第03話「ディアーチェ、王と接触す」

「全く…手間取らせおってからに…」

 古ぼけた教会の前に立ったディアーチェはため息混じりにぼやいた。
 ここに辿りつくまで酷い行程だった。
 3日前、プレシアに頼み移動方法を教えて貰い、管理局、聖王教会のパスを受け取ってテスタとっさ家を離れた。
 八神はやてに話をすれば簡単だったのだろうが、まだ彼女と顔を会わせる気になれなかった。だがそれが思わぬ影響を及ぼした。両方とも巨大な組織だからなのか経由世界まで話が通っていなかったのだ。
 
 おかげて足止めを食らうこと10数回、パスが偽造だと思われてあやうく捕まりそうにもなった。
 仮に捕まえられたなら即座に実力行使に出ていたに違いないが。
 途中でもう引き返そうかとも考えたが、ここに残った理由の1つを見極める為だと再び決意し足を進めた。
 教会の正面入口に近づくと門番に阻まれ、そろそろ3桁目になろうとしているパスを見せた。
 数分後、建物の中から見慣れたシスター服姿の女性が現れ中へと導かれる。

(全く…)

 こちらは既に3桁を軽く越えたであろうため息をつきつつもこれで長い道程も終わると思い彼女の後を追った。  



 何人かのシスターとすれ違い中を少し歩き突き当たりの部屋の前まで来ると女性がノックする。

「はい」
「シャッハです。ミッドチルダからのお客様をお連れしました。」
「お入りください。」

 重い音がして鍵が外れる。厳重な警備体制だ…何かが起きているのだろうか?

「中にお入りください。」

 シャッハが扉を開け中へと促される。部屋に入ると扉が閉められ再び鍵がかかる音がした。

「いらっしゃい。重々しい雰囲気ですみません。皆様が私を侵入者から守って下さっているのです。」
「侵入者だとっ!?」

 ここはそんなに物騒なのかと驚く。だが目の前の彼女は涼しい顔をしている。彼女の言う皆様を余程信頼しているのか、危害がないからなのか…

「私がイクスヴェリアです。貴方は…どちら様ですか?」
「そうだったな我は闇の書の中に眠る王、今はこの姿だ。貴様こそ隠さずともよい、既にわかっている。」

 ディアーチェがここに来た目的、それは眠りから目覚めた古代ガレア王イクスヴェリアに会う為だった。
 イクスに対しぶっきらぼうに言い放つ。

「………」

彼女はその言葉に一瞬驚いた後瞼を閉じ

「いつ気づきましたか? 紫天の書の王、ロード・ディアーチェ」

瞼を開き答えた。彼女の瞳の色が変わっていた。

「ヴィヴィオから子鴉が闇の書と化したと聞いてから腑に落ちなかった。」
「我らの世界で半年前、闇の書のマテリアルとしてこの姿でかの地に降りた。機能を失った闇の書と子鴉を用い新たな闇の書を生み出す為だ。だが我らの企ては時と世界を越えてやってきたヴィヴィオに阻止された。」
「ええ…ヴィヴィオが教えてくれました。」

 彼女は静かに頷く。

「おかしいとは思わぬか? ヴィヴィオの魔法、時空転移を使えば未来の子鴉が闇の書と化すのを容易に止められるのだぞ? わざわざ異世界の闇の書復活を止めに来たあやつらがなぜそれをせん?」
「そうですね」
「ヴィヴィオに連れられこの地に来た我はその理由を調べていた。するとプレシア・アリシア親子から有用な情報を耳にした。時空転移に使うデバイス『刻の魔導書』に浮かんだメッセージ、夢の中に現れた複製母体がヴィヴィオ達に伝えたそうだ。」
「……」
「まだあるぞ、局と教会の身近な者を集めて言ったそうだ『衝突後の未来は見えない』と」
「……」
「…貴様等の世界に興味はない。我が気にするのは我の世界の家族や友の未来だけだ。」

 ディアーチェの知りたかった真実、それは何故異世界で起きた闇の書復活を阻止したのに先日はやてが闇の書を蘇らせかけた時に何もしなかったのかだ。
 ディアーチェにとってここは未来でも異世界であり、元世界と同一人物が居ても気にかけていない。ヴィヴィオにも世話になったと恩義は感じているがその程度だ。

 しかし彼女だけは違う。闇の欠片事件と砕け得ぬ闇事件で現れた大人ヴィヴィオ。
 彼女が元世界の未来からやってきたのであれば彼女も時空転移が使えるということ。ではなぜ彼女が少女時代、又は事件が発生した後にしか来なかったのか?
 その理由が彼女と共にやって来た王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトにあるのではないかと考えた。
そしてプレシアから聞いたヒントを元にある可能性辿り着いた。 

「私…彼女が時空転移を使って来たのではなく思念体だった事は知っていますか? 彼女が持っていた力は強大でした。平穏に日々を過ごしていればヴィヴィオやチェントが成人して1人前になるのを見届ける事も出来たでしょう。」
「そこまで彼女が力を宿していたのは彼女が未来が見えない危機を知る存在であり、崩壊する時間軸を彼女自らの力で切り開くつもりだったようです。」
「ですが彼女はヴィヴィオが複製母体、自身と異なる…聖王ではなく高町なのはの娘としての力を持っているのを知りました。そしてオリヴィエ自身が道を切り開くのではなく現在に生まれた聖王、ヴィヴィオに全てを任せようと考えを改めました。」

