第11話「エルトリアの未来」
- リリカルなのは AgainStory4 > 第2章 刻を超えた禁忌
- by ima
- 2021.07.11 Sunday 12:05
「すぐに行くつもりだったからちょっとびっくりしちゃった。」
「ママの言うとおりだと思うよ。『ヴィヴィオの魔力回復が計画の鍵』なんだから。途中で魔力切れなんて起こしたら大変でしょ。」
「それはそうなんだけど…」
「まぁまぁそんなに急いでもこちらも準備しなくちゃいけませんし、そうですよね所長」
「ああ、ついでに色々見て貰う時間も出来たからね。」
私とアリシアはイリスの運転する車に乗っていた。
助手席にはフィル、後部座席に私達とユーリが乗っている。
舗装されていない道だけれど、車の性能が良いのか車酔いするほど揺れていなかった。
「ママの言うとおりだと思うよ。『ヴィヴィオの魔力回復が計画の鍵』なんだから。途中で魔力切れなんて起こしたら大変でしょ。」
「それはそうなんだけど…」
「まぁまぁそんなに急いでもこちらも準備しなくちゃいけませんし、そうですよね所長」
「ああ、ついでに色々見て貰う時間も出来たからね。」
私とアリシアはイリスの運転する車に乗っていた。
助手席にはフィル、後部座席に私達とユーリが乗っている。
舗装されていない道だけれど、車の性能が良いのか車酔いするほど揺れていなかった。
流れていく周囲の風景に目を移す。青々とした葉を茂らせた木々が森を作っていて車が走った跡以外はほぼ草が覆っている。
前に来たときより何か…力強くなってる気がする。
こっちの世界では初夏を迎えた辺りなのだろうか…。
「この辺りは定期的に地質調査をするくらいで殆ど手を加えてないです。もうすっかり地面深くに根付いています。」
「1部の地域に水の届き辛いからそこを重点的に手を入れているが、他は皆同じ状態だよ。正常な時のデータを集めておかないと何かあった時に異変に気づかないからね。」
ユーリとフィルが私達に言うと遠くの丘で人影が見える。2~3人居るだろうか?
フィルが手を挙げて合図すると人影も手を振った。
「丁度このエリア担当のイリス達が調査に来ていたみたいだね。」
「イリス達?」
アリシアが首を傾げる。
「あ…さっき言い忘れてた。フィルさんと一緒に管理局に捕まってたイリスも連れて来たの、全員」
「全員って…ヴィヴィオ~っ! そういうことを言い忘れちゃだめでしょ~っ!」
アリシアが両頬をつねって引っ張る。
「ヒタイヒタイ…」
「まぁまぁアリシアもその辺で。イリスをみんな連れてきてくれたおかげで色々助かってるんですから。」
「…わかった。確かにサンドワームへの対策とか考えたらイリスがいっぱい居ると安全だよね。」
「それだけじゃないんですが…見えてきましたよ。」
ユーリが前方を指さすと建物が見えてきた。
「ここは…惑星再生委員会のあった?」
建物に近づくとイリスは車のスピードを遅くし、中に入っていく。
「はい、修理したり新しく建てたりして新生惑星再生委員会が使っています。殆どの委員会メンバーはイリスなんですよ。そっちが居住棟で、あっちが医療施設、向こうに見えるのが通信施設兼研究棟です。」
全員がずっと働いているのかと思っていたけれど、実はイリスは1人1人性格はバラバラだったらしく。休暇にスポーツをする者、日なたにあるベンチで読書をする者、白衣を着たイリスなんかも居た。姿は似ていても少しずつ服や髪型も違っている。
「へぇ~通信施設?」
「地質調査とサンドワームの襲来に備えてエルトリアにある町全てに何人かずつイリスを配置しているんだ。イリス同士は繋がっているからね。それを利用してネットワークにしたんだ。もし何かあればいち早くわかって近くのイリスを向かわせたり、ここから出向く事も出来るからね。」
「と言っても、最近は地質データが送られてくる以外、何にも起きなくて、私達同士で料理の話とか綺麗な場所があったとか、何処何処に子供が生まれたとかそんな話ばっかりよ。あっ!」
イリスが何か思い出したらしく振り返った。運転しているのに危ないと思ったが何度も走り慣れた場所らしく見なくてもハンドルを操作している。
