第06話「葛藤する少女」

「じゃあ私、無限書庫に行かなきゃいけないからまた明日ね~」
「うん、ごきげんよう」
「ごきげんよ~」

 教室を出て行くヴィヴィオを目で追いかける。出て行った瞬間「ハァ…」とため息を漏らした。

「大丈夫? 授業終わってから調子悪そうだけど…」
「先生のところ、行く?」

コロナとリオが心配そうに声をかけてきてくれた。

「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。私も行くところあるからまた明日、ごきげんよう」

 そう言うとアリシアも彼女の後を追うように鞄を肩にかけて小走りで教室を出た。
 彼女を追うのではなく1人で考えたかったから。



『もっと…うまく使えなくちゃいけないんだ…オリヴィエさんみたいに…』

 ヴィヴィオの様子が何か変だと気づいたのは1週間くらい前。
 闇の書事件の撮影が原因で、あの事…リインフォースとはやてさんの事が引っかかっているんだと思ってた。
 きっとそれもある…でもそれだけじゃない。

『みんなを包む位優しい人が王様になったらきっと聖王様って呼んじゃうかもね』

 ヴィヴィオが私に言った…あれがきっかけになったんじゃ?
 外に出て振り返る。見えるのはいつも通っているStヒルデ学院。



 私が思っているよりヴィヴィオはずっと微妙な立場にいる。
 フェイトやなのはさんが魔導師ランクの試験を受けさせてSランクを取らせたのも、ヴィヴィオが先生にベルカの騎士だって伝えたのも…
 撮影ではやてさんがリインフォースさんを呼び出して…レリックを使って聖王になった姿をみんなに見られた。
 ヴィヴィオが望めば聖王教会は直ぐに受け入れる…現代に蘇った聖王として。
 でもそれじゃ一緒に遊んだり買い物したり授業を受ける事はもう出来ない。
 ヴィヴィオが本当に…心から望んでそうなるなら私は止めない。でも…


レールトレインに乗って流れる風景を眺めながら考えを巡らせる。


 どうしてヴィヴィオはそう考えたの?
 リインフォースさんの事なら今考えても何か良い方法があったって思えない。
 はやてさんがジュエルシードを発動させる前に回収出来てもはやてさんやヴィータさんの心の中にはリインフォースさんが居るのは変わらない。
 あの時ジュエルシードを先に回収、封印しても…いつかはやてさんがジュエルシードに触れる機会があったらその時発動する可能性が残っちゃう。
 でもあんな事があった後ならはやてさんもあえて触れる事はしない。
 もし…ヴィヴィオがその方法を見つけていたら?
 その可能性は限りなく少ない…でも無限書庫で何かヒントを見つけていたら…
 
 脳裏に少し前にやってきた彼女が現れる。
 
 オリヴィエさん…彼女が来た時ヴィヴィオは何かの魔法を使って彼女の時間に行こうとした。
 あの時私が気づいてなかったら…行ったかも知れない。
今度もあんな風に考えて…聖王になろうって思っちゃってたら…

「私が言っちゃって…思ってるんだったら…私が止めなくちゃ!」
『私にはアリシアが居るって知って私の力を見たくなったんじゃないかな。レリックを使って聖王になってもその力を間違って使っても止めてくれる、間違ってるって言ってくれる親友がいる。だから私がレリックを持っても大丈夫だってオリヴィエさんは考えたんじゃないかな…』

 ヴィヴィオが教えてくれた、オリヴィエさんが思っている様に私が止めなくちゃいけない。
 その為には……私が…ヴィヴィオの前に立たなきゃ。でも…私だけじゃ…


 
「ねえさま~♪」

 妹が呼ぶ声を聞こえ我に返った。
 考えている間に研究所に着いていたらしい。駆け寄ってくる彼女を受け止め

「ただいま、チェント」
「ねえさまあのねあのね、ぶーんっていっぱいあそんだの」

 『ぶーん』というのが何か判らなかったけれど、彼女が投げる仕草をして昨夜レヴィに渡したフライングディスクで遊んだのだろう。

「凄いね、いっぱい飛んだ?」
「うん♪」

 満面の笑顔で答える彼女。その顔を見て

(そうだ…ヴィヴィオが聖王様を目指したら…チェントも…)

 2人が同じ聖骸布から生まれているのは教会も知っている。ヴィヴィオが聖王を目指せばチェントが無関係で済むはずがない。
 彼女をそんな事に巻き込む訳にはいかない。 

「…私が止めなきゃ…」
「?」
「何でもないよ。チェント、お姉ちゃんも一緒に遊んでいい?」
「うん。レヴィねえさま~」

 そう言って研究所の中へ走っていった。

「レヴィ…ねえさまか…」

 プレシアとアリシアでさえ心を許してくれるまで数日かかったのに彼女は1日で仲良くなった。 そんな彼女を羨ましく思いながら…レヴィやシュテル、ディアーチェ、ユーリ…の力を借りる事が出来たら止められるんじゃないかと決意を新たにした。
 


