「ただいま~。あ~疲れた…」
夜も更けた頃、はやては自宅に戻ってきてソファーに寄りかかる様に倒れ込んだ。
「はやてちゃん、毎晩遅くまで何してるんです? 退院して直ぐにこんな調子じゃ体調崩して病院に逆戻りですよ。」
シャマルが怒りつつも湯飲みを持って来てくれた。
「ごめんな…ちょっと本の虫になりすぎて…最終のレールトレインぎりぎりやった…」
「レールトレインって…何処に行ってたんですか?」
「………」
「…………」
彼女の目が怖い。体を起こして彼女に向き合い白状する。
「ん…? ここは?」
目覚めたら見慣れた天井が広がっていた。プレシアの研究所に運ばれたらしい。
「アリシア…良かった…失敗したんじゃないかって…もう起きないんじゃないかって凄く怖かったんだからっ!」
「ヴィヴィオ…」
体を起こす前にヴィヴィオに抱きつかれアリシアは自分に何が起きたのかを思い出した。
「…ごめんね…ヴィヴィオ…」
常にアリシアがヴィヴィオに勝てる可能性はあった。
彼女と彼女のデバイスのリンクを切ってしまえばいい。
融合してしまっているから取り出しようも無いが、そのリンクを一時的にでも阻害できれば…彼女の力は消えてしまう。
でもアリシアはその考えを最初から捨てていた。
ヴィヴィオとRHdは相乗魔力増幅機能を使っているから切った時ヴィヴィオに何が起きるかわからないからだ。
だからと言って彼女を本気に、聖王化させた上で勝たねば意味がない。
「受けてくれない? 私からの挑戦状」
「…じょ…冗談だよね? もーアリシアったら驚かさないでよ。朝から聞いてすっかり目が覚めちゃった。…アリシア…ママ…」
アリシアが私と模擬戦?
朝から驚かそうとしてると思って笑った。しかしアリシアの表情は変わらず、奥で様子を見ていたなのはとソファーでこっちの様子を見ていたフェイトを見ると2人とも静かに頷いた。
ママ達が何も言わないのは既にアリシアから聞いて知っているということ。それはつまり…冗談ではなく…
(本気…なの…?)
。
「…うん、そうや。私ももう治ったからな、検査結果送ったやろ?」
「……ええよそれくらい。帰りに買うから。シャマルまた後でな」
アリシアがはやての所に見舞いに来た翌日、知らせを聞いて病院に駆けつけたシグナムとヴィータが目にしたのは私服に着替え衣類や小物をバックに詰め込むはやての姿だった。
シャマルが念話で引き留めようとしたものの軽くあしらわれてしまった。
「はやて、まだ寝てなくちゃ…」
「ヴィータ、丁度いいわ。これ持って。アリサちゃんとすずかちゃんからもろた見舞いや。帰ったら一緒に鉢へ植え替えような。」
「う~ん…ユーノ君でもきついか…」
ユーノにある調査を頼んで2日後、はやては彼から届いたメッセージに目を通していた。
ヴィヴィオに関わっているのを気づいているのか、古代ベルカ関係を主に調べてくれたらしいがかすりもしないらしい。
「…やっぱりヴィヴィオやったんかな?」
端末を切ってベッドに寝転ぶ。
成長したヴィヴィオだと決めつけてしまえばそれまでなのだが、どこか引っかかる。
ヴィヴィオのRHdの解析結果が欲しいが、権限が奪われている今はこの映像しかとっかかりがない。
「ママ、チェント、レヴィ…お願いがあります。」
テスタロッサ家での夕食の一時の後、アリシアから出た言葉。
「…ヴィヴィオとの模擬戦で私が勝つ方法を一緒に考えてください。」
「ヴィヴィオとの模擬戦に勝つ方法?」
彼女は強く頷いた。
プレシアは何かの冗談かと思ったが、聞き間違いではないらしい。
ヴィヴィオとケンカでもしたのか?
