「っと…わわっ!」
「!?」
「キャッ!」
ヴィヴィオが降り立ったのは高町家リビングだった。
ソファーの真上に落ちてきたのをフェイトがキャッチする。
「…っと、おかえりなさいヴィヴィオ」
「あ、ありがと。フェイトママ」
「どうしたの~? ! おかえりヴィヴィオ。」
パタパタとスリッパを鳴らせてやってきたなのはに
「ただいま、なのはママ」
笑顔で答える。2人の顔を見て帰って来たんだという実感がこみ上げてきた。
「ヴィヴィオ?」
聖王医療院を出て住んでいたマンションへとむかう途中で大人ヴィヴィオ達と会った。
「部屋の片付けも終わってこれで帰ろうかなって…」
「そう…じゃあここでお別れだね」
「うん……」
これ以上お互いが相手の世界に干渉するのは止めた方がいい。
「ヴィヴィオ、アリシア…何度も言ったけど、本当に…助けてくれてありがとう。こんな言葉じゃ足りないくらい…それと…巻き込んじゃってごめん。私達だけじゃ事件を止められなかった。」
病室のドアを開けた瞬間、空気が張り詰めたのにヴィヴィオはすぐに気づいた。その原因は中に居たはやてとフェイト…2人とも私達を睨んでいる。
「ヴィヴィオ…」
「…何の用? ってお見舞いなんやろ。入って来たら?」
言葉の節々に棘がある。
「お邪魔します…」
そう言ってヴィヴィオはアリシアとなのはの病室に入ってドアを閉めた。
「……ん…ううん…」
「なのは?…」
名前を呼ばれてなのはは瞼を開く、柔らかな日差しが差し込んで来る。
「フェイト…ちゃん?」
目の前に居たのはフェイト、バリアジャケットでも管理局の制服でも私服でもなくパジャマ姿…、ここは家なのか?
「おはよう、なのは。」
「………ここ…どこ? 家?」
「流石にきついか…」
ヴィヴィオとなのはの戦闘をゆりかごの中で見ていた大人ヴィヴィオは立ち上がる。
「アリシア、チェント、コアリンクまだ使える?」
「ヴィヴィオ、無茶だよっ!」
チェントがその意味に即座に気づいて叫んだ。
「…出るつもりなら姉として使わせる訳にはいかないわ。今リンクしちゃったらヴィヴィオの魔力ダメージがチェントに跳ね返ってくる。その怪我でまともに戦えると思ってる?」
「ディバィイインバスターッ!」
「ハアアッ!!」
なのはを追随している時に放たれた砲撃魔法を魔力を集めた拳で思いっきり殴って方向を変えそのまま彼女に迫る。近づいたところでパンチとキックを連続で繰り出すが全部デバイスの杖部分で受け流された。同時に数カ所に拘束魔法を仕掛けられるが文字通り力業で拘束を壊して再び迫る。
魔法戦闘には使える魔法の総容量よりも大切な事が幾つもある。状況毎に的確な魔法を選べるバリエーションとその戦術、冷静な状況判断、そしてそれらを繰り返し行う事で培われる戦闘経験。
「っと、着地♪」
「ここが船の中ですか。凄く広いですね~。」
虹の光球アリシアの近くに現れその中から2人がトンっと足音を鳴らして降りた。
「アミティエさんとキリエさん? ブレイブデュエルの魔法がこっちでリアルに使えちゃうんですね」
アリシアが聞くと2人は首を傾げ
「クロスファイアァアアシュートッ!」
セイクリッドクラスターと混ぜて放ったアクセルシューターを高速回転させなのはの前後左右から砲撃魔法に切り替える。なのははそれを上昇して避けたがそこにはヴィヴィオは猛スピードで突入していた。
両拳に集めた魔力を直接ぶつけようとするが、なのはは杖に変えたレイジングハートで上手く捌かれ直接打撃を与えられない。
「だったら!」
零距離でセイクリッドクラスターを放つ。
「!?」
「!?」
「何っ! 何が起きた?」
ヴォルフラムの艦橋でどよめきが起きた。中継されていた映像が次々に消えてしまったのだ。
『フォートレスからの映像停止、反応も消えました。』
ミッドチルダに居るシャーリーから通信が届く。
「シャーリー、突入したメンバーとの通信は?」
『シグナム空尉の反応はありますが動きはありません。レヴァンティンは停止、フェイトさん、ザフィーラ・教導隊メンバーは交戦中らしく通信できません。』
(AECが全部壊れた?)