「ヤレヤレ…まさかこっちにとぱっちりが来るとはな…」

 陸上警備隊第108部隊、隊長室でゲンヤ・ナカジマは頭を搔いて唸っていた。
 そんな時端末が鳴る。

『八神司令から通信です』
「おぅ、繋いでくれ」

 モニタ向こうに現れた彼女に対しニヤリと笑みを浮かべる。

「入院中とは聞いちゃいたが元気そうじゃねえか。民間人になった感想はどうだい?」
『ええ、何処かの誰かさんのおかげで病室で本の虫にならしてもろうてます。その影響でそちらが色々大変ちゃうかなと思いまして。』

 笑みを返すはやて。その顔と言葉でゲンヤはため息をついた。

「やっぱりおめえの仕業かい。数日前からうちの事務にバカみたいな量の書類が届いてるよ。おかげで事務官が悲鳴を上げてる。新造艦の運用計画なんて誰が処理出来るってんだ。」
『すみません、本局や教会に回す分はレティ提督と騎士カリムにお願いしたんですが、地上本部に関わる処理は全部そちらに送る様に頼んだんです。私をここに放り込んで1民間人にしてくれた人に仕事を押しつけるしかないですから。』
「ヤレヤレ…飛んだとぱっちりだ。」

 思わず呟く。
 1週間程前、出向で108部隊に来ているザフィーラからはやてが休暇を取らず無理をしているから休暇を取らせるのに協力して欲しいと頼まれた。
 本局から闇の書が復活しかけたという話も漏れ聞こえていたし、管理局と聖王教会合同で送り出したマリアージュ討伐の巡教団編成計画の責任者に祭り上げた手前、彼女が休みを取らず仕事の鬼と化しているのはゲンヤにも責任の一端がある。
 その時は2つ返事で答え、更に彼女の司令と局員資格の停止に手を貸した。そして彼女が民間人となった翌日から部隊には多数の指示書、報告書が舞い込んできた。
 まさかとぱっちりがこんな形で返ってくるとは予想もしていなかったゲンヤは困惑し悲鳴をあげる事務官を励まし労いながら嘆息するしかなかった。

『それでですね、少し相談がありまして…私の権限を少し戻して貰えないかと…司令権限は兎も角局員の権限が剥奪されてると色々と不便もありまして…』
「おめえさん、何するつもりだ?」
『ちょっと調べたい事があるんです。協力して貰えたらうちの優秀な司令補貸しますよ。』

 民間人になった弊害は幾つかある。今の彼女は病院の民間通信端末を使ってここに繋いでいる。局員権限が戻れば自分の端末も使えるし、彼女のデバイスでもあるリインフォースⅡも動ける。
 彼女の事務処理能力の高さを知っているゲンヤにとって願ってもない条件だ。

「よし判った。全権の回復までは無理だが地上本部限定で復帰申請を出して昼迄には局員権限戻しとくよう言っとく。それで…体の方は大丈夫なんだろうな?」
『ありがとうございます。何でしたら私も事務処理手伝いますよ。1局員として』
「勘弁してくれ…」

 大量の事務処理を送りつけて来た張本人にその仕事をさせたら何の為に動いたのか判らなくなる。にこやかに答える彼女に苦笑するゲンヤだった。



(よし…これで調べられる。)

 ゲンヤとの通信を切ったはやては続けて八神家に通信を繋いだ。
 局員資格を停止された時点ではやて同様に時間を持て余している者が1人いる。
 はやてのデバイス、リインだ。局員資格停止のとぱっちりを受けてシグナム達の手伝いも出来ず、又はやての側に居ることも出来ず家の中で待機するしかない。

『はい、八神家です。はやてちゃん!!』
「リイン元気にしてた?」
『はいです♪』

 思った通り家には彼女しか居ない。

「リイン、ナカジマ3佐に局員資格だけ戻してもろたよ。それでな、108部隊に手伝いにいってくれるか? 地上本部のややこしいもんも行ってるみたいやし。」
『はいです。』
「それとな…私からの通信を全部繋げる様にしといてな」
『はいです…?』

 通信が切れた後、はやてはギュッと握り拳を作った。
 ミッド地上本部限定でも局員資格が戻れば地上本部の資料閲覧が出来る。
 そして何よりリインとの通信が戻るから彼女を介して本局との通信も可能になる。
これで無限書庫や彼女に繋ぐ事ができる。

「あの…」
「あっ、すみません。今どきますんで」

 病院の連絡用端末を使っているのを忘れ、慌てて後ろで待っている人に場所を譲った。



 それから少し時間が経って、夜。
 テスタロッサ家ではいつもと変わらない家族の団らんが広がっていた。
 チェントがレヴィやアリシアと遊んだ事を楽しそうに話している。それを微笑んで聞くプレシアとレヴィ。そんな中でアリシアも話を聞いていたがある機会を待つ。

「あら、もうこんな時間。アリシア、チェントお風呂に…」
「ママ、レヴィ、チェント…お願いがあります。ヴィヴィオとの模擬戦で私が勝つ方法を一緒に考えて下さい。」 

 話が終わり食器を片付けようとした時、彼女に向かって言った。 
  
  
~コメント~
 もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら?
AgainStory3はこんなコンセプトで書きました。ASはその続編というか後日談的な話です。
 今章の主人公はアリシアです。
 アリシアの事故死はPT事件に繋がっていてなのはシリーズの発端とも言えるものです。
ASシリーズの彼女はヴィヴィオの時空転移によってプレシアと共に救出されていて、2人ともヴィヴィオに助けられた事を感謝しています。
 

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