第01話「真実を知るとき」

「こんにちは、はやて」
「フェイトちゃん」

 はやてが病室のベッドで本を読んでいるとドアがノックされた後フェイトが入ってきた。

「入院って聞いたけれど、大丈夫?」

 心配そうにこっちを見る彼女。どうも入院したという話は聞いていても事情までは聞いていないらしい。

「心配してくれてありがとな。入院って言うても検査入院やしみんな揃って私を休ませようってしただけなんよ。」
「そ…そうなんだ。良かった…私、てっきりはやてがなのはの時みたいに怪我しちゃったんだって思って…」
 余程心配してくれたのかフェイトは瞳を潤ませる。

「ありがとう。フェイトちゃん1人で来たん?」
「なのはは今診察室。来たついでに先生の所に寄ってくるって。」

 彼女が自ら診察を受けるのは珍しい。
 でも少し考えて理由に気づく。
 彼女ははやてが誰に入院させられたのか知ったのだろう。そしてその矛先が自身に向かう前に少しでも診察を受けておいた方がいいと考えたに違いない。
 はやてを無理矢理入院させたのは彼女への牽制も含んでいたのだろう。

(病院嫌いのなのはちゃんを自発的に診察受けに来させるなんて…シャマルもやるな)
「それで…どうなの?」
「ちょっと疲れが出た位で別になんともないよ。日常生活にも影響ないって言われてるけど何処にも行けへんから久しぶりに本の虫になろうかなってな。」

 家に帰ってもここに放り込んだ彼女が居るのだからここは従うしかない。ベッドの横に積まれた本の山をポンと叩く。

「じゃあ、これ…」

 バッグから取り出したのは1枚のディスク。

「広報部の局員さんから預かったんだ。入院したって聞いて、もし時間を余しているならどうぞって。撮影の舞台裏を撮ってたんだって。」
「へぇ、それは面白そうや、今夜にでも見せて貰うよ。」

 撮影と言えば、ヴィヴィオが連れてきたディアーチェ達を思い出す。

「フェイトちゃん…ディアーチェはどうしたか知ってる?」
「朝、ヴィヴィオがあっちに行くって言っていたから…もう帰っちゃったんじゃないかな?」

 闇の書のマテリアルであり、異世界のはやてを基にした存在。
 彼女達から見ればここは異世界でも未来になる。余計な物を見せたら彼女達の未来にも影響する。でも…せめてあっちのはやてや家族達へおみやげを持たせたかったし

「そうか…ちゃんと話したかったんやけどな。」

 少し残念そうに言った時

「子鴉は我と何を話したかったのだ?」

 顔を見せたのは話題にしていたディアーチェだった。フェイトも驚いている。

「……」
「…ディアーチェ…なんで…?」
「子鴉が入院したと聞いてわざわざ見舞いに来てやったというのに…これはプレシアからだ。」

 ツカツカとはやての前まで来て箱包みを渡す。両手で受け取る

「あ、ああ…ありがとう…、でも…もう子鴉とちゃうよ。」

 そう言った次の瞬間室内にパァンという音が響いた。彼女が小さな手で頬と叩いたのだ。
 部屋が静かな緊張に包まれる。
 あまりに突然の事でフェイトは勿論、はやて自身も何が起きたのか理解出来なかった。
 どうして叩かれたのかそれすらも判らない。
 ただ1つ判っていたのは叩いた彼女が怒りの眼差しではやてを睨んでいる事だけ。 

「貴様なぞ子鴉で十分だ、貴様なぞはやてにも劣るわ。」
「………」
「何故過去を望む? 何故未来を見ようとせん?」
「私は…過去なんか…」
「っ!…望まぬなら何故あやつが出てきた? 貴様のせいで皆がどれ程…」

