第04話「ユーリ、高町家を訪れる」

「こっちも同じです。」

 看板を見ながらユーリは迷わず着いた事に喜んだ。


 数日前、ディアーチェが会わなければならない人が居ると言って居候中のテスタロッサ家から離れた。翌日シュテルも何か想いがあったようで高町家に行くと離れた。
 そしてユーリもこっちに来てから行きたい場所があるとプレシアに伝えた。
 翌日、プレシアから移動方法とパスを貰い幾つかの交通機関と転送ゲートを使いその地へ向かった。

 窓から中の様子を覗こうとした時ドアがガチャっと開き

「ユーリちゃんよね? 話はプレシアさんから聞いているわ。入って入って♪」

 見知った彼女―高町桃子に迎えられた。

「いらっしゃい。」
「よろしくおねがいします」

笑顔で迎えてくれた2人を見てユーリは気にしすぎていたのに気づいた。



 ユーリがこの時間に来て気になったのは未来の高町家の様子だった。ユーリの居る時間では長男の高町恭也と月村忍は恋仲であり彼女も翠屋で働いている。
 長女の美由希も誰か想っている人がいるらしい。
 次女のなのははフェイトやはやてと一緒に時空管理局の嘱託魔導師から士官候補生へとなった。魔力を分けて貰っているリンディ・ハラオウンからは数年後、海鳴市からミッドチルダへ居を移すだろうと言われている。
 そうなると翠屋でお世話になっている士郎と桃子はどうなるのだろう?
 家族が離れてしまえばきっと寂しい思いをするんじゃないか? 
 紫天の書の中でユーリも1人封印されていたのだから

「お菓子作りを教えて欲しいのよね。ちょっとだけ待ってくれるかな。」

 陽も落ちてきたとは言えまだ翠屋は営業中、学校帰りの生徒も多い。
 桃子はユーリをカウンターに案内してから奥へと小走りで入っていった。士郎も笑顔で迎えた後、テーブルに残された食器を片付けたり来客の注文を聞きにまわっている。
 2人でお店が回っていない。

「あの…私もお手伝いします。」

 両手いっぱいに食器を持った士郎に駆け寄って残ったカップを幾つか持つ。

「ユーリちゃん…ありがとう、助かるよ。」

 士郎は何かを言いかけたが、ユーリが翠屋のエプロンを着けているのを見て笑みで答えた。



 そして小1時間後、ようやく店も閉店となりユーリは厨房に立っていた。

「ユーリちゃんありがとう、桃子さん大助かり。凄く慣れた感じだったけれどあっちで手伝っているのかな?」

 聞かれて少しどう答えようか迷う。
ユーリが手伝っているのは翠屋、異世界でありここから数年前にあたる。幾つかメニューは違うけれど、それ以外は同じなのだから慣れているのは当たり前だった。でもそんな事は言える筈もなく

「少し…」
「やっぱり♪ じゃあ一緒にクリームから作ってみようか」
「はい♪」



「お~い桃子、片付け終わったからそろそろ…」

 店内の掃除を終え帰ろうかと士郎が厨房を覗く。

「そうそう、力を入れずにゆっくり入れる感じで…」
「はい…」

 真剣な眼差しでシューにクリームを入れる少女と横で楽しそうに見ている妻

(こう見ているとまるで親子だな…年で言えば孫か)

 そんな思考が伝わったのか桃子はこっちを見て一瞬怒った顔を見せた後ウィンクして答えた。先に帰ってということらしい。
 カウンター横に置かれていたユーリのバックを持って先に店を出た。
 滅多にない時間を過ごして貰おうと1人家路に向かうのだった。



「ただいま~」
「お、おじゃまします」

 士郎が帰って来てから2時間程して2人が帰ってきた。

「お帰り。桃子、ユーリちゃん。今日は助かったよ。疲れただろう? 風呂が沸いているから入ってきなさい。」
「そ、そんな、私は後で…」
「そうね~私も汗かいちゃったから一緒に入りましょう♪」
「えっ? あ、あの…私は…」