「そうそう、先月ある町の町長からここに連絡があって町長宅でお世話になってるイリスを息子の嫁に欲しいって話と息子がイリスにすごーいアツアツな告白をしてくれたのよ。その子は当然、聞いてた私達もみんな顔真っ赤になっちゃったわ♪」
「それは、大変だったね…。」
「それでどうしたの?」
「流石にイリスと婚姻は難しいと思ったんだが熱意に押されてね、とりあえず保留というかお試し期間を設けている。そのイリスも彼や彼の家族を好ましいとは思っている様だが、感情がそこまで成長していない。テラフォーミングユニットに人権が何処まで認められるかとか色々な問題もあるけど、折角だから見守ってあげようというのが私達の総意だね。」
フィルの言葉にイリスもユーリも嬉しそうに頷いた。
マリアージュやラプターと違って本当に生活に溶け込んでいるのが判って嬉しくなった。
「そこで止めてくれ」
フィルが言うとイリスは車を止めた。彼に続いてユーリが車から降りる。私達も続いて降りて2人の後ろに続いた。
「ここは? 他の建物より古いみたい」
「惑星再生委員会の本部があった建物です。外はまだ使えそうだったんでそのまま使っています。」
前に来たときは建物の1階部分は砂と土が積もっていて入れなかったが、掘り起こしたらしい。
ドアが開いてそのまま4人は建物に入った。
(中はこんな感じだったんだ…)
中は太陽光をふんだんに取り込んだ研究棟という感じだった。止まった空気が醸し出す匂いもしない。吹き抜けの2階通路を白衣を着たイリスが数人行き来している。
「中はこんな感じです。私や博士、イリスの居住区はこっちなんです。」
「ああ、でも2人に来て貰ったのはこっちに用事があるからなんだ。イリス、すまないが忘れ物をしてしまった。グランツが用意している物を取りに行ってくれないか?」
フィルが端末を出して車を置きに行っていたイリスに通信を送る。
『博士~忘れっぽくなってるんじゃない? 大丈夫?』
「ははは、すまないね。頼むよ。」
『了解~』
そう言うと通信を切った。
「出来れば彼女にこれは見せたくないんでね」
フィルが言った直後、ユーリの顔から笑顔が消えた。
「ここ…所長室?」
フィルとユーリの後ろを歩くこと数分、立ち止まった部屋にヴィヴィオは心当たりがあった。
「ヴィヴィオ、知ってるの?」
「あっ…ううん、何となくそう思っただけ」
アリシアに言われて誤魔化すが彼女はジト目で私を見ている。
「君達に来て貰ったのはこれを見せる為だ。エルトリアを復興してくれた君達だからこそ知っておいて欲しいと思ってね。」
フィルはそう言って机のパネルを操作してある動画を映し出した。
それは惑星再生委員会が在った頃の会話だった。フィルと彼に相対する複数の男性が映っている。
そこでの彼らの会話はヴィヴィオを絶句させるに十分だった。
惑星再生委員会の活動が苦しくなったのは政府からの予算が減らされた事が原因だった。
ユーリと逢う迄は目立った成果が無かったからコロニー移住を進める為に予算が削られていくのは仕方ないとも思えた。
しかし当時の政府は軍事企業と組んで惑星再生委員会の予算を削っていたのだ。
双方の目的はイリス。原材料さえあれば大量生産出来る技術を奪って得ようとしていた。
その為に予算を減らし、人員を減らしていき技術流出を狙っていた。
イリスの中に取り込まれる前、生前のフィルが惑星再生委員会を崩壊させてまでイリスを守ったのか理由に納得するしかなかった。
フィルは当然、残ったスタッフが生きていて施設が残っていれば軍事企業が調べるだろう。
以前フィル本人が残した映像を見ていたヴィヴィオだからこそ、目的も…どれほど切迫した状態になっていたのかも理解出来た。
いや、会話を聞いているだけで心の中で怒りの感情が芽生えていた。
「私…いや、フィル・マクスウェルが正しい選択をしたのかは私にはわからない…結果的にここに戻って来られただけだからね。だからこそ、君達にこれを見て貰いたかった。何故彼がその選択をしたのかという理由を含めて君達には知る権利があると思っている。」
