第02話 「高町家のある1日」

 住宅地の郊外にある公園で、1人の少女が目を瞑って立っている。
 彼女の近くには女性が2人いるだけで周りには人気がない。
 公園一帯が何重もの強力な結界にも包んでいるからだ。
 そして公園中央に居る少女の頭上には彼女の背丈程もある虹色の光球が浮かんでいた。
光球の周りでは何かが微かに煌めき、光球に吸い込まれていく。
 その様子を女性達は静かに見守る。
 やがて光球は徐々に小さくなり霧散した。

「フゥ…どうだった?」

少女は瞼を開き2人を見る。女性の1人がもう1人の方を見ると

「うん、良い感じだけど、まだ魔力を集めきれてないかな」
「う~ん…」
「でも前より凄く良いよ。少しずつ集められるようになろう♪」
「うん♪」

 そう、私高町ヴィヴィオはなのはママとフェイトママに魔法の練習を見て貰っていた。


 元々ヴィヴィオは戦技魔法が嫌いだった。管理局が定期的に開く戦技披露会の観戦に誘われても何か理由を作って逃げていた。
 強くて凄い力なのは知っている。でもそれ以上にその力が誰かを傷つけるのを知っていたし、その力でなのはに怪我させたのがヴィヴィオ自身だったから。

 しかし1年前、彼女に転機が訪れる。
 ベルカ聖王家に与えられた資質、時間と空間を移動する失われた魔法【時空転移】を使う資質。
 ヴィヴィオはあるきっかけでその力に目覚めてしまう。
 ジュエルシード事件・闇の書事件・闇の欠片事件とヴィヴィオの出生が関わったJS事件、そして砕け得ぬ闇事件。時空転移を使いそれらに関わった彼女にはある思いが芽生えていた。
 『本当に助けたいと思った時、言葉だけでは、力が無ければ助けられない時もある』ということ。 戦技魔法を学ぶ者であれば教えられ自ずと知る事になる理。理に気付いたヴィヴィオは積極的に戦技魔法を学ぶ様になった。
 その過程で複製母体オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと会い、自身の資質を更に昇華させていく。しかし彼女の思いに逆らうかの様に幾つもの問題も表面化した。
 それは、ヴィヴィオが彼女のデバイス『レイジングハートセカンド』通称RHdと深く同調してしまった事で想定された以上の魔力を見せるようになり、更に偶然も重なりロストロギア「ジュエルシード」と「レリック」を取り込む事でオーバーSランクの魔力と彼女しか使えない魔法を無効化する刃と砲撃を手にしてしまった。
 一方でヴィヴィオとオリヴィエとの出逢いはヴィヴィオにある考えを導く。
 どうして聖王家の先祖が時空転移という魔法を生み出したのか? 

「最初に時空転移を使った人って凄く優しい人だったんじゃないかなって思うんです。周りの人が悲しくならないように何度も時空転移を使って頑張ったからみんなが聖王として認めて王様になったんじゃないかって。」

 それはヴィヴィオが避け否定していたなのはを傷つけたという過去の過ちと心の闇=聖王ヴィヴィオを受け入れ融合、聖王化を果たした。


 強すぎる力は災いを呼ぶ。しかし災いを払うのもその力である。
 只でさえヴィヴィオはベルカ聖王家直系の1人として見られている。
 既に管理局は治安の為に魔力封印をしよう動き、聖王教会は彼女を祭り上げようと画策している。
このままではヴィヴィオを巡って2つの組織に亀裂が入りかねない。
 それらを危惧したなのはとフェイトはヴィヴィオとRHd、レリックにあえて封印処理を行わず、見よう見まねで覚えた「スターライト」や彼女の得意魔法「クロスファイアシュート」を正しく教える事にした。
 もしヴィヴィオが何かの事件に巻き込まれても、騎士甲冑や聖王化をせずに済むなら計れない力ではなくなると…

「じゃあ次はクロスファイアシュートの…」
【Appointed time is imminent】(約束の時間が迫っています)

 続けて魔法の練習を始めようとした時、レイジングハートが3人に告げる。

「残念、もう時間みたい。今日はこれくらいにしてお家に帰ろう」
(この後何かあったかな?) 