 半ば引きずられるようにして少女は脱衣所に入っていった。

「母さん、楽しそうだったね。」
「そうだな…」

 キッチンから顔を見せた美由希の言葉に士郎も頷いた。



「桃子さん」
「なぁに」

 湯船の中で桃子に声をかける。
 暖かい湯船と抱かれて心の中まで暖かくなっていく様に感じる。
でもそれとは別に…知っている彼女とあまりに違いすぎてどこか浮かれている

「なのはさんやヴィヴィオが…居なくて…寂しいですか?」
「……」

 桃子の腕がビクリと動く。さっきまでの雰囲気が一瞬にして変わってしまったのに気づく。
しまった、聞いてはいけなかった。しかし気づいた時にはもう遅い。

「ご、ごめんなさいっ…わ、私…そんなつもりじゃ…」

 振り返ろうとした時、桃子に強く抱きしめられる。

「ユーリちゃん…優しいのね。ありがとう」
「そうね…寂しくないって言っちゃえば嘘になるけれど、恭也も忍ちゃん、雫ちゃん、なのは、ヴィヴィオ…みんな元気だったらいいの。」
「でも…」
「なのはがミッドチルダに行ったから今日ユーリちゃんがうちに来てくれた。そうでしょ」



 桃子達が寂しいんじゃないか? ユーリの考えは間違っていなかった。
 でも桃子はその気持ちとは違う何かを知っていてそれを信じている様に感じた。 

 【 絆 】

 ユーリがその言葉と意味を知るのは元世界に帰ってからである。



「そうか…あの子はそんな事を…良い子だな」
「ええ、本当に優しい子よね。」

 皆が就寝した後、リビングで浴室での話を聞いた士郎は誰ともなく言った。
 ユーリがここに来た理由、お菓子作りを教えて貰いたいからではなく士郎と桃子の話を聞いて気になったからなのだろう。

「なぁ、今思いついたんだけど…ユーリちゃんが帰る時に何か渡せないかな」
「そうね…ユーリちゃんプレシアからエプロン借りてきたみたいだからユーリちゃん用のなんてどうかしら?」

 彼女が使っていたエプロンはプレシアに渡した物だった。背丈の違う彼女には大きすぎて何重にも織って着けていた。

「いいな。よし明日早めに行って…」
「ううん、私が作るわ。折角来てくれたんだもの」
「そうか…そうだな」

 主が使わなくなって久しいベッドで眠る少女を思い頷いた。
    


 
~コメント~
大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
 今話はユーリが主人公な話です。ユーリは紫天の書の中でエグザミアと共に1人封印されていました。又、前作AgainStory3ではシュテルと共に高町家で暮らしています。
 ディアーチェ達と違って1人でいた彼女だからこそ海鳴市の士郎・桃子の様子が気になるのではないかと思ったのが今話の始まりでした。


 さて、今話を含めSSサイトが更新出来なくなった経緯ですが
 7月中旬、私の住むマンションが雷に打たれました。仕事から帰ってくるとドアに張り紙がされていて「雷の被害があったので、戻ったら家電製品を見て欲しい」と書かれてました。
 マンションには避雷針もありますし、10年近く住んでいて停電はあっても雷なんて落ちたこともなかったのでまさか~と思ってましたが…まさかここまで被害が出るとは思ってもみませんでした。
 冷蔵庫、TVやレコーダー、PS3、レンジ、洗濯機、エアコンは勿論、電話や照明まで壊滅、勿論パソコンもうんともすんとも動きません。
 その後数日間は職場の1室に宿泊しつつ、保険で幾つかの家電が入れ替わり(10年以上使ってた物が新品に変わった♪)ガス給湯器が修理されたり、TVを含む家電で他の家で一悶着あったりしてる内に今に至りました。
 パソコンは中のデータが消えると困るので静奈君に頼んだのですが、夏コミの追い込み時期と重なっていたこともありこちらも先日データを取り出して別のパソコンに入れて貸してくれました。
(この辺は流石プロですね。)

 

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