 ディアーチェは頷き返しつつ砕け得ぬ事件時の2人を思い出す。短い時間だったがオリヴィエは確かに自ら前に出ず、ヴィヴィオの補助をしているように見えた。

「しかしそうなると彼女が正体を晒した事で未来に悪影響を残してしまう危険がありました。」
「過去からベルカ聖王の関わりを唯一残す聖王教会。コピーではなく複製母体が居たら…その者が時間移動という失われてしまった強大な魔法を持っていたら…どうなると思いますか?」
「知れた事よ。聖王教会はそやつ取り入れヴィヴィオを…!?」

 簡単な話だと思い答えようと言葉を紡ぐ。
 だが最後まで言うのを躊躇ってしまう。

「そうです。同じ聖王でも複製母体とコピー、排除されるのがどちらなのかは明白です。見えなかった未来がヴィヴィオによって開かれたとしてもその様は本来あるべき未来から大きく違った世界になるでしょう。彼女が目覚める前にヴィヴィオに対して管理局・教会双方が実力行使に出た事もあったと聞いています。」
「ヴィヴィオとチェントの成長を見守りたい。でも彼女が側にいれば2人の未来が大きく変わる。相反する想い。未来が見えない理由も原因すらわかりません。そんな時、私-イクスヴェリアが1度目覚め、眠る前にヴィヴィオと会っていたのを思い出したそうです。」
「そして…彼女は私に持っていた力の大半を注いでくれました。」
「…それが貴様が目覚めた理由か?」

 イクスが頷き答える。その時変わっていた瞳の色が元に戻った。

「はい、本当でしたら目覚めた後で全てを彼女本人から教えて貰えたのでしょうが…彼女は消え、私は彼女から力を分けて貰った時の意識を追いかけこの答えを導きました。」

 少し悲しそうな顔で答える。
 オリヴィエは砕け得ぬ闇事件が解決した後、元の時間に戻ってくるつもりだった。しかし彼女はディアーチェ達の世界で消えてしまった。
 その理由は…

(そうか…ヴィヴィオの怪我か…)

 ユーリを暴走させていたアンブレイカブルダークと永遠結晶エグザミア。
 ディアーチェ達は管制プログラムでエグザミアを封印した。しかしその前にヴィヴィオが重傷を負ってまでアンブレイカブルダークを無力化してくれたから出来た事だ。
 回復のスペシャリストである風の癒し手、シャマルが融合騎とユニゾンして治療したがすぐには治らずヴィヴィオは数日間手を布で吊っていた。
 もしあの傷がもっと重傷で…ヴィヴィオの生死に関わっていたとしたら?
 オリヴィエは最後に残していた力を全て使ったに違いない。そして彼女に別れを告げ消えた…

(我ら…我らのせいではないかっ!!)

 はやてやなのは達を含め何人もが負傷したのは知っていたが犠牲になった者は居ないと思っていた。
 しかし…居たのだ。それも家族を助ける為に…

「ディアーチェ、あなたは…彼女の最後を知っているのですね。教えて貰えませんか?」 
「よかろう…貴様は知らなければならない。あやつの…オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの最後を…」

 そう言って砕け得ぬ闇事件の顛末をイクスに話し始めた。



「少し印象が変わった様ですね」

 なのはやフェイト達と一緒に魔法訓練施設にやってきたヴィヴィオは隣で休憩しているシュテルに言われて振り返った。
 大きな窓を挟んだ向こうではなのはとフェイトが模擬戦をしている。さっき施設の人が来て模範演習をして欲しいと頼まれたからだ。
 管理局のエースオブエースと執務官によるハイレベルな空戦戦技が見られるとあってか、練習に来ていた者全員が外周に離れ2人の攻防を見つめている。
 ヴィヴィオとシュテルもその中に混ざってドリンク片手に休憩しつつ観戦していた。

「ママ達? いつもと一緒だと思うんだけど…」
「いいえ、ヴィヴィオがです。最初に会った時は何を言われても我を通す…抜き身の刃の様な印象を持っていたのですが…」
「抜き身の刃って…私そんなに怖がられてたのかな」

 思わず苦笑する。その様子に彼女も頬を崩す。

「気づきませんでしたか? 私やディアーチェ、レヴィも貴方の事を怖がっていたのですよ。でも、今はその様な感情はありません。今は…そうですね。森の奥でそびえる大きな木の様な印象です。大きな力で地を癒しその影は小鳥や小動物の憩いの場となる…」

 少し頬が赤くなる。

「ありがと、私なんかまだまだだよ。いつもママ達に助けて貰って私だけじゃ何にもできないもん。」
「本当に変わりましたね。昔のヴィヴィオならきっと顔を真っ赤にして照れていたでしょう。ヴィヴィオ、あなたはまだ子供です。私も知識を深めより経験を積んでいかなければならない雛でしかありません。だから1歩ずつ歩んでいけばいいのです。目指す背中はみえているのでしょう?」

 シュテルはそう言って施設内でぶつかる2色の光を見つめる。

「うん…そうだね。」

 ヴィヴィオもそう答えながら2人の空戦へと視線を戻す。そしてそっと右手を左肩にあてた。


~コメント~
 もしヴィヴィオの時間に紫天一家がやってきたら?
 今話はディアーチェにスポットを当ててみました。
 闇の書のマテリアル、紫天の書の王、ロード・ディアーチェはAgainStory2(闇の欠片事件)で闇の書を蘇らせる為に初登場し、AffectStory~刻の移り人~(砕け得ぬ闇事件)とAgainStory3(Movie2ndA's編)と登場しました。
 シュテルが「理→思慮深さ」レヴィが「力→快活」ユーリが「絆→優しさ、思いやり」と紫天一家の性格付けをしています。
 ではディアーチェはどうでしょうか?
 ディアーチェは元となったはやてにも似ていますが「臣下を導く王→家族の大黒柱」だと思っています。

 

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