちに見える山の麓だけどちょっと遠いわよ・・えっ! ヴィヴィオちゃん!」

 桃子に場所を聞き一気に飛び出した。

(1つ足りないって思ってたけど、大変なのを残しちゃったっ!)

 既に取り憑いているジュエルシード、もしそれが町中で暴れられたら・・急いで封印しなくちゃ、と更にスピードを上げた。


 ヴィヴィオが翠屋を飛び出したのと同じ頃

「ここで何か変な感じがする・・・」
『助けてっ!』
「またあの声だ・・・」

 声が気になって階段を上り始めると、突然何かが飛び出してくる。

「きゃっ!ユーノ君、どうしたの?びっくりした~」
「どうして結界の中に・・まさか・・なのはさんにも資質が・・」
「えっ!ユーノ君が喋った!!」

 慌ててユーノを放り出しそうになって、更に慌てて止める。
 それと同時に階段の上の方で大きな狼の様な物がなのは達を見つめている。

「何、あれ?」
「なのはさん、お願いです助けて下さい。」
「助けるって言っても・・・私何をすれば」

 ユーノは持っていた宝石をなのはに渡す。

「これを・・目を閉じて心を澄ませて、僕の言葉を繰り返して、【我使命を受けし者なり、契約の元その力を解き放て 風は空に星は天に】」
「我使命を受けし者なり、契約の元その力を解き放て 風は空に星は天に・・」

 なのははユーノの後に続けて言う

「「そして不屈の心はこの胸に!この手に魔法をレイジングハートセットアップ」

【StandbyReady Setup】

「キャッ」

小さな悲鳴を上げたなのはの体から桜色の光が天に昇っていく



「どうしてっ!」

 山の麓で光の柱が出来るのを見てヴィヴィオは立ち止まった。魔法の光と色、あれは・・・
 胸騒ぎを覚え再び走り始める。


「なんて魔力だ・・」

 目の前の少女から溢れる魔力に驚くユーノ

「思い浮かべて君の魔法を制御する魔法の杖の姿を、君の身を守る強い衣服の姿を」

 光の中のなのはが目を瞑りイメージする

「とりあえず、これでっ!」

 赤い宝石、レイジングハートがなのはのイメージしたデバイスとバリアジャケットへと姿を変え、なのはが纏うと光が消えた。




「なのはっユーノ君っ!」

 ヴィヴィオが神社前に辿りついた時、そこには

「リリカルマジカル・・ジュエルシードシリアルⅩⅥ 封印っ!」

 バリアジャケットを纏ったなのはの姿。
 レイジングハートに吸い込まれるジュエルシード。
 それを見て安堵の息をつくユーノ

「どうして・・・」
「あ、ヴィヴィオ。丁度今封印を・・」

 ヴィヴィオに気付き嬉しそうに報告しようとするユーノ

「どうして・・・」
「ヴィヴィオちゃん?」

 なのはもバリアジャケットのまま不思議そうに見つめている。

「どうしてっ、なのはにデバイス渡しちゃったのよぉおおお!!」
ヴィヴィオの叫びが辺りに響きわたった。


「ヴィヴィオ、時間軸は大きく変えてしまうと元に戻ろうとする性質があるんだ。これを【時間修復】と言う。変えてしまった力が大きければ大きいほど戻る力も大きくなるから【時間の修復値変動】とも呼ばれてるけどね。実際に行ってみないとわからないよね」

 ユーノがヴィヴィオに言った話、その中に欠片は眠っていたのだ。


~コメント~
 if~もしもヴィヴィオが幼いなのはの時代に来たら~ というのがこの話の発端です。
 あえて1話・2話と1期アニメと同じ時間とタイトルにしましたが如何でしたでしょうか。
 今回幾つかのオリジナル設定が出てきていますが、この辺はもう少し話が進めば話も合って来るかと思います。
 なのはが魔法と関わらないでいて欲しい。その願いは崩れてしまいました。
 それでは次話もおつきあいくださいませ。

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