第05話「お姉ちゃんsの1日」

「ん~っ」

 ベッドで目覚めて伸びをする。
 レヴィの朝は早い。
 早く起きて何かするわけではないけれど寝ていては勿体ないと考えるのが彼女だったりする。

「シュテル、王様、ユーリ、朝だよー…そっか」

 部屋内で眠る3人を起こそうと声をかける。しかしその声に応える者は誰も居なかった。
皆出かけてしまったからだ。

 数日前、ディアーチェが誰かに会うために出かけた。そして翌日シュテルとユーリも出かけている。レヴィも誰かと2人のどちらかについて行こうと思っていたけれど

『レヴィ、留守は任せる。』
『レヴィ、あなただけが頼りです。』
『帰ったら美味しいお菓子作りますね』
「うん、僕が留守を守る!!」

 王様とシュテルから頼られるのは嬉しいし、ユーリが帰ってきたら美味しいお菓子を作ってくれる。少し寂しい気持ちもあるけれど、ここに居るのは1人じゃない。
   


「プレシア、おはよーっ♪」
「おはよう、レヴィ。」 

 着替えてリビングに行くと朝食を用意しているプレシアに挨拶する。

「あらもうこんな時間なのね。リニス、アリシアを起こしてきて頂戴」
「ニャー」
「僕も手伝う」 

 アリシアを起こすと聞いてアルフと一緒に起こしに行く。
 アルフがどんな風にして起こすのかを見ているとベッドに登って彼女の首筋を舐めていた。どうやらそれがくすぐったいらしい。しかしアリシアも寝返りをうったりして抵抗している。
 それを見てニヤリ笑みを浮かべそーっと彼女のベッドへと忍び込みツインテールにした髪を片手に持ち彼女の喉もとを擽った。

「………」
「…プッ…」

 微睡みとくすぐったさが争っている。もう一息だ。リニスも判っているらしく尻尾を彼女の首筋あたりで振る。

「…プッ…アハハハハッ…くすぐったい。リニス起きるからもう止めて~っ」
「まだダーメ」
「ええっ!?」

 そう言うと彼女に馬乗りになってもう片方の髪房を彼女のお腹に向けるのだった。



「おはようママ…朝から思いっきり走った気分…」

 彼女の笑い声に目覚めた少女が加勢し、更に笑い声が響き渡る。しかしなかなか降りてこない子供達をプレシアが起こしに来たことで彼女は窮地を脱した。
 プレシアを手伝っていると制服に着替えたアリシアとチェントが降りてくる。流石に笑い疲れたらしい。
 朝食を食べてた後アリシアが登校するのを見送り、プレシアと一緒に彼女の研究施設へ向かう。そこで彼女が仕事をしている間、チェントと一緒に遊ぶ。
 チェントは一見ヴィヴィオに似ているけれど、彼女より体を動かして遊ぶのが好きだ。
 チンクに聞けばアリシアは事情があってここに1人で居るしかなく、アリシアが帰ってくるまで遊び相手がリニスとチンクだけだったらしい。

「レヴィが居てくれて助かる」

 褒められるとやっぱり嬉しい。
 でも、レヴィ達が帰ると彼女はまた遊び相手が居なくなる。だからと言ってずっと居るわけにもいかない。きっと3人が帰って来たら元世界へ戻っちゃう。
 ウ~ンウ~ンと考える。

「レヴィは優しいな。1人で居るより皆で遊ぶ方がいい。チェントも何処かで通学出来ないか調べている。」

 それを聞いて安心する。やっぱり友達と一緒に遊ぶのが1番楽しい。

「チンク姉、いる~?」 

その時、外からチンクを呼ぶ声が聞こえた。
セインがクッキーを焼いて持ってきてくれたらしい。

「休憩しようか、2人でプレシアを呼んできてくれ」

レヴィに合わせたようにチェントも頷き手を繋いで彼女の研究室へと向かうのだった。
  


 その頃、カリムは朝食後のお茶を楽しんでいた。ディードの持って来てくれたお茶とクッキーに舌鼓をうつ。

「セインの作ったクッキー本当に美味しいわね。」
「はい、何処かで教えて貰ったそうです。信者の皆様にも好評で今日は沢山作ってプレシアの所にも持って行きました。」

 彼女は料理が好きでその腕はカリムを唸らせる。でもこのクッキーはもっと洗練されたようにも感じる。

「プレシアと言えばチェントは元気かしら?」

 オリヴィエの聖骸布から作り出されたもう1人の聖王。ヴィヴィオのおかげで彼女の正体を知る者はごく少数に限られている。保護観察中の為育児施設にも預けられない。一方で魔力コアの発表からプレシアには幾つもの依頼を出しているから彼女がチェントと居る時間を削ってしまっている。相反する状況に心が痛む。