 ディアーチェの瞳が一瞬だけ苦悶する。

「今の貴様に言っても仕方あるまい。我らはしばしここに留まる。話したい事があるなら傷を癒した後で聞いてやる。」

 そう言うと現れた時と同様にスタスタと部屋を出て行ってしまった。
 残ったのはプレシアからの見舞いと頬の痛み…そして彼女の言葉

「…はやて、頬冷やす?」
「ううん、ええよ。それよりプレシアさんからやて、何やろうな」

 包みを開けてみると美味しそうなクッキーが箱いっぱいに入っていた。ミッドチルダで見かける物ではないから彼女の手作りだろう。

「一緒に食べよ。」
「うん、私飲み物買ってくる。」

 気まずい雰囲気を察してか彼女はそう言って部屋から出て行った。


   
「はぁ…」

 なのはとフェイトが帰ってからはやてはため息をつく。
 ディアーチェから叩かれたのを払拭させる為か色々話してくれた。普段口数が多くない彼女がよく話すので後から来たなのはは終始驚いていたし、はやて自身も気を遣わせてしまったと申し訳なさが残ってしまった。

(どうして…ってそうでもないか…)

 叩かれた時は判らなかったが今なら幾つか思い当たる。
 ディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリがこっちに来たという事は少なからず事情を家族に伝えている。ディアーチェは八神家の家族なのだから自ら決めた「隠し事をしない」という約束においてはやてやリインフォースにも伝えたに違いない。
 はやてもそうだがリインフォースが状況を伝え聞いて異世界の事とは言え自分が関係していると知れば悲しい気持ちになっただろう。

「未来を見る…か…」

 ディアーチェはその事を怒っていた。
 気晴らしに本を読もうかとも思うがそんな気分にもなれない。ふとそんな時、フェイトが置いていったディスクを思い出す。
 広報部局員から預けられたと言っていたが何が入っているのか?
 何が入っていても気晴らし位にはなるだろう。そう思い端末を出してディスクを入れた。



「フフッ、そうなん?…あ、もうこんな時間や」
『ホントだ、じゃあそろそろ』
「今度は私から連絡するな」

 ヴィヴィオが電話を切ってすぐ目の前に闇の書が現れる。

「ん、闇の書、おかえり」
「あれ? シャマルと一緒やなかったっけ? …まぁええか。」
「お鍋の支度出来てるのにみんな帰ってこんくてな、すずかちゃんとお話してたんよ」

 寂しそうに呟いた彼女を闇の書が慰めるかの様に彼女にすり寄る。
 どうやら記録映像の撮影風景を別のカメラで撮っていたらしい。

「アハっ、平気やで。少しくらい離れててもうちら家族や。寂しいことないよ。」

 そんな闇の書の気持ちを知って、彼女はそのまま大事そうに手にとって膝の上に乗せる。

「そやけどあれやな…闇の書と2人きりやとなんや昔を思い出すな…」

そのまま車椅子を進め庭に出て夜空を眺めるのだった。

『カーット、OKです。』


「ぷはっ、お疲れ様です。」
「あ~暑かった!」

 闇の書が開いて顔を出したのはリインとアギト。2人は闇の書として参加していたのだ。
 何か飲みながら見ていたら思わず吹き出したであろう。

 そんな感じで撮影の裏舞台が何シーンにも渡って撮られていた。
 はやて自身がリインフォースとして演じ、ヴィヴィオの演じるはやてと夢の中で会っているシーン…
 そして幾らかシーンが続いた後、画面が暗転する。

 もうおしまいかと思いディスクを取りだそうとした時、パッと画面が変わり撮影で使われた八神邸が映り、横から1人の男性が現れた。
 はやてに記録映像の参加を依頼しに来た広報部局員だ。

『八神はやて司令、撮影の後入院されたと聞き私達も心配しております。』
『このディスクは貴方の身に起きた事故…事件の真実についてお伝えする為、貴方のご友人に託しました。』
「……」

 彼の口から話されたのは事件の真実だった。
 彼の父が闇の書事件を担当し、クライド・ハラオウンと共に犠牲になっていた事。広報部という安全な部署を希望した理由、そして彼自身が八神家一堂に対しどんな気持ちを抱いていたのか…
 ジュエルシード事件の映像化に続けて闇の書事件映像化の命令を受けた時、そして彼がはやての部屋に来た時、どれ程辛かったかを…
 はやてが彼と初めて会った時に感じた距離感はこれだったのだ。

『聡明な貴方ならもう気づかれたでしょう。私が貴方の衣装にジュエルシードを入れました。ですが暴走させるのが狙いではありません。貴方がジュエルシードを見つければ適切な封印と管理をする為に撮影から一時離れざるえないと考えたからです。まさか…あんな事になるなんて…いえ、心の何処で何か起こるのを期待していたのでしょう。』
『罪滅ぼしではありませんが、貴方にこのディスクをお預けします。証拠として報告すれば、私は犯罪者として拘束されるでしょう。』
『最後に…このディスク以外は全て削除された物です。貴方は知っておくべきだと思い残します。』