「ユーリ、イリスはこれ知らないんだね?」
「はい、彼女…他のイリスを含めて見られないように厳重に封印してあるものです。」
思った通りだ。さっき「フィルがフローリアン家に忘れ物をすることが増えた」とイリスは言っていた。
しかしそれは間違いで彼とユーリはこれを見つけて調べる際にイリスをフローリアン家に行かせていた。
彼女達に見つからないように細心の注意を払って…。
「そうだね…惑星再生委員会が無くなっちゃった理由が自分だったなんて…イリスには辛すぎるよ…」
当時に私が居れば間違い無く上空からスターライトブレイカーの広域発射を浴びせていただろう。それ位怒っていた。
「ユーリ、フィル…さん、今も政府と軍事企業ってあるの?」
横で私達の会話を含めて静かに聞いていたアリシアが2人に聞く。
「はい、政府も軍事企業もコロニーにありますよ。」
「コロニー内に出来た複数の町を政府が束ねている。当時在席していた者の何人かは亡くなっているが、その家族を含めてコロニーで暮らしているよ。企業も同じ名で残っている。」
ユーリとフィルが口々に答えるとアリシアは「そっか…」と言ったまま考え込んだ。
そして
「ヴィヴィオ、あっちの私と相談したいんだけど通信使える?」
「え? う、うん…」
「そんなに魔力も使わないよね。起動したら私に頂戴。」
突然言われて驚きながらも彼女に従った。術式を起動すると
『はい、テスタロッサ研究所です…ってヴィヴィオ? 生憎ここにヴィヴィオは居ないわよ。特訓のスケジュールを相談したいなら…』
「今日はそうじゃなくて…」
「私が頼んだの。ヴィヴィオ貸して」
そう言うと半ば強引に術式を移した後、部屋を出て行こうとして立ち止まった。
「ユーリ、イリスに戻って来て貰ってヴィヴィオをフローリアン家まで送って貰って。私は明日朝には帰るから。あとユーリとフィルさんには後でお話したいことがあるので、近くに居てくださいね。」
そう言うと部屋を出て行ってしまった。
「アリシア…何をするつもりなんでしょう?」
ユーリの呟きにヴィヴィオも
「…わかんない…」
と答えるしかなかった。
数ヶ月後、ヴィヴィオ達が去って暫く経った頃、コロニー内の各地である事実が公表された。
エルトリアを蘇らせた奇跡の者達を当時の政府が軍事企業と組んで技術欲しさに崩壊させたというのだ。無論現政府と軍事企業は事実無根だと否定した。
しかしその直後にある映像が流されたことで事態は一変した。
映像の信憑性が求められたが誰の目にも責任は誰にあるのかわかった為、現政府は矛先を逸らす為に当時の判断が誤りだったと認めた。旧政府と軍事企業は共にエルトリアからコロニーに移民する原因を作った者としてコロニー内の怒りを一点に受ける形となった。
結果、矛先になった当時政府内・または軍事企業内に居た者とその家族はコロニーで居を何度も移して世間の目から逃れることになってしまった。
一方で縮小から崩壊、再生の後にエルトリアの緑化を遂げた新惑星再生委員会に対しては英雄視する者が出る位になり、何時帰れるのかという期待が日に日に高まっていた。
元々1年と経たずに緑化していく星がコロニーから見えていたので住民は期待を膨らませていた。新惑星再生委員会はその気持ちも考慮していた。
惑星再生委員会のメンバーでありテラフォーミングユニットのイリスは持ち前の明るさをみせながら群体イリスと共に各地の状況を伝えながら、クリアしなければならない課題を周知することに努めた。
特に各地の状況報告については群体イリスがエルトリアの各所で定期的に取っているデータがフル活用されていた。
政府から予算を出すという提案が惑星再生委員会に伝えられたが、フィルとグランツは拒否した。
予算があればより多くの活動が出来る反面、予算を盾に無理難題を言われると考えたからである。以前と違って委員会メンバーの殆どが群体イリスで自然環境が戻っていて自給自足ができていたこと、何かあれば異世界の時空管理局の協力が得られる体制が出来ていたことが主な理由だった。
結果、政府からも帰還については強く言えない状況になった。