「最近ホームステイの子達を預かったそうで、その子達と一緒に遊んでいるそうです。施設の外まで明るい声が聞こえてくる事もあるそうですよ。」
「そう…」

 彼女も娘を1人にするのは寂しいと考えホームステイを受け入れたのか? でも短期なら兎も角長期で受け入れるとなると彼女の仕事的には良く思わない者も出てくるだろう。
 一方で短期であればその子達が帰ってしまうとチェントはまた1人になってしまう。楽しかった分だけ余計に寂しくなる。
 でも彼女はまだ保護観察対象者、保護されてから1年経っていない。

「Stヒルデの幼年学校に編入出来ないものでしょうか?」

 ディードも同じ事を考えていたのだろう。Stヒルデでであればアリシアとも近く、同じ年頃の子も多い。でも保護観察者を受け入れてくれるだろうか?
 保護観察者でなくなれば簡単な手続きだけなのだけれど…
その時ふと思い出す。

(チェント…確かプレシアと一緒に管理局の記録映像に協力していたわよね?)

 管理局の研修用映像にプレシアとアリシアは協力した。しかもその要請は管理局名で聖王教会に対し依頼があった。
 リンディ・ハラオウンを通せば保護観察者から外す事も出来るのではないだろうか?
出来ればホームスティの子達が帰る前に進めておきたい。

「ディード、午後から本局に行ってもらえないかしら。上手く進めば編入出来るかも知れないわ。」
「はい、承知いたしました。」

 その言葉を聞いたディードは嬉しげに答えるのだった。



「チェント、今日はこれで遊ぼ♪」
「おさら?」

 レヴィが背中のポシェットから取り出したのはビニール製の小さな円盤

「これはね、フライングディスクって言って、こんな風に遊ぶんだっ♪」

 大空へ勢いよく飛んでいった。同時に猛ダッシュしてディスクの降下場所近くまで来ると
 勢いを失ったディスクが後ろから追いかけてきてキャッチする。

「こんな感じ♪」
「れう゛ぃねえさま~♪」

 目を輝かせてこっちに走ってくる少女を見てアリシアに相談して良かったと思った。



 2人が青空の下で遊んでいた頃、もう1人の姉アリシアは学院でテキストと辞書を広げ混乱の真っ只中にいた。
 ベルカ史の授業、古代ベルカ史についてはアリシアも興味が興味があったし身近に生き字引と言っても過言では無い人達が居る。でも…出てくる文字が古代ベルカ文字の読解問題…
 文章そのものが読む者のイメージで変わるのだ。初等科で出される問題はそれ程難しくないらしいけれどアリシアにとっては強敵だった。
 結局辞書をひっくり返してもある1文が訳せず

『ヴィヴィオ~…ごめんここの訳なんだけど』

 念話を使って親友を頼る事にした。念話を送ってこっちを振り向いてくれるのを待つ。

「………あれ?」

 いつもならすぐに教えてくれるのに今日の彼女は先生とテキストを見てノートを取る…まるで念話が届いていないかの様。

『ヴィヴィオ~?』
『……あっ、ごめん。ちょっと授業に集中してた。何?』
『う、うん、ここの文章なんだけど…』
『えっと、そこはね…』

 もう1度呼ぶとようやく振り返って教えてくれた。

(授業に集中? 古代ベルカ史でベルカ文字は殆ど読めるのに集中…)

 胸の何処かに引っかかる気がした。



「れう゛ぃねぇさま~♪」

 最初チェントはうまく手首のスナップが出来ずフライングディスクを投げても1メートルも飛ばす事が出来なかった。でも、目の前でレヴィが何度もゆっくり投げる仕草を見せると少しずつ飛距離も伸びてお昼までにはレヴィと投げ合える様になっていた。
 彼女にとって飛距離が伸び思う様に投げられるのは楽しかったらしく、昼食を食べてからも2人で遊んだ。
 レヴィも投げる度に『ねえさま』と呼んで貰えるのが嬉しくて色んな投げ方を見せて彼女を喜ばせていた。