 再び画面は暗転し次に現れたのは薄暗闇の世界だった。

「なのはちゃん、フェイトちゃんと…リインフォース」
『はやてっ!! お願い答えて』

 フェイトがリインフォースに対し叫んでいる。

「私が…リインフォースを蘇らせた時か…」

 フェイトの死角からブラッディダガーが襲い来る。当たるかと思った瞬間、彼女は紙一重で避け違う方向を見た。

『姉さん、チェントどうして!? なのはっ!!』
『フェイトちゃん行ってっ!!』

 姉さん…アリシアが近くにいるらしい

『でも…!!』

 リインフォースはその一瞬の隙を突いてフェイトに迫る。だがその行動は直ぐに阻まれる。
2人の間に虹色の光球が現れたのだ。そして

『レイジングハート、セーットアーップ!!』

 声と共に6個の魔法弾が飛び出し

『クロスファイアァアアシュートッ!』

リインフォースめがけて放たれると光球の中からヴィヴィオが飛び出てきた。

『ヴィヴィオ…戻りなさいっ』
『嫌っ! 私もはやてさんを助けたい。なのはママ、フェイトママ、周りのみんなを離れさせて。巻き込んじゃう!』
『ヴィヴィオ、私達がはやてを助けるから。』
『嫌っ!!』
『邪魔だ、2人とも下がれ。』
『なのは、ここは私達にお任せ下さい。』
『えっ誰?…シュテル!?』
『フェイト、ひっさしぶり~♪』
『私を知ってる?…レヴィ!?』

 続けて現れたのはディアーチェ達。はやては固唾を飲んで見守る。
 ヴィヴィオが騎士甲冑を纏いリインフォースに単身突撃し、ディアーチェ達が2人を結界で包む。
包んだ瞬間ノイズが走るが幾つかのカメラが2人を追いかけていた。

『聖王の血族…ヴィヴィオ…』
『闇の書…リインフォースさん、私は…あなたを倒さなくちゃいけない。それが私の…あなたとあの人の願いだから』
『レリック封印解除…ユニゾンインッ!!』
「使ったんか…あの力を…」

 呟きながらその映像に飲み込まれていった。
 そしてその中で信じられないものを目にした。
 リインフォースの砲撃魔法をまともに受けてしまったヴィヴィオは岩塊を何本も貫き倒れる。追い討ちをかけるリインフォースによって彼女の体は岩盤にめり込んでいた。
 だが次の瞬間、ヴィヴィオが白い光を発しながら立ち上がる。
 その姿はオリヴィエが纏っていた甲冑ではなく聖王教会で見た聖王が纏う戦装束そのもの…しかしその姿は一瞬でヴィヴィオが目覚めると騎士甲冑に戻っていた。

「…ウソやろ…」

 その後はなのはとフェイトから聞いた通りだった。
 シグナム達が参入し、ヴィヴィオとの激闘が再び繰り広げられ防衛システムの複合シールドが全て壊された後リインフォースがスターライトブレイカーの直撃を受けていた。
 そして意識を失ったはやてを突然現れたオリヴィエが支え、チェントから何かを受け取って消える。そこで映像が終わりモニタは暗転した。

「………」

 はやては直ぐにディスクを取り出すことが出来なかった。
 聞いていた以上に緊迫した状況だった事もさながら、ヴィヴィオがあの力を使ったということはセンサーを振り切る魔力を見られてしまったということ。しかし広報部の彼が言っていた様にこのディスク以外には残していないというのはクロノとリンディが既に手を打ったのだろう。
 そして…あの甲冑姿は…

「まだ…あるんか…」

 もしこの映像を聖王教会の誰かの目に留まれば間違いなくベルカ聖王として祭り上げられる。
何か手を考えておかなければならない。
 ゆっくり本の虫になっていられないと考えるのであった。

~コメント~
更新が遅くなってすみません。
次回から毎週更新する予定です。
今話はAgainStory3のアフターストーリーになります。
 

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