「ここまで全て彼女が言った通りに進むとは…末恐ろしいね。」
「ああ、これでイリス達の周知と暫くの安全が確保された。」
時間移動魔法が使えなくても未来は望む方向に変えられる。その事を改めて思い知らされた2人だった。
~コメント~
エルトリアの緑が回復すると今まで潜んでいた問題が持ち上がってきます。
それがコロニー移住者の帰還とイリスの量産技術です。
なのはDetonationとは違う形で進んでいてフィルと群体イリスは全員エルトリアに来ている中、連れ去られて解体され量産技術が洩れる危険は激増しています。そこでアリシアが異世界の彼女と考えた作戦が以上のものでした。
容赦ないですよね
前に来たときより何か…力強くなってる気がする。
こっちの世界では初夏を迎えた辺りなのだろうか…。
「この辺りは定期的に地質調査をするくらいで殆ど手を加えてないです。もうすっかり地面深くに根付いています。」
「1部の地域に水の届き辛いからそこを重点的に手を入れているが、他は皆同じ状態だよ。正常な時のデータを集めておかないと何かあった時に異変に気づかないからね。」
ユーリとフィルが私達に言うと遠くの丘で人影が見える。2~3人居るだろうか?
フィルが手を挙げて合図すると人影も手を振った。
「丁度このエリア担当のイリス達が調査に来ていたみたいだね。」
「イリス達?」
アリシアが首を傾げる。
「あ…さっき言い忘れてた。フィルさんと一緒に管理局に捕まってたイリスも連れて来たの、全員」
「全員って…ヴィヴィオ~っ! そういうことを言い忘れちゃだめでしょ~っ!」
アリシアが両頬をつねって引っ張る。
「ヒタイヒタイ…」
「まぁまぁアリシアもその辺で。イリスをみんな連れてきてくれたおかげで色々助かってるんですから。」
「…わかった。確かにサンドワームへの対策とか考えたらイリスがいっぱい居ると安全だよね。」
「それだけじゃないんですが…見えてきましたよ。」
ユーリが前方を指さすと建物が見えてきた。
「ここは…惑星再生委員会のあった?」
建物に近づくとイリスは車のスピードを遅くし、中に入っていく。
「はい、修理したり新しく建てたりして新生惑星再生委員会が使っています。殆どの委員会メンバーはイリスなんですよ。そっちが居住棟で、あっちが医療施設、向こうに見えるのが通信施設兼研究棟です。」
全員がずっと働いているのかと思っていたけれど、実はイリスは1人1人性格はバラバラだったらしく。休暇にスポーツをする者、日なたにあるベンチで読書をする者、白衣を着たイリスなんかも居た。姿は似ていても少しずつ服や髪型も違っている。
「へぇ~通信施設?」
「地質調査とサンドワームの襲来に備えてエルトリアにある町全てに何人かずつイリスを配置しているんだ。イリス同士は繋がっているからね。それを利用してネットワークにしたんだ。もし何かあればいち早くわかって近くのイリスを向かわせたり、ここから出向く事も出来るからね。」
「と言っても、最近は地質データが送られてくる以外、何にも起きなくて、私達同士で料理の話とか綺麗な場所があったとか、何処何処に子供が生まれたとかそんな話ばっかりよ。あっ!」
イリスが何か思い出したらしく振り返った。運転しているのに危ないと思ったが何度も走り慣れた場所らしく見なくてもハンドルを操作している。
「そうそう、先月ある町の町長からここに連絡があって町長宅でお世話になってるイリスを息子の嫁に欲しいって話と息子がイリスにすごーいアツアツな告白をしてくれたのよ。その子は当然、聞いてた私達もみんな顔真っ赤になっちゃったわ♪」
「それは、大変だったね…。」
「それでどうしたの?」
「流石にイリスと婚姻は難しいと思ったんだが熱意に押されてね、とりあえず保留というかお試し期間を設けている。そのイリスも彼や彼の家族を好ましいとは思っている様だが、感情がそこまで成長していない。テラフォーミングユニットに人権が何処まで認められるかとか色々な問題もあるけど、折角だから見守ってあげようというのが私達の総意だね。」
フィルの言葉にイリスもユーリも嬉しそうに頷いた。