 笑みを浮かべるなのはに対しヴィヴィオとフェイトは顔を見合わせ首を傾げる。
 だがその答えはすぐにわかった。

「遅いですよ。待たせてはいけないと早く来たら誰も待っていないなんて。ここを見つけなければ居留守を使われているのかと思い帰るところでした。」
「シュテル?」

 なのはが結界を解いた直後、公園の入り口で腕を組んだシュテルが立っていた。

「どうしたの? こんな遅くに」
「暫く高町家でお世話になります。」
「……誰が?」
「私がです。」
「……いつ?」
「今日からです。…なのは、驚かせようと話していませんでしたね」

 ヴィヴィオからなのはに視線を移し彼女をジト目で睨む。
 シュテルが何も言わずに泊まりに来るのはおかしい、彼女ならプレシアとなのはかフェイトに伝えている。

「なのは~」
「ママ~」
「あ、えと…その…ごめんなさい。今日から暫くシュテルがお泊まりに来ます。」

 手を合わせて謝る彼女に3人は嘆息した。   
 


 
「シュテル、もしかしてディアーチェ達とケンカしちゃったの?」

 帰路の途中でヴィヴィオがそっとシュテルに聞く。
 その言葉にクスッと笑う。

「いいえ、今日から皆気に…ここの見聞を広める為に散りました。テスタロッサ家にはレヴィが残っています。チェントと遊ぶのが楽しいようです。」
「そうなんだ。」

 気に…見聞を広めるということは何かを知りたいのだろうか?
 でも、異世界とは言えシュテル達は過去で暮らしている。そんな彼女達が今の知識を持ってしまったら未来に影響するのではと気になった。

「ヴィヴィオが考えている様な事を知るつもりはありませんから安心してください。」

 顔に出ていたらしい。

「そ、そうなんだ。」



 ヴィヴィオが家に向かっていた頃、テスタロッサ家ではチェントとレヴィがお絵かきしていた。アリシアが近くでその様子を眺めている。

「ねえさまできた~あ…」

 絵を見せようとしたのはアリシアではなくレヴィ。

「ん? 僕?」

 間違えたのが恥ずかしいのか首をフルフルと振るチェント。  

「チェント、レヴィもねえさまだよ。レヴィも良いよね? 私がオリジナルノオリジナルなんだし♪」
「僕が…ねえさま…お姉ちゃん。…うん! もっちろんOK。僕もねえさまだ♪」
「れう゛ぃも…ねえさま?」

 小さな少女の視線が2人の顔を行き来する。

「よんであげて、レヴィねえさまって」

 その眼がレヴィを映す。

「れう゛ぃ…ねえさま…」
「うん、僕もチェントのねえさまだ」

 そして横に居るアリシアを映す。

「ねえさま」
「はい、チェント」

 2人の姉様に答えられ少女は満面の笑みを浮かべた。
 数日後、レヴィ達が元の世界に戻る時1人だけ姉様と呼ばれた事に他の3人は悔しがるのだがそれはまた別の話。



「なのはママ、フェイトママ、シュテルおやすみなさい~」
「「おやすみ。」」

 シュテルもなのはとフェイトに合わせた。

「おやすみなさい、ヴィヴィオ」

階段を上る音とドアが開き閉じる音が聞こえた。
そして…3人だけになった時。

「シュテル、私達に何か聞きたい事があるんじゃない?」
「私達だけになっちゃったし、今ならお話できるよ。」

 香ばしい芳香のコーヒーがシュテルの前に出される。

「判っていたのですね…私がどうしてここに来たのか。」
「ごめん、何かを知りたいみたいだっては母さんから聞いたんだ。」
「この時間の事や過去の事件…未来の出来事は知っちゃいけないって、きっとシュテルだったら考えると思ってた。あっちの私達にも関係しちゃうしね。だからそれ以外の事だって判っていたけど、それが何なのかは判らなかったんだ。」

 ヴィヴィオとのやりとり以外にプレシアもシュテルが何か気にしているのに気付いていた。

「流石です。暫くお世話になりながら少しずつ聞こうと思っていたのですが…なのは、フェイト…貴方達が管理局に入局したのは貴方達の意志ですか? 貴方達が望んだ未来の形ですか?」
「それって…」
「なのはは…私の世界のなのはは数ヶ月前に管理局の嘱託魔導師から士官候補生になりました。彼女は自分で望んで入局したと言っていましたが、正式に入局すれば管理局の任務が与えられます。そうなると彼女は海鳴での生活とはかけ離れた世界に身を置きます。」