 おやつの時間、チンクが持って来たアイスを食べているとチェントがグラス片手にうつらうつらと瞼を落とし始めた。

「チェント、アイスは後で食べような」

 頷いたのか微睡みに負けたのか判らなかったが、チンクはグラスをテーブルにおいてチェントを抱きかかえ部屋の角に設えられたベッドに眠らせた。

「レヴィ、チェントと遊んでくれて礼を言う。遊び疲れて眠った事なんて今まで無かった。余程楽しかったんだろう。」
「1人残って待つのは退屈だろうが…少しでいい、あの子の遊び相手になってやってくれ。」
「ううん、僕も楽しいよ。本当にお姉ちゃんになったみたいで。」
「そうか…ありがとう」

 屈託のない笑顔を見てチンクも笑って答えた。


 
 その頃、アリシアは青空の下で術式展開の授業中だった。
 魔法はプログラムを組んで術式を魔方陣として展開しそこに魔力を送り込んで発動させる。
使用範囲や規模が大きければ大きいほどその術式は複雑になっていく。だが初等科ではそこまで複雑な術式は教えない。魔力コアを使い始めて数ヶ月しか経っておらず魔力資質【リンカーコア】を持たない生徒との足並みが取れていないからだった。
 そんなクラスの中でアリシアはこの授業中だけ少し変わった扱いをされていた。
 ある程度の術式を組む事も出来るからクラスメイト、特に彼女と同じリンカーコアを持たない、持っていても弱い生徒に対し魔力コア付きデバイスを通しての術式展開方法を教えていた。
 先生よりも聞きやすく、魔力コアに限って言えば先生より作成者、魔力コアのテスト経験者である彼女の方が知識と経験を持っていたからである。

「うん、そうそう…そんな感じ。魔力だからって気にしないで魔方陣が出来たら魔力を流すスイッチを入れる感じで…」

 教える傍らで彼女の視線はある少女の方へ向けられていた。術式展開をしているのか集中している。

 高町ヴィヴィオ…本来彼女もこの授業に関しては別格扱いになっている。
 その理由はクラス…学院内で唯一古代ベルカ式魔法を使う魔導師であり、条件付きながら空戦Sランクを持っている。更に彼女と彼女のデバイス【RHd】は管理局でも珍しいユニゾンデバイス。
 試験の合否が発表されライセンスを更新した日、ヴィヴィオは先生に魔導師ランクと古代ベルカ式魔法使役者ーベルカの騎士になった事を直接伝えた。その上で今までと同じ様にクラスメイトと同じ授業を受けたいと言ったと彼女から聞いた。
 ヴィヴィオが古代ベルカ式魔法の資質を持っているのは入学時から知られていた。
 しかしその中でも優秀な魔導師のみが名乗る事を許される『ベルカの騎士』となった彼女の扱いをどうするかという問題が教師達の間で起きたが、どこからかの進言があって今までと同じ様に授業を受けることになってヴィヴィオは勿論アリシアも安堵した。
 アリシアの視線の先では彼女はみんなと同じ様に術式展開の授業を受けている。
 
(ヴィヴィオ…今までなら秘密にしてたのに、どうして言っちゃったんだろう…)

 総合Aを取った時も何度も事件に巻き込まれた時もずっと魔法に関しては黙っていたのに、どうして話したのかがアリシアには判らなかった。

「凄く集中してたね」

 ヴィヴィオが息をついたのを見て歩み寄り声をかける。

「あ…うん、アリシアもお疲れ様。」
「ヴィヴィオなら術式展開は簡単でしょ。新しい魔法の練習?」 
「…うん…そんなところ。私、全然駄目なのわかったから…もっとうまく…」
「?」
「もっと…うまく使えなくちゃいけないんだ…オリヴィエさんみたいに…」

 遠くに見える校庭に立つ聖王の像を見つめ呟いたヴィヴィオに

「!!」

 アリシアは引っかかっていた物が何だったのか気づいて愕然とした。 


~コメント~

今話はお姉ちゃんSな話です。
シュテルが高町家、ディアーチェが遠方の教会施設へ、ユーリが海鳴市の高町家に行った後残ったレヴィとアリシアに焦点をあててみました。
レヴィは単純そうに見えて実は紫天一家の中で誰よりも人見知りせず深く入り込めるのではないかと思います。
 先日大まかなあらすじが完成しました。少しシリアス風味な話もありますがおつきあい頂けると嬉しいです。

さて、先日1番くじ Movie2ndA'sの第2弾発売予定店が発表されました。
見て吃驚、徒歩圏内に1店ありました。
ご近所に住むなのはファンの方々には申し訳ありませんが、発売日に全力全開させて頂くつもりです。
 

Comments

Comment Form

Trackbacks