マリアージュやラプターと違って本当に生活に溶け込んでいるのが判って嬉しくなった。
「そこで止めてくれ」
フィルが言うとイリスは車を止めた。彼に続いてユーリが車から降りる。私達も続いて降りて2人の後ろに続いた。
「ここは? 他の建物より古いみたい」
「惑星再生委員会の本部があった建物です。外はまだ使えそうだったんでそのまま使っています。」
前に来たときは建物の1階部分は砂と土が積もっていて入れなかったが、掘り起こしたらしい。
ドアが開いてそのまま4人は建物に入った。
(中はこんな感じだったんだ…)
中は太陽光をふんだんに取り込んだ研究棟という感じだった。止まった空気が醸し出す匂いもしない。吹き抜けの2階通路を白衣を着たイリスが数人行き来している。
「中はこんな感じです。私や博士、イリスの居住区はこっちなんです。」
「ああ、でも2人に来て貰ったのはこっちに用事があるからなんだ。イリス、すまないが忘れ物をしてしまった。グランツが用意している物を取りに行ってくれないか?」
フィルが端末を出して車を置きに行っていたイリスに通信を送る。
『博士~忘れっぽくなってるんじゃない? 大丈夫?』
「ははは、すまないね。頼むよ。」
『了解~』
そう言うと通信を切った。
「出来れば彼女にこれは見せたくないんでね」
フィルが言った直後、ユーリの顔から笑顔が消えた。
「ここ…所長室?」
フィルとユーリの後ろを歩くこと数分、立ち止まった部屋にヴィヴィオは心当たりがあった。
「ヴィヴィオ、知ってるの?」
「あっ…ううん、何となくそう思っただけ」
アリシアに言われて誤魔化すが彼女はジト目で私を見ている。
「君達に来て貰ったのはこれを見せる為だ。エルトリアを復興してくれた君達だからこそ知っておいて欲しいと思ってね。」
フィルはそう言って机のパネルを操作してある動画を映し出した。
それは惑星再生委員会が在った頃の会話だった。フィルと彼に相対する複数の男性が映っている。
そこでの彼らの会話はヴィヴィオを絶句させるに十分だった。
惑星再生委員会の活動が苦しくなったのは政府からの予算が減らされた事が原因だった。
ユーリと逢う迄は目立った成果が無かったからコロニー移住を進める為に予算が削られていくのは仕方ないとも思えた。
しかし当時の政府は軍事企業と組んで惑星再生委員会の予算を削っていたのだ。
双方の目的はイリス。原材料さえあれば大量生産出来る技術を奪って得ようとしていた。
その為に予算を減らし、人員を減らしていき技術流出を狙っていた。
イリスの中に取り込まれる前、生前のフィルが惑星再生委員会を崩壊させてまでイリスを守ったのか理由に納得するしかなかった。
フィルは当然、残ったスタッフが生きていて施設が残っていれば軍事企業が調べるだろう。
以前フィル本人が残した映像を見ていたヴィヴィオだからこそ、目的も…どれほど切迫した状態になっていたのかも理解出来た。
いや、会話を聞いているだけで心の中で怒りの感情が芽生えていた。
「私…いや、フィル・マクスウェルが正しい選択をしたのかは私にはわからない…結果的にここに戻って来られただけだからね。だからこそ、君達にこれを見て貰いたかった。何故彼がその選択をしたのかという理由を含めて君達には知る権利があると思っている。」
「ユーリ、イリスはこれ知らないんだね?」
「はい、彼女…他のイリスを含めて見られないように厳重に封印してあるものです。」
思った通りだ。さっき「フィルがフローリアン家に忘れ物をすることが増えた」とイリスは言っていた。
しかしそれは間違いで彼とユーリはこれを見つけて調べる際にイリスをフローリアン家に行かせていた。
彼女達に見つからないように細心の注意を払って…。
「そうだね…惑星再生委員会が無くなっちゃった理由が自分だったなんて…イリスには辛すぎるよ…」
当時に私が居れば間違い無く上空からスターライトブレイカーの広域発射を浴びせていただろう。それ位怒っていた。
「ユーリ、フィル…さん、今も政府と軍事企業ってあるの?」
横で私達の会話を含めて静かに聞いていたアリシアが2人に聞く。