 なのはとフェイトは静かに頷く。

「家族や友人との時間は奪われ失われた時間は元には戻せません…彼女でも無い限り。」
「ですから、いつか再び貴方達と会う機会があれば聞きたいと思っていました。貴方達が入局したのは貴方達の意志ですか? 仮に私達と契約していても関係ないと言えますか?」

 シュテルが聞きたかったのはなのはとフェイトの入局動機だった。
 なのはとフェイトは砕け得ぬ闇事件が解決して直ぐに嘱託魔導師から士官候補生になった。
 なのは達の入局動機にわずかにでもシュテル達が関係しているならそれは彼女の意志ではなくなる。そうであればシュテルは彼女を止めなければならない。
 友人として、家族として。
 2人は少し考えた後、互いの顔を見て少し笑い再びこっちを向く。

「そっか…それは私達にしか聞けないね。シュテルは気にし過ぎてるんだよ。確かにお父さん達やアリサちゃんやすずかちゃん達と離れちゃって寂しい気持ちもあるけど、私達が入局したのは私達の意志だよ。私もフェイトちゃんも…きっとはやてちゃんもそうだと思う。」
「うん、多分あっちの私もレヴィと契約する前からきっと決めていたよ。お兄ちゃん、クロノみたいに執務官になりたいって。」

 その言葉が偽りでないのは2人の顔を見ればわかる。

「……私は信じなければならない家族を疑っていたようですね。」

 もしなのはがシュテルの為にと思っているのであればシュテルに入局の道を残さない。でも彼女はシュテル自身の未来には何も言わなかった。

「それにね…シュテルももう思い出してると思うけどみんなでユーリちゃんを助けた時、もう1人ヴィヴィオが来たでしょ。」
「ええ、彼女には2度会っています。」
「きっとあのヴィヴィオはシュテルの世界のヴィヴィオだったんじゃないかな。」
「ユーノが少し前に教えてくれたんだ。ヴィヴィオがもし過去に行って私達の未来を変えちゃったら、その時間にはヴィヴィオは居なくなっているかもし居ても違う所に居るよね。だからあの時ヴィヴィオが来たって事はきっとヴィヴィオの居る世界には私達も一緒に暮らしてるんだと思う。2人ともそっくりな騎士甲冑なのも含めてね。」

 昨年末の…闇の欠片事件の時を思い出す。突然現れた彼女はシュテル達3人を敵を見る目ではなくまるで懐かしい友達に会った様な優しい眼差しだった。そして彼女が来ていたジャケットは先日見たフェイトのバリアジャケットにそっくりだった。
 そして砕け得ぬ闇事件で現れた彼女が纏っていたのはここのヴィヴィオが纏う騎士甲冑に似ていた。
 2つの事件で現れた彼女が同一人物なら…彼女の近くになのはとフェイトが居るのは間違いない。そしてその世界にはシュテル達も居る。

(…そうですか…決められた道だったのですね…)

 自然と笑みが溢れていた。

「答えは見つかったみたいだし、明日からどうする?」
「ディアーチェやユーリも出ていますし、暫くお世話になろうかと。出来ればその間になのはとの対戦を望みます。世界は違いますがリベンジです」
「手加減しないからね♪」
「私もです。」

 深夜の高町家に小さな火花が散っていた。
 
~コメント~
 もしヴィヴィオの世界に紫天一家がやってきたら?
 AgainStory3(Movie2ndA's編)の後日談です。まず最初はシュテルとレヴィです。
 本章ではヴィヴィオと紫天一家を主に取り上げて行く予定です。
 今話の元話は某アニメ誌のCDです。更にもしシュテルがなのはと魔力を共有していたら、なのはが自分を守る為に管理局に入ったのではないかと考えるでしょう。その答えを聞くにはシュテルが居ない世界のなのは(大人)に聞くのが1番です。
 次回は…誰に白羽の矢が当たるのでしょうか?
 

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