【避けてっ!!】
声が聞こえた時、それが私に対して言われているのだと気づけなかった。
私自身が時間軸同士をぶつけてしまうかも知れないなんて…その時まで思っていなかったから。
「ヴィヴィオっ!」
「!!」
ドンっと突き飛ばされた直後、我に返ると同時に何かの衝撃が襲った。
「…え…私?…!」
目の前にあったのは大きな背中。それよりも
「ったくもう、何でここまでっ!」
大人ヴィヴィオはシグナムと戦いながら悪態をつく。
彼女がそう言うのも仕方ないと言えば仕方なかった。
小さいヴィヴィオは聞いてなかったデアボリック・エミッションを使い、更に過去に行った時に見た姉妹が現れ、そして地上で待っている筈のアリシアが転移してフェイトと戦い始めた
これだけ周りが騒がしいと集中出来ない。
『ヴィヴィオ、シグナムさんに集中して。』
アリシアから通信が届く。言われなくても判ってる…判っているけれど…
「う、う…ん…」
「ヴィータちゃん?」
「…シャマル?」
瞼を開くとそこには家族の顔があった。
体を起こそうとすると節々に痛みが走る。ジャケットは消え相棒も待機状態に戻っていた。
「ここは…ヴォルフラムか? じゃあミッドチルダに?」
「ううん、フッケバインの攻撃でヴォルフラムは飛行不能。負傷者を診ていた時に突然ベッドの上にヴィータちゃんが落ちてきたのよ。ミッドチルダに居た筈よね?」
徐々に記憶が蘇る。
『フォートレスからの映像転送します。』
八神はやてがヴォルフラムの艦橋で砂嵐が流れるメインモニタを睨んでいた時、シャーリーから連絡が届いた。シャーリーは今朝まで特務6課に居たが、聖王のゆりかごの報告を受けた直後フェイトの支援をして貰う為に一足先にミッドチルダ地上本部に向かわせた。
デアボリック・エミッションの効果の1つ、通信機器等への遮断効果によって聖王のゆりかご周囲の状況が全く判らなくなってしまい何か手はと考えていた直後に彼女は対AMF装備フォートレスにあるセンサーと繋いで内部の映像をこっちに送ったのだ。
短時間でそこまで頭が回るのは流石だと思いながら映るのを待つ。
「映像データ来ます。」
『風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。レイジングハート セットアップ!』
「…なのはママ、シグナムさん…」
唇をギュッと噛み締める。
「ヴィヴィオ、後に首都航空隊と教導隊が来てる。2人とも止めないとAMFで守ってるゆりかごも簡単に制圧される。私が母さんを止めるからシグナムさんをお願い」
大人ヴィヴィオから言われて首を横に振る。
「ううん、私がママを止める。私が言い出した事だからしっかり受け止めたいの、お願い」
「…わかった。無理だけはしないでね」
そう言って大人ヴィヴィオは離れていった。
「うん…ヴィヴィオ、ごめん」
呟くと桜色の光に向かって真っ直ぐ降りていった。
「お姉ちゃん、なのはさん達の後から首都航空隊が来てる。それに、ミッド地上部隊とザフィーラさんもっ来た…。」
イクスに聖王のゆりかごの操縦を任せた為、チェントは再び周囲の警戒に戻っていた。大人アリシアは聞いて即座に新しいモニタを出してこっちに向かってくる2つの集団を見る。
(首都航空隊と…地上部隊じゃない! あれは…戦技教導隊!!。)
「聞こえるっ? 別の2集団がこっちに向かってくる。首都航空隊と教導隊、両方とも止めないと対AMF装備持ってる。ザフィーラさんも来たけど、ヴォルフラムは来てない。」
アリシア達が異世界に行ってから数日が経ったある日、カリム・グラシアは執務室で来客をもてなしていた。
「事情は承知しました。これからは先に話して貰えると助かります。」
「はい、申し訳ありませんでした。」
「いえ、そこまで畏まらないでください。あなたはあなたしか出来ない事をしただけです。私達…いいえ聖王教会も支援は惜しみません。」
「ありがとうございます。騎士カリム」
今朝、彼女-プレシア・テスタロッサから研究所の再開とこの2週間連絡が取れなかった理由を話しに来たいと連絡があった。
管理外世界で以前世話になった人の所に行っていたらしい。
「わかっているな?」
「判ってます。私達の任務は聖王のゆりかごの都市部侵入阻止。」
シグナムに念を押されてなのはは頷く。
ヴォルフラムの転移ゲートからミッドチルダ地上本部を経由しそのまま上空へと飛んだ。
JS事件と違って首都クラナガンを含めミッドチルダに被害は出ていない。でも先のアリシア・テスタロッサの放送はなのは達も驚かされたがこれで何が理由かがはっきりした。
今の自分達ではゆりかごを落とすことは出来ない。
出来るのは進行を止める事だけ…
それでももう1度、話をする機会はある筈。
「アリシアからメッセージが来てる『作戦成功、学院医務室でお休み中 AT』だって。」
大人アリシアから聞いたヴィヴィオはホッと息をつきながらも医務室に居ると言うことは何かしたのだろう。と言っても彼女が無事で良かったと思う。
「そのまま次の作戦に移るって。」
ここからが作戦の本番だ。
その日の朝、ミッドチルダの高町家ではヴィヴィオが朝のトレーニングを終えて着替えStヒルデ学院に登校した。朝の最初の授業も終わり、次の授業の用意をしていた時。シスターが慌てて駆け込んできて
「皆さん、これからの授業は自習です。決して外に出ないでください。」
それだけ言うと彼女は部屋を出て行った。
「なに?」
ヴィヴィオはリオやコロナと顔を見合わせ廊下を覗くとさっきの彼女が1部屋ずつ回っている。
子供ヴィヴィオ達が寝静まった深夜、ヴィヴィオはアリシアと一緒にチェント達が持ち帰った資料を見ていた。
話の様子からだけど、なのは達はラプターの危うさを知っていた気がする。それでも何故進めようとしているのかを考えていた。
「ねぇ…どうしてラプターをそこまでして作ろうとしてるのかな?」
アリシアに聞く。
「そうね~あくまで私の考えだけどいい?こっちの管理局は人材不足が本当に深刻で乗り気で無くても参加せざる得ない状況に追い込まれちゃってるのかも。」