「はい、政府も軍事企業もコロニーにありますよ。」
「コロニー内に出来た複数の町を政府が束ねている。当時在席していた者の何人かは亡くなっているが、その家族を含めてコロニーで暮らしているよ。企業も同じ名で残っている。」
ユーリとフィルが口々に答えるとアリシアは「そっか…」と言ったまま考え込んだ。
そして
「ヴィヴィオ、あっちの私と相談したいんだけど通信使える?」
「え? う、うん…」
「そんなに魔力も使わないよね。起動したら私に頂戴。」
突然言われて驚きながらも彼女に従った。術式を起動すると
『はい、テスタロッサ研究所です…ってヴィヴィオ? 生憎ここにヴィヴィオは居ないわよ。特訓のスケジュールを相談したいなら…』
「今日はそうじゃなくて…」
「私が頼んだの。ヴィヴィオ貸して」
そう言うと半ば強引に術式を移した後、部屋を出て行こうとして立ち止まった。
「ユーリ、イリスに戻って来て貰ってヴィヴィオをフローリアン家まで送って貰って。私は明日朝には帰るから。あとユーリとフィルさんには後でお話したいことがあるので、近くに居てくださいね。」
そう言うと部屋を出て行ってしまった。
「アリシア…何をするつもりなんでしょう?」
ユーリの呟きにヴィヴィオも
「…わかんない…」
と答えるしかなかった。
数ヶ月後、ヴィヴィオ達が去って暫く経った頃、コロニー内の各地である事実が公表された。
エルトリアを蘇らせた奇跡の者達を当時の政府が軍事企業と組んで技術欲しさに崩壊させたというのだ。無論現政府と軍事企業は事実無根だと否定した。
しかしその直後にある映像が流されたことで事態は一変した。
映像の信憑性が求められたが誰の目にも責任は誰にあるのかわかった為、現政府は矛先を逸らす為に当時の判断が誤りだったと認めた。旧政府と軍事企業は共にエルトリアからコロニーに移民する原因を作った者としてコロニー内の怒りを一点に受ける形となった。
結果、矛先になった当時政府内・または軍事企業内に居た者とその家族はコロニーで居を何度も移して世間の目から逃れることになってしまった。
一方で縮小から崩壊、再生の後にエルトリアの緑化を遂げた新惑星再生委員会に対しては英雄視する者が出る位になり、何時帰れるのかという期待が日に日に高まっていた。
元々1年と経たずに緑化していく星がコロニーから見えていたので住民は期待を膨らませていた。新惑星再生委員会はその気持ちも考慮していた。
惑星再生委員会のメンバーでありテラフォーミングユニットのイリスは持ち前の明るさをみせながら群体イリスと共に各地の状況を伝えながら、クリアしなければならない課題を周知することに努めた。
特に各地の状況報告については群体イリスがエルトリアの各所で定期的に取っているデータがフル活用されていた。
政府から予算を出すという提案が惑星再生委員会に伝えられたが、フィルとグランツは拒否した。
予算があればより多くの活動が出来る反面、予算を盾に無理難題を言われると考えたからである。以前と違って委員会メンバーの殆どが群体イリスで自然環境が戻っていて自給自足ができていたこと、何かあれば異世界の時空管理局の協力が得られる体制が出来ていたことが主な理由だった。
結果、政府からも帰還については強く言えない状況になった。
「ここまで全て彼女が言った通りに進むとは…末恐ろしいね。」
「ああ、これでイリス達の周知と暫くの安全が確保された。」
時間移動魔法が使えなくても未来は望む方向に変えられる。その事を改めて思い知らされた2人だった。
~コメント~
エルトリアの緑が回復すると今まで潜んでいた問題が持ち上がってきます。
それがコロニー移住者の帰還とイリスの量産技術です。
なのはDetonationとは違う形で進んでいてフィルと群体イリスは全員エルトリアに来ている中、連れ去られて解体され量産技術が洩れる危険は激増しています。そこでアリシアが異世界の彼女と考えた作戦が以上のものでした。
容赦ないですよね
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