「じゃあ私、無限書庫に行かなきゃいけないからまた明日ね~」
「うん、ごきげんよう」
「ごきげんよ~」
教室を出て行くヴィヴィオを目で追いかける。出て行った瞬間「ハァ…」とため息を漏らした。
「大丈夫? 授業終わってから調子悪そうだけど…」
「先生のところ、行く?」
コロナとリオが心配そうに声をかけてきてくれた。
「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。私も行くところあるからまた明日、ごきげんよう」
そう言うとアリシアも彼女の後を追うように鞄を肩にかけて小走りで教室を出た。
「ん~っ」
ベッドで目覚めて伸びをする。
レヴィの朝は早い。
早く起きて何かするわけではないけれど寝ていては勿体ないと考えるのが彼女だったりする。
「シュテル、王様、ユーリ、朝だよー…そっか」
部屋内で眠る3人を起こそうと声をかける。しかしその声に応える者は誰も居なかった。
皆出かけてしまったからだ。
「こっちも同じです。」
看板を見ながらユーリは迷わず着いた事に喜んだ。
数日前、ディアーチェが会わなければならない人が居ると言って居候中のテスタロッサ家から離れた。翌日シュテルも何か想いがあったようで高町家に行くと離れた。
そしてユーリもこっちに来てから行きたい場所があるとプレシアに伝えた。
翌日、プレシアから移動方法とパスを貰い幾つかの交通機関と転送ゲートを使いその地へ向かった。
「全く…手間取らせおってからに…」
古ぼけた教会の前に立ったディアーチェはため息混じりにぼやいた。
ここに辿りつくまで酷い行程だった。
3日前、プレシアに頼み移動方法を教えて貰い、管理局、聖王教会のパスを受け取ってテスタとっさ家を離れた。
八神はやてに話をすれば簡単だったのだろうが、まだ彼女と顔を会わせる気になれなかった。だがそれが思わぬ影響を及ぼした。両方とも巨大な組織だからなのか経由世界まで話が通っていなかったのだ。
住宅地の郊外にある公園で、1人の少女が目を瞑って立っている。
彼女の近くには女性が2人いるだけで周りには人気がない。
公園一帯が何重もの強力な結界にも包んでいるからだ。
そして公園中央に居る少女の頭上には彼女の背丈程もある虹色の光球が浮かんでいた。
光球の周りでは何かが微かに煌めき、光球に吸い込まれていく。
その様子を女性達は静かに見守る。
やがて光球は徐々に小さくなり霧散した。
「フゥ…どうだった?」
少女は瞼を開き2人を見る。女性の1人がもう1人の方を見ると
「うん、良い感じだけど、まだ魔力を集めきれてないかな」
「う~ん…」
「でも前より凄く良いよ。少しずつ集められるようになろう♪」
「うん♪」
そう、私高町ヴィヴィオはなのはママとフェイトママに魔法の練習を見て貰っていた。
「こんにちは、はやて」
「フェイトちゃん」
はやてが病室のベッドで本を読んでいるとドアがノックされた後フェイトが入ってきた。
「入院って聞いたけれど、大丈夫?」
心配そうにこっちを見る彼女。どうも入院したという話は聞いていても事情までは聞いていないらしい。
「心配してくれてありがとな。入院って言うても検査入院やしみんな揃って私を休ませようってしただけなんよ。」
「そ…そうなんだ。良かった…私、てっきりはやてがなのはの時みたいに怪我しちゃったんだって思って…」
「…本当にいいの?」
「構わん。」
目の前の彼女が頷くのを見てヴィヴィオはそれ以上言えなかった。
色々あった闇の書事件の記録映像撮影が終わってから数日後、ヴィヴィオはプレシアの研究施設へとやって来ていた。
その理由はというと撮影中にあった事件で併行時間、異世界から来て貰った闇の書のマテリアル達、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリを元の世界へ送る為だったのだけれど…
「我らは暫くここに滞在する。帰る時になれば呼ぶ。」
「はい、その時はよろしくお願